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第三十七話 またもや難敵に遭遇しました

 地下二階へ到達したパーティ一行。慣れない魔物に苦戦することもありましたが、レベルが上がったおかげで戦闘も楽になり、順調に探索も進んでいます。

 ボルクス村に来てからそろそろ一月が経とうとしていた。

 ボルクス西のダンジョンに挑戦し、地下二階に到達したパーティ一行は、それからも地道な探索を続けていた。

「今日は分岐の正面からね」

 地下二階。未探索の場所へと足を踏み入れる。突き当りに扉があり、魔物がいることは前回の探索で確認済みだ。

「よし、開けるぞ」

 リーダーで戦士のジョルダンがみなに声を掛ける。メイジのマリサ、シーフのカーラ、ヒーラーのセインが黙ってうなずく。

 扉を開くと、調べた通り魔物がいた。数は二体。ジャイアントワームである。以前なら苦戦していた相手だ。

 しかし、新しい剣を手に入れ、レベルアップを果たした四人の敵ではなかった。

「ホーリーシールド!」

 セインがいつものように魔法の楯を発動し、一体からの攻撃を防ぐ。

「フレイムピラー!」

 それと同時に、マリサの魔法が発動した。レベルアップの際に使えるようになった魔法だ。高熱の炎の柱が敵を包み込む、現時点では最強の攻撃手段である。それが一体のワームを焼き尽くした。一撃でワームが霧状になって消えていった。

 セインが攻撃を押さえた敵も、ジョルダンが背後に回り込んで、必殺の一撃を浴びせていた。

「闘気剣! せいっ!」

 ジョルダンの剣が淡い光を帯び、渾身の力で振り下ろされる。これもレベルアップで使えるようになった技だ。剣の威力が一気に強化され、鋭い斬撃がワームを見事に両断していた。そのワームが霧状になって消えていく。こうして残りの一体もあっさりと討ち取っていた。

「全員無事だな」

 戦闘後は全員の無事を確認するのが必須である。ジョルダンはそれを常に怠らない。リーダーとしての役割を熟知していた。

「よし、先に進もう」

 この部屋の向こうには、また扉があった。

 四人はまた警戒しつつも、扉を開き、次の場所へと向かっていった。


 扉の向こうは、また普通の通路になっていた。他の場所と同じように、壁面が発光していて、不思議な材質でできている。所々、自然の洞窟と同じような岩塊などもあり、それが余計に不思議な感じを増していた。

 しばらく進み、また扉の前に出る。

「昨日、右手の方向を調べた時と同じで、この地下二階は扉がやけに多いわね。何か理由があるのかな」

 地図を描きながらカーラが疑問を口にする。他の三人も確かに不思議だとは思うのだが、それを言い出すと、ダンジョンは不思議で一杯だ。壁面の材質の他、どうして魔物が出現するのかなど、考え出すときりがない。

「じゃあ探知魔法使うね。サーチ!」

 カーラが魔法を発動させる。魔物や生物などの存在を調べる魔法だ。直径二百メートルほどの範囲を調べることができる。

「また魔物がいる。この扉の先、分岐があるみたいで、その先にも魔物の反応があるわ。しばらくは戦闘続きね」

「それはまた面倒なことだ。まあ、稼ぎに来たと思えば構わないか」

 ここまで比較的楽に戦えていたので、ジョルダンもかなり楽観的だった。この周辺の魔物にはまず負けないだろう。そんな風に思っていた。

 そして迷いもなく扉を開く。

 すると、またもや魔物の姿がない。あるのは中央に小高い山のような塊が一つ。これが魔物なのだろうか。そんな疑問を感じながらそれを眺めていると、ロックゴーレムの時と同じように、その塊が変化を始めた。

 背が伸び、頭が出て、手足が伸びる。しばらくして、その塊は人型になっていた。全高は三メートル近くとかなり大きい。ロックゴーレムと似た感じだが、表面の質感を見る限り、鈍い光沢のある金属的な材質で、全く違う。

