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第三十四話 ロックゴーレム撃破とレベルアップ

 ロックゴーレム相手に歯が立たず、一度は退却したパーティ四人。今の戦力で倒す方法を見つけ出し、他の魔物にも効果は十分。これならきっと倒せるだろうと、再挑戦です。

「さて、いよいよ地下二階だ。準備はいいよな」

「もちろん。体は十分、心の準備も万全だよ」

「ええ、もちろん。私が切り札だし、頑張るから、任せて」

「あたしもできることを頑張る。行こう、みんな」

 地下二階への階段の前で、全員が決意を新たにしていた。

「じゃあ、行くぞ」

 そして四人で階段を下っていく。階段は大型の魔物が通れると思われるくらいに広い。

 そして地下二階。ここから一本道で扉のある部屋へと向かう。

 昨日退却した時には扉は開けっ放しにしたはずだったが、今はまた扉が閉じている。時間が経つと自然に閉まる造りのようだった。

「じゃあ、作戦通りに」

「了解!」

 そして扉を開き、中へと入る。昨日と同じく、部屋の中央に岩の塊があるだけである。これが退却を強いられたロックゴーレムだ。

 接近すると、岩塊は背が高くなり、形が変わっていく。むくりと起き上がる感じで人型になり、そしてパーティと相対した。

「作戦通り行くぞ。セイン頼む!」

「分かった。ストレングス!」

 セインが強化魔法を発動させ、ジョルダンを淡い光が包み込み、その身体能力が強化される。

「もう一つ、ストレングス!」

 今度はセインが自分に向けて強化魔法を使用する。昨日の戦いで、シールドだけでは攻撃を受け止めきれないと分かっているからだ。

 そして四人はゴーレムの攻撃範囲に入った。

「ホーリーシールド!」

 セインがいつもの魔法の楯を発動する。そこにロックゴーレムの初撃が来た。振り上げた拳を振り下ろしただけの攻撃だが、重く、そして固い。

「よし、今だ」

 ジョルダンとマリサがロックゴーレムの背後へと回り込む。カーラはセインの近くに残り、ロックゴーレムの隙を窺って攻撃を仕掛ける。何度か頭部に斬撃を放ち、ごくわずかだが傷をつけることに成功していた。

 セインが再び楯でゴーレムの攻撃を防ぐ。攻撃パターンは変わっておらず、両腕を振るって殴りつけてくるだけである。それほど速度もないので、防ぐのは容易だ。ただ、威力が凄まじいので、昨日は最終的にセインの体力がもたなかったのである。今日はそれにも気を付けて、なるべく受け流す角度で防ぐように工夫していた。

 三度目の攻撃が来る直前、ジョルダンとマリサがゴーレムの背後に回り込んでいるのが見えた。後は二人の成功を信じるだけだ、セインはそう思い、踏ん張ってゴーレムの攻撃を防いだ。

 その直後、マリサの攻撃魔法が文字通り火を噴いた。

「いくわよ、ファイアボール!」

 勢いよく直進し、ゴーレムの背面に直撃する。昨日と同様、表面が多少溶ける程度で大したダメージにはならない。もちろんそれは承知の上だ。

「アイシクルランス!」

 二発目の魔法が放たれる。ボーリングビートルに試したばかりの攻撃だ。高温に熱したゴーレムの体を、氷の魔法で急激に冷やすのである。氷の槍はゴーレムの背に直撃し、さっき高熱に焼かれた場所を一気に冷やした。魔法が直撃した周辺が脆くなり、一部が剥がれ落ちている。その周囲が変色し、効果があったことは明らかだった。

「よし、ここだ!」

 ジョルダンが剣を構えて突進し、凄まじい突きを繰り出した。魔法が直撃した部分を正確に突き刺す。さしものゴーレムの硬い体も脆くなっていて、見事に剣が突き刺さっている。

