第十六話 レベルアップで得られたものと四人の選択
ダンジョンでレベルアップを果たしたパーティ四人。レベルが上がるとどんな変化があるのかを、冒険者ギルド長から話を聞くのだった。
「それじゃあ、レベルアップについてだが」
そう前置きして、冒険者ギルド長のタイロンが説明を始めた。彼は戦士のレベル十一とまだ現役で、村の周辺に出現した魔物を、自ら討伐しに行くことも時々あるのだ。そんな経験者の談話だけに、パーティの四人は姿勢を正して、じっと聞き入る体勢になっている。
戦闘経験や訓練を重ねることで、魔力や筋力など、冒険者としての能力は高まっていく。それを目に見える形で示したのがレベルで、一定の経験を得ることで上昇する。各ステータス、つまり筋力、敏捷性、体力、知力、器用さ、魔力、そして運でさえ数値化され、冒険者証に表示されるようになっている。レベルが上がることで、これらのステータスも上昇し、上昇した能力の分、できることが増えるのだという。
「それから魔法についてだけど」
こちらはその妻ナタリアの説明だ。彼女はメイジのレベル十である。
レベルが上がることで魔法の使用回数が増えるのに加え、修業時代に学んでいたが使えなかった魔法も解放され、使用できるようになることがあるという。
「どうかしら、使える魔法、増えてない?」
問いかけられて、四人が自分の頭の中で魔法をイメージする。戦士のジョルダンとヒーラーのセインは、残念ながら増えていなかった。
「私、アイシクルランスが使えるみたいです」
メイジのマリサがかなりうれしそうに言った。水魔法はウォーターボールだけだったので、大きな進歩である。
「あたしはサーチの魔法の効果が変わったみたいです。ただ存在するかしないか判別するだけだったのが、魔物か動物かの区別がつくようになったみたいです」
シーフのマリサもうれしそうにそう言った。魔物かどうかの判別ができるのは大きい。探索時にとても役立つ。
「回数はどう?」
「増えてますね。びっくりするくらい」
セインは十二回、マリサが九回、カーラが七回と、それぞれ魔法の使用回数が増えていた。レベルが上がるとこれほどの恩恵があるとは、三人がとても驚いていた。
ここでタイロンに変わって、また話を続けた。
「さっきステータスが上がったと言っただろ。だから、動きなんかも格段に良くなってるはずだ。ちょっと動いてみな」
言われた通りに四人が試してみる。手足を曲げ伸ばしたり、その場で駆け足をしてみたりと、体を動かす。
「確かに、少し体の動きが良くなった気がします」
「あたしも前より力が入るって言うか、筋力上がった感じします」
「とまあ、そんなところだ。当然、レベルが三、四と上がってくれば、同じようにステータスが上がって、もっと動きが良くなるだろうさ。まあ、限界はあるらしいけど、そこまでレベル上げた奴は、俺も見たことないな」
タイロンはレベル十一だから、まだまだ伸びしろがある。しかし、村の周辺で魔物退治をしている程度では、とてもレベルは上がらない。しかし、家族で冒険者ギルドを運営するこの暮らしが気に入っているので、無理にレベルを上げに行こうなどとは考えないのだった。
「説明としてはこんなところだが、何か質問あるか?」
四人が顔を見合わせた。基本的な情報は十分分かったし、上昇したステータスについては後で確認すればいいだろうと思う。特にはないと答えようとしたところで、マリサが口を開いた。
「どのくらいまでレベルを上げたら、一人前と言えるんでしょうか」
他の三人が、そう言えばマリサはそれを気にしていたなと思い出した。確かに目安みたいなものがあるなら、聞いてみたい気はする。
すると、タイロンの返事はとても微妙で曖昧だった。
「冒険者に登録した時点で、弱い魔物は倒せるわけだから、それでも一応は一人前と言えなくはない。目安としては、パーティ編成にもよるが、レベル七くらいで、イズミルという場所にある中級のダンジョンに入れるから、それで一人前という言い方もできる。でも、王都近郊のカルスのダンジョンは、レベル十三のパーティでも浅い階層しか潜れない。だから、どこまでを目指すのかは自分達次第で、レベルいくつで一人前というのはないな」
「そうなんですか。分かりました。ありがとうございます」
マリサが少し気を落としたように礼を言った。ため息が一つこぼれる。レベルに果てがないことを改めて確認したのだから、気が遠くなるように思うのも当然だった。
「他は何かあるか」
「いえ、今は特には。また何かあったら、話を聞かせて下さい」
ジョルダンがそう言って話を締めた。
タイロンが本心から最後に一言付け加えた。
「まあ、この先どうするかは、四人でよく相談するといい。別のレベル上げの道を探るも良し、故郷でのんびり暮らすも良しだ。俺としては、ボルクス西のダンジョンを制覇するまで、うちにいてくれるとうれしいけどな」
タイロンとナタリアが立ち去った後も、四人は残って、この先どうするかの相談を続けた。
「僕はまあ、十二回もヒールが使えるなら、それで村に戻って治療院でも開くのもありかな、とは思ってる。でも、レベルはまだまだ上がるって話だったし、上級の回復魔法を覚えるまで頑張るのもいいかなとも思う。だから、すごく迷ってるんだ」
