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第四話 初めてのダンジョン探索

 ボルクス村のギルドに腰を据えたパーティ四人。住む場所も決まったことで、いよいよダンジョンへの初挑戦をすることになった。

 朝、セインが目覚めると、見知らぬ天井が目に飛び込んできた。

 そう言えば、ボルクス村の冒険者ギルドに泊めてもらえることになったのだなと思い出し、驚くことではなかったと、思わず苦笑してしまった。

「この部屋もしばらくよろしく頼むね。僕も頑張るから」

 そんな独り言をつぶやいて、ベッドから起き出した。

 着替えて一階に下りる。井戸端へ出て顔を洗い、水も少し飲む。爽やかな朝だった。

「おはよ、セイン。今日は頑張ろうね」

 メイジのマリサがちょうどやってきた。

「おはよう。気持ちのいい朝だね。うん、頑張ろう」

 普通に返事をしたが、マリサは顔をしかめた。

「ありがと。でもね、私、正直自信ないの。初めてのダンジョン、本当に大丈夫かしら」

 なるほど、そういう心配をしていたのか。セインも納得した。

 そこへジョルダンとカーラも姿を現した。

「二人ともおはよう。今日は頑張ろうぜ」

「おはよう。ちゃんと道に迷わないように地図書くから。任せて」

 二人共やる気満々のようだった。それは何よりである。あるのだが、セインにも実は多少不安があった。

「魔物とちゃんと戦えるか、正直自信ないなあ」

「大丈夫。何とかなるって。さ、朝食頂こうぜ」

 四人は揃って一階の食堂へと向かった。

 朝食の支度はすでにできていた。オムレツに野菜スープ、パンとジャム。例によってギルドの一家四人が作ってくれた物だ。

「いただきます」

 八人全員が唱和し、一斉に食べ始める。

 ギルド長のタイロンが早速激励してきた。

「今日が四人のダンジョン初挑戦なんだよな。頑張れよ」

「焦ったり無理したりはダメよ。まずは安全に行って、無事に戻ってらっしゃい」

 タイロンの妻ナタリアも優しく言葉を掛けてくれた。

「ありがとうございます。十分気をつけて行ってきます」

 ジョルダンがそう答える。彼も真剣に言葉を受け止めていた。

 そうだよな、ヒーラーの僕がみんなを支えないと。セインも内心でそんなことを思う。それに協力が何より大事だと、改めて考えてもいた。

「お昼ご飯はサンドイッチを作っておくから持っていって」

「水筒も忘れないようにな」

「お兄ちゃん達、気を付けて行ってきてね」

「ぼくも応援してるから」

 一家四人が、まるで家族を心配するような感じで言葉を掛けてくる。四人は、その温かな心遣いにありがたさを感じた。

 食事が終わると、全員が身支度の時間となる。装備を確認し、荷物を背負って出発となる。

 ギルドを出て、道沿いに西の方に歩く。農作業をしている人達の姿が見える。気のいい村人達が手を振ってくる。セイン達も笑顔で手を振り返すのだった。

 村を出てからしばらく行くと、獣道のような細い脇道があった。ギルドでもらった地図によると、それがダンジョンへの道のようだった。あまり冒険者も入らなくなって久しいので、道も細くなっているのだった。

 四人は一列になって道を進んだ。先頭からカーラ、セイン、マリサ、ジョルダンの順である。探索が得意なシーフが先頭なのは当然だが、二番手がヒーラーのセインなのはホーリーシールドの魔法が使えるからだ。何かが出てきても、とりあえず攻撃を食い止めることができる。一番打たれ弱いメイジのマリサがその次で、背後の警戒に戦士のジョルダンが残る。その順番もきちんと話し合って決めていた。

 しばらくは草原だったが、やがて森の中に入った。視界も効かないので、何かの気配がないかを手繰りながら進んでいく。さすがに森にまで魔物が出ることは少ないが、野生の動物に出くわす可能性もある。例え熊でも負ける気はしないが、余計な消耗は避けたいところだった。

 村を出てから一時間以上は過ぎただろうか。

 急に目の前が開け、切り立った崖が目の前に広がった。ここで道は行き止まりになっていて、崖の下には大きな裂け目が広がっていた。カーラが地図でも確認したが、これがダンジョンの入り口で合っているようだ。

「よし、到着したな。一度休憩を取ろう」

 リーダーのジョルダンが声を掛け、四人が地面に座り込む。水筒を取り出して少しだけ水分を取る。

「いよいよね。ちょっと緊張するわ」

「そうだね。僕もちょっとドキドキしてる」

 同じ魔法を使う者同士、マリサとセインには本番でもうまく魔法が使えるかといった、共通の緊張感があった。互いに顔を見合わせて苦笑する。

「大丈夫よ。あたしがちゃんとフォローするし」

「戦いになったら、俺が一番頑張ればいい事だろ。安心して任せてくれ」

 カーラとジョルダンも緊張はしつつ、それでも初挑戦のうれしさの方が勝るようで、自信のある言葉を返してきた。

 そうだな、ここは仲間を信頼しようと、セインは思った。マリサも同じ気持ちだったようで、少し肩の力を抜いていた。

 しばらく休憩した後、四人はいよいよダンジョンの中へと入っていった。内部はとても広い洞窟になっていて、人が三人並んで歩けるほどの幅があった。天井も三メートルほど上にあり、これなら剣を振り回しても大丈夫そうだった。壁も凹凸があまりなく、ほのかに発光しているので、松明などを使う必要もなかった。その大きさと構造は、ここが天然の洞窟ではないことを示していた。伝承の時代、魔物を数多く従え、人と激しく争った魔族達が根拠地として作ったのが現在ダンジョンとして残されているのだと言われていた。その噂は正しいのかもしれない。そんなことを四人共考えていた。

