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第二十九話 久々のダンジョン探索

 往復で二週間、王都に三日間と、結構長いことボルクス村を留守にしていたパーティ四人とギルドの家族達。ようやくボルクス村に戻り、また新たな日常が始まります。

 クエストをこなした翌日、一行八人は久々にボルクス村の冒険者ギルドへと戻ってきた。

「誰もいないけど、ただいまー」

 ギルド長の娘アイナの明るい声が建物の中で響く。ようやく戻ってきたなと、全員の表情もみな明るかった。

「さ、片付けを済ませて、一休みしましょ」

 ギルド長の妻ナタリアの言葉で全員が動き出す。荷物を整理し、洗濯をして、再び食堂に集まる。

 お茶と菓子を用意し、みなで一休みする。

「ジョルダン達は、早速明日からまたダンジョンか」

 一服入れながら、ギルド長のタイロンが尋ねる。

「もちろんです。そのために新しい剣を買ったんですし」

 戦士のジョルダンが即答する。ヒーラーのセイン、メイジのマリサ、シーフのカーラも、みな一様にうなずいていた。

「それもそうか。確かに威力のある武器が手に入ったのは大きいな。でも、油断はするなよ。とにかく無事に戻ることを最優先にするんだ」

 タイロン達はそれを何度も繰り返していた。パーティ四人もその忠告を良く守っていて、今まで無事じゃなかったことは一度もない。ダンジョン内では、ケガ一つでも命に関わることを十分に理解していた。

「まあ、みんななら大丈夫だろう。頑張れよ」

「はい。ありがとうございます」


 風呂と夕食を済ませ、それぞれが自室へと戻る。旅の間は四人部屋だったので、個室が何となく寂しく感じる。

 セインはベッドに横になりながら、ぼーっと考え事をしていた。

 この仲間達と出会い、パーティを組み、ボルクス村の西にあるダンジョンに挑戦する日々が始まった。魔物に苦戦することが多く、威力のある武器を求めて王都にまで足を延ばした。本来は、セインとしては、回復魔法が使えるのだから、それを生業にしてのんびり生活できれば十分だったはずだ。しかし、今の仲間達と過ごす時間は楽しく、ギルドの家族はとても温かく面倒を見てくれる。今さら別の道を進もうとは思えない。当分の間は、この場所で、この仲間達と一緒にダンジョン探索の日々を送ろう。そんな風に思っていた。

「ジョルダンもマリサもカーラも、いい仲間だもんな。出会えて良かったと本当に思う。みんなと一緒だからやる気も出るしね。さて、それじゃあ明日も頑張るか」

 物思いにふけるのを切り上げて、ゆっくりと休むのだった。


 翌日、支度を済ませると、四人はいつものように出発した。

「頑張ってね。また話を聞かせてね」

 ギルド長の息子ポルタの励ましを受けて、ダンジョンへと向かう。

 草原を抜けて、森を抜けて、切り立った崖に出る。ダンジョンの入り口のある場所だ。すでに馴染みのある場所である。

 隊列は探知魔法が使えるカーラを先頭に、シールドが使えるセイン、強力な一撃のあるマリサ、後方警戒にジョルダンの順である。最初に探索を始めた時から、それは変わっていない。

「今回も頑張ろうぜ」

 うなずき合うと、ダンジョンの中へと入っていく。

 いつも不思議に思うのだが、壁が特殊な素材でできていて、発光しているために松明などが不要である。人工物なのは間違いないが、時折自然の洞窟の風景も混じっている。誰が何の目的で作ったのかも不明だ。

 そして魔物が出現するのも謎である。明らかにダンジョン内で発生しているのだが、どこでどうやって出現するのかも不明だ。しかし、何度入っても決まった場所で出現することがある。

 一階のラージウルフがそれだった。毎回入る度に、分岐のあるこの開けた場所に現れる。最初は苦戦していたが、もはや魔法も必要なくなっていた。

 カーラが横から滑るように接近し、一気にウルフの首を刎ね飛ばした。彼女も経験を積み、そして威力のある短剣を手にしたことで、この程度の魔物など簡単に倒せるようになっていたのだ。

