第十一話 二度目のダンジョン探索
初めてのクエスト、ヒュージスパイダーの退治を無事に果たしたヒーラーのセイン、戦士のジョルダン、メイジのマリサ、シーフのカーラは、少しだが自信を付けることができた。そして、いよいよ二度目のダンジョン探索に挑もうとしていた。
「明日は二度目のダンジョン探索に行こうと思うんだけど」
夕食後、お茶を飲みながらのんびりしていたパーティの面々に、リーダーである戦士のジョルダンが声を掛けた。
「そうね、二回も魔物討伐に成功したし、無理のない範囲で探索を進めておくのはいいかもしれないわね。カーラはどう? あなたの探知魔法が頼みの綱だから」
そう答えたのはメイジのマリサである。前回の戦闘でとどめを刺したことでかなり自信を付けていた。
「あたしはいいと思う。探知は任せてもらって大丈夫よ。レベルを上げるためにも、少しずつ経験を貯える必要もあるから、できる範囲で頑張るのがいいと思う。後はセインね。結局、戦闘ではいつもセインのシールド頼みになるから。セインが気乗りしないなら、無理強いはしないよ」
シーフのカーラに話を振られて、ヒーラーのセインは苦笑しながら答えた。
「あはは、そう言われると、僕はやっぱりダンジョンは苦手で、のんびり過ごしたいとか思っちゃうんだよね。だけど、みんなと一緒に探索するのが嫌なわけじゃないよ」
マリサも苦笑を返した。セインらしいことだと思いつつ、問いかける。
「結局どっちなのよ。本当に無理強いはしないから。例えば明日は休んで、明後日に探索にするとか、やりようはいくらでもあるんだし」
「でも探索はするんだよね」
「それはそうよ。こんな半端で終われないでしょう?」
そこにジョルダンが割って入った。
「なあセイン。とりあえず、俺達はレベルを一つ上げるのが目標だよな。だから、ダンジョンで魔物を狩るのは必須だ。いつも壁役で負担をかけてて済まないと思うけど、承知してくれるとありがたい」
誠意の籠った言葉に、セインが両手を振った。
「ごめん、本当に嫌なわけじゃないんだ。やるとなったらやるし、ちゃんと頑張って壁役もこなすよ。ただ、戦いにはなかなか慣れないというか、壁するだけで他に何もできてないというかでさ」
「そんな謙遜しなくていいよ。十分活躍できてるって、あたしは思うよ」
カーラがフォローしてくれた。セインも表情を緩めた。
「そうだね、二回も勝てたんだし、大丈夫だよね。分かった。僕も明日探索することに賛成するよ」
「よし、決まりだな。なら今日はゆっくり休んで、明日また頑張ろう」
ジョルダンが話し合いを締めた。
かくして、パーティ四人は二度目のダンジョン探索に向かうのであった。
翌日、朝食の時、ジョルダンが冒険者ギルド長のタイロンに、二度目のダンジョン探索に出かけることを伝えた。タイロンは少し目を丸くして、それから応援してくれた。
「いや、連日の魔物討伐で、少しは休みたいとか言いそうなものだが、連日出動とは恐れ入った。四人は根性があるな。その頑張りが報われる日もそう遠くはないだろう。しっかり頑張って来いよ」
「はい、ありがとうございます」
四人は口々に礼を言った。認めてもらえるのはうれしいことである。
タイロンの妻ナタリアも、娘のアイナも、息子のポルタも、それぞれパーティを応援してくれた。
「じゃあ、今日も弁当持ちね。出るときに渡すから。頑張るのよ」
「お兄さん、お姉さん達は、やっぱり立派な冒険者なんだね。私も応援してる。でも、無理して怪我したりしないでね」
「ぼくも応援する。また頑張って戦ってきてね」
口々にそう言われて、四人のやる気もかなり高まった。渋々といった感じのあったセインも、期待に応えようと気合を入れ直した。
食後、身支度をして弁当を受け取ると、元気な声で挨拶した。
「それでは、いってきます。吉報をお届けできるよう頑張ります」
「いってらっしゃい。気を付けて行ってくるんだぞ」
一家に見送られれて、元気よく出発した四人であった。
「俺達、ちょっとは強くなったし、今日も頑張って成果を上げようぜ」
ジョルダンはご機嫌である。隊列はいつも通り、先頭がカーラ、次いでセイン、マリサ、ジョルダンの順に並んでいる。
ご機嫌だという点では、マリサやカーラも似たようなものだった。
「そうね。私もまた活躍できるよう頑張るわ」
「あたしもしっかり探知する。戦闘でも役に立てるよう頑張る」
セインは頼もしい仲間達の姿に安堵していた。自分が攻撃を食い止めさえできれば、仲間達がきっと魔物を倒してくれる。二回の戦闘を経て、そう思わせてくれる頼もしさを感じた。
「僕も頑張るよ。何体も魔物倒して、みんなでレベルアップしよう」
「お、セイン、頼もしいな」
「すっかり私達の楯ね。セイン、いつもありがとう」
「セインがいると安心感が違うもんね。頼りにしてる」
仲間達もセインを頼もしく思っているのは同じだった。さすがにそこまで言われると、気恥ずかしさが勝る。
「そ、そう。分かった。任せてよ」
セインは頭をかいて、照れた顔を誤魔化した。
前回と同様、森の中の道を抜けて、切り立った崖へと出る。ダンジョンの入り口がそこにあった。いよいよ二度目の挑戦である。
