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第二十五話 良い剣を探そう

 王都での初日、なかなか充実した時間を過ごしたパーティ四人。ギルド一家が滅多にできない家族での観光を楽しんでいる間に、いよいよ本格的に良い剣を探しに行くのでした。

 王都の冒険者ギルドの周辺には料理屋が多く、朝食を提供している店もある。一行八人はまず朝食を取りに近場の料理屋へと入った。

「じゃあ、俺達一家は、今日は工房街を見物に行ってくる。みんなは剣探し頑張ってくれ」

 朝食を取りながら、タイロンが予定の話をしてきた。

「分かりました。俺達はひたすら武器屋巡りですね、きっと」

 そんなやり取りを経て、パーティ四人は一家と別れた。

 この日は良い剣を探すために、武器屋を巡るのである。新しい剣と比較するために、普段使っている武器、ジョルダンは長剣、カーラは短剣を持っていた。料理屋を出て、早速武器屋街へと向かう。

「端から順に当たってみるか」

 四人は一番手近な武器屋に入った。

「すみません、ご相談があるのですが」

 自力で探すより店員を頼るべき。四人はそう考えて、最初から店員に声を掛けることにした。

「はい。何かお探し物でしょうか」

「これと同じくらいの長剣で、一ランク上の品が欲しいのですが、お金が足りなくて新品には手が届きません。何か良い品があったら教えて下さい」

 なるほどと店員がうなずく。

「その剣、少し拝借致します」

 ジョルダンが剣を店員に渡す。受け取った店員が剣を鞘から抜き、刀身を確認する。じっと見てから、しずかに鞘に納めた。

「普通の長剣ですね。よく手入れされてますが、拵えも刀身も標準的な品ですね。これより良い品と言うと、やはり威力重視ですか」

「そうです。魔物討伐の時、この剣では虫系の魔物相手にも、大した傷がつけられないのです。それで威力のある剣が欲しいのです」

 それを聞いて店員が考え込んだ。

「そこまでの威力のある武器とおっしゃるなら、いわゆるプラス一のランクの剣をお求めということですよね。新品では、最低でも金貨五枚する品ですから、手が届かないのも無理はないかと。ちなみにご予算は」

「金貨四枚くらいです」

「うーん、難しいですね。その値段でとなると新品は確かに無理で、中古品ということになりますが、うちは中古品の扱いは少ないので、ご希望に添える商品はないですね」

 店員はそう言うと、一応勧めてみるかという感じで、一本の剣を持ち出してきた。

「こちら、名工の作なのですが、作者が打ち損じたとして、安い価格でうちが買い取ったものです。金貨四枚半。これで精一杯ですね」

 ジョルダンがその剣を受け取って抜いてみる。確かに今使っているものより頑丈かつ切れ味の良さそうな刀身をしていた。鞘に収めてため息をつく。わずかにお金が足りない。

「ありがとうございました。残念ながら、購入は難しいようです」

 剣を返しながら、ジョルダンが礼を言った。そして、仲間と一緒に店から立ち去っていく。

「またのお越しをお待ちしております」

 店員の定番の挨拶も、金のない身の上には、空しく響くのだった。


 そうやって店を回ること五軒。途中昼食を挟んで話を聞き、商品を見せてもらったが、どこの店でも結果は同じで、四人は意気消沈していた。

 六軒目の店の主人が、そんな四人を見かねてアドバイスをしてきた。

「この辺の店は、どこも中級以上の冒険者が使うような店なので、値段的には厳しいでしょう。どうしても掘り出し物が欲しいというなら、こちらの店に行かれると良いかもしれませんよ」

 そう言って、一軒の店を紹介してきた。場所は商店街の中央からやや外れた、それでも多くの店が立ち並ぶ一角だった。

 このままではどうしようもないと感じた四人は、その勧めに従って、その店を訪ねることにした。

「右隣の通りをまっすぐ、三番目を左に曲がって、すぐを右と」

 そして着いたのは、古びているがかなり大きな店構えをした中古品専門店だった。武器に限らず、工具や道具なども取り扱っていて、それなりに人が入っている。

「はい、いらっしゃい。何かお探しですか」

 愛想の良い店員が話し掛けてきた。品数の充実具合と言い、店員の接客態度と言い、なるほど商売上手な店のようだ。

「長剣を一本。プラス一ランクの品で、予算は金貨四枚。それで買える物はありますか」

「長剣のプラス一ですか。ありますよ。とりあえず店内へどうぞ」

 案内されて、武器が置いてある場所に来た。剣に限らず、他の武器も扱っていて、思った以上に品揃えがいい。

「お客さん達、まだお若いようですが冒険者ですよね。それで魔物退治に強い武器が欲しくなった、と。いやあ、分かりますよ。そういう方、たまにですが来られるのでね。今日は運がいいことに、この前仕入れた格安の品があるんですよ」

