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第十話 シーフのカーラ

 いつも明るく元気なカーラ。普通の町娘のように見える彼女が、どうして探索者を目指そうと思ったのか、どんな成長をして一人前のシーフになったのか、その足跡をたどる。

 肩までの亜麻色の髪に明るい表情。カーラは、パーティの中では雰囲気を盛り上げる大事な存在だった。

 カーラはフリントという、人口一万人程度の中規模の町の出身である。祖父母も健在だったが同居はしておらず、両親と兄、妹の五人家族の中で育った。両親はごく普通の道具屋を営んでおり、生活は豊かというほどではないが、安定したごく平凡な暮らしを送っていた。

 カーラは、道具屋で生まれ育ったおかげで、小さい頃からいろいろな道具を使うのが好きだった。兄や妹と一緒に、ナイフ、のこぎり、金槌、万力、やすりなど、様々な道具を使っていろいろな物を作って遊んでいた。それ以外にも鍵開けの技術に興味があって、鍵を紛失したお客さんのために、父が小道具を使って開錠しているのを見るのが好きだった。自分でも店にあった錠前を鍵なしで開けて楽しむことがあった。手先はどんどん器用になり、学舎に通う頃には、子供とは思えないほどに道具を使いこなしていた。

 学舎では、数多くの友達に囲まれて、楽しく過ごしていた。成績は中くらいで可もなく不可もなく。代わりに工作や造形の類が得意で、この分野では学舎一の腕前だと良く褒められていた。

 シーフという冒険者の職業があるのを知ったのも学舎時代である。たまたまゲストの教師として一日学舎を訪れたシーフがいた。四十過ぎの男性で、そろそろ現役を引退しようか冒険者を続けようか迷っていた人物だった。物は試しと、学舎の教師を試しにやってみようと思い立ったという話だった。

 そのシーフの男が、探知魔法を使って隠し物探しをして見せた。それがカーラにはとても新鮮で、素晴らしい技に映ったのである。その男性の指導で探知魔法の使い方を教わり、自分でもそれが使えることを初めて知ったのだった。

 持ち前の器用さに開錠の技術、それに加え探知も使えるとなれば、良いシーフになれるだろうと、その男性は教えてくれた。それを聞いて、カーラは密かにシーフになってみたいと思うようになっていた。

 その後、学舎の教師が、カーラが探知魔法を使えることを知り、その魔法を磨く指導を追加して施してくれた。適性があったカーラは、順調に探知魔法の腕を磨いていった。開錠の技術も父譲りの見事な腕前になっていた。こうなると、それで身を立てたいと思うのは自然なことだった。

 カーラは学舎を卒業した後の進路を、シーフを育成する探索者学院にしたいと両親に相談した。しかし、シーフとなった後、冒険者になることについては、さすがの両親も良い顔をしなかった。やはり、大事な娘を生命の危険が伴う冒険者などにしたくないのが親心である。

 それでもカーラは、自分の長所はこれだ、だからそれを生かしたシーフにぜひなってみたいと懇願した。冒険者も仲間が頼りになれば、それほどの危険はないはずだと主張し、粘り強く両親を説得した。

「お願い。あたしも自分の得意で勝負してみたいんだ。もし向いてないと分かれば、いつでも店に戻ってくるから。シーフになりたいの、お願い」

 かわいい娘の懇願に、結局は両親が折れた。兄も妹も、カーラがやりたいことを応援すると言っていたのも大きかった。絶対に無茶はしないことを約束して、カーラは探索者学院への進学を決めた。


 シーフはあまりなり手のいない職業である。冒険者と言えば、やはり戦闘向きの職業を選ぶ者が多いのだ。探索者学院は王都にしかない。カーラは一人町を離れ、王都の学院に入学したのだった。

 しかも、女の子の割合が低い。学生の八割近くが男子だった。必然的に女子は女子同士で固まって行動するようになった。だからと言って、男子と接点をもたないわけではなかったが。

