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第三十話 やっぱりタダでは帰れません

 魔物も簡単に倒し、順調に探索を進めたパーティ一行。一方通行の罠にはまりましたが、正確に地図を書いていたおかげで無事に突破。帰り道についたのでした。

「前に来た時、上り階段の近くに魔物が出たのよね」

 マリサがそう言って、仲間に注意を促した。

「いや、でも、そんな毎回出るとは限らないさ。実際、剣の代金稼いでいた時は出なかったし」

 ジョルダンがそう答える。一度罠にはまったことで少し気疲れしていて、元気がなくなっている感じになっていた。

「魔物が出ても大丈夫。僕のシールド、まだ九回使えるし」

 セインが楽観的に言う。その彼が楯役として一番大変なところを担うのだから、その言葉には信頼できる響きがあった。

「そうね。あたしの短剣も威力上がったし、並の魔物なら簡単に倒せると思うよ」

 先行していたカーラも気楽にそう答える。事実、往路では一撃で魔物のラージウルフを仕留めている。

「まあ、よほどの相手じゃなければ大丈夫よね」

 そんな気楽な様子が、かえって不幸を呼び寄せたのだろうか。冗談交じりに話していたが、本当に魔物が出現したのだ。

「下手なことは言わない方がいいみたいね。本当に出てくるとは思わなかったわ」

 マリサが少し反省したように言う。三人は苦笑をその言葉に返した。

 魔物は一体何なのだろうか。四人は少し離れた距離から敵を観察する。相手の正体が分かるのと分からないのとでは大きな違いがある。

「手足はないみたい。細長いから、蛇型ってことね。大きさからして、ジャイアントスネークね、多分」

 マリサは魔物に詳しい。蛇型の魔物でも、上位種のサーペントに比べれば体も小さく、毒液を吐くこともない。体長は三メートル、体の太さも直径三十センチというところだ。噛みつきと締め付けが主な攻撃方法である。虫系の魔物より硬さでは勝り、刃筋が立たなければ切り傷をつけるのも難しいという話だった。

「倒せるかな。厄介な相手みたいだけど」

 セインが弱気な発言をした。元々、楯役はするが、攻撃手段をもっておらず、性格も防戦的である。締め付けに来られた場合、シールドが役に立たない可能性が高いことを懸念したのである。

「確かに厄介そうだな。でも、魔法の回数も十分あるし、体力も十分残ってる。俺達の方に不安はないさ」

 ジョルダンの言葉に、マリサは素直にうなずかなかった。

「私達の態勢は良くても、相手がそれに合わせてくれるわけなないわ。ただこんな場所にそれほど強い相手は出ないのも確かだろうし、倒せるはずなのは間違いないと思う。だから、戦いながら勝機を見出すしかなさそうね」

「ちょっと苦しい戦いになるかもね。でも、まだまだこんなところで足踏みしてられない。あたし達の連携で頑張って倒そう」

 カーラも戦意が優先していた。これで交戦決定である。

「よし、行こう」

 隊列を変えて、戦闘が楯役のセイン、次に主火力のジョルダン、遊撃のカーラ、そして魔法で援護するマリサと並び変わる。そして、気合を奮って突撃する。

 ジャイアントスネークが突っ込んでくる人間に気付いた。口を大きく開いて、噛みつきに来る。

「ホーリーシールド!」

 セインが魔法の楯を発動し、がっしりとその攻撃を受け止める。一瞬、動きが止まったその隙を狙い、ジョルダンが剣を一閃する。

「な、外した!」

 スネークは不規則な動きで、噛みつきに失敗した後、すぐに後ろに下がっていた。ジョルダンが一撃を外した隙を狙って、噛みつきに来る。

「させない!」

 セインが割って入って、シールドでその噛みつきを防ぐ。するとスネークが再び下がり、不規則な動きで今度はカーラを狙ってきた。

 カーラが差し違える覚悟で短剣を構え、噛みつきに備える。スネークの口が大きく開いた瞬間を狙って突進し、その口元に短剣を突き刺そうと繰り出した。

 しかし、その攻撃はスネークの素早い反応で避けられ、空振りしてしまった。スネークがカーラの隙に付け込み、巻き付いて締め上げようと動く。

「ちょ、ちょっと、このっ!」

 カーラも全力で跳び下がり、スネークの攻撃に空を切らせる。すると、スネークがまた不規則な動きで人間達に迫ってくる。知性はないはずだが、明確に敵と認識して、排除しようとする動きだった。

 その後も、同じ展開が続いた。

 剣や短剣での攻撃は、不規則な動きで避けられる。セインがシールドで攻撃を防ぎ、動きを止めようとしても、スネークは深追いはせず、すぐに下がってしまうので効果が出ない。マリサは魔法で足止めを狙っていたが、不規則で素早い動きを捉えられず、一度も魔法を使えずにいた。

 これまでいろいろな魔物を倒してきた四人だったが、さすがにこう素早く動き回られると、ダメージを与えることさえ難しかった。

 四人が一度集まって、作戦を話し合った。

「これじゃらちが明かない。噛みつく時だけ一瞬隙ができるんだがなあ」

 ジョルダンが言うと、カーラもマリサも同じ意見だったようで、言葉を付け足した。

「本当に噛みつかれるくらいまで我慢して、それで一撃入れるしかないよ」

「そうね。なら、私の魔法が一番それに向いてるってことになるわね」

 確かに瞬間火力ではマリサの魔法が一番強い。しかし、体術などを学んできたわけでもないマリサが、囮になるのは危険が高すぎると他の三人は思っていた。

「僕のシールドで防いだ瞬間を狙うならまだしも、マリサに直接攻撃が来るのを狙うんだろ。大丈夫なの?」

「やるしかないわよ。ダメージ喰らわせないと、倒すのは無理よ」

 話している間にも、スネークがまた不規則な動きで接近し、攻撃を仕掛けてきた。四人がさっと別れて、その攻撃を避ける。

「私の腕の見せ所ね。失敗したら、セイン、ヒールよろしく」

 そしてマリサが動きを止め、スネークの正面に立った。

 とても知性があるようには見えず、恐らくは本能的なのだろうが、スネークがマリサをじっと見据え、攻撃を加えようと接近してきた。マリサがスネークをじっと見返し、魔法の構えをしたまま動かない。勝負は一瞬。マリサとしても失敗は許されない場面だ。

