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第三十一話 いよいよ地下二階

 威力の高い武器を入手して、ダンジョン探索を続けるパーティ一行。地下一階もかなり探索が進み、順調に地図を書いてます。罠も無事に切り抜けて、やる気も十分です。

「昨日の探索では、最後に苦戦したからな。相手が攻撃する時に最大の隙ができる、そこを狙えるように頑張ってみるつもりだ」

 朝食時、戦士のジョルダンがそんなことを言った。確かに、いわゆるカウンターは決まれば大きい。しかし失敗の危険もある。

 メイジのマリサがそれに答えた。

「私も昨日はかなりの覚悟であの一撃を放ったのよ。それと同じことをジョルダンも頑張るってことね。でも、無茶はしないでよ」

 シーフのカーラとヒーラーのセインが顔を見合わせる。

「二人の覚悟は分かったけど、それもセインのヒールあっての事よね。何かあっても回復してもらえる安心感があるからできるのよね」

「だから、僕のヒールで治せないほどの大ケガだと、取り返しがつかなくなる。くれぐれも無茶はしないでね、二人共」

 ジョルダンとマリサがうなずく。

「分かってる。でも後の先を取るのは武術の技にもあるんだ」

「魔法を放つのが単純な隙か、敵の攻撃中かって違いだけ。無茶しているつもりはないから安心して」

 朝から戦闘談義とは、よほど昨日のことが堪えたと見える。きっとそれぞれが自分で考えていたのだろう。熱心なことだとギルド長のタイロンは思った。一言忠告しておくのも先輩の役割だろうと、口を開いた。

「何度も言うが、無事に戻ることが第一だ。一見危険でも、カウンターを決める方が安全という場合もある。だから、これからもいろいろ連携を試して、より確実な勝ち方ができるように工夫していくといい」

「はい、分かりました」

 四人はその言葉に素直にうなずいた。タイロンはレベル十一の戦士で、冒険者としては格上の存在である。

「まあ朝から熱心ね。とにかく、朝食、食べちゃって」

 タイロンの妻ナタリアがみなを促す。

「そうですね。ではお言葉通りに」

 しっかり食べて今日の探索に備えようと、パーティ四人は元気よく食事の続きに集中した。


「じゃあみんな、気を付けていってらっしゃい」

 ギルド一家に見送られ、パーティ四人はダンジョンへと向かった。

 これで何度目だろうか。探索もかなり進み、地下一階もそろそろ終わりが見えてもいい頃だと、みなが思っていた。

「今日あたり、地下二階への階段、見つけられるといいわね」

 先頭のカーラが希望を口にする。それは他の三人も同じ思いだ。

「そうだよね。そろそろ見つかってもいい頃だよね」

「うん。私もそう思う。あんなに丹念に調べたんだもの」

「よし、じゃあ頑張って階段見つけようぜ」

 草原を抜け、森を通り、切り立った崖に出るまでの間、今日の四人は口数が多かった。それだけ今日の探索に期待をしているのだ。

 意気の高いままダンジョンに入り、一階でいつも魔物ラージウルフが出現する場所までやって来た。

「ここは俺にやらせてくれ」

 ジョルダンがそう言って先頭に出る。

 ラージウルフと向き合い、剣を構える。やはりこの魔物には知性はないのだろう。単純に突進してきて、噛みつきの攻撃をしてきた。

「後の先、と」

 噛みつかれる寸前、ジョルダンが右に動きながら剣を横薙ぎに振るった。それが見事にカウンターとなり、ウルフを両断する。剣の威力に突進してきた勢いを加えた、見事な技を決めたのだった。

「うん、このくらいの相手なら、余裕で決められるな」

 なるほど、朝食の時の言葉は、これを言いたかったのかと、他の三人が納得した。言うだけのことはあって、見事な一撃だった。

「お見事。さすがだね、ジョルダン」

「おう。このくらいできなきゃ、今までの修練が泣くってもんさ」

 本当にジョルダンは好調子らしい。それは他の三人も同じだ。

「さて、この調子でどんどん行こう」

 四人はダンジョンの奥へと進んでいった。


「まずは回転床の罠ね」

 カーラが地図を照合して、現在位置を確認する。もう何度目だろうか。この罠も印を書くことで簡単に突破できるようになっている。

 それから一方通行の罠。やはり場所を確認し、振り返るとなかったはずの壁が出現している。これも帰りに別のルートを通ることで、実害はなくなっている。

 そして似た地形が連鎖するエリア。ここを端から順に巡って地図を書き、残りは左手に進んだ部分だけになっていた。

 途中、一度アンデッドコボルドが三体出現したが、これも問題なく倒している。みなとても好調だった。

「さて、取り掛かるとしましょうか」

 分岐を左に進み、そこから奥へと入っていく。

 しばらく進むと分岐があった。基本に忠実に、右手から順番に探索していく。進んでは地図を書き、書いてはまた進むの繰り返しだ。

「ここも行き止まり、と。じゃあ、さっきの分岐に戻るわよ」

 カーラの地図作成能力は見事なもので、実に正確な地図を書いている。学院で学んだとは言え、さぞかし成績優秀だったのだろう。彼女の力なしではダンジョン踏破は絶対無理だと、他の三人はしみじみ思った。