 同級生の女の子で、カンナという大人しい娘がいた。明るく、何でも遠慮なく言うカーラとは好対照だった。それで会話している時など、カンナの気持ちをカーラが代弁することが多かった。

「カンナは講義中の探知魔法の使い方を聞いて、もっと手際よく発動させた方がいいって思ったのよね。そんな顔してるけど、当たってる?」

 そんな風に、決して押しつけがましくない言い方でカーラが自分の気持ちを話してくれることに、カンナは感謝していた。カーラ達と次第に打ち解け、自分の言葉で話せるようになっていった。

「いつもありがとうね、カーラ。おかげで私も自信ついてきた」

 そんな風に、自分の気持ちを打ち明けられるようになった。

 決定的に二人が仲良くなったのは、実習中の事である。この日は潜伏の訓練で、探知魔法を阻害する潜伏魔法を使って、なるべく長時間隠れるというものだった。

 カンナが探知役、カーラとその他数名が潜伏役の時だった。正直潜伏魔法は得意ではなかったカーラだが、ここでカンナが講義が終わった後に話していたことを思い出した。

 隠れるというより布をかぶるようなつもりで、気配を外に漏れないようにすること。糸のように細く長く、魔法の力は必要最低限でいいこと。実際にその魔法を使っているカンナの姿を見て、とても感心したことを思い出したのだった。

 カーラは、カンナの助言に従って、潜伏魔法を発動させた。そして外からは見えない物陰に潜み、静かに隠れた。

 しばらくして、探知役のカンナが捜索を開始した。学友達は魔法の発動のさせ方が良くなかったらしく、案外すぐに発見されてしまった。しかし、カーラはなかなか見つからない。結局、制限時間の十五分を超えても発見されず、見事課題クリアとなった。

 探知役を入れ替え、カーラが捜索した時も同じだった。カンナの潜伏魔法は完璧で、カーラは痕跡一つ探知することができなかった。ここでも規定の十五分を過ぎても発見できず、カンナも課題をクリアした。

 終わった後で、カーラは、課題がクリアできたのはカンナのおかげだと、彼女を絶賛した。

「ありがとうね、カンナ。あたし潜伏魔法苦手だったけど、カンナが教えてくれたようにやったら、うまくできたの。おかげでコツもつかめたし、課題もクリアできたわ。きっと将来、必要な時に役に立つと思うの。すごくうれしい。カンナのおかげよ」

 言われたカンナの方は、顔を赤くして照れていた。でも、自分が友達の役に立てたことがうれしくて、微笑みを浮かべて答えた。

「それはよかった。私、臆病なだけで、潜伏が得意なのもそのせい。そう思ってたけど、それが役に立つこともあるって分かったのがうれしい。それに、カーラがそうやって私を認めてくれたのもうれしい。こちらこそ、ありがとうね、カーラ」

 そこから二人は固い友情で結ばれるようになり、互いに深く信頼し合う仲になった。


 開錠の技術に関しては、やはり子供の頃からいろいろな鍵をいじってきたカーラは、同級生の中でも群を抜いて優れていた。下手をすると、教師よりも上手に開錠できてしまうこともあり、度々手本役を任されるほどだった。

「ねえ、カーラ、これはどうやって開けるの?」

「こっちもヒント頂戴。カーラが頼りなの」

 などと、開錠の実技の度に、同級生達から引っ張りだこであった。カーラも自分の得意が行かせることがうれしく、同級生達がなるべく自力で解けるようなやり方で手伝っていた。

 それが発展したのが、罠の解除方法についてだった。ダンジョンの中には定番とも言える罠がある。スイッチが壁や床に設置されていて、矢が飛んできたり落とし穴が開いたりするのである。毒や睡眠、爆発といった物騒な罠である場合もある。一番簡単なのは、スイッチに何かを噛ませて、最初から動作しないように工作する方法である。次いで罠の出口を塞ぐ方法。面倒だが確実なのは、発動装置に細工をして罠が動作しないように工作する方法だった。

