第218話 革鎧の自作
主人公は、今朝の始まりのダンジョン巡りを無事に終え、皆の処に戻ってきました。
今日は、何をするのでしょう。
8つ目の始まりのダンジョンの初級と中級をクリア。
それで得た成長の宝玉を使い、成長の加護を強化した。
スキル追加の宝玉も、それなりに手に入り順調なのだろう。
まだ、俺以外の転生者に会えていないのが不安でもあるが、会えば殺し合いになるのだとすれば、俺に出会う前に魔物に殺される等で、このまま出会わない方が良いとも思う。
そんな憂鬱ことを考えつつ、一人での自身の強化を終えて、今日も皆の元に帰る。
転移で戻った宿の地下室には、今日も4人がお茶を飲みながら待っていた。
「今日も、魔飛行船に乗っていたの?」と聞いて来たのはマドリーンだ。
「ああ。始まりのダンジョン初級と中級をクリアした後、魔飛行船で大河を超えて次の国に入ってから帰ってきたから。
これでこの大陸の始まりの村は後2か所。その後の強化方法も考えないと駄目になって来たね」
「そっか。で、何倍?」とマドリーンが聞いてくるので、素直に答える。
「8倍だったから39倍になったね」
「……」
すると黙り込んだマドリーンに代わりクラリッサが「これで4級職で一通りレベル上限になるって目標が変わるのでしょうか?」と聞いて来る。
「ああ。4級職で一通りレベル上限になり5級職に就ける様になったら、Dランクの魔物より取得経験値が多くなるCランクの魔物を今より楽に確実に倒せるようになる。
そうなれば、今度は5級職で一通りレベル上限になるって目標に代わってくると思うけど」
「そっか。39倍になった事も大きいけど、それによって得た力でCランクの魔物を大量に倒せるようになる、と言う事も大きいんですね」と、クラリッサは納得した感じ。
「そうなれば6級職。この世界では数少ない強者の域に到達だ。まあ、俺達はその上を目指すけど。
そう言えば3つ目の基本職を何にするかは、決まったのかな?」
そう言うと、皆困った表情になったので、まだ決め切れていない様だ。
「なら、食事に行くか」と皆を誘い食堂へと向かった。
宿の食堂での食事を終え、影から出て来ると同時にマドリーンに確保されたメルに食事を食べさせてから、出かける。
王都の門から出て、人気がなく地形が入り組んで感知し辛い場所まで移動したら、偽装スキルの隠形をかけて簡易転移で移動だ。
『でもその前に』と言う感じでマドリーンが確認してくる。
「今日は、何をするの?」
「ああ。先ずだけど、今日走っている途中に気が付いたんだけど、裁縫スキルで革鎧造った人いる?」
「あ~」
「わ、忘れてたよ」
「何時もの感じで、何時もの革鎧着てしまいましたね」
「気にはなっていたんですが」
そう、それぞれの返事をしてくれる。
「まあ、俺も忘れていたんだけどね。まずは、ここでそれを造ってから移動するか。
スキルのオートでも造れるから、走りながらでも、魔物と戦いながらでも出来るんだけど、自分の手を全くかけないフルオートで造るとMPを結構消費するらしいから、ここで造ってい方が間違いない」
「そっか。なら各自、自分の革鎧を造れば良いの?」とマドリーンはどこか嬉しそうに確認してくる。
村でも有数のお洒落さんと言うか、好きなんだろうな。
お洒落が。
そう思いつつ「うん。で、材料はこれね」と言いつつネイルベアの皮、アサシンスパイダーの糸玉、リーサルキャタピラーの繭、リーサルシープの羊毛、グレーターキラーグラスの巨大な綿花と靭皮(じんぴ。麻の原料)をそれぞれ一山ずつ出してあげる。
「原材料が必要なら追加するから。革鎧だけでなく、インナーとかも強い繊維の物を造っておいた方が、間違いないと思うよ」
そう言って、俺も裁縫メニューを開き、その中の製造メニューから革鎧を選ぶ。
膨大な数の形が提示されたので、『軽装を選択』と念じて表示されるモノを減らして、もう一度見直す。