 魔物は倒されると魔石を残して消滅する。ラージウルフも霧状になって体が消失していった。これも不思議な現象なのだが、すでに見慣れた光景でもあった。

「よし、どんどん行こう」

 パーティはしばらく進んで地下一階への階段にたどり着く。カーラが詳細な地図を作成しているので、迷うこともない。

 階段を下りると、正しい道順に従って進み、回転床の罠に出る。ここも初見の時は驚き、危うく帰り道を見失うところであった。しかし、カーラの機転で床に印を描くことで罠に対処し、無事に先に進めるようになっていた。

 そして似たような景色が延々と続く場所に出る。今はこの周辺を探索している途中であった。

「ここからが本番ね。また地味な作業になるけど、協力よろしくね」

 カーラの言葉にうなずき、地図に一つ一つ書き込む作業に入る。進んでは先を確かめ、突き当りなら戻り、分岐があれば順番に進む。それを地図に記していく。その繰り返しである。

 少しずつ地図が書き足されていく。時々四人で覗き込み、現在位置や地形と照合して間違いのないことを確かめる。

 時折、魔物と遭遇することもある。この日は、最初にレッサースコーピオンと戦った。表皮の固ささえ何とかできればどうという相手ではない。剣の威力が上がっている今、恐れることは何もなかった。セインがシールドで攻撃を防いでいる間に、ジョルダンとカーラの二人が切り刻み、あっさりと倒すことができた。

 二度目はヒュージマンティスと戦った。こちらも一度は戦った相手だ。カマの攻撃さえ気を付ければ、こちらも問題はない。セインのシールドの裏からマリサが火球を放ち、頭部を潰して一気に敵の自由を奪った。あとはジョルダンとカーラの攻撃で終わりである。こちらも特に問題なく倒せていた。

 二戦したところで、昼食休憩を取ることにした。時計という便利な機械はないので、腹の減り具合が時間の基準である。ギルドでナタリアにもらったバゲットサンドと水筒を全員が取り出し、食事を始めた。

「久しぶりのダンジョンだったけど、順調に探索できてるわ。地図も少しずつ書けているし、そろそろ、この面倒な構造の場所も、一通り書き終わるんじゃないかと思う」

 探知役兼マッパーをしているカーラが、仲間にそう伝えた。仲間達もそうか、いい調子なんだと安堵し、笑みを浮かべた。

「ありがとう、カーラ。地味で面倒な仕事、いつも助かってる」

「本当ね。私だったら、もっと手間や時間がかかりそう。カーラだからここまで手際良くできるんだと思う」

「僕も同意見。というか、僕は正直、正確に地図を書く自信はないなあ。それだけでもすごいなあって、いつも思ってる」

 三人が三人共、カーラの役割の重要性を良く知っていて、これまでの功績を称えていた。掛け値なしに褒められて、カーラも内心ではうれしかったようだ。しかし、それに驕ることなく、謙虚に言う。

「みんなありがと。でも油断しないで、丁寧に探索しようね」

 三人がうなずき、バゲットサンドにかぶりつく。持ち歩きの都合で軽い食事だが、しっかりと量はあった。

 ゆっくりと食べ終えて、軽く食休み。魔物が来ることもなく、平和な食事時間であった。


 昼食後も、地道な探索は続いた。

 いくつも分岐が連なり、その一つ一つを追って地図を書き、地形と地図を照合する。全てがその繰り返しだ。何度同じ分岐に戻ったかもわからない。本当に地道な作業だった。マス目状に入り組んでいる現在の地形は、正解の道がなかなか分かりにくい構造をしていた。地図にするとそれがはっきりする。だが、少しずつ地図が仕上がっていくのは悪い気分ではなかった。