 学生達は、先人達が工夫して作った模型で、そうした罠の構造や止め方を学んでいった。さすがに本物の罠は用意できない。もし冒険者となって罠に遭遇した場合、慎重に対処することをしっかりと教わった。

 もちろん戦闘訓練もあった。シーフは罠解除や探知などの役割を担うので、大型の武器を持ち歩くのは邪魔になる。基本が短剣で、でなければナックルやハンドメイス程度の武器を使うのが普通だ。それらの武器を使って、自分の身を守りつつ、必要があれば魔物にとどめを刺す。でなくても、仲間が魔物を倒す時間稼ぎをする。回避が基本で、いわゆるヒットアンドアウェイの戦法で戦うのが主になる。その基本を、丁寧に実戦形式で教わっていった。カーラはどちらかというと苦手な分野だったが、何分にも命が懸かっていることだ。必死になって戦闘の仕方を学んでいった。

 それ以外にも、ごく普通の学問も教わっていた。学院で学ぶ内容は多岐に渡り、どれもやりがいのある中身だった。カーラもカンナに限らず、学院の学生全てが、学問や実技など密度の濃い教育内容にやりがいを感じ、しっかりと学んでいった。

 将来についても学友同士で話し合うことが多かった。

 やはり冒険者志望の者は多かった、戦闘を得意とする仲間とパーティを組んで、ダンジョンに挑戦したいと夢見る者が大半を占めた。カーラも自然とそう考えるようになり、パーティを陰で支える役割を担って活躍することを希望するようになっていた。

 それ以外では、カーラの実家のように道具屋を営み、堅実な商売で生活していくという者もいた。また探偵として身を立て、探知や潜伏を駆使して、依頼された調査を密かに行う仕事を希望する者もいた。

「あたしはやっぱり冒険者がいいな。カンナはどう?」

「私は怖いの無理。戦闘なんてとてもとても。探偵もやってみたいけど、道具屋がいいかなって思ってる」

「そうなんだ。じゃあ、うちの実家が道具屋だから、そこで一度働いてみるのはどう。それでいろいろ身に付けたら、独立できると思うし」

「そう言えば、カーラの実家は道具屋だもんね。紹介してくれるとうれしいな。カーラの家族となら、楽しく仕事できそうだし、すごく助かる」

 そんな話もあって、三年生になる直前の長期休みに、カーラはカンナを実家に連れて行った。家族達は久々に娘が帰省したことと、仲の良い友人を連れてきたことをとても喜んでくれた。

 卒業後にカンナがカーラの実家で働きたいという希望も、もちろん大歓迎であった。逆に、カーラ自身は冒険者を目指すと聞いて、危険が多い職業を選んだことに不安を感じてもいた。

「でも大丈夫だから。潜伏って言って、戦闘を避ける方法もちゃんと身に付けたし、戦い方だってちゃんと訓練して、攻撃を受けない方法を身に付けてもいるから。それにしっかりした仲間が一緒なら、心配いらないし。絶対無茶なことはしないから、安心してね」

 そう言ってカーラは家族を説得したのだった。


 そして卒業の時期。卒業試験でも優秀な成績を収めて、カーラとカンナは無事に卒業できた。卒業試験に失敗して留年する学生は少ないが、皆無ではない。ともあれ関門を突破し、二人は安堵していた。

「じゃあ、カーラは王都へ行くのね」

「うん。あたし、王都の冒険者ギルドで登録して、そこでパーティメンバーを探すことにする。それが一番確実そうだし。カンナこそ、うちの家族によろしくね。頑張って」

「ありがとう。カーラも頑張ってね。危険のないようにね」

 こうして親友二人は別れて、それぞれの道に進んでいった。

 カーラが王都で運命的な出会いをして、新たな仲間達と力を合わせて頑張っていくのは、これからの話である。

シーフという職業はいわゆるスカウトも兼ねています。戦闘以外で活躍する重要な職業ですが、あまり重要視されないことも多いですね。なので、いろいろと学んで技術などを身に付けてきた様子を描きました。カーラの今後の活躍に期待です。

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