第78話 ホルスト村へ
主人公は、イベントの第一段階として、街道を封鎖していた強盗達を倒しました。
街道を封鎖していた強盗達を殺し全滅させた。
それは、まあ、しょうがないとして、必要以上に残酷な殺し方をしたかもしれない。
なので、風の護りを解除し俺の方の歩いて来る二人に「ごめんね」と先に謝る。
「えっ。何が?」と、険しい表情のままマドリーンが問い返えしてくる。
「必要以上に、残酷な殺し方、したかも」
「……、怒っていたもんね。ヨシマサ君」と、何故かアリーサが俺の感情を正確に読んでいる。
「ああ。なんだろうな。この感情」
「私達を護ろうとしたから?」と、マドリーンは心配そうに聞いて来る。
「まあ、そうだろうね。自分の愛する人や家族を奪おうとする奴には、本気で殺意を持つって感じなのかな。
なんか、もっとドス暗い感情もあった気がするけど」
「そうなんだ。だけど、しょうがないよ。話し合いの余地なんかありそうになかったし」と、マドリーンは言ってくれたけど。
「ああ。それに既に大勢の人を殺している感じだからね」
そう言ってイベントで表示された情景を思い出しつつ街道のすぐ横にある林の中にある岩陰を除くと、そこには破壊された馬車や、数十名の遺体が。
その中には体の小さいのも。
その惨状に顔をしかめ、奴らを惨殺した自分を肯定していると、二人も俺を追って来てしまう。
だけど、俺はそれを止めなかった。
世界は優しくないと言う現状を知ってもらいたかったのか、彼女達に盗賊を殺すと言う覚悟を持ってもらいたかったのか、俺の惨殺を肯定する気持ちになってもらいたかったのか、ゲームの流れの通りにしたかったからなのか。
「そ。そんな」と言いつつ愕然としているマドリーンと涙を流しているアリーサ。
ゲームでは壊れた馬車や荷馬車の描写だけだったけど、現実だとそういう事だ。
俺は、時間のたった遺体を真面に見てしまった事による吐き気を我慢しながら『あんな奴ら死んで当然だ』、『役立つモノをもらっておこうか』、『とりあえず、村に行こう』の選択肢を思い出し、好感度の上がった「とりあえず、村に行こう」を口にしておく。
悲壮な表情をしたまま頷いてくれた二人と共に、先へと進む事にした。
再度、村へと街道を進み始めたが、二人はまだ落ち込んでいる。
何でもかんでもゲームでした選択を選んだり、ゲームをなぞったりすれば良いと言う物ではないのかもしれない。
2人に死体を見せるべきでは無かったのかと反省しつつも、二人にも強くなってもらう為、覚悟を持ってもらう為にゲーム通りにした方が良いのだろうか、とも思ってしまう。
まして、自分では無い強盗が行った行為とは言え人が殺されているのを見ただけで落ち込んでいる二人に、殺人をさせてよいのだろうか。
そんな風に悩みながらだけど、二人に「今日中に、全滅させたいから急ごうか」と催促してしまった。
これからも嫌な事が続くから早く終わらせたいし、手遅れにしたくないからだけど。
落ち込む時間すら与えなかった事に罪悪感を持ちながらも二人に走ってもらうと、すぐに村が見えて来た。
「俺は、隠密LV22に。マドリーンは魔導士LV21、アリーサは神官LV21に偽装で良いかな?」
「えっ。そっか。強盗達と戦うんだもんね。そのぐらいの職業とレベルでないとおかしいのか」と、頭のいいマドリーンがすぐに俺の発言の真意を理解する。
「そう。後、町に近づいたら強盗と間違われて攻撃されるかもしれないから注意しておいて」
そう二人に注意を促し村に接近すると、まだ朝だと言うのに門は閉められている。
まあ、強盗達に攻められていると言う認識だとそうなるよな。
そう思っていると「何者だ。何の様でこの村に来た」との誰何だ。
そう言えば『強盗に襲われている村を助け、仲間を手に入れる』なんて目的で来たけど、王都に向かうのなら通らない道なんだよな。
ゲームだと普通に旅人として村に入った後に『冒険者殿。街道に強盗は居なかったのですか?』等と村長に話しかけられた上で討伐を頼まれたのに、と思いつつ慌てて交流術スキルに頼る事にする。
「王都に冒険者登録の為に向かっているんだけど、その前に転売できる安い食料か何かが無いかなと思って、食料生産で有名なホルスト村に来てみたんだけど」
俺が、そう言うと、城壁の上から誰何して来ていた門番が黙り込む。
王都近くの村や町は、王都の人口を支える為に食料を生産している側面が有るのは間違いないので、これで良い筈、と思っていると。
「途中で、通行を妨げるものが居なかったか」と大声で尋ねて来る。
それに「ああ。強盗が居たね」と返答すると「そいつらはどうしたんだ」と更に聞いて来る。
なので「全滅させたけど」と答えると門番二人は顔を見合わせて「ちょ。ちょっと待て」と言って、1人が慌てて町の中に入っていく。
このまま待っているのも不自然か、と思ったので「もう面倒そうなので、王都に向かいます。じゃあ」と言って去ろうとすると、慌てて「待ってくれ」と門番が大きな門の横にある小さな門を開けて外に出て来る。
良いのかね。
まあ、俺達3人を凝視しても、赤黒いオーラや紫色のオーラは見えないから、殺人者や犯罪者の称号は持っていないと分かるだろうけど。
慌てて門から出て来た門番が「ステータスウィンドウを確認させてくれ」と言ってきたので、他人にも見える可視モードで表示すると「中に入ってくれ」と言われるが入っていいのだろうか。
そんな風に迷っていると「な、何を勝手にやっている」と、先ほど走って行った門番が戻って来て、文句を言っているが。
「もう、王都に向かうなんて言われたから。犯罪者のオーラは纏っていなし、ステータスウィンドウで強盗団を倒せるだけの力を持っているって確認させてもらっていたんだ」
「そ、そうか。村長に紹介しますので、こちらに」と言われても嫌な顔をしていると。
「お願いします」と門番二人に頭を下げられたので、渋々向かう振りをする。
これで、仲間参入イベント開始か。
仲間を手に入れる為のイベントが開始しました。
今度は、ゲームと違う点がないと良いのですけど。