 その後、いくつかの分岐を経て、ついに下りの階段が見つかった。

「あったわね。やっと地下二階かあ。すごく長かった気がするわ」

 カーラが安堵の息を漏らした。

「やったね、カーラ。見事だったわ」

「うん。さすがカーラだよ」

「こんなに順調なのは、みんなカーラのおかげだね」

 三人の褒め言葉がうれしい。努力した甲斐があるというものである。

 しかし、カーラは念を押すことを主張した。

「でもね、悪いけど、地下二階に下りる前に、この階の地図を完成させておきたいの。面倒だけどいいかな」

 もちろん三人共賛成である。念を押しておくに越したことはない。

「分かった。でも、その前に昼食休憩にしよう」

 一行は手近なところに座り込むと、ナタリアがいつも用意してくれる昼食のサンドイッチを取り出した。

「いつも思うけど、ナタリアさんの昼食、おいしいよな」

「うん。具材の選び方が良いのよ。バランスも取れてるし」

「ただパンに挟むだけでも、工夫のしようがいろいろあるのね」

「おかげで元気が出るよね。おいしい食事って大事だよなあ」

 下り階段を発見し、気分も高揚しているせいか、みなうれしそうに話をしていた。表情も明るく、食事が一層おいしく感じているといった風だった。のんびりと休みながら、楽しくおいしく食事をしたのだった。


 しばらくして食事を取り終えると、四人は地図作成を再開した。

 元気のある時は、得てして見落としなどが起こりやすいのだが、そこは互いに助け合いながら、一つ一つ丁寧に調べていった。道のつながり方は複雑だったが、罠もなく、無事に探索が進んでいく。

「あと一か所、そこが多分行き止まりで、それを書いたら完成よ」

 カーラの的確な指示に従って動きながら、四人で協力して探索を行う。

 言葉の通り、確かに行き止まりがあった。しかし、魔物もそこにいたのである。いつものように魔物の種類を判別し、戦うかどうかを決める。

「レッサーコモドドラゴンだわ。あれなら、いつも通りにいけそう」

 魔物に一番詳しいマリサが断言する。それなら問題ないと、即座に交戦を決めた。

 まずはセインが先頭になって突撃する。

「ホーリーシールド!」

 楯の魔法を発動させ、そのまま体当たりする。敵の足止めと攻撃の防御をそれで同時に行う。

 その隙に左右に分かれたジョルダンとカーラが、コモドドラゴンの足に斬りつける。何度か斬りつけることで、見事に足を切断した。バランスを崩したコモドドラゴンが地に伏せる。

「とどめ! ファイアボール!」

 その顔面目掛け、マリサが高熱の火球を放つ。口の中に火球が入り込み、体を内部から焼き尽くしていく。ほどなくして、コモドドラゴンは動きを止め、やがて霧状になって消滅していった。

「一度戦った相手には負ける気しないわね」

 とどめを刺したマリサが自信たっぷりに言い放った。決して油断しているわけではない。しかし、以前苦戦した相手を楽に倒せるほど、パーティの戦力が上がっているのも事実だ。

 残された魔石を回収し、ジョルダンが全員の無事を確認する。

 それが終わると、全員が集合し、いよいよ地下二階を目指す。

「いよいよね。行きましょう」

 先頭のカーラがみなを促す。軽い緊張感をもって、三人がその後に続いていった。


 地下二階への階段は、地下一階に下りる階段と同様に幅は広く、高さも十分にあって、大型の魔物でも上り下りできそうな広さがあった。やはり、ダンジョンというのは、噂に言われる通り、かつて魔族と呼ばれた災厄をもたらした種族の前線基地として使われたのだろうかと、そんな感想を抱いてしまう。不思議な構造物であった。

 四人は注意を払いながら、ゆっくりと階段を下りていった。罠の類は見当たらない。魔物の気配もない。転落の危険もない。そんな風に安全を確認しながら、慎重に進んでいった。

 そして、ゆっくりと進んだ末に、地下二階の床へと下り立つ。ずいぶん長いこと探索してきて、ようやく到達した新しい階に、四人は慎重に行動はしていたが、内心ではかなり高揚していた。

「とりあえず、新規に地図を書き始めるわね」

 カーラが興奮を抑えて、努めて冷静に行動しようと一声掛けた。残り三人は、周囲の壁などを調べ始め、罠などがないかを確認していった。

「ここはどうやら安全そうだよ」

 セインがカーラに報告して、地図に情報を書いてもらう。

 カーラが地図を書き終え、改めて周囲を見渡すと、道が一本だけである。

「少しだけ進んでみようか」

 いつもの探索順になり、四人一列になって移動する。

 そしてしばらく進んで、大きな扉を発見した。

「扉は初めてだね。罠は……見当たらない。多分大丈夫。だけど」

 ここでカーラが探知魔法を使った。魔物や生物などの存在を感知する魔法である。

「やっぱり魔物がいるみたい。どうしよう。扉の向こうじゃ、相手の正体も分からないし」

 ここで立ち止まることになった。得体の知れない魔物相手に、いきなり突入しても良いものだろうか。

 四人はここで進むか戻るかの相談を始めたのだった。

 地道な探索の末、地下一階を全て地図に記すことができました。そして、いよいよ地下二階に到達です。しかし、いきなり扉があり、その中には魔物もいてと、判断の難しいところです。

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