第70話 村の生き残りの為には
マドリーンは、主人公の視点を兄にも話してもらいたいようです。
事前に、そう言う話をして欲しいと言われていた訳では無いので、とりあえず思っている事を言う様ですが。
マドリーンに、昨日父親の村長に指摘したように、兄に忠告して欲しいと言われる。
だけど「言ったけど。あれだって、そんなに真面目に考えた事じゃないし。俺は、そんな立場じゃないからね」と言い訳と言うか、責任取れないよと言う感じで言ったのだけど。
「なら真面目に考えてはいないけど、気が付いた事を兄に教えてよ」と言って来るのだけど、どうしたものか。
あのマドリーンの様子だと、言わないと旅立ってくれないか。
昨日、村長に色々と正しそうな事を言ったからか、マドリーンは次期村長の兄にも忠告しておいてもらいたいと言う感じなのだろう。
なので「……、俺の認識なんて間違っている可能性が高いですよ。その前提で良いなら」と先にいい訳をしてハードルを下げておく。
それでも「ああ。それでも良いから意見を聞きたい」と、マドリーンの兄が言って来るので俺の思った事を話す事にする。
「村の住人の多くが、初心者職でレベル10になっていませんよね」
「ああ。半分以下か」
「その理由は色々とあるんでしょうけど、魔王の狂乱で家族を死なせたくない、自分が死にたくないと思う者は、レベル10になるまで。
才能がある場合は、2級職に転職しレベル11になるまでは、最低限鍛えるべきでしょうね」
「しかし、強制は出来ないだろう」と、マドリーンのお兄さんは困った感じで言って来る。
「ええ。でも、今のままでは家族を失うかもしれないと思ったら、才能を確認出来るレベル10になろうとか、子供をレベル10にしておこうと言う人も出て来ると思うので、そう言う人達だけでも、鍛えておくべきでしょうね」
「……」
「確か、初心者でレベル10ならない理由は、そんな時間があれば農業と言った家業を手伝わせる。
才能があると確認される事で、本人の意志に関係なく、王国軍や自警団に徴兵されるのが怖い。
二人に一人しか才能がないのに、そんなのに時間を掛けたくない。
才能があると分かると、村から出て行く人が居るので、村としてはレベリングをしたくない。
無いかもしれない才能の為に、魔物と命懸けで戦うのが怖い。
魔物と戦い、傷を負って生活できなくなったらどうするのか。
才能があると分かると、家の跡継ぎが居なくなる可能性が高くなる。
とかでしたよね」
「ああ。そんな感じだね」
「でも、魔王の狂乱が始まったとなれば、人の認識は変わります。
まあ、レベリングで強くなった結果、村から出て都市とかに行く人は居るでしょうけど、それを考慮してもレベリングをすべきでしょうね。
村に残るって意思を持つ人を、一人でも多く生かそうとするのなら」
「そ、そうなのかな」
「レベルが上がってステータスが上がれば、農作業も幾らかは効率が上がりますから、食料の生産効率は上がるでしょうし。
魔王の狂乱が始まった以上、防衛力の弱い村を捨てて都市とかに行こうとする人が出るのは、もう避けられないでしょうし。
でも、知らない土地へ行くのに抵抗のある人も居るし、生まれた土地に愛着のある人も居るでしょうし、少しでも残ってくれる人が居るのなら、その人達が死なない様にベストを尽くすべき、と考えるべきだと、俺は思っていますけど」
「そ。そうなんだろうね」
「本当なら、基本4職に才能が無い人達を、3級職の薬師や採掘士に転職出来る様になる薬神の祠や鍛冶神の祠の神像まで連れて行き転職条件を得てもらう、と言う事をすべきでしょう。2級職でここまで違っていますから、戦闘職ではない3級職だとしても、違って来るでしょうから。
あの二つの神像の祠なら、最奥まで行かなくても御布施をすれば転職条件が得られる神像があるので、比較的簡単に到達できる筈ですから。
この村の状況から言えば、近くに鉱山がある訳じゃないので、薬や病気や薬草の知識を得られる薬師への転職条件を得られる薬師神の祠に行きたい処ですが、薬神の祠があるのは隣の国だから難しいのかな。
だけど、選抜組を送り込み転職条件を得て帰って来てくれれば、村の人員で魔生薬も確保できますけどね。
後は、まあ、余裕が有るのなら、他の村に行って、どうしているのか見るのも良いんでしょうけど。もう、そんな余裕もないのかな」
「……、凄いね。君は。どこで、そんな考え方を」
そんな風に聞かれると、前世の知識がとかは言えないので困るけど。
「父が死んで、母が死んで、落ち込みながら強くなる方法を色々と考えましたから」
そう当たり障りのない事を言ったつもりだったのだけど、マドリーンとアリーサが落ち込んだ感じに。
その理由は分からないけど、まあ、これから一緒に行動するから、機会があれば聞いてみよう。
「君が、この村に残って助けてくれるのなら良いのに」
そう言われるが「この村に居たのではなれない位、強くなりたいので」とその希望を断る。
すると「そうだね。妹の事を頼むよ」と、マドリーンのお兄さんからは、マドリーンと旅立つ了承を得られた様だ。
その発言に、マドリーンの方は少し照れた感じ。
でも、直ぐに表情をかえて「ねっ。聞いてみるべきだったでしょ」と何故かマドリーンは得意顔。
俺に、この村のと言うか、次期村長としてすべき事を聞くべきだとでも言ったのだろう。
「所詮、俺の意見は俺の知る事から考察した事でしかないよ。本当に正しいかどうかなんて、分からないからね」
そうマドリーンに言ったのだけど、何故か嬉しそうに「まあ、お兄様が結局決めるしかないですからね」と言ってくる。
「……、村長はまだお父さんなんでしょ」
「そうよ。でも、次期村長として頑張る時期が来たのよ」
そう兄に対して厳しい事を言っている。
「マドリーンはこんな風に厳しいけど、マドリーンが選んだ君なら何とかするんだろうから、妹の事、よろしく頼むよ」とお兄さんが言って来る。
すると「ちょ、ちょっと」とマドリーンは兄に対して怒っている感じだけど。
「まあ、古い付き合いですから、その辺は理解した上で誘っていますから」
そう言うと、マドリーンのお兄さんはニッコリと笑って頷いている。
「ん~」とか言ってマドリーンは不満顔だが、自分に対する評価はどうなんだろう。
自分の考えが正しいとは限らないと思いつつも、次期村長に意見を言いました。
それで顔見知りの村人達に、一人でも多く魔王の狂乱を乗り越えてもらいたいと言う感じなのでしょうか。