今回は、まず前回戦闘があった場所まで真っ直ぐに進んだ。その手前の行き止まりには何もないことは確認済みである。もしかすると、魔物が移動して居座ってるかもしれないが、今回は無視した。
しばらく進んで、前回ラージウルフと戦った場所の近くまで来た。すると今回も同じように何者かの気配があった。探知するまでもない。間違いなく魔物である。
四人は、セイン、ジョルダン、カーラ、マリサの順に並び直した。いつでも戦闘ができる態勢を取りながら、ゆっくりと気配のある場所へと近づいていく。
すると、遠目にまたもやラージウルフの姿が見えた。一昨日倒したばかりなのにと思いつつ、ダンジョンには不思議なことが起こるのは当然なのだと思い直し、臨戦態勢を取る。
「よし、行くぞ、みんな。セイン、頼む」
ジョルダンの合図で、全員が突撃する。
「ホーリーシールド!」
目と鼻の先にラージウルフが迫った瞬間、セインが魔法を発動させた。そのまま体当たりをかまして、ウルフの動きを鈍らせる。
「ここだ。行くぞ!」
チャンスと見たジョルダンが突進の勢いを生かして、そのままウルフの体をつく。横から剣が突き刺さり、ウルフの動きが一気に鈍った。
「これならあたしでも!」
遊撃役のカーラが、素早く隙を突いて突進、額に短剣を突き刺す。今回の攻撃は見事にヒットし、ラージウルフが一気に弱っていた。
「とどめいくわよ。二人とも下がって」
マリサの声に従い、ジョルダンとカーラが飛び退く。マリサはセインの横に並ぶと、至近距離で魔法を発動させた。
「ファイアボール!」
拳大の火球が見事に顔面へと炸裂する。高熱に焼かれ、ラージウルフの頭が溶けていく。しばらくして、ウルフは地に倒れると、霧状になって消えていく。魔物は死体を残さなず、倒れると魔石を残して消滅するのだ。何度見ても不思議な光景だが、三回目ともなると、さすがに四人もごく当たり前の光景として受け止めるようになっていた。
ジョルダンが四人の無事を確認する。
「みんな、無事か。俺は全く何ともない」
「私ももちろん無事」
「あたしも大丈夫」
「僕も問題ないよ」
そして魔石を回収し、ほっと安堵の息をつく。
「いやあ、前回苦戦した相手をこんなに簡単に倒せるとはね。やっぱり、俺達強くなってるよ、うん」
ジョルダンが笑みを浮かべてそう言ったが、マリサは賛同しなかった。
「油断しちゃだめよ。今回は相手の出方を知っていて、先手を打てたおかげで簡単に倒せたのよ。セインのシールドで体当たりして、一気に態勢を崩せたでしょ。そのおかげが大きいわね。もちろん、その隙を見逃さなかったジョルダンもカーラも良かったし、二人の攻撃のおかげで私も魔法を直撃できたから、とどめを刺せたんだけどね」
さすがマリサは面倒見が良いだけあって、冷静に状況を分析していた。そして今回うまく行ったからといって、油断するのは危険には違いない。
カーラもその言葉にうなずいた。
「マリサの言う通りね。うまく勝てたのは、隙を突けたのと、上手に連携できたからってことよね。そういう意味では、私達が強くなったと言うより、二回の戦闘経験が生きてるってことよね。だけど、それはそれで、良いことだと思う」
女の子二人の落ち着いた言葉に、勝利に浮かれていたジョルダンも反省したようだった。
「二人ともありがとう。そうだよな。これでまだ三勝目だし、今回楽勝だからって、油断しちゃいけないよな。俺も気を付けるよ」
今回、初撃を入れることで勝利のきっかけを作ったセインとしては、仲間達がそうやって冷静に状況を把握していることに頼もしさを覚えた。こんな仲間だからこそ、一緒に頑張ろうと思えたのだ。
「みんな、さすがだね。僕も油断しないで、次も頑張るよ」
そう言って、四人は笑顔を向けあったのだった。
一段落着いたところで昼食にしようと、四人はナタリアの持たせてくれたサンドイッチを食べ始めた。少し時間は早いが、休める時に休んでおくべきだろうと考えたのである。
食事が終わって、体力、魔力も多少回復したところで、四人はまたダンジョンの奥へと出発した。
例によってカーラの探知魔法を活用し、行き止まりに何かないかを確認しながら進んでいく。奥に入ってから一つ目の行き止まりには、これまでと同様、特に何もなかった。
次の道を曲がって、二つ目の行き止まりへと向かう。すると、今度は何かの気配が感じられた。繰り返しになるが、ダンジョンの中での気配なら魔物意外にはあり得ない。四人は並び順を整え、ゆっくりと慎重に気配の元へと近づいていった。
物陰からそっと行き止まりの空間を覗くと、地にうずくまった物陰が見える。輪郭や表面の様子から、トカゲの類なのが見て分かった。
四人は魔物に気付かれないよう、一旦下がって小声で話し始めた。
「トカゲ型であの大きさっていうことは、レッサーコモドドラゴンね」
探索者学院で学んできたおかげで、カーラが魔物の種類については一番詳しい。四人は顔を見合わせて、戦うべきかどうか相談を始めた。
前回苦戦したラージウルフを簡単に蹴散らしました。経験は人を賢くするものなのです。四人の活躍がすっきり描けて良かったです。しかし、舞台はダンジョン、そう一筋縄ではいきません。




