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第十七話 まずは戦闘に慣らしておこう

 無事にレベルが上がったパーティ四人。今後もボルクス西のダンジョンを探索することに決めて、当分の間はここの冒険者ギルドで世話になることにしたのだった。

「それで、今日のところは、探索じゃなくて、魔物討伐にするのがいいと思うんだけど」

 朝食の時、戦士のジョルダンがそんな提案をしてきた。

「どういうこと? 昨日は探索続けるって話だったでしょ」

 メイジのマリサが疑問に思って問い返してきた。シーフのカーラも、地下一階を本格的に探索するものと思い、怪訝そうな顔をしている。

 ジョルダンが言葉を続けた。

「俺達、レベルが上がっただろ。だから、戦闘がどのくらいうまく出来るのか、確かめておきたいんだよ。地下一階の探索では、きっと一階より強い敵も出てくるだろうし、今までの相手が楽に倒せないと、この先厳しいと思うんだ」

 よくよく考えた結果らしい。

「なるほど、そうだね。僕はジョルダンの考えに賛成かな。安全に探索をするには、今の手持ちの戦力を確認しておくのは、きっと役に立つと思う」

 ヒーラーのセインが賛意を示した。普段のんびり暮らしたいと希望していて、戦闘はあまり好きではないと言うセインにしては珍しい。

「どうしたの、セイン。戦闘は好きじゃないのに」

 マリサに聞かれて、セインは頭をかいた。

「だって、地下に潜ったら、もっと厳しい戦闘がある可能性が高いだろ。そうなってから慌てるより、今までの魔物なら楽に倒せるって、自信を付けたいって感じかな」

「それもそうね。私も魔法の威力を確認したいし、賛成するわ」

 マリサが賛成に回ったことで、あとはカーラだけである。

「そういうことなら、あたしも頑張る。ただ、レベルが上がっても、あたしが戦闘向きじゃないってことは、忘れないでね」

「よし決まりだ。じゃあ、今日は一階で魔物討伐だ」

 こうして一日の方針が決まり、四人は食事に専念するのだった。


「それでは行ってきます」

 いつものように支度を済ませた四人は、冒険者ギルドを出発し、ボルクス西のダンジョンへと向かった。探索時の隊列は、カーラ、セイン、マリサ、ジョルダンの順である。道に沿って進み、平原を通り、森を抜けて、切り立った崖の前に出る。その崖の一部が開いていて、ダンジョンの入り口になっているのだ。

「今日は戦闘しに来たわけだから、魔物のいる場所をカーラに案内してもらう必要があるな。毎度のことだけど、探索よろしく」

「分かってる。任せて。まずは毎回出現するラージウルフね」

 ダンジョン一階の、手前側の分岐を無視して真っ直ぐ進むと、少し開けた場所がある。毎回探索の度に、ここでは魔物が出現していた。少し大型の狼型をした魔物、ラージウルフである。なぜ毎回出現するのかは謎だ。ダンジョンにはそうした不思議なことが多々ある。

 戦う時には並び順が変わる。シールドを使うセインを先頭に、ジョルダン、カーラ、マリサの順になる。

「それじゃあ、いつも通りに。ホーリーシールド!」

 セインが魔法の楯を発動させて、魔物に体当たりを掛ける。その隙にジョルダンが脇へと回り込み、鋭い一撃を放つ。いつもならその一撃である程度のダメージが与えられる程度なのだが、レベルアップの影響で威力が増していて、一気に瀕死に近い大ダメージを与えていた。

 続けざま、カーラがラージウルフの頭部に一撃を加える。眉間の急所に入り、それがとどめとなって、ラージウルフが魔石を残して消滅した。繰り返しになるが、魔物は死骸を残さず、倒されると消滅するのだ。

「あら、あたしがとどめ刺しちゃった」

「私の出番、なかったわね」

 カーラもマリサも、ちょっと驚いた表情をしていた。いつもなら、ダメージをカーラが与えた後、マリサの火球でとどめを刺していたのだ。

「そうか。今までより楽に倒せるようになったんだな、俺達」

「そうらしいね。僕も負担が軽くて助かったよ」

 ジョルダンとセインも、レベルアップの恩恵を実感していた。なるほど、攻撃の威力が増しているのは確からしい。

「よし、この調子で次に行こう」

 戦闘が楽だと分かり、気分も上がったところで、四人は次の獲物を探しにダンジョンの奥へと入っていった。


 続いてはレッサーコモドドラゴン戦だった。

 表皮が固くて、以前は足を斬り落とすのにすごく時間のかかった難敵だ。マリサが魔法を二発も叩き込み、それでようやく倒している。

 今回は、試しに強化魔法なしで対戦してみた。

 まずはセインがいつも通りシールドで気を引きつつ、攻撃を一手に引き受ける。その間に左右にジョルダンとカーラが回り込むのは先程と同じだ。

 ジョルダンが渾身の一撃を放つと、そう大きくはないが、切り傷を付けることに成功していた。間違いなく威力が上がっていると確信し、ジョルダンが続けざまに同じ場所へ攻撃を加える。以前より速いペースで、コモドドラゴンの足の傷が広がっていく。

 その間、カーラは頭部に攻撃を集中していた。コモドドラゴンの右目に一撃を加え、続けざまにその傷へと攻撃を集中し、傷口を広げていく。これまで攻撃の通らなかった相手だが、今回は十分に通用していた。