 とは言え、いい加減にその作業にも飽きてきた頃、地図上では一つの区切りがついていた。一つの固まった範囲を書き終えていたのだ。

「この辺でキリがいいみたい。あとは明日に回しましょうか」

 カーラが提案して、仲間もみな了承した。何事も適当なところで切り上げるのは大事だ。

「じゃあ、引き上げるわよ」

 カーラに先導されて帰り道を行く。

 しかし、しばらくして異変が起こった。

「あれ、行き止まりだ。そんなはずないのに」

 地図上では、帰り道の最短コースになっている。しかし、目の前には壁があり、通ることができない。

「どうしたんだ。現在位置を間違えているとか?」

「まさか。カーラがそんなミスをするわけないわよ」

「じゃあ何で行き止まりになってるんだろ」

 四人が一斉に考え込んだ。しばらく考えて、カーラが口を開く。

「多分だけど、一方通行の罠だと思う。あたしとしたことが、完全に見落としたわ」

「一方通行?」

「ええ。入る時は何もないけど、戻ろうとすると壁になっている罠ね。魔法の仕掛けの一種だと言われてる。どんな仕掛けでそんな事が出来るのかは、皆目見当がつかないけど、話には聞いたことがあるわ」

 カーラからその話を聞いた三人は恐ろしさに身震いした。

「そしたら地上には戻れないってこと?」

 マリサが怯えたような声で言った。帰り道を失うことほど恐ろしいこともそうはない。

 しかし、カーラは落ち着いて答えた。

「大丈夫。この地図はみんなで頑張って書いたものだから正確よ。こっちの方から回り込めば、元の場所に戻れるはず。行ってみましょう」

 そして四人は再びカーラの案内で進み始めた。

 いくつもの分岐を右に折れ、左に折れては進みと、地図を見て確認しながら進んでいく。かなり厄介な道で、景色も似通っているので、覚えただけで進むのは相当難しいと思われた。戻れなかったらと思うと不安だったが、ここは仲間のカーラが書いた正確な地図が頼りだ。三人もそこは信頼して良いはずと思い、緊張しつつもカーラの誘導に従った。

 そうやって辛抱強く進み、回り道した末に、地図上では回転床の罠につながる場所へと出てきた。

「ほら、床に印が書いてある。どうやら戻ってこられたみたいね」

 四人が安堵の息をついた。地道な探索が役に立ち、見事に罠を回避できたのだ。

「でさ、悪いんだけど、一方通行の罠の場所、確認したいから、もう一周回ってもいいかな」

 カーラがそう言った。確かに次回からの探索の際、罠のあるなしがはっきりしていれば、より安心である。

「分かった。カーラの意見に従うよ」

「私も。ここは確実にしておきたいわよね」

「僕も了解。こういうことは面倒がらない方がいいよね」

 そして再び一方通行があったと思われる場所へと進んでいく。

「そろそろね。えっと、今はまだ後ろは戻れる、と」

 そうやって少し進んでは振り返ることを繰り返した。

 何度か繰り返したところで、振り返った場所に壁が出現していた。間違いなく一方通行の罠だった。

「次の探索からは、この種の罠にも気を付けないといけないね」

 カーラが罠の所在を地図に書き込む。

「これで次からはこの場所を通っても大丈夫。この先にもこの罠があると面倒だけどね」

 そう言って微笑むカーラの姿が、仲間の三人には実に頼もしく見えた。

「またカーラに助けられたな。ありがとう。さすがだよ」

「ありがとう、カーラ。あなたと一緒で良かった」

「うん。僕達の頼れる仲間だ。すごく助かった」

 三人が口々に仲間を褒めた。カーラは仲間からの信頼を受けて、いい仲間と出会えたことを喜んでいた。

「ありがとう、みんな。とにかく無事で何より。帰り道も気をつけましょ」

 うなずき返すと、四人は地上への道へと戻っていくのだった。

 武器が新しくなり、戦闘がすごく楽になりました。探索も順調、と思いきや、しっかり罠があったりします。正確な地図がなければ、迷って帰れなくなるタイプの罠でしたが、地道な努力のおかげであっさり突破です。

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