その軽装の革鎧の中でも急所をキッチリカバーしながらも軽く動き易そうな形を選び、原材料をネイルベアの皮、アサシンスパイダーの糸玉、リーサルシープの羊毛、グレーターキラーグラスの綿花と靭皮を選び、丁寧に造る(グレード3)か、普通に造る(グレード2)か、簡単に造る(グレード1又は0)の選択の内、丁寧に造るを選ぶ。
着用する人の選択とか、色の選択とかもあったが、とりあえず俺の分について革の色のままでの製造でいいだろう。
すると量産スキルが同じ物を4つ造るか、サイズ違いを2つ作るか等と聞いて来る。
なので、全く同じ物を2つ造る事にし、作業をスタートさせ、ステータスウィンドウ内のMPの減り方を見る。
うん。
丁寧に造れば、ランク4の裁縫スキルならグレード3の良品が造れる。
だけど、それなりにMPは減るな。
ああ。
結局、裁縫スキルに全部作ってもらうフルオートにしたし、単純に皮の鞣しと言った加工だけでなく、原材料として持っていない油とか染料とか接着剤とかをMPで造るから消費MPが多いのか。
目の前で、裁縫スキルの念動による加工や魔力刃による裁断の便利さに『うすら寒いモノ』を覚えながら作業を見ていると、アッと言う間に加工を終えて完成だ。
後は、防具の下に着るインナーも良いモノにしておけば、牙なんかを防いでくれる、とインナーも作成。
周りに身内以外居ない事を確認して着替える。
しかし……。
予想はしていたが、女性陣は全然製造に入らない。
必死で選び、更にスキルと会話しながらカスタマイズをしている様だ。
昨日の夕方にお願いしておけばよかったんだけど、隠れ職業について話したりしたからな。
「え~と。とりあえずの物を造って、ちゃんとしたのは、また俺がいない間とかにお願いできるかな。今は狩りに行かないと駄目だからさ」
そう言うと、焦り始めたようだけど……。
「ヨシマサ君、ちょっと派手目でも良いのかな」と聞いて来たのは意外にもアリーサだ。
「いや。冒険者ギルドに居た人達を思い出して。
派手な防具を着ていたのは強い人達だけでしょ。
弱い人は、色付きの革鎧すら着ていなかったから、目立っちゃうし。
だから、弱い人でもしていたように、ワンポイントおしゃれにしておいて」
「わかった」
そう言って、また考え込むアリーサ。
俺は時間については諦めてメルを呼び出し、採りたての草を食べさせながら撫でていると、ラファエラが製造を終えて岩陰で着替えて来た。
前衛で盾持ちだから防御力に拘ったのか、しっかり体全部を隠すタイプの全身鎧だ。
ちゃんと、頭部も犬耳を隠していて、長い髪も縛って収納して置けるような形になっている。
尻尾はと思ってみていると、革ではなく生地で覆っている様だ。
ああ。
耳や尻尾は敏感だったかも。
『なるほど』と思っているとメルに駆け寄って撫で始めた。
俺も、あんなふうに愛されたいなんて思っていると次にアリーサが。
アリーサは、軽装革鎧の隙間をキラースパイダーの糸で造った生地でカバーする革鎧の様だ。
ワンポイントで、ネモフィラの様な花の刺繍が胸の所に入っている。
その次にクラリッサが。
軽装でも重装でもないタイプの革鎧の様で、所々青い色がワンポイントで着色されている。
そしてマドリーンが着替えてやってきたが不服そうだ。
軽装革鎧の隙間をキラースパイダーの糸の生地でカバーしているのはアリーサと同じか。
目立たない様にと言う事から、アリーサが皮の色っぽい赤なのに対し、マドリーンは黒か。
まあ、これくらいなら目立ちはしないか。
全員『どうかな?』と聞いてこなかったから褒めなかったけど、どうなんだろう。
とりあえずのモノだし、本人達が納得していない感じの防具を褒めるのも、危険かも。
と言う事で「こだわりの防具は、また余裕がある時にね」と、不服そうなマドリーンに言って、メルを影に戻し、皆で転移により移動した。
女性達は、防具のデザインにすら拘りがあるようです。
時間のある時に、ユックリ作ってもらいましょう。




