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第三話「初主演(初出撃)・前編」

「ランニング10周!はじめ!」


「はいっ!」


ジャージ姿の演劇部部長の京子と新人部員のリリィが体力作りに切磋琢磨している。

演劇は体力を使うしプレリュード隊に必要な基礎体力を身につけるためにもこういった基礎トレーニングは必須だった。


「(新人なんだから頑張らなくちゃ!これも母が通った道!)」


追いかけて来た母が通ってきた道だ、逃げる訳にはいかない。

どんなに辛かろうともやるしかないのだ。

それに自分に付き合ってくれている京子部長にも感謝しなければいけない。

あの椿さんに認めて貰う為にも頑張らなくては!

そう思いを巡らせている間にランニングは終了した。


次は校舎に戻りボイストレーニングである。

リリィはこれには自信があった。

パリでアマチュアとはいえ歌手として活動していたのだ。

歌にも肺活量にも活舌にも自信があった。


「あめんぼあかいな、あいうえお!」


ボイストレーニングは京子から花丸を貰えた。

私は少し自分に自信を持てた様な気がした。

しかしそれは次の演技指導で打ち砕かれた。


「はぁ、まさかここまで大根役者とは…」


「す、すみません…」


人前に出るのが苦手な訳ではない、むしろ得意な方だ。

台詞もちゃんと覚えてて間違える事も無い。

しかしそれでも超が付く程の棒演技だったのだ。


「こうなったら徹底的にいくわよ」


「は、はいっ!」


こうして京子のスパルタ特訓が始まった。

そしてどうにかリリィの演技が形になってきた所である。


「リリィさんに主役をやらせろですって!?」


エデン女学園のトップスター、椿の怒声が部室に響き渡る。

自分を差し置いて部内の練習公演とはいえ新人の、それも素人に主役をやらせるというのだ。

椿でなくとも何か言いたくはなる。


「でも今度の演目はシンデレラ、華やかなあなたにはイメージが合わないでしょ?」


「確かにそうでしょうけど…」


「私、頑張りますから!」


必死の形相で頼み込むリリィにたじたじになった椿は仕方なくリリィの主役の座を認める事になった。


「確かに貧乏くさい魔法の掛かる前のシンデレラはあなたがお似合いですわね」


「いや~それ程でも」


「褒めていませんわ!」


嫌味を素で返された椿は少しむっとした。

そしてその綺麗な黒い長髪をかきあげながらリリィにこう告げた。


「こうなったからには私も演技指導してさしあげますわ。有難く思いなさい」


「は、はい!」


椿の嫌味抜きの本気の宣言にリリィも本気で応えようと思った。

そう考えていた矢先である。


ウー!


突然の警報が部室に鳴り響く。


「敵アンドロメダ襲来!部員は全員戦闘配置に付け!」


「了解!」


「えっ?えっ?」


周囲の反応とアナウンスに驚くリリィ。

リリィにとってこれが初のプレリュード隊としての出撃になるのだ、無理もない。

そしてあたふたしているリリィにスピーカーから名指しで音声が流れた。


「リリィちゃん、そこのトンネルに入って。落下中にスーツに自動で着替えてくれるから」


「その声、さやかちゃん?」


「オペレーターだって言ったでしょ。とにかく言う通りにして」


「う、うん、わかった」


リリィはかつて助けたおさげの少女の助言通りにトンネルに入る。

トンネルには傾斜がついており滑り台を下る様に落下していた。

その間に白い軍服の様なスーツに自動で着替えさせられた。


―プレリュード隊・司令室


「これで全員揃ったようね、今の所は…」


黒いスーツの部長の京子が周囲を見渡す。

そこにはリリィと真紅のスーツを着た椿がいた。

机に対する椅子の数からしてどうやらこれでフルメンバーではないらしい。

京子がレーダーの様な画像が表示されたモニターに指を指す。


「敵アンドロメダは東京、新宿上空に襲来。現地の自衛隊と協力して敵機を撃破していくわよ」


アンドロメダとは現在地球に侵略に来ている謎の機械生命体である。

今世界各国はこの超技術を持ったエイリアン達に四苦八苦していた。


「自衛隊なんて足手まといですわ。…まあもっと足手まといな娘がいますけど」


「口を慎みなさい、椿」


椿を諫める京子だが時既に遅し。


「あのそれって私の事ですか?」


「他に誰かいて?」


バチバチと火花を散らす二人。

しかし戦況は待ってはくれなかった。


「二人ともいい加減にしなさい!早くRSに搭乗して!」


司令室に京子の怒声が響き渡る。

二人は渋々矛をおさめると格納庫に足を運んだ。


「またこの子に乗る事になるなんて…」


「待ってたわよ、リリィちゃん!」


「ああ、このAIもセットだったんだ…」


このAIとはリリィのRSに搭載されているパイロットサポートのAI通称AKである。

場末のスナックのチーママの様な馴れ馴れしさにリリィは苦手意識を感じていた。

しかし今はこの機体に乗るしかない。

そう考えながらもリリィは複雑な気持ちで機体に乗り込んだ。

そして周囲を見渡す。


「あれ?こういう時は空飛ぶ戦艦とかに乗って現地に行くんじゃないんですか?」


「そんな漫画みたいな便利な物ないわよ。早く持ち場に付きなさい」


黒いRSに乗った京子が呆れた様に言う。

リリィのRSが指定された場所に付くと上にはヘリコプターの様なプロペラが左右に付いた輸送機?があった。

そしてそれが下りて来るとガシッと何かを固定した様な大きな音が鳴った。


「もしかしてこれで運ばれるんですか?」


「その通りよ。もしかして高い所はダメ?」


「そんな事はありません!むしろ好きな位です!」


「なんとかと煙は高い所を好むと言いますものね」


横から椿が嫌味たっぷりに言う。

椿の真紅のRSは扇を主武装としており、それに付いた鋭利な刃と華麗な舞を組み合わせて戦う雅な戦闘法を得意としていた。

一方で京子のRSは西洋の突撃槍を二本装備した二刀流で、ヒットアンドアウェイを得意とした戦い方である。

二人とも戦闘経験においては素人のリリィを遥かに上回っていた。


「それでは輸送部隊のみなさん、お願いします」


「了解!」


この変わった輸送機のパイロット達も演劇部員なのかと驚くリリィ。

オペレーターからパイロット、輸送部隊、看護兵、偵察部隊に至るまで全てが演劇部員で構成されている。

それもこれも歌や踊りで莫大なエネルギーを生み出すプレリュードシステムの応用力が高すぎる故の事だ。

並の少女達がプロの軍人以上の行動力を発揮できるのもそのおかげである。


「そろそろ付くわよ。空中落下するからスラスターの準備をして」


「素人じゃないんですから分かってますわ京子さん…ああそういえば素人さんが一人いましたっけ」


嫌味ったらしく椿の声が無線機から響く。

ひたすら悔しいリリィは操縦桿を強く握った。


「怒らない怒らない。誰にだって最初はあるわよ」


それを慰めたのはAIのAKだった。

妙に人間臭いAIだなぁと思いつつもリリィは深呼吸し心を落ち着けた。


「ありがとうAKちゃん。私頑張るね」


こうしてリリィのプレリュード隊としての初出撃が幕を開けた。





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