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第四十一話 たまには休みもいいものです

 地下二階の探索を進めるパーティ四人。戦闘にも慣れ、魔物を蹴散らしながら順調に進んでいました。しかし、ちょっとした油断でケガ人を出してしまい、回復魔法で治ったものの、止む無く撤収したのでした。

 地下二階の探索を進めるパーティ四人。戦闘にも慣れ、魔物を蹴散らしながら順調に進んでいました。しかし、ちょっとした油断でケガ人を出してしまい、回復魔法で治ったものの、止む無く撤収したのでした。


 地下二階からの帰り道、さすがに戦闘なしとはいかなかった。

 一度だけだが、ヒュージスパイダーが出現した。無事な時なら問題のない相手だが、ジョルダンを回復魔法で治したばかりで、一緒に戦っても大丈夫なのかが心配である。

「俺なら大丈夫。セインのおかげで普通に戦える」

 ジョルダンはそう言うが、やはり治りたてで無理はさせたくないのが、三人の共通した思いだった。

「分かったわ。ジョルダンは後方から援護の攻撃。私とカーラで正面から切り崩すから。セイン、シールドよろしく」

 少し迷った末、マリサがそんな風に作戦を示してきた。ジョルダンの意向も組んだ上での判断である。最大火力のフレイムピラーは二回分の魔法力を消費するので温存しておく。

「よし、じゃあいくよ。ホーリーシールド!」

 セインが正面から当たり、スパイダーの気を引く。攻撃がセインに向いたところで、カーラが短剣で斬りかかる。マリサは傷口に魔法を打ち込めるように待機した。

 その間、ジョルダンは後方に回り、いつものように足を斬り落とすために攻撃を加えていた。本人が大丈夫と行っていた通り、問題なく攻撃できているようにも見えた。しかし、大ケガの後だけに多少威力が落ちていた。

「やっぱりね。いつものキレがないわ。カーラ、頼むわね」

「分かってる。もう少しで傷が広がるから」

 カーラが繰り返し斬撃を加えたことで、スパイダーの頭部に大きな傷口ができ始めていた。そろそろいいだろうと、マリサは魔法を発動させる。

「カーラ下がって。ファイアボール!」

 拳大の火球が傷口に飛び込み、スパイダーを内部から焼いていく。体の奥の方まで炎は進み、その一撃がとどめとなって、スパイダーが地に倒れた。そして霧状になって消えていく。

「よし、全員無事だな」

 ジョルダンがいつものように無事を確認する。しかし、一番無事じゃないのは本人自身だった。

「確かに戦えてたけど、まだダメージ残ってるみたいよ、ジョルダン」

 マリサにそう言われて、やはり自覚があるのか、ジョルダンが軽く頭をかいた。

「すまない。やっぱりそう見えるか」

「僕のヒール三回でほとんど治ってるはずなのは確かだよ。だから、剣も振れるし動くこともできる。でも派手に吹き飛ばされてたからね。ダメージが残っててもおかしくないかな」

 セインの言葉にジョルダンがうなずく。

「まあ、後は引き上げるだけだし、落ち着いていけば大丈夫だよ」

「そうね。あたしの潜伏魔法で戦わずにやり過ごすこともできるから。安全第一で戻ればいいわ」

 カーラの言葉に三人がうなずく。

 それから警戒しつつダンジョンの出口へと向かったが、運良く魔物と遭遇することはなかった。


「そうか。ケガするなんて、最初にダンジョンに入った時以来だな。まあ、そういう時もある。俺も現役時代は、何度も回復魔法には世話になったもんさ。だから、あまり気にするな。でも、明日は念のため、休んでおいた方がいいだろう。ご苦労だったな」

「とにかく無事に戻れて良かったわ。ゆっくり休んでね」

 ギルドに戻ると、ギルド長のタイロンとその妻ナタリアが、そう言って労ってくれた。しかし、ジョルダンは自分のミスをまだ悔いていて、暗い表情をしていた。

 タイロンの娘アイナが、そんな様子を見て慰めてくれた。

「ジョルダンさん、ちょっと運が悪かっただけよ。それより、回復魔法を使うほど痛かったのに、無事に治ったことの方が凄いと思う。一日休んで元気になって、また活躍した話を聞かせてね」