 そう言って、長剣と短剣の二本組を見せてきた。ジョルダンが受け取って刀身を確認する。手入れが行き届いておらず、刃が曇っているが、確かに一段上の威力の剣に間違いなかった。

「元冒険者の人が予備の武器として持っていた物なんですが、あまり使われないまま不要になったとかで。手入れもしないで放置していたのを売りに来たんですよ。きちんと砥石をかけて磨き上げれば、元の切れ味が戻ってくるはずですけどね。これで良ければ二本で金貨四枚。格安でしょう」

 手入れは大変そうだが、他の店にはない格安の品物だ。四人は買うべきかどうか大いに迷った。

「少し相談する時間を頂けますか」

「ええ、格安とは言え金貨四枚。お若い方には大枚ですから、慎重になるのは当然です。よくご相談下さい」

 店員が愛想の良いまま返答してきた。四人はその場で相談を始める。

「これより安い品はなさそうだし、決めちゃっていいんじゃないか」

 ジョルダンが急かしたように言う。気持ちは分かる。武器の威力でずっと苦労してきたのだ。手に入るならすぐにでも欲しいのだ。

 こういう時は、やはりマリサが現実的だった。

「いいと思うんだけどね。確認するけど、本当にあの剣、二本とも今使ってるのより威力が上なのよね。間違いないわよね」

 一番重要な点を確認してきた。なるほど、それは確かめた方がいいだろうとセインもカーラも思った。

「試し切りとかさせてもらえないかな」

「そうね。実際に使ってみないと、確認はできないよね」

 店員がそこで割って入ってきた。

「試し切りですか。できますよ。裏に薪割り場があるので、そこで薪割りして確認してもらえれば、はっきりしますよ」

 どこまでも親切な店員だった。まあ、手入れの悪い剣など、なかなか売れる品ではないので、この機会に売ってしまいたいのだろう。

 四人が店員に案内され、店の裏手へと出る。言われた通り、裏庭に薪割り場があった。建物の脇には割る前の薪も積んである。

 ジョルダンが一本の薪を置いて、まずは自分の剣を抜いて、斬りつけてみる。さすがに一撃では割れず、半分ほど刃が食い込んで止まった。それを何度か叩いて最後まで割った。

 次に売り物の剣を手に取る。初めて使う剣だが、思った以上にしっくりなじんだ。そして同じように薪を置いて斬りつける。剣が薪に当たり、すっと吸い込まれる感じで刃が薪を見事に両断した。確かに一段上のランクの剣なのだと、その切れ味が証明していた。

