第60話 ボスと戦う前に
新たに仲間になったマドリーンとアリーサは順調に強くなっています。
なので、先の予定もふまえ、始まりのダンジョン中級のボスに挑む事にしたようですが。
マドリーンは、水魔法をランク4に、風魔法をランク4.5に。
アリーサは、聖魔法を取得して一気にランク3にした。
二人とも特化型になるつもりなのかな。
ランクが上がれば、それだけ強い力が使える様になるから、特化型の方が強そうなんだよな。
まあ、俺の場合は後の事を考えて万能型を選んでいるから、しょうがないんだけど、アッサリ二人に強さで負けそうな気もしてきたのは微妙。
でも、しょうがないと気持ちを切り替えて、ボス戦について話しておく事にする。
「ここのボスは、Cランクのゴブリンキングだから」
そう言ってもマドリーンは気合の入った勇ましい表情。
自分が倒したいのかもしれない。
そう思ったので「俺が倒さないと経験値が10倍にはならないから、とどめは俺がした方が良いからね」と言うと、不満そうな表情にかわる。
まあ、得た力を使ってみたいよな。
でも、そう言う時こそ注意が必要と忠告した方が良いのかな。
アリーサの方は、ゴブリンだからか不安そう。
と言う事は、あまり脅し過ぎない方が良いのだろうから、忠告の加減が難しいかも。
そう思いつつ、二人への話しを続ける。
「マドリーン。強くなった時こそ慎重にね。上には上が居るし、厄介なスキル持ちも居るから。
それに相手は、Cランクでは弱い方のゴブリンキングだけど、それでもゴブリンだし、俺にとっても初めてのCランクだから慎重に行くからね」
そう言うと、我に返ったのか不安そうになるマドリーン。
「大丈夫なの?」と聞いて来る。
「うん。だから、ちょっとスキルと会話しながら戦いのシミュレーションをしてみる」
そう言っても不安そうな二人に、軽く笑いかけてから、戦い方を考える。
先ずは、ランク4.5の偽装スキルの隠形で奇襲が可能かどうかだよな。
可能なら楽だけど。
試しに『強い敵に偽装スキルの隠形は通用するかな?』とスキルに聞いてみると、『自分より格上の相手には、隠形が見破られる事が多くなります』だそうだ。
Cランクを一対一で安全に狩るには5級職。
と言う事は、相手の実力は4級職相当か。
『同じレベルの強さだとどうなるの?』と聞くと『相手の感知能力次第の部分もあるので分かりません』との事。
となると、相手の感知力が高いかどうかなのだけど、ゲームでもCランクとなると同じLV1と言っても能力が同じとは限らず、感知能力が高いゴブリンキングも居ると言う設定だった。
となると、近寄って見つかるかどうか試したり、戦ってみるしかないのだろう。
ゲームだと、MPは消費するけど高ランクの偽装スキルの隠形をして接近すれば、奇襲と言う形になり1ターンは一方的に攻撃出来たり、魔物と会敵しない様に出来たりしたんだけどな。
しかも、隠形が見破られたとしても普通に戦うだけだったし。
だけど、現実だと隠形をしたまま通り過ぎようとして発見されると、普通に戦うより危険な状態の様な気がするな。
ああ。
ゲームだと偶にあった、陣形が乱れた状態での戦闘や敵味方が入り乱れた状態での戦闘開始って事になるのか。
現実だと、警戒しながら通り過ぎれば、そこまでにはならない気もするが……。ってオークキングとの戦闘のシミュレーションだから、その辺は良いだろう。
隠れたまま俺だけが接近し、発見されなければ、そのまま魔法の奇襲で倒す。
発見されたら、攻撃魔法のゴリ押しで倒すべきか。
近づいて戦わなければならない近接戦闘の方がリスクが高い気がするから。
近接戦闘系のスキルもランク4とか5とかにすべきなんだけど、スキルに教わりながらの訓練での技術の習得も、スキルが使えなくなった時の為に必要だと思ってしまうんだよな。