 セインの楯の陰にいたマリサが、チャンスと見て魔法を放つ。

「カーラ、下がって。ファイアボール!」

 レベルアップに伴い、マリサの火球も少し大きくなり、温度も高くなっていた。コモドドラゴンの頭部へと直撃し、派手に焼いていく。その一撃が決め手となり、やがてコモドドラゴンが倒れ、消滅した。

「魔法も少しだけど威力が上がってるみたいね。これなら前より使う回数も少なくて済みそう。実戦で試せて良かったわ」

 とどめを刺したマリサが、安堵しながら言った。魔法の威力上昇はパーティにとって大きな戦力アップだ。

「うん、マリサ助かった。ありがとう」

 他の三人もマリサの活躍を喜び、笑顔を見せていた。


 その後、ヒュージスパイダーと戦い、以前苦労したのが嘘のように、簡単に倒せるようになっていた。

 昼食休憩を挟んで、地下一階へ行き、レッサースコーピオンとも戦った。

 固さはコモドドラゴンより上である。ここではジョルダンにセインが強化魔法を使い、一番厄介な尻尾への攻撃を任せていた。

 セインがシールドでひたすら攻撃を防いでいる間に、ジョルダンが尻尾への攻撃を加えていく。その間、カーラは頭部に攻撃を加えていた。

「さすがに地下一階の魔物となると、頑丈さが違うわね」

 セインの楯の陰に隠れていたマリサが、半ば感心したように、半ばは何とかできないか焦りながらつぶやいていた。やがて、新しい魔法を試してみようと思い立ち、魔法を発動させた。

「アイスランス!」

 マリサの魔法は、氷の槍となって勢い良く飛んでいく。狙いはスコーピオンの口の中である。真っ直ぐに飛んでいき、狙い違わず口の中へと突き刺さり、大きな傷を与えた。

「マリサ、お見事!」

 カーラがその傷口へ攻撃を集中する。傷口は次第に広がり、やがて下あごが地面へと落ちた。

 それと同じくらいのタイミングで、ジョルダンも尻尾を斬り落とすことに成功していた。これでほとんど無力化したも同然である。

「とどめ! ファイアボール!」

 カーラが広げた傷口へと火球が放たれる。炎の高温が口元から内部へと焼いていき、やがてスコーピオンが地に倒れ、消滅した。

「うん、文句なしね」

 とどめを刺したマリサが満足そうに言った。尻尾を落としたジョルダンも、顔の傷を広げたカーラも、攻撃を全て防いだセインも、みな満足気な表情をしていた。

「全員無事だよな」

「もちろん」

「そうか。じゃあ、今日はここまでにしておくか」

 四戦全勝、苦戦もなし。四人は意気揚々と引き上げに入ったのだった。


「これなら、安心して探索できそうだね。それが分かって良かったよ」

 セインが一番にそう言った。仲間と一緒にいる限り大丈夫だと分かり、うれしかったのである。のんびり暮らしたいという希望をもっているセインだが、こうやって仲間と力を合わせて道を開いていくのも、悪くないとも考えているのだった。

「そうだな。だけど、これもセインのシールドあっての勝利だ。ヒーラーなのに壁役やってくれて、いつも助かってるよ」

「それを言うと、このパーティ、誰が欠けてもダメよね。私の魔法、セインのシールド、ジョルダンの攻撃、カーラの探知。四人揃っているから、先に進んでこられたんだもの」

 マリサの言葉はもっともだった。三人とも全くの同意見である。王都の冒険者ギルドで偶然出会って、本当に良かったと思っていた。

 それから四人は、ボルクスの冒険者ギルドに戻って、ギルド長のタイロンとその妻ナタリアに、この日の顛末を報告した。

「そうか。そんなに戦闘が楽になったのか」

 タイロンが考え込むような仕草をした。何か引っかかりでもあるのだろうかと、四人が身構える。

「いや、レベルが一つ上がった程度では、普通はこれほど大きな違いは出ないものなんだよ。だとすると、考えられるのは、四人全員、冒険者の資質が高かったってことだな。だから、一レベル上がっただけでも、剣の威力だったり、魔法の威力だったりが、普通より上がったってことかもな」

 なるほどと四人がうなずく。

「そうね、それとこれまでの修練で、きちんと基本を身に付けてきたというのもあるかも知れないわ。みんな頑張り屋さんだから、その努力がレベルアップで実ったってことなのかもね」

 ナタリアもそう言って褒めてくれた。日頃の頑張りが報われるというのは、本当にうれしいことである。四人共、安堵の息をつき、笑顔を浮かべた。

「それじゃあ、みんなお風呂にでも行って、ゆっくり休んでね。夕食もおいしいの作るから、期待してて」

「はい。分かりました」

 四人は荷物を片付けると、公衆浴場へと向かった。この世界では、一軒ごとに毎日風呂を沸かすのは、燃料や水の用意などが大変なので、風呂を持っている家は少ない。普通の家は公衆浴場を利用している。

「カーラ、今日も体の洗いっこしようね」

「うん。でも、マリサの体って、女の子らしくていいなって思う」

 女子二人がそんな会話を交わしているのを聞き、ジョルダンがうらやましそうに言った。

「そっか。女の子らしいのか。そうかあ」

「何を想像してるのよ、このスケベ!」

「いや、ごめん、ごめん」

 戦闘を終えて戻ってくれば、普通の少年少女達である。この日ものどかに風呂に入り、おいしい夕食を頂くのだった。

 戦闘編です。まあ、レベルアップしたら、実力を確認したくなるのは当然の発想ですよね。確かに強くなれたことを確認できて、探索にも一層のやる気を見せているパーティ四人なのでした。

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