 四人は同じ隊列で、慎重に奥へと進んでいった。

 分かれ道があると、カーラの探索魔法で行き止まりの方をあえて先に巡るようにしていた。突き当りに何かあったり、魔物がいたりするかもしれないからである。そうやって地道に一つ一つ探索していった。


「ここも空振りだったね」

 四つ目の突き当りで、カーラが両肩をすくめた。かなり奥の方へと入ってきているようだが、終わりはまだ見えない。構造も人工物的な感じから、自然の洞窟のような場所が時々見られるようになった。

 ダンジョンに入ってそろそろ二時間くらいになるだろうか。

 四人はここで昼食休憩を取ることにした。

 全員が荷物から大きなバゲットサンドを取り出す。ギルド長の妻ナタリアの特製である。娘のアイナが具材を切るなどの用意を手伝ったのだと話していた。本当に温かな一家である。そんな一家が仕切るギルドで泊まれたことは幸運なことだと、四人共思っていた。

「いただきます」

 四人共歩き回って腹を空かせていたので、このサンドイッチが実においしく感じた。

「こんな昼食まで用意してくれるなんて、本当にありがたいわね」

「あたしも同感。まあ、すきっ腹でも仕事はするけどさ。でも、食べられるなら食べたいもんね」

 こういう時は女の子達の方が現実的だ。それに程良く緊張もほぐれ、探索も今のところ順調なのが、二人の気分を上向きにさせていた。

「でも、油断はしないで行こう。俺達、初挑戦なのを忘れないようにな」

 リーダーとして、ここは気持ちを引き締めるべきだと思ったのだろう。ジョルダンがそんなことを言った。

「僕も同意見だけど、固くなって失敗するより、少し気楽なくらいでちょうどいいかもしれないね。僕も頑張るからさ」

 セインが穏やかにそう言った。持ち前の気質から、本気で仲間を励まそうとする意図がはっきりと言葉に出ていた。他の三人も、肩の力を抜いて今後に備えようと思っていた。ただ、いざという時、セインのシールド頼みというのが、多少心苦しくはある。

 そのセインは、ヒーラーなのに壁役もしなければならないことに関しては、あまり気に掛けていなかった。四人の編成がこうである以上、自分が頑張れば済むだけと割り切っていたのだ。

 しばらくして食べ終えると、四人は再び探索を再開した。

 来た道を戻り、入り口から続く道へと戻る。そこからまた奥の方へと足を踏み入れていく。

 周囲の警戒は怠っていなかった。ごくかすかだが、何かがいる気配が感じられた。カーラが念のため、探知魔法を発動させる。

「サーチ!」

 初級の魔法で生命体や魔物など、動くものを察知する魔法である。存在するかしないかと、そのおおよその場所を探知するだけで、それがどんな存在なのかは判別できない。

「一匹というか一頭というか、とにかく何かが一体いるわ。この先の少し開けた場所。このダンジョンに入ってる人間は私達くらいだし、野生動物っていうのも考えにくいから、恐らく魔物ね」

 カーラの言葉に、四人が顔を見合わせる。

「なら、決めた隊列に変えて、慎重に近づこう」

 ジョルダンの言葉で、四人が並び方を変える。先頭はセイン。これは会敵したら、真っ先にホーリーシールドの魔法を使うためだ。次がジョルダン。セインが敵を押さえたらすぐ攻撃に入る。次いでマリサ。ジョルダンの攻撃が失敗したら、隙を見て攻撃魔法を放つ。後方警戒と遊撃のカーラが最後尾となる。

「よし、頑張るぞ」

 人の良いセインは、先頭で仲間の楯となることを厭わない。むしろ、自分の力で仲間を守るのだと、強く決意していた。

 四人はゆっくりと警戒しながら進んでいく。

 そして、少し開けた場所で、離れた場所で魔物がうずくまっているのを見つけた。

「大型の狼の魔物ですね。恐らく、ラージウルフと呼ばれる魔物です。特殊能力はありませんが、力も素早さも十分にあります。注意して」

 この種の知識の豊富さでは、マリサが一番である。他の三人が黙ってうなずく。

 マリサの声に反応したのだろうか。ラージウルフがむくりと起き出した。そしてじりじりと四人の方に近づいてくる。

 魔物はどうして人を襲うのだろう。魔石を元に魔物を生み出した存在が、人を敵だと認識するように作ったからだとも、人に恨みを持つ魔力によって生み出されたからとも、伝承では言われていた。はっきりしたことは分からない。だが、セイン達に襲い掛かろうとしているのは事実だ。

 ラージウルフが突進してきた。セインはすかさず魔法を発動させる。

「ホーリーシールド!」

 こうして四人とラージウルフとの戦いは始まった。


 戦いを終えて、三人が軽傷を負った以外は無事で、そのケガも治癒魔法によって簡単に治すことができた。しかし、その分、セインの魔法消費は大きかった。

 ヒーラーのセインの魔法がパーティの要だ。その残りが少なくなった以上、安全を考えて引き上げるのは当然のことだった。

ダンジョン探索編です。基本魔物しかいない、動物などの生命体がいない空間です。人が入らなくなったこのダンジョンですが、初心者向けということもあり、最初の内は罠などもありません。そして初の魔物との交戦。やっと冒険譚らしくなりました。

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