スキル無しの世界から来たから。
だから、移動途中にランク1の近接系スキルに教わりながら武器を振っての草刈りでメルの食事の確保と言った感じで、合間合間に訓練はしているんだけど。
と、これも今考える事ではないか。
魔法のゴリ押しで倒すなら、MP回復薬やエリクサーでMPを回復させながら戦う事も考えておくべきか。
そう考え、思った処に物を出せる亜空間収納の力で1本1本魔法薬が取り出せる状態になっている事や現在のMP量を確認しておく。
後は、装備する武器については、魔法でのゴリ押しなら魔法を強く出来る杖が良いんだろうけど、使い慣れていないから接近されると不味い事になる気がする。
ランク1の杖技スキルでは、たいして魔法を強化できる訳じゃないし、杖を介すると言うイメージが必要だからワンテンポ遅れるし、杖の装備は止めておくか。
魔法主体で倒すなら、接近されてしまった時に守りを硬く出来る剣と盾が良いだろうし、とミスリルの剣と盾に装備し直す。
後は、相手の方がステータスが高そうなら、聖魔法ランク3で取得した聖の祝福でステータスを上げる。
変な攻撃がありそうなら、聖魔法ランク2で取得した聖魔障壁を使用する。
倒せそうになかったら、火魔法ランク2の炎の壁、土魔法ランク3の土の壁、氷魔法ランク4の氷の鏡やランク3の氷の壁をつくって足止めしつつ逃げる。
爆裂魔法の爆裂の衝撃とかも、足止めに使えるかな。
そこまで考えなければならないのなら、もう少し強くなってから戦うのでもいい気がしてくるけど。
始まりのダンジョンのボスは倒さないと宝箱が発生しないんだよな。
旅立ちの前に、簡易転移の場所指定の可能数を10から20に増やしておきたいし、神酒も2本手に入れておきたい。
それに、市町村間の移動も危険な事だから、ボスを倒した後に発生する宝箱から入手できる宝玉から力を得ておきたいと言うのもあるか。
まあ、それで死んだら意味が無いけど、ゲームの様に偽装スキルの隠形により最初一方的に攻撃できるのなら、最初の一撃を強力な攻撃で行い倒せば良い筈。
そう決断し「俺一人で奇襲をかける。それが失敗したら、少し戦ってみて、勝てそうなら倒す。駄目なら逃げるから、離れた処に居てくれる?」
「でも、もっと強くなってからの方が良いんじゃない」と、マドリーンは慎重な発言をしてくる。
その横でアリーサも頷いているから、説明が必要か。
「俺は、色々な職業を経て強くなっているからね。その上、このダンジョンで得た宝玉による強化までしているから、普通の4級職ではないからね。
しかも、今は器用と俊敏に職業補正のある忍びだから、隠れたまま奇襲で倒せる確率は高いし、戦闘になってもスピード負けはしないだろうから。
でも、いざとなったら魔法で足止めしつつ逃げるから、離れた処で見ていてくれる。と言うか、ダンジョンの入り口まで送ろうか。その方が間違いがないし」
そう言うと二人は悲壮な顔で首を横に振る。
どうも、離れすぎるのは嫌なようだ。
「なら、離れた処で待機していて。でも、逃げてと言ったら躊躇なく逃げてよ。
道順は、マドリーンの風探索で確認できるか。
俺の偽装スキルは、離れていても効果が出せるランクになっているから、とりあえず後2時間隠形が続く様にしておくよ」
そう言いつつ、隠形スキルに二人の隠形の長時間化を指示し俺が死んでも効果が残ると確認していると、二人は頷きあってマドリーンが「離れた処で見ているから」と言ってきたから大丈夫かな。
二人には、ボス部屋の入り口が見える曲がり角付近で待機してもらい、俺だけ前に進む事にした。
主人公は、始まりのダンジョン中級のボスであるゴブリンキングと一人で戦うと決めた様です。
余裕で勝てるのにビビり過ぎなのか、未だ力不足なのか、それとも同じ程度の強さなのか。
どのパターンなのでしょう。