 さすがに年下の少女に励まされては、落ち込んでばかりもいられない。

「そうだね。明日は休んで、また頑張ることにするよ」

「さすがはジョルダン兄ちゃんだ。かっこいいよ」

 タイロンの息子ポルタもそう言って励ましてくれた。ジョルダンも気持ちを切り替え、笑みを浮かべた。そんな様子を見ていた他の面々も、笑みを浮かべたのであった。


 その後、パーティ四人は公衆浴場にギルドの家族と一緒に行った。

 男湯では、タイロンやポルタ、セインがジョルダンの体に異状がないか調べていた。回復魔法で治ったはずだが、念を入れたのである。

「大丈夫そうだな。傷や打ち身の跡は見られない」

「そうですか。ありがとうございます」

「セインの回復魔法ってすごいんだね。ケガの跡が全然ないよ」

「ありがとう。まあ、これが僕の取り柄だからね」

 そうして体に異状がないことを確認し、四人は風呂を堪能した。

「ああ。何か、いつもより湯が染みる感じがするなあ」

 ジョルダンがそんなことを言い出した。気分として、ケガした体に効くような気がしていたのだ。

 セインもタイロンも、その言い草がおかしくて、つい笑ってしまった。ポルタだけは、そういうものかとばかり、生真面目な顔でうなずいていた。

「風呂が気持ちいいってなら、体も元気ってことだ。良かったな」

 タイロンがそう言って、ジョルダンの肩を叩いた。

「そうですね。やっぱり元気が一番ですね」

 ジョルダンもうなずいて、笑みを返すのだった。


 翌朝、朝食の時間、マリサとカーラがまじまじとジョルダンを見つめてきた。一晩寝たことでどのくらい回復したのか、見極めようとしていた。

「セインの回復魔法を信用してないわけじゃないわ。ただね、心配になるくらい派手に吹き飛んでたから、一応ね」

 というのがマリサの言い分だった。

 ジョルダンはそれを聞いて、大丈夫だとばかり力こぶを作って見せた。

「本当に大丈夫だ。念のため今日は休むけど、魔物との戦闘も間違いなく普通にできる。こんなことで俺は嘘はつかない」

 じっと見ていたカーラが、軽くため息をついた。

「ほぼ完全回復ってことね。分かったわ。なら、明日からまた探索に行けるよう、今日はしっかり休んでおいて」

「ああ、分かってる。ちゃんと休むよ。とは言え、何してればいいんだか。暇を持て余しそうだなあ」

 ジョルダンはそう言うと、パンを口の中に放り込んだ。もぐもぐと咀嚼しながらうーんと唸っている。パーティ結成以来、休みを取ることはなかったので、本気で困り果てていた。

「散歩でも行くかい? 歩くくらいなら問題ないみたいだし」

 セインが気を利かせたつもりでそう言った。というか、パーティメンバー全員が休みで暇を持て余すのである。元から、一人でも散歩にでも行こうと思っていたのだった。

「そうだな。悪くないな。じゃあセイン、一緒に行くか」

 それを聞いていたマリサとカーラも、ついて行くと言い出した。

「本当は私もどこか散歩に行こうと思ってたのよ」

「結局あたし達一緒に行動するんだね。行く場所は違うけど」

「そうだね。僕達、こんな時でも気が合うんだね」

 セインが笑みを浮かべてそう言うと、他の三人も笑みを浮かべた。

「そんなに暇なら、学舎が終わったら、また一緒に遊ばない?」

 そう誘ってきたのはアイナである。このお兄さん、お姉さん達と遊ぶのが楽しいのは、前回一緒に遊んだことで良く分かっていた。

「それもいいな。じゃあ、午前中は散歩、午後はアイナ達と遊ぼう」

 そうして休日の使い方も決まり、朝食の残りを片付けたのだった。


「私服で出かけるのも久しぶりね」

 マリサが少しうれしそうにしていた。冒険者稼業が嫌いなわけではないが、たまの休みにこうして出かけるのも気分が良かったのだ。

「で、セイン、行き先、どこか当てがあるの?」

 カーラに聞かれて、セインは即答した。

「ほら、きれいな湖があったろ。そこがいいかなって。前にアイナとポルタに案内してもらったとこ」

「俺は賛成。いい気分転換になりそうだ」

「そうね。じゃあ、湖で決まり。じゃあ出発しましょ」

 四人は連れ立って歩いていく。今回は並び順とかはなく、適当に立ち位置を入れ替わり、それぞれ思い思いに話をしながら、のんびりと散歩を楽しんでいた。パーティを組んでから、本当にこの四人は仲が良い。誰と一緒に話していても退屈はしない。

 しかし、こういう時はセインが一番おしゃべりである。探索や戦闘だと頑張るが、そもそものんびり暮らしたいという希望があるだけに、人と話すことも好きなのだった。

「それでさ、戦闘中だったからみんなには言わなかったけど、あの時は僕もお腹が空いて困っちゃったわけ。戦闘中、シールドで身を守りながら、早く終わらせて昼食にしたいなあって、そればっかり考えてた」

「何それ。よくそれで無事だったわね」

「セインおかしい。まあ、だから面白いんだけど」

「俺達の知らないところで、変な苦労してるな、セイン」

 マリサとカーラも、セインの話に釣り込まれ、面白そうに笑っていた。ジョルダンも半ば苦笑しながらセインの話に聞き入っていた。

「ダンジョンの中と違って、のんびり景色見ながら散歩するのって、気分いいよね。僕の故郷の村を思い出すよ」

「あの木はね、一年中葉をつけてるんだ。古くなった葉が落ちるけど、次々新しい葉が出てくるんだよ」

 そんな具合で、セインの話は途切れることなく、結局ずいぶんと話し込んでいた。ギルドから湖までは二十分ほどだったが、いつの間にやら到着していたのだった。

 この日は風も穏やかで、湖面が静かに波打っていた。周囲には木々が生い茂り、優しく湖を包み込んでいるように見えた。日の光も優しく、五月らしい穏やかな気候だった。

 四人は湖に近づき、中を覗き込んでみた。透明度の高いきれいな湖だ。湖面を吹く風が気持ちいい。空気もきれいで、思わず大きく息を吸い込んでみる。体の中がきれいになるような錯覚を覚えた。

 しばらくのんびりと景色を眺める。ダンジョンの事は忘れて、広大な自然に包まれて穏やかな気分になった。

「この湖、一周できるんだよね。今日はせっかくだから回ってみよう」

 セインの言葉に三人はうなずき、のんびりと湖に沿って歩き出した。みな美しい湖を眺めながら歩くのが心地良く、久々の解放感に身を委ねていたのだった。

 久々の休日編です。完治しているはずだけど、念のため一日休みます。休日の使い方に困るのは、それだけダンジョン探索に入れ込んでいるからですね。まあ、田舎の村で娯楽がないということもありますが。

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