 突き出されたマリサの右腕に、スネークが噛みつこうと口を広げて迫ってくる。噛みつかれるまでほんの五十センチほどまで迫った時、そのごく一瞬を狙ってマリサは魔法を発動させた。

「アイシクルランス!」

 氷の槍が生み出され、スネークの口元に突き刺さる。その槍は太さと長さを増し、大きくスネークの口を斬り裂いた。

 それでもスネークの勢いは止まらず、マリサにぶつかりそうになる。半身を開いてマリサが激突を避ける。その眼前を、スネークが通り過ぎて後ろへと飛んでいく。

 頭部を破壊されて、スネークの動きが一気に鈍くなった。

「今!」

 カーラが突進して、繰り返しスネークに斬りつける。きちんと短剣の刃筋を立てて、切り傷を増やしていく。それでも、まだスネークは反撃しようと、カーラに巻き付こうとするような動きを見せた。しかし、その動きは予測しやすいものだった。これまでのような不規則な動きと違い、完全に大きな隙となっていた。

「とどめ!」

 ジョルダンが長剣を一閃した。鋭い斬り下ろしがスネークの胴を斬り裂き、真っ二つにする。体を両断されて、さすがのスネークも動きを止め、地に倒れた。そして霧状になって消えていく。

 倒したことを確認し、ジョルダンがいつものように無事を確認する。

「みんな無事か。俺は大丈夫」

「私も平気」

「あたしも大丈夫」

「僕も無事だよ」

 そして、四人が一斉にため息をついた。

「マリサ、本当に紙一重だったな。よく魔法を決めたもんだ」

「ほんと。あたしも驚いた。でも、あれがなかったら倒せなかったわね」

「私もさすがに怖かったわよ。でも絶対決めるつもりで頑張ってみた。うまくいって何よりだったわ」

 マリサはこれまでも重要な局面で魔法を決めている。さすがだとみなが感心していた。

 一方で、セインが少し気落ちしていた。

「ごめんね、みんな。僕のシールドがあまり役に立たない魔物っているんだね。今回、あんまり役に立てなかったね」

 珍しく暗くなっている様子を見て、仲間達が励ますように言う。

「いや、そういう相手がいるのは、当然予測すべきだし、それにどう対処するかもよく考えるべきだった。セインは悪くないよ」

「そうそう。シールドの意味は十分にあるし、それでなくてもいざっていう時、ヒールでみなを助けられるでしょ。セインの存在は重要なのよ」

「私が無茶できたのも、失敗してもセインが回復してくれるっていう安心感があるからよ。だから気にしないでね」

 仲間達の言葉は温かい。まあ、確かにセインのせいでもないし、いざという時、頼りにされているのも事実だ。改めてそう考え直して、セインも表情を緩めて、みなに応えた。

「そうだね。頼りにしてくれてありがとう。ぼくも今回みたいな相手にどう立ち回るといいか考えてみるよ。いい経験になったよ」

「そうそう、それが俺達の課題だな。とにかく無事に切り抜けられたし、引き上げるとしようぜ」

 そしてパーティ一行は上り階段へと向かった。いつも通りの並びで、最後まで警戒はきちんとしていた。

 無事にダンジョンを出られた時は、さすがにみな軽く疲れを感じていた。

「一方通行の罠にジャイアントスネークか。さすがはダンジョン、まだまだ油断はできないもんだ」


 そうして、パーティは無事に冒険者ギルドに帰還した。

「おや、今日はちょっと疲れた顔してるな。久しぶりのダンジョンで、勘が鈍ったか」

 出迎えてくれたギルド長のタイロンが声を掛けてきた。

「ええ、まあ、そんなところです」

「一方通行の罠があって、ちょっと手間取りました」

「あとジャイアントスネークが厄介で」

「かなり倒すのに手間がかかったんですよ」

 聞いてくれる相手がいると、心がすっと軽くなる。四人共、厄介だった出来事を簡単にタイロンとその妻ナタリアとに話した。

「なるほどねえ。それでも無事に突破してくるか。四人共、しっかり成長してるな」

「ピンチを切り抜けるのも才能の内よ。みんなきっともっと強く、もっと立派になるわね。楽しみだわ」

 そう言って褒めてもらえるのがうれしい。四人が表情を緩ませて、安心感を覚えた。協力して、知恵を出し合えば、この先にまた面倒事があってもきっと突破できると、自信をもつことができた。

「今日もご苦労だったな。とりあえず、荷物片付けて、風呂にでも行って一休みしな」

「はい。そうします」

 そして四人は自室へと戻って行く。それをギルドの夫婦が、微笑みながら見送っていた。

「思っていた以上にいい冒険者達だな。何ならずっとこのギルドにいて欲しいくらいだ」

「そうね。本当にいい子達。今後の成長が楽しみね」

 動きが素早く、いつものシールドで動きを止める作戦が通用しない魔物との交戦です。なのでかなり苦戦してます。それでも何とか切り抜けることができました。いいチームです。

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