「ブロンズゴーレム。それもどうやら普通じゃないみたい。何かが違うわ。嫌な感じがする」

 カーラがそう訴えてきた。ジョルダンも気を引き締め、作戦を仲間に告げる。

「ゴーレムの仲間なら、前回と同じ作戦が使えるはずだ。セインとカーラが正面、俺とマリサが背後に回って、また魔法の温度差攻撃で砕こう」

「了解したわ。また私の魔法の出番ね」

「じゃあ、強化魔法をかけるよ。ストレングス!」

 セインが魔法を発動させて、ジョルダンに強化魔法をかける。そのままマリサと二人、作戦通り背後に回っていく。

「もう一度、ストレングス!」

 セインが自分を強化する。この種の魔物は力が強く、攻撃を耐えるのにも強化が必要だった。

「よし、いくぞ、ホーリーシールド!」

 いつものように魔法の楯を発動し、ゴーレムの正面から当たる。するとロックゴーレムの時と同じように、振りかぶった拳が飛んできた。直撃すると押し込まれそうだったので、受け流すような角度で楯に当てる。拳が滑って空中に流れた。

 前回の要領を覚えていたマリサは、早々に背後を取っていた。

「まずはファイアボール!」

 マリサの魔法が真っ直ぐブロンズゴーレムに飛んでいく。最初に高熱で熱し、その後で氷魔法で急激に冷やして、脆くするのが作戦である。拳大だが高温の火球がゴーレムの表面に当たる。いや、当たったのだが、その場で火球が霧散してしまった。本来なら、数秒間表面を焼き続けるはずだった。

「な、どういうこと? でも続行するわ。アイシクルランス!」

 マリサが発動させた魔法は、氷の槍となって勢い良くゴーレムへと飛んでいく。そして鋭い一撃がゴーレムに命中した。したのだが、先程と同じように氷の槍が一瞬で砕け、霧散してしまった。

「何てこと。魔法が効かないわ」

「魔法が効かない材質でできてるってことか?」

「とにかく、一旦セイン達と合流するわよ」

 マリサの言葉に従い、ジョルダンも一旦引き下がる。

「カーラ見てたでしょ。このゴーレム、魔法が効かないの」

 マリサが渋い表情で訴える。カーラもそれを聞いて眉を曇らせた。

「あたしも陽動攻撃してみたけど、見て、少しだけど傷はつくの。魔法を弾くような特殊な材質じゃないのは確かよ」

 なるほど、ゴーレムの腕に細かな傷がついている。カーラが攻撃した結果だった。なのに魔法が効かないという理由は何だろうか。

 その間にも、セインが必死でゴーレムの攻撃を防いでいる。

「ここままじゃセインがもたないわ。一旦離れるわよ」

 マリサがそう言って、全員が一気にゴーレムから距離を取る。ゴーレムも追って来てはいるが、動きが鈍いので多少の時間を稼ぐことができた。

「俺の闘気剣、試してみるか?」

「止めた方がいいわ。さすがにロックゴーレムより頑丈そうだし、ある程度傷をつけるので精一杯だと思うわよ」

 ジョルダンとマリサが話している間、カーラは必死で考えていた。

「魔法が効かない、そんな材質でできてるわけじゃないのは確かだと思う。けど、どうやって魔法を防いでるのかが分からない。何か調べる方法があればいいんだけど」

「ごめんね、僕がもっと時間を稼げればいいんだけど」

「そんなセインのせいじゃないから。無茶しなくていいように、みんなで考えようよ」

 そうこうしている間にも、ゴーレムが近づいてくる。四人は再び距離を置くために走り始めた。部屋の反対側まで一気に逃げる。

「これは一旦退却するか。ゴーレムとは相性悪いな、俺達」

 ジョルダンはそう言ったが、カーラは首を振った。

「魔法が効かない原因を探らないと、次に来た時も退却することになる。それじゃあ意味がないでしょ。どうにか方法を……」

 そこまで言って、カーラは思い出した。レベルが上がった時、新しい魔法が使えるようになっていたことを。

 ゴーレムはしつこく四人を追ってくる。また段々と近づいてきていた。魔法を使うなら今のうちである。

「マジックサーチ!」

 カーラが魔法探知の魔法を発動させた。魔法仕掛けの罠などを探知する魔法だが、それをゴーレムに向けて放ったのである。

「反応があった。ゴーレムの胸元!」

 四人が一斉にゴーレムを見た。その胸元から反応があると言う。確かに何か風の出口のような、何かの装置のような物がみえる。

「反応があったってことは、あれが魔法の仕掛けなのは間違いないわ。あれを壊せれば、魔法が効くようになるかもしれない。まずはあれを何とかしないと。と、その前に、一旦部屋の中央に下がるわよ」

