第二十二話 ジャイアントワームとの戦い
ダンジョン探索を少しずつ進め、キリの良いところで引き返してきたパーティ四人。でも、帰り際に魔物と遭遇、逃げることもできず、戦闘となるのだった。
「いくよジョルダン、ストレングス!」
ヒーラーのセインの強化魔法が発動し、戦士のジョルダンを包み込む。身体能力を強化する魔法だ。それを受けて、ジョルダンが右へと飛び出す。
「ホーリーシールド!」
次いでセインが楯の魔法を発動し、ジャイアントワームへと突進、体当たりを掛ける。ワームもその動作に気付き、セインに噛みつこうと口を開けて襲い掛かってきた。その攻撃をシールドで防ぎ、セインが踏ん張る。一瞬だが、ワームの動きが止まる。
「よし、ここだ!」
太い胴体へとジョルダンが剣で斬りつける。高らかな金属音。しかし、わずかな傷しかつけることができなかった。表皮が固いとは聞いていたが、それはかなりのものだった。
ワームが尻尾でジョルダンへと攻撃を加えてきた。セインが頭部へとシールドごと体当たりを掛けるが、お構いなしで尻尾が振るわれる。ジョルダンは強化魔法の恩恵で辛うじてその攻撃を避けた。
シーフのカーラが突進し、頭部へと斬りつける。しかし、威力が足らず、牽制にしかならない。ワームの注意がカーラに向き、尻尾の攻撃がカーラへと飛んできた。作戦通り、カーラはその攻撃を軽々と避けていく。
「ファイアボール!」
メイジのマリサが試しに火球の魔法を放つ。わずかに頭部を外れ、そのやや下側に着弾する。直撃はしたが、その高熱をもってしても多少焦げ付いて脆くなった程度で、大したダメージにはならない。
「ごめん、あまり効かなかった。でも、多少のダメージは通ったから、カーラはそこを狙って」
「分かった。ありがとう、マリサ」
攻撃を避けながら、カーラが一撃離脱で、火球に焼かれた部分を狙って斬りつけていく。少しずつだが傷口が開き、ダメージを与えていた。
その間、セインが必死にワームを足止めする。シールドの魔法ごと体当たりを繰り返し、注意を引きつつ、攻撃を防ぐのだ。壁役として、毎回重要な役割を担っていた。それがなければ戦闘継続は難しい。
ワームの注意が前面に逸れたところで、ジョルダンが胴体への攻撃を繰り返す。先程与えた小さな傷を狙い、繰り返し斬りつけていく。一撃ごとに、少しずつだが傷が広がっていく。そうするとワームが再びジョルダンを尻尾で狙う。ジョルダンがそれを避けて距離を取る。局面は一進一退を繰り返す感じで、なかなか状況が変わらない。
カーラが頭部の下の傷口を広げていくが、それもなかなか広がっていかない。それでも諦めず、攻撃を繰り返す。短剣による斬撃で、少しずつ傷を広げていく。
「ファイアボール!」
カーラが広げた頭部の下の傷を狙って、マリサが二度目の魔法を放つ。見事に傷口に直撃し、傷口からワームの体内を焼いた。太い胴体をくねらせて、ワームがダメージにのたうつ。
「よし、今だ!」
ジョルダンが尻尾の攻撃を避けつつ、胴体への攻撃を繰り返す。一撃ごとにその傷は大きくなり、やがては胴体の半分近くまで斬り裂くことに成功した。
「三発目! ファイアボール!」
ジョルダンの広げた傷に、マリサが高温の火球を叩き込む。今度こそ体内を高温で焼き、大ダメージを与えた。同時にジョルダンは前面に回り込み、頭部の下にある傷に渾身の斬撃を加えた。さすがに脆くなっていて、ざっくりと傷口が広がる。
「とどめ!」
ジョルダンが剣を力一杯突き出す。傷口に突き刺さり、ジャイアントワームの体を貫いた。そしてワームの体が地に倒れ、魔石を残して霧状になって消えていく。四人はようやく勝利を得たのだった。
「無事か。俺は無事だけど疲れた」
「無事だけど同じく疲れたわ。三発も魔法撃たされたからね」
「あたしも無事だけど、避けるの大変で、同じく疲れたよ」
「僕もだ。しぶとい相手だったね。さすがに疲れたよ」
四人が揃ってため息をついた。見事に揃っていたのでおかしくなり、四人が声を上げて笑った。
「とりあえず、階段を上がってから休憩にしよう」
四人は疲れてはいたが、しっかりした足取りで階段を上がっていった。
一階に戻ると、やはり安心感が違う。強い魔物が出ないのも、これまでの探索で確認済みだし、迷う要素もそれほどない。
「よっこらせ」
ジョルダンが掛け声をかけて地面に座り込んだ。それを聞いてマリサが笑い出す。
「何それ、おじさんみたいよ」
そう言うマリサも、ふうと大きな息をついて座り込んでいる。やはり先程の激闘で疲れていたのだった。
「まあ、掛け声くらい、出したくもなるよね」
カーラも座り込みながらそう言った。そこにセインが乗っかる。
「じゃあ、どっこらせっと。ふう、やっと一休みだねえ」
他の三人があまりにのんきな様子に呆れ、苦笑を浮かべた。
「まあ、確かに大変だったものね」
「ほんと、固いのなんの。傷がなかなか大きくならないし」
「ああ。剣を振るうのも、かなりしんどかったな」
その三人も、感想は似ていて、口々に苦労を話していた。
「でも、僕のヒールに出番がないのはいいことだよ。無事が一番」
セインが一番重要な点を指摘した。確かにその通りである。戦闘の途中で誰かが負傷を負い、セインがヒールに回った瞬間、壁役がいなくなり、戦線は一気に崩壊してしまうのだ。