一番に口を開いたのはセインだった。自分の迷いを隠しもせず、そのまま仲間に伝えている。それだけ仲間を信頼しているということだった。
ジョルダンがそれはそうだろうとばかり、強くうなずく。
「セインならそう言うよな。俺は今のままじゃ半端だから、タイロンさんが言う通り、ここのダンジョンを制覇するまでは頑張りたいと思う。そのついでにレベルがさらに上がれば言うことなしだな」
とても彼らしい言い草に、他の三人が微笑を浮かべた。
「そうなのよね。探索が半端なままっていうのも、もったいない気はする。だけど、レベル上げるだけなら、もっと効率のいい場所に移る手もあるわけでしょ。ここのダンジョン、敵は強くないけど、効率悪そうだから。あ、でもあたし、そんなにレベル上げたいわけじゃないからね」
カーラはそんな考えだった。
マリサが全然別の視点から考えを述べた。
「正直、食い扶持って点からすると、ここにいるのってすごく助かってるのよね。宿代は無料、食事も一日一人銅貨十枚、ダンジョンで魔物を一体倒すだけでお釣りがくるわけだから、そういう意味ではいい生活よね」
魔物一体の魔石が銀貨二枚か三枚。銀貨一枚は銅貨五十枚だから、確かにマリサの言う通りなのである。現実問題、他の場所に移って、同じように稼いで生活できるかというと、かなり厳しいだろう。
「だから、ダンジョン探索もしながら、魔物を倒してお金も貯めながら、レベルも上げながら、もう少し結論を先延ばしにしてもいいかなっていうのが私の考え。どうかな」
なるほどなあと、三人がうなずく。
「そうだよね。せっかくパーティ組んだのに、二週間で別れるのも、すごく惜しい気がする。せめてもうしばらくは、みんなと一緒にいたいかも」
セインも別の角度から、探索続行に賛成してきた。迷いは晴れ、いずれ仲間達と別れるにしても、もう少し先の話にしたいと思っていた。
「あたしも同感。ダンジョン探索や魔物退治、しばらくの間、みんなと一緒にやりたいな」
「何だ、初めから結論出てたんじゃないか。当面の間、今までと一緒で、みんなでダンジョン探索をするってことだな。それでいいかな」
カーラもジョルダンも、考えは同じだったようだ。全員が賛意を示して、話は決着したのだった。
「私、パーティってどんなものかと思ってたけど、みんなと一緒だとやりがいがあるって言うか、気楽でいられると言うか、この三人と仲間なのがいいなって思ってる。これからもよろしくね」
マリサが笑みを浮かべて手を差し出してきた。三人がそれぞれ手を差し伸べ、手を重ねた。
「今後ともよろしく。みんな、頑張ろうぜ」
「おー!」
かくして、話し合いも無事に落着したのだった。
夕食の時間、パーティ四人の今後の方針について、どんな結論が出たのかをタイロンが尋ねてきた。
四人は生真面目な表情で、これからもお世話になりますと答えた。
「そうか、そいつは良かった。な、アイナ、ポルタ」
タイロンはなぜか娘と息子に話を振った。
「良かった。せっかく仲良くなれたみなさんと、もっと一緒にいたいなって思っていたんです」
「ぼくもうれしい。また時間のある時、一緒に遊んでね」
ということだったらしい。ここに来てからおよそ一週間。ずいぶんと懐かれたものである。
タイロンも言葉を付け足した。
「いやあ俺もさ、このギルド、冒険者ギルドって名前なのに、使ってくれる冒険者がいないだろ。だから、四人がこうしてうちにいてくれて、ダンジョンに挑んでくれるのはうれしいんだよ」
「私も同じ気持ちよ。みなさんと一緒に食事するのも楽しいし、食事の作り甲斐もあって、私もうれしいんですよ。ですから、遠慮なく、このギルドにいて頂いていいんですからね」
ナタリアもそう言ってくれた。判断する時は考えていなかったが、このギルドの人達との縁を大事にするというのも、居残る理由としては十分過ぎるかもしれない。
「僕もこのギルドは居心地が良くて好きですよ。ダンジョン探索や魔物との戦いは得意じゃないですけど、仲間達もいますし、レベルも上がりました。こんな充実した毎日が送れるのも、ギルドのみなさんのおかげです。いつもありがとうございます」
四人の中で一番最初に口を開いたのはセインだった。のんびり暮らしを理想とする彼にとって、ここは確かに居心地のいい空間なのだった。
「俺達、みんな同じです。お世話になって、すごく助かってます」
「私もです。疲れて戻っても、すごく安らぐいい場所だと思います」
「あたしもギルドのみなさんの世話になれて、うれしいと思ってますよ」
タイロンが満面の笑みを浮かべた。
「そっか、そっか。そいつは俺達家族にとって、最大の褒め言葉だな。それじゃあ、これから当分の間、よろしく頼むな。俺達もできる限りの手助けはするからよ」
「はい、お世話になります」
四人が深々と頭を下げた。
ここはオルクレイド王国辺境のボルクス村。こののどかな地に、のんびりとダンジョン探索に挑むパーティと、彼らをサポートする冒険者ギルドがあった。
レベルアップについて描きました。架空世界なので、能力が向上することに関してはそういうものだとご理解下さい。それにしても、のんびりした冒険者ギルドにのんびりした四人パーティが良くなじみますね。




