第85話 気分転換の善行
主人公は、強盗達の討伐を終えました。
村人達が無事かどうかについては、心の問題を考えると微妙なのかな。
強盗達が持っていたゴーレム馬車で、家族で人質になっていた人、強盗達に慰み者にされていたと思われる人達を乗せて村に帰ると、まだ昼過ぎだ。
門番たちは大喜び。
駆け寄って来た村人たちに、強盗達の根城や街道沿いの遺体や壊されたに馬車等を回収する様にお願いし、強盗に捕まっていた人達のケアも頼む。
俺は戦利品を格納箱から取り出し、どうするか考えていると、暗い表情をしたクラリッサがやって来た。
そして、俺の横で俯いたまま立ち竦んでいるので声を掛ける事にする。
「クラリッサは、ご両親の遺体を探して埋葬しないの?」
「両親の遺体は、2日前に強盗達が持って来たんです。逆らったらこうなるって」
「自爆したって話だっけ」
「はい。バラバラで誰の遺体か分りませんでしたが、鑑定した人に両親の遺体って言われたので」と言うクラリッサの表情は暗いままだ。
「そっか。もう埋葬済みか」
「はい。ありがとうございました」とクラリッサは頭を下げて来る。
「ん。俺のモノにはなってくれないって事?」
「いえ。もう、この村にも居たくないですし、お供します」と、クラリッサは悲しそうな笑みを浮かべている。
「居たくないんだ」
「両親を殺した連中と通じていた人も居たみたいですし、私に貢ぎ物になれって言って来た人達の事を思い出すと」と、何故かクラリッサは申し訳なさそうだ。
「そっか。そうだよね。なら、今日中にこの村を出るか」
「はい。荷物は整理してあるので、直ぐにも出られますから」と、クラリッサは気持ちを切り替えましたと言う感じで言って来るが、それも痛々しい感じだ。
その様子に胸が痛くなり「そっか」としか俺は返事を返せない。
すると「それで、何をされているんですか?」と、クラリッサは少し表情を明るくして聞いて来る。
「え~と。強盗を倒して手に入れた戦利品だけど、元の持ち主の家族に返せるのなら返してあげた方が良いのかなって」
「えっ。でも強盗から取り返した物は、元の所有者ではなく強盗を倒した人の物ですよね」とクラリッサは軽く驚いた感じ。
「ああ。所有者は俺になっている様だけど、譲るって思いを刻めば良いだけだしね」
「……、何故ですか?」と、クラリッサは何故か何かを疑うような感じで聞いて来る。
「被害にあっていたのは、行商人の荷馬車や市町村の間を行き来する乗合馬車に見えたからね。
そう言う人達が居なくなったら、この村は困らない?」
「それは、困るでしょうけど」と、俺の善人ぶった説明では納得できない様だ。
「それに家族を殺された上に、財産もとなるとね。まあ、覚悟の上で商売をしていたんだろうけど」
俺がそう言うと複雑な表情をしながら「優しいんですね」と言って来る。
でも「えっ。違うよ」キッチリ否定をしておく。
「違うんですか?」と、クラリッサは俺の否定の言葉に驚いているようだけど。
「ああ。今日悪い事をしたからね。それで気持ちが落ち込み気味になっているから、善行もして気を持ち直そうかなって」
「……、悪い事?」と、悪い事の意味が分からない様で、少し責める様に俺を見て来る。
「そう。復讐心にかられた若い女性をたぶらかし自分のモノにしたとかね」
そう半分冗談みたいな感じで軽く言ってみたのだけど「……、それは悪い事なんですか?」と、更にキツイ表情で俺を見て来る。
「微妙かな。たぶらかされた人を幸せにしてあげられれば、良い事になるだろうし」
そう言うと表情が悲しそうに変わった後「そう、ですね」と言って来る。
「後は、復讐心に駆られている訳でもない女性二人に、しなくてもいい経験をさせたかな。人殺しって言う」
「……。でも」
「同じ経験をさせるにしても、もう少し配慮すればよかったでしょ」
「……、でも人を殺せないと、生き残れないですよね」
「まあ、今回の強盗の事でもそう思ったけど、嬉々として人を殺しまわる人も嫌だし、彼女達は優しいのを知っていたしね」
「そう……なんですね」
「よし。決めた。俺の気分転換の為に、これは遺族に渡してもらえる様に村長に頼んでおこう」
そう言うとクラリッサは複雑そうな表情をしたけど、もう何も言って来なかったので、俺は村長の元に向かった。
主人公は、自分の気分転換の為に、偽善行為を行う様です。