それを承知しているから、ジョルダンも肝心な場面では回避を優先しているし、マリサも楯の保護下から出ることはない。カーラも一撃離脱に徹して深追いはしないのだ。そのため、固い魔物を相手にすると、どうしても戦闘に時間がかかる。
「ほんとだな。無事が一番。タイロンさんやナタリアさんも、いつもそう言ってくれるし、それを守れてるんだから、俺達頑張ってるよな」
「そうそう。僕達、ちゃんと頑張ってるって。今日もお疲れ様」
「その言葉は、ギルドに戻ってからね」
「そうね。もうひと頑張り、歩いて戻りましょう」
四人は体が休まったところで、帰路についたのだった。
冒険者ギルドでは、今日はギルド長のタイロンも妻のナタリアも、村での手伝いを終えてすでに戻ってきていた。すでに夕方である。最後の一戦に時間がかかったので、戻りが遅れたのだ。
「今日は少し遅めだな。何かあったか」
タイロンが尋ねてきた。ジョルダンが端的に答える。
「帰る途中で、ジャイアントワームに出くわしたんです」
「ああ、なるほどな。そのレベルと装備だと、まだ手間のかかる相手だな」
さすが経験者、一言で大変だったことを察していた。
「装備ですか。もっといい武器を持った方がいいですかね」
強化魔法を受けてなお、傷を与えるのに時間のかかったジョルダンとしては、必要なら装備を新調することも頭にあった。
「うーん、残念ながら、今のみんなの稼ぎでは、到底足りないだろうな。威力のある剣となると、それこそ、金貨で何枚も必要だからな」
金貨一枚は銀貨で二十枚に相当する。ちまちまと銀貨何枚か分の魔石を入手してきているが、全部合わせても、まだ金貨二枚分程度である。とても新品は買えない。
「だが、中古品の掘り出し物なら手が届くかもな。一度王都に行って、探してみるのはありかもしれん」
タイロンがちょうどいいとばかり、提案してきた。
「実はな、近々王都の冒険者ギルドに行く用事があるんだよ。みんなが集めた魔石の引き渡しと、ギルドの運営資金を王国からもらうっていう、大事な用事なんだ。ついでだから、家族全員で旅行がてらに行ってこようと思ってる。その間はギルドも閉めるから、みんなも一緒に王都に行かないか」
唐突な提案だったが、悪くないと四人は思った。顔を見合わせて、うなずき合う。どうやら全員同じ意見のようだった。
「いいですね。出発はいつ頃ですか」
「七日後に出発しようかと思ってる。それで宿屋を使うと、一泊一人銀貨一枚かかるからな。さすがにそんな金はうちにもない。往復十四日、それぞれの町のギルドに無料で泊めてもらって、宿代は浮かせるつもりだ。もちろん食費は別にかかるぞ」
なるほど。四人が納得してうなずく。確かに宿屋を使えば、往復だけで今までの稼ぎが全部吹き飛ぶ。
「分かりました。では、ぜひ同行させて下さい」
急な話だったが、ギルドの家族と一緒に、四人は王都へと戻ることになったのだった。
それから六日間、ダンジョン探索を一旦取り止め、四人は魔物退治にいそしむことになった。少しでも金を稼いで、王都で良い装備を手に入れたいと考えたからである。
ダンジョン内でカーラの探知の魔法を使い、魔物を見つけてはひたすらに狩っていく。地下一階の踏破済みの場所でも魔物を狩った。一度、その階の魔物を狩り尽くしても、次の日にはまた魔物が出現する。どういう仕組みなのか、とても不思議だったが、とにかく必要なのはお金であって、換金できる魔石なのだ。疑問には蓋をして、ひたすら狩っていった。
連日頑張った結果、一日平均銀貨十二枚、五日間で銀貨七十二枚の稼ぎになった。金貨に換算して三枚半ちょいである。労力の割に稼ぎはそれほどでもなかったようにも感じる。しかし、ここボルクス西のダンジョンは、そもそも初心者向けで難易度の低いダンジョンである。魔物も強くなく、倒して残る魔石もそう良い物ではないから、こんなものであろう。四人もできることはやったと、それで納得していた。
「じゃあ、明日、出発しよう。今日中に旅支度を済ませておいてくれ」
六日目の夜、夕食も終わってのんびりくつろいでいると、ギルド長のタイロンが念を押してきた。
「もちろんです。大体の準備は終わってます」
「お、さすが冒険者。手際がいいな」
「王都に着くまでは一緒に行動してもらう。歩きでの長旅になるが、四人共、この村に来るときもそうだったんだよな。今回はそこを往復するわけだ。それで、王都に滞在するのは三日間。俺達家族は、ギルドの用事以外は観光して過ごすから、みんなも好きなように過ごしてくれていい」
「分かりました。武器屋で中古品を見て回って、なるべくいい剣を探そうと思います」
四人で稼いだ総額は、旅費を除くと金貨四枚と少しである。ジョルダンの攻撃力を少しでも上げて、より安全に魔物を討伐したいというのが、今回のパーティの目的だ。余裕があれば、カーラにも威力のある短剣が欲しい。
四人は王都への出発を翌日に控え、ゆっくりと休息を取るのだった。
低レベルなので攻撃力が足りず、魔物を倒すのに相変わらず手こずっています。さすがに少しは強い武器が欲しいということで、ギルド長の用事に同行し、王都へと戻ることとなったのでした。