「こいつはすごい。手入れすれば、ワームとかも切れるぞ、きっと」

 ジョルダンが興奮したように言った。

 もう一本の短剣でも、カーラが試し切りをした。そしてカーラの腕前でも見事に薪を両断した。確かにこれは掘り出し物である。

「買うことに決めていいか。この値段でこの威力、しかも二本組だ。お買い得だと思うけど」

「そうね。威力の高い武器を買うために、必死で稼いできたんだし。私は賛成するわ。セインとカーラはどう?」

「僕も買う方に賛成。他の店に行っても、結局手が届かないんだし、ここならカーラの分も買えるから、確かにお買い得だと思う」

「あたしも戦闘では歯がゆい思いをしてたから、威力の高い短剣はぜひ欲しいところなの。みんなが許してくれるなら、買って欲しい」

「よし、決まりだな。店員さん、俺達、この二本を買わせてもらいます」

「それはどうも。ではお会計を」

 薪割り場から店内に戻り、ジョルダンが代金を支払う。金貨四枚、これを貯めるのに何体魔物を倒しただろうか。

 だが、その苦労に見合う逸品だ。長剣をジョルダンが、短剣をカーラが受け取り、表情を輝かせた。

「この度はご購入ありがとうございました。冒険者さん方、今後の活躍に期待してますよ」

 店員は最後まで愛想が良く、いい買い物をしてもらえたと満足そうな表情をしていた。温かく見送られて、四人は店を出た。

「よし、早速手入れしよう。カーラ、それでいいか」

「もちろん。一時間も磨けば、きっときれいになるわよ」

 二人は良いものが手に入ったうれしさで、少しでも早く自分の剣として磨き上げたい様子だった。セインとマリサのことがすっかり頭から抜け落ちていた。

「僕達はどうしようか。マリサ、何かしたいことある?」

「そうね、学院の魔法練習場でも借りて、魔法の練習でもしたいわね。旅の間、全然魔法使ってなかったし」

 セインとマリサは剣を磨く邪魔にならないよう、別口でやることを決めていた。

「じゃあ、僕達、学院に行ってるね。ジョルダンとカーラも頑張って」

「分かった。二人が戻るまでには、ピカピカに磨き上げとくよ」

 そうして四人は二手に分かれた。


 ジョルダン達は、ギルドで砥石を借り、井戸端で丁寧に刀身を磨いていった。手入れせずに放置してあっただけに、汚れなどを落とすのには骨が折れた。それでも二人は文句も言わず、むしろ段々ときれいになる様子を楽しむようにして、作業を続けていた。

「これで戦闘も少しは楽になるわよね」

「そうだな。スパイダーの足くらい、一撃で切り落とせそうだ」

「良かった。あたしの短剣、威力低くて、あまり役立ってないなあって、結構気にしてたのよ」

「俺も似たようなもんだな。攻撃の要のはずの戦士が、なかなかダメージ与えられなくて、みんなに苦労ばかり掛けてたからな」

 威力の高い武器が手に入り、一層仲間の役に立てることがうれしくて、二人の手は休むことを知らなかった。

 そうして二人は、二時間近く刀身を磨き続けて、二本の剣は輝きを取り戻したのだった。


 セインとマリサの方は、学院の練習場で二人向き合っていた。職員の人に頼んだところ、空いているから使って良いと許可が下りたのである。

「じゃあ、シールド頼むわね。本気で打ち込むから、防御よろしく」

「分かった。手加減なしってことだね」

「行くわよ、ファイアボール!」

 拳大の火球がマリサから放たれ、勢い良くセインに向かって飛んでいく。

「ホーリーシールド!」

 セインが魔法を発動させて、その攻撃を防ぐ。火球が高熱を発している時間は思ったよりも長い。自分で受けてみて、マリサの魔法は普段見ている以上に威力があることを、身をもって知ったのだった。

「すごいね、マリサ。なるほど、魔物にとどめが刺せるわけだよ」

「このくらいできなきゃ、メイジは名乗れないわよ。じゃあ、次行くわよ。アイスランス!」

 腕くらいの大きさの氷柱が飛んでくる。勢いも先程の火球と変わらず、凄い速さである。楯の魔法に当たってもすぐには砕けず、しばらくの間、楯を押し込んでくる。

 久々に魔法を発動させて、マリサは気分を良くしていた。やはり魔法は使うためにあるのだと、改めて実感しているようだった。

 通りすがりの学生達も見ていて、その魔法の威力に驚いていた。やはり実戦を経験しただけに、マリサの魔法は本物である。

 それから風魔法と水魔法をいくつか使い、セインがそれを受けていた。一通り魔法が使えたことで、マリサも満足できたようだった。

「あーすっきりした。ありがとね、セイン」

「僕の方こそ。こうやって直接受けるの初めてだったけど、やっぱりマリサの魔法はすごいよ。間近に見られて得した気分」

 二人は機嫌よく学院を立ち去った。

 そして、宿舎にしている冒険者ギルドで、剣を磨き上げて満足そうにしていた二人と合流した。

 こうして新たな武器を入手できたことで、戦力もかなり上がった。ボルクス村に戻ったらまた探索を頑張ろうと、意気も上がる四人だった。

 剣探しの回です。やはり簡単には見つからず、いくつも店を巡って苦労してました。最後には掘り出し物が見つかりました。さすが王都、いろいろな店があるものです。なお剣の威力のプラス一という呼び方はあちこちで出てきそうな名称ですが、ご容赦を。

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