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第二十話 ボルクス村を案内してもらった

 久々に休日を取り、村の中を巡っているパーティ四人。ギルド長の娘アイナが村の案内をしてくれるというので、その好意に甘えて出かけることになったのだった。

 四人が朝もらった昼食のサンドイッチは、結局ギルドでアイナ、ポルタの昼食と一緒に食べることになった。二人のついでにスープを分けてもらい、のんびりと楽しい昼食となった。

 食後、母のナタリアは村の仕事の手伝いに出かけた。パーティ四人もアイナ、ポルタの案内を受けて、村へと出かける。

「まずは川と湖から案内しますね」

 アイナに連れられて、村のやや外れを流れている川までやってきた。川幅は広くもなく狭くもなく、上流から中流に変わる境目と言った感じだった。河原には丸みを帯びた石がたくさん転がっている。水の流れも穏やかで、日の光を浴びてきれいに輝いている。

「きれいな川でしょう。魚も結構いますよ。たまに魚釣りをして遊ぶこともあります」

「そうだね。夏なんか、水遊びするのに具合が良さそうだ」

「そうなんです。セインさんは川遊び、良くしてたんですか」

「うん。僕は田舎の村で育ったからね」

「なら、足だけでも少し浸かっていきませんか」

 アイナに誘われ、みな靴を脱いで足を浸けてみる。

「これ、冷たくて気持ちいい」

「ほんと、これはいいわね」

 マリサやカーラがふうと息を吐いて、気持ち良さに表情を和らげる。ジョルダンに至っては、童心に返ったように、ざぶざぶと水をかき分けて歩き回っていた。セインがそんな仲間の様子に笑みを浮かべる。

 しばらくして水から上がると、四人は足を乾かし、靴を履いた。

「なるほど、アイナ達がここで楽しく遊んでいるのが良く分かったわ」

「そうなんです。川っていいですよね」

 そして四人は、川の流れに沿って上流へと歩いていく。川縁を吹く風が心地よく、川の流れをのんびり眺められるのも気分がいい。

 二十分ほど歩いて湖が見えてきた。この川の源流となっている湖だ。思ったより広く、一周するのに三十分くらいはかかりそうだ。湖面は春の陽光を反射して、きれいにきらめいている。その向こうの山が湖面に映り、見事な景色だった。

「ちょっと村から遠いですけど、ここも良く来る場所なんです」

 アイナの紹介を聞き、四人がきれいな湖の姿に感心していた。

「きれいな湖ね。私の故郷にはこういう場所なかったわ」

 マリサは相当この景色が気に入ったらしい。表情を輝かせて、景色をじっと眺めていた。

「気に入ってもらえて良かったです」

「俺も都会暮らしで、こういう豊かな自然のある場所って、やっぱりいいなって思う。連れてきてくれてありがとう、アイナ」

 ジョルダンが礼を言うと、ポルタが唇を尖らせた。

「ぼくもいるんだけど」

「そうだったな。ありがとう、ポルタ」

「どういたしまして」

 その様子がおかしくて、全員が笑い出してしまった。何とものどかな光景である。景色もいいし、のんびりしていていい気分だ。

 しばらくの間、六人でのんびり景色を眺める。

 満足したところで、アイナが口を開いた。

「では、次は村の中心部を案内しますね」

 そして一行は、村の方へと戻って行った。


「ここが村の役場です。村長さんや役人さん達が、王国に収める税金の管理とか、村の施設の修繕とかを担当しています」

 次に案内されたのは、三階建ての立派な建物だった。多分、この村で一番豪勢な建物だろう。入り口から入ると、中で数人の役人が書類の作成や整理などを行っている。とは言え、忙しそうな様子はない。それほど作業量が多くないので、のんびり仕事ができるのだろう。

 ちょうどそこに村長が通りかかった。恰幅の良い年配の男性だった。

「こんな若い人達が役場に何か用事かね」

 アイナが一同を代表して答えた。

「はい。こちら、最近冒険者ギルドに来られた冒険者のみなさんです。今日はみなさんに村の案内をしているんです」

「ほう、そうかね。冒険者は危険な仕事だ。その若さでよく頑張っているようだね。村に魔物が出たりしたら、退治の方、よろしく頼むよ」

 ちょっと尊大な感じで村長が言う。それでも悪意はないようで、本当に頼るつもりでいるのも確かだ。いざ魔物出現となれば、今までタイロンやナタリアがしていた討伐の仕事を、このパーティ四人が引き受けることになることも多くなるだろう。

「分かってますよ、村長さん。こちらのみなさんはすでに一度、うちのお父さん、お母さんの代わりに魔物討伐もしてるんですよ」

「それは大したものだ。これからもよろしく頼む」

 そう言うと、村長は立ち去っていった。村の責任者だけに、偉そうにはしているが、冒険者相手でも粗雑に扱わないところは悪くない。だが、好感がもてるかどうかは別だ。アイナが苦笑気味に一言付け加えた。

「まあ、ああいう人なんです。みなさんもご容赦下さいね」

「大丈夫。僕もだけど、誰も気にしてないから。村長なんて、どこの村でもあんなものでしょ」

 セインがそう言うと、アイナの肩の力も抜けたようだった。

 次いで六人は役場を出て、商店街へと出た。と言っても、食堂が一軒、八百屋、肉屋兼総菜屋、道具屋兼雑貨屋、服屋兼古着屋の五軒だけである。小さな村なので、五軒あるだけでも大したものなのである。

「懐かしいな。僕の村も、商店街はこんな感じだったよ」

 田舎村出身のセインには馴染みのある光景だった。小さい頃、時々買い物のついでに買い食いしたことを思い出す。

 逆に、ある程度大きな町出身のマリサやカーラ、大都会出身のジョルダンは、店の数の少なさに驚いていた。彼らにとって、商店街はもっと多くの店が軒を連ねているものなのである。