「もう一撃!」

 剣を引き抜くと、今度は渾身の斬り下ろしを放つ。その衝撃で大量の破片が飛び散る。かなりのダメージがゴーレムに入っていた。しかし、さすがに虫の魔物とは頑丈さが違う。大きく体がえぐれたが、それでもまだゴーレムは動いていた。ゆっくりとジョルダンの方へ振り向く。

「やったわ。かなり効果があるみたいね」

「ああ、作戦は成功だ」

「もう一度やるわよ。ジョルダン、背後に回って」

 マリサは言うなり動き出し、ゴーレムが振り向くより早く背後に回り込もうとしていた。ジョルダンがその後に続く。その二人を狙わせないように、セインとカーラもまた動いていて、ゴーレムの正面に回り込もうとしていた。

 しばらく、互いに回り込もうとする動きが続く。

 しかし、セインがゴーレムの気を引くため、シールドごと体当たりを放ち、同時にカーラがゴーレムの顔面に攻撃を加えたことで、ゴーレムの動きがまた変化した。セインとカーラに向けて、再度拳を叩きこもうと振りかぶる。

「まだ大丈夫!」

 セインが気合を入れてその一撃を防ぐ。カーラもゴーレムの気を引き付けるために、ダメージが出ないことを承知で、頭部への攻撃を繰り返していた。ゴーレムの攻撃が完全に二人に向けられ、拳が振り上げられる。

 その間に、マリサとジョルダンは再び背後に回り込んでいた。

「もう一発、ファイアボール!」

 拳大の火球が放たれ、再びゴーレムの背に直撃する。先程大きくえぐれた場所を高熱の炎が焼いていく。

「それから、アイシクルランス!」

 氷の槍が勢いよく飛び、火球の当たった場所に直撃する。先程と同様、脆くなった一部が剥がれ、周囲が変色する。

「仕上げは頼んだわよ」

「任せろ!」

 ジョルダンが再度全力で突進し、猛烈な突きを叩きこんだ。ゴーレムの体が貫かれ、剣先が胸元から突き出ていた。それを引き抜き、ジョルダンが再度振りかぶって、渾身の斬り下ろしを放つ。

 派手な音がして、ゴーレムの体が両断された。さすがに頑丈なゴーレムも温度変化で脆くなり、体を二つに割られたのだった。そして、そのまま地に倒れ、体が霧状になって消えていく。魔物の最後であった。

