第73話 ガチ泣きの訳は
主人公は、旅立った後、どうして一緒に来てくれるのかを聞いています。
すると、マドリーンは何故か言い淀み。
二人は昔、いじめられていたと言うか、からかわれていたと言うか。
それを助けたと言える程ではないけど、一緒にからかいはしなかったし、花をプレゼントしていたのは、他の男性陣とは違ったか。
そんな事を思い出していたら「それに……」とマドリーンが言い淀む。
どうしたんだろうと思っていると「ヨシマサちゃんのお母さんが死んだのは、父のせいでしょ」と言って来る。
まあ、確かにそう言う側面はあるな。
「村長の鶴の一声で、村を守る為に戦いから離れた母を、半ば強制的に徴兵した事を気にしているんだ」
「うん。だって、徴兵を決めた会議にお茶を持って行った時に父が言っていたの。犠牲は出るだろうけどしょうがないって」
「まあ、そうだよね」
「ヨシマサちゃんは、それを許せるの?」
「思う処があったから村を出たんだけどね。でも、皆の家で被害が出ているでしょ」
「でも、子供が居るのに両親とも村を守って死んだのは、ヨシマサちゃんの家だけだよ」と、マドリーンが結構落ち込みながら言って来る。
「ああ。そうだったか。まあ、父も母も才能が有った上に母が攻撃力の高い魔法使いだったのがね」
「気にしていないの?」と、マドリーンが申し訳なさそうに言って来るが。
「村長に思う処はあるのは、昨日の発言で分かるだろうけど、マドリーンには関係ないでしょ」
「それは、そうなのかな」と、マドリーンが俯きながら小声で言っているが。
「ひょっとして、そんな事に引け目を感じて、俺を拒絶できなかったとか言うんじゃないよね」と、俺が心配になって尋ねると。
「ち。違うけど、ずっと引っ掛かっていたし」と、慌てた感じで否定してくるのが気になるけど、普通に考えて、それだけで俺を受け入れたりはしないか。
「ふ~ん」と言いつつ、雰囲気の変なアリーサの方を見ると。
「ごめんなさい」と謝ってきた。
「何が?」
「マサヨシ君のお母さんが亡くなったの、父のせいなの」
「へ?」
「村の近くに来た中位ゴブリンの集団に奇襲を掛けようとして失敗したのは、父が物音を立てたからなの。
それで、父の居たグループがゴブリン達に見つかって襲われそうになったから、ヨシマサ君のお母さんが魔法を撃ち込んでくれて。
でも、魔法を使って目立ったからゴブリンアーチャーに弓の集中砲火を受けて……」
「母が亡くなった時って、そんな状況だったんだ」
「うん。父が酷くお酒に酔って母に話しているのを聞いて、問い詰めたんだ」
母が亡くなったと言う話をした時に、アリーサとそのご両親の雰囲気が変だったのは、そういう事か。
「まさか、その罪の意識で俺を受け入れたとか」
「そ。それとは別の話だけど……」
「そっか。ならこれから一緒に戦う事になるからハッキリさせておくか。
一人で戦うと言う選択をしないで、仲間と一緒に戦う以上、誰かが失敗してパーティが危険な状態になると言うのは、よくある事だと思うよ。
だから、気を付けるのは勿論、反省も必要だけど、不必要に重い罪の意識を持つのは駄目なんじゃない。
まあ、俺のせいで勇者候補やその仲間と戦う事になるかもしれない酷い状況だから、偉そうには言えないけどさ」
そう言ってアリーサを見ると、少し涙目で嬉しそうにしている。
まあ、母の死について事実を知って思う処はあるけど、アリーサに責任はない。
と言うか、勇者候補同士で殺し合う可能性があると知ったのにマドリーンとアリーサを連れ出す俺には責任があるんだよな。
他の勇者候補を返り討ちに出来る様に強くなる、他の勇者候補に見つからない様に隠れる力を強くする、他の勇者候補を積極的に殺しに行く。
奇襲を受ける方とする方のどちらが有利かを考えれば、積極的に他の勇者候補を倒しに行くべきなんだろうな。
だけど、情報が少なすぎて本当にそれが正解かどうかは分からない。
分かっているのは、出来る限り早く強い力を得ていくしかない、と言う事か。
自分だけでなく、二人を守る為にも。
そんな風に改めて決意をしていると「と言うか、ヨシマサちゃんは、私達がヨシマサちゃんに好意を持っているって思っていないんだ」と、マドリーンは眉をひそめながら言って来る。
なので、気持ちを切り替え「自信は無かったよ」と正直に告げる。
するとマドリーンは「お告げが無かったら、押し倒したりしなかったんだ」と、少し怒ったように言って来るが。
「いや。普通に友人兼仲間として村から出ようと誘っていたとは思うけど」
そう言うと「と言うか、ヨシマサちゃんは、私達の何処が良かったのよ」と、マドリーンは少し不機嫌なまま聞いて来る。
「普通に美人で可愛いし。母の葬式で他の人達とは違ってガチで大泣きしてくれていたから性格も良いって思っていたんだけどな。
他にも『母が、父が亡くなってからずっと落ち込んでいる』と愚痴ったら、よくお茶を飲みに来てくれるようになったし。まあ、それが原因でガチ泣きしたんだろうけど」
「そんな事もあったよね」と、マドリーンがしみじみと相槌を打ってくる。
「まあ、アリーサは、母が嫌がらずにアリーサのリクエストに応えて魔法を見せてあげていたと言うのも有るだろうなとは思っていたけど」
そう昔を思い出しながら言うと「そ、そんな事ないです」と、魔法オタクのアリーサは否定してくる。
するとその横で「で、でも、お葬式で泣いたのは、父に関する罪悪感もあったかも」とマドリーンが落ち込みながら呟く。
その横でアリーサも落ち込み始めた。
「罪悪感だけで泣いている人が、鼻水たらしながらガチ泣きするかな」
罪悪感と悲しいと言う気持ちが強ければ、ガチ泣きする事はあるだろう。
でも、俺なら悲しいより罪悪感が強い場合には、葬式には出ずに逃げだすだろう。
まあ、まだ7歳といった年齢なら罪悪感だけでその場でガチ泣きするかもしれないし、大人でもそう言う人も居るのかもしれないけど……。
でも、あの当時14歳の二人について、今思い出してもそうは思えない。
そう思ったので、冗談交じりに『鼻水たらしながら』と言ったのだけど。
「そ、それは忘れなさいよ」と、急変しマドリーンが顔が赤くなるほど怒り始める。
「そうです」とアリーサまで顔を赤くしながら怒り始めた。
その勢いに押されそうになりながらも「でも、あれは一生忘れられないよ」としみじみ言うと、二人とも更に頭から湯気を立てているのでは、と言う程に顔を更に真っ赤にして怒り始めた。
年頃の女性としては、忘れたい記憶の様だ。
「年頃の女性に失礼よ」とか、「お願いだから忘れて~」とか、「だってしょうがないでしょ。まだ若かったんだから」とか「後で皆に言われて恥ずかしかったのに~」とか言っている二人に苦笑しながら、先を急ぐ事とした。
子供の頃のガチ泣きは、忘れたいですね。
これで、第一章が終わりです。
第2章からは、週1回から2回の投稿にしようと思っています。