「せっかくだから、何か惣菜買い食いしようよ。いいだろ、ジョルダン」

 セインがそんな提案をしてきた。昼食は食べてきたが、まあ少し食べるくらいは問題ないだろうとジョルダンもうなずく。

 セインは総菜屋の前に行くと、メンチカツを六つ注文した。要するにひき肉をタマネギなどの野菜を一緒にこねたパテに、衣をつけて揚げたフライの一種である。一つ銅貨三枚。

「これこれ。肉屋さんのメンチはすごくうまいんだよ」

 セインが遠慮なくかぶりつく。懐かしくもおいしい味に表情が和らぐ。

「じゃあ、私も」

 マリサが同じようにかぶりつく。驚きに目が大きく見開かれた。

「何これ、肉と野菜の旨味に、衣まで旨味があって、さっくりした衣の食感と、どっしりとした具の食感も見事で、すごくおいしいわ」

 ジョルダンとカーラがそれを聞いて、一緒に頬張った。

「ん、うまい」

「ほんと、おいしい。これで銅貨三枚は安いわ」

 アイナやポルタはたまに食べることがあるが、やはりおいしい物はおいしい。二人共うれしそうに口に運んでいた。

「そっか、三人はメンチカツ、初めてだったんだね」

「ああ、俺も似たような料理は食べたことあるけど、肉屋の総菜ってのは初めてだ。これほどうまいとは思わなかったよ」

「私も。フライも具材と調理法次第で変わるものなのね」

「あたしもおいしいと思う。揚げたてなのも良かった」

「みんなに喜んでもらえて、僕も良かったよ」

 不意のおやつだったが、好評で何よりだった。


 その後、肉屋の裏手にある屠畜場を眺めた。大きな倉庫のような建物で、中は見ることができなかった。さすがに家畜を屠畜する様子を見せるのは問題があるので、そういう配慮がされているのだった。

「屠畜って、要するに家畜を処分して、肉にするってことなんだよ」

 セインがざっくりとそう言った。ある意味残酷なことなのだが、肉を食する以上、必要な事でもある。

「そうかあ。そういうのが必要だってことは知ってたけど、実際にする場所があるのは考えてなかったな。必要な事なのにな」

 ジョルダンがなるほどとばかりにそう言った。マリサやカーラもうなずいている。食べ物の大切さが改めて身に染みる感じがした。

 それから何軒かの牧場を見て回った。ここで大切に飼われている家畜達も、いつかはその命を頂くことになる。そう思うと、生き物の大切さがより実感できるのだった。

 そろそろ戻ろうかという頃、ある牧場の前で、牧場主らしい男とその妻らしい女性が話し込んでいるのを見かけた。

「どうしたんですか」

 アイナが声を掛けると、男性の方が困った表情で返答してきた。

「いやあ、参った。うちの雌牛の一頭が足にケガをしてな。歩くのも難儀な様子で、これだと処分することになりそうなんだ」

 女性もそれに言葉を付け加えた。

「まだまだ乳も出るし、処分するのはまだ先にしたいのよ。何とかできないか相談してみたんだけど、お医者さんには無理だってさっき言われてね。どうしたものか、困ってるのよ」

 四人が顔を見合わせた。ここはどうやらセインの出番のようである。

「僕で良ければ、具合を見ましょうか」

「君は、もしかして最近来た冒険者かい?」

「はい。ヒーラーのセインと言います。簡単なケガなら、回復魔法で治せるかもしれません。様子を見てもいいですか」

「ああ、それはありがたい。ぜひ見てくれ」

 牧場主に牛舎へと案内され、六人がケガをした雌牛の元へと向かった。

 確かに一頭の雌牛が、後足を持ち上げるようにしている。地面に足をつくと相当に痛いらしく、そんな格好になっているのだ。

 セインがその足に右手をかざすと、ほんのり温かな光が足を包んだ。

「単純な骨折ですね。これなら治ります。ヒール!」

 光が少し強まり、牛の足に変化が見られた。痛みで仕方なく持ち上げていた足を下ろして、軽く地面に打ち付ける。セインの言葉通り、回復魔法の効果があったのだ。

「どうやら治ったみたいですね。良かったです」

「いやあ、ありがとう。冒険者の魔法を直接見るのは初めてだったけど、いやはや凄いものだね。助かったよ」

「いえいえ、お役に立てて何よりです」

 元々、こうして回復魔法を役立てるのが望みだったセインである。図らずも役に立つことができて、彼も喜んでいた。

 牧場主達の感謝を背に、六人は牧場を後にした。

「セインさん、すごいですね。さすがはヒーラーです」

 アイナの褒め言葉もくすぐったい。

「これが僕の本来の役目だから。役に立って良かったよ」

 こうして村の中を一通り見て回ると、六人は一緒に冒険者ギルドへと戻って行った。


 ギルドにはちょうどタイロンとナタリアも戻っていて、口々におかえりと言ってくれた。

「ただいまです。実のある見学になりましたよ」

「そうか。それは良かった。ちょうど全員揃ったことだし、たまにはみんなで一緒に風呂に行かないか」

「いいですね。行きましょう」

 そして、一家四人とパーティ四人は揃って公衆浴場へと出かけて行った。たまにはこういう休日も悪くない。みな満足そうな表情で、のんびりと風呂を楽しむのであった。

 休日編その2です。ギルドの娘さんの好意で、一緒に村の中を見て回ります。こういう何気ない日常もいいものですね。一休みしたら探索再開、さて無事に探索は進むのでしょうか。

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