「やっと倒せた。やった、やったぞ。みんな無事だよな」

 ジョルダンがいつものように全員の無事を確認する。リーダーとして、全員の状況を確認するのをいつも怠らないのは立派である。

「もちろん、私は無事よ」

「僕も大丈夫」

「あたしも平気。ついにやったね」

「ああ、マリサのおかげだ。ありがとう、マリサ」

「ありがとう。でも、全員の力があっての勝利よ。いつものことだけどね。やっぱりこのパーティで良かったわ」

 昨日退却を強いられた敵を見事に討ち果たし、四人はいつも以上の達成感に浸っていた。

 そこで、冒険者の証が奇妙な動作をしていた。全員が慌ててそれを取り出す。表面が軽く発光していて、また表面の文字が変化し始めた。

「これって、レベルアップか」

「うん、そうみたいだ。僕のも光ってる」

「私のも。いつも思うけど、どんな仕組みになってるのか、謎だわ」

「あ、数字が変わってく。レベルが……三になってる!」

 カーラの言った通り、全員の冒険者証のレベルが三に変化していた。その他、ステータスの数値も少しずつ上昇している。

「魔法の使える回数も増えてるみたい。私は九回から十三回に増えてる。それからフレイムピラーの魔法が使えるようになったみたいね」

「あたしは七回から十回に増えて、魔法探知の魔法が使えるようになってるわ。魔法仕掛けの罠とかを見つける魔法ね」

「僕は十二回から十七回。ターンアンデッドが増えてる。ただ、試してみないと分からないけど、どうやら弱い相手にしか効果がないみたいだ」

 魔法が使える三人は、それぞれ使用できる魔法の回数や、新たに使用できる魔法が増えていた。

「戦士はこういう時、魔法が増えないのが残念だな。だけど、何か特殊な攻撃方法が増えてるな。闘気剣? どうやら剣の攻撃の時、闘気を上乗せして威力を上げる技みたいだ」

 試しにとばかり、ジョルダンが剣を構え、意識を集中させる。すると気合に応じるかのように、剣身が淡く発光した。

「なるほど、これが闘気剣か」

 意識を抜くと、剣身の光も消えていった。そして若干の疲労感が加わる。思ったより体力を使う技のようだ。使いこなすのには多少の修練が必要になるだろう。ジョルダンは納得して、いずれ使いこなせるようになろうと決意していた。

 そしてジョルダンは、ゴーレムの魔石を回収すると、仲間に尋ねた。

「さて、ロックゴーレムも倒せたことだし、レベルも上がったことだし、もう少し地下二階を探索するか」

「そうだね。少し地図を書いておきたいかな」

「僕も大丈夫。まだいけるよ」

「それじゃ、決まりね。カーラお願い」

 それから四人は反対側の扉を開いて、初めての場所へと足を踏み入れた。


 地下二階は、最初は簡単な構造だった。左右と正面の三つに分岐していて、どちらに進んでも扉に突き当たる。そして、扉の向こうに魔物がいるところも、三か所とも同じだった。

「さすがに今、初見の敵と対戦するのは厳しいな。一度引き上げるか」

「私は賛成。今日のところは戦果も十分だわ」

「そうだね。僕も同意見。無理は禁物だよね」

「分かったわ。じゃあ、今日のところは引き上げましょう」

 カーラの先導で撤退に移った。

「ダンジョンを出るまで、念のため警戒はしっかりね」

 四人は地下一階、帰りの回り道、回転床、そして階段と順に戻っていった。途中、魔物のヒュージマンティスと遭遇したが、いつも通り、セインがシールドで攻撃を防ぎ、ジョルダンとカーラが足を斬り落とし、マリサの魔法で頭部を焼き尽くして、あっさりと勝利していた。

「レベルアップの効果が出てる感じがする。何か、楽に戦えてる」

 セインがそう言うと、他の三人もうなずいていた。

「なるほど、冒険者のレベルってのが大事なのが良く分かったぜ」

「本当ね。魔法撃つのが軽く感じるし、威力も上がってるわ」

「避けるのもすごく楽。攻撃を見切れれば全然怖くない感じ」

 四人は昨日の雪辱を果たしたことに加え、レベルが上がって戦いが楽になったことを実感し、いつも以上の充足感に浸っていた。気分が高揚しているのを感じる。こういう醍醐味があるから、冒険者を続ける人間が多いのだろうと、自分の身をもって実感していた。

 そして警戒を途切れさせることもなく、無事に地上にまで戻ることができた。四人が安堵の息をつく。一階は大した危険がないと分かっていても、やはり最後まで油断はできないものである。


 そして、無事に冒険者ギルドに戻り、ギルド長のタイロンとその妻ナタリアに、回収した魔石を銀貨と交換し、この日の顛末を報告した。

「ロックゴーレムを倒したのか。おめでとう。正直、レベルアップ前の四人の戦力じゃ厳しかっただろう。よく頑張ったな」

「それからレベルアップおめでとう。本当にみんなよく頑張っていたもの。その努力が報われて良かったわね」

 二人もそんな風に褒めてくれた。

 四人は顔を見合わせて、大きな一歩が踏み出せたことを喜ぶのだった。

 ロックゴーレム相手の雪辱戦です。温度差攻撃、ぶっつけではなく、きちんと試してから挑んでいるのが重要なところ。この話で何度も出てきますが、無事に帰ることが何より大切なのです。

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