 カーラが話している間に、ゴーレムが間近に迫っていた。四人は再度走って逃げ出し、部屋の中央に陣取る。

「セイン、きついけど攻撃を防いで。それから、あたしに強化魔法を」

「分かった。ストレングス!」

 カーラに強化魔法が掛けられる。

「マリサとジョルダンは、最初の作戦通り背後へ。じゃあ行くわよ」

 部屋の中央で待ち構える四人の元へ、ゴーレムが近づいてきた。

 やがて攻撃の間合いに入り、ゴーレムが拳を振り上げる。

「今!」

 ジョルダンとマリサがゴーレムの背後に回る。セインがシールドでゴーレムの拳を防ぐ。そしてカーラは楯の横からゴーレムの正面に躍り出た。

「えいっ!」

 カーラが渾身の突きをゴーレムの胸元に放つ。斬りつけるだけでも傷のつく相手だ。短剣の威力に強化魔法の効果が合わさって、魔法仕掛けの風の出口のような部分を一撃で砕いていた。念のため、三度ほど斬撃を加え、完全にその場所を破壊していた。

「危ない、カーラ!」

 セインの声で、カーラが一気に距離を取る。ゴーレムの攻撃が迫っていたのである。飛び下がるカーラの目の前を、巨大な拳が通り過ぎていた。直撃したら、ただでは済まない威力だった。

 その様子を見ていたマリサが、魔法を再度発動させていた。

「今度こそ、ファイアボール!」

 拳大の火球が直進する。ゴーレムの体に当たり、今度は霧散せずに体の表面を焼いた。カーラの探知はどうやら正解で、あれが魔法を弾くための装置だったようだ。高熱がゴーレムの表面にしっかりと伝わる。

「やった、なら、アイシクルランス!」

 二度目の魔法は氷の槍である。先程と同じ攻撃だが、魔法が通るのなら結果は違う。今度はゴーレムの体の一部を崩し、周囲を変色させている。温度差によって、ゴーレムの体が脆くなっているのだ。

「ありがとう、マリサ。いくぞ、闘気剣!」

 ジョルダンが覚えたての必殺権を構え、突進した。そして渾身の力で一気に斬り下げる。温度差で脆くなった体に威力の高い斬撃を受けて、ゴーレムの体が一気に砕ける。その威力は凄まじく、一撃でゴーレムの体の大半を砕き割っていた。

「もう一撃!」

 ジョルダンが再度剣を振りかぶって、力一杯振り下ろす。それがとどめとなって、ゴーレムの体が地に倒れた。そして霧状になって消えていく。最後に魔石を残して、ゴーレムは完全に消滅していた。

「やった、みんな無事か」

「私はもちろん平気」

「あたしも大丈夫。ちょっとヒヤッとしたけど」

「僕も何とか。でも、ちょっと疲れた」

 ジョルダンの確認に、各自がそんな風に答えていた。それにしても、魔法を弾く装置を備えたゴーレムなど、さすがに初めてだった。その秘密を暴いて何とか倒すことができで良かったと、四人ともしみじみ思っていた。

「カーラ、お手柄だったわね。ありがとう」

「魔法探知、覚えていて良かった。レベルアップのおかげよ」

「ちょっと、この辺で休憩するか。特にセイン、大変だったしな」

「ありがとう。正直、一休みしたいところだったんだ」

 かくして無事にブロンズゴーレムを倒した四人は、その場に座り込んで休憩を取ったのだった。

 初戦は楽勝でしたが、二戦目はまたも厄介な相手でした。レベル三になり初めの頃よりかなり強いのですが、それでも相手によってはまだまだ苦戦します。覚えたての技を良く生かして、無事に勝利を収めました。

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