第174話 ラファエラへの説明
主人公は、ラファエラと一線を越え、やっと事情を説明するようです。
早朝と言うか深夜のマラソン兼始まりのダンジョン攻略を終えて借りている宿に戻ると、皆が転移先に指定した地下室にいる。
ラファエラが心配そうにしていたから、皆でここにきて俺を待っていたようだ。
ラファエラは、心配そうというか不安そうというか驚いていると言うか。
転移できる人は、あんまりいないだろうからな。
そう思いつつ、食事へと行き、帰って来てから説明を始める事にした。
「え~と、簡単に言うと、俺は勇者候補なんだ。勇者候補については知っている?」と単刀直入に伝える。
すると「ほ、本当なんですか。でも、そんな話は全然なかったし」とラファエラが驚きながらも確認してくる。
ラファエラは、未だ半信半疑って感じなのかな。
まあ、自分は勇者候補だって嘘つく奴が居るらしいし、慎重な判断は必要な事か。
そう思いつつ、ラファエラの認識を確認しつつキッチリ説明する事にする。
「あ~。基本勇者候補って言うのは隠して行こうって話になっているからなんだ。
ちなみに、ラファエラは勇者候補について、どういう風に聞いている?」
「……、昔の魔王の狂乱の時に、勇者候補様に選ばれた村人が居たんです。
その勇者候補様は、無念にも魔王の狂乱の途中で亡くなってしまったんですが、その勇者候補様に鍛えられた村人が村に帰って来たおかげで、うちの村は魔王の狂乱を大きな被害を受けずに乗り切れたんだそうです。
だから、勇者候補様に選ばれた人は、喜んで従者にならなければならないって」
「あ~。比較的真面な理由かな。それ以外の話は聞いている?」
そう聞くと、ホホを少し赤くしながら「勇者候補様や勇者様に出会ったら、子種をもらえる様に行動しなさいって」とラファエラが言って来る。
「理由は聞いている?」
「……、世界の為に戦っている勇者候補様や勇者様を慰めるのが義務とか、子供に才能がもらえるので、と聞いていますけど……」
「ラファエラは、それが嫌だったとか?」
「正直、ピンと来なくて。でも、魔王の狂乱が始まったと言う話になった時に、叔父の村長が村の若い女性全員を集めて、改めてその話をしていたんですけど……。
そっか。私は勇者候補様を慰めるって仕事が出来るんですね」
「いや。その辺は、自分達の国や市町村が滅びない様に無理強いしているのでは、って心配している事だから、無理をする事はないよ。
まあ、愛してくれるのなら、それはそれで良いんだけどね」
そう言うと、複雑そうな表情をしているラファエラ。
まあ、まだ実感が無いって感じなのかな。
そう思いつつ「ちなみに、勇者候補同士が殺し合うって言うのは知っている?」と、俺自身が気にしている事がどう伝わっているかを確認する。
すると「そうなんですか?」と、ラファエラはその辺を知らない様だ。
「その辺は隠されているのか。まあ、忘れられた可能性もあるんだろうけど」
「勇者候補も、魔王の様に殺し合うんですか?」と、ラファエラにとっては信じられない事実なのか、再度確認してくる。
「マドリーンが読んだ歴史書ではそうなっているらしい」
「……、だから勇者候補だという事は隠す事にしているんですか?」と、思案顔で言ってくる処を見るとラファエラは状況を理解してくれたようだ。
「難しい処なんだけどね。勇者候補は未来が見えるって話は知っている?」
「はい」
「少なくとも俺の場合は、違うんだよね。必要な情報が彼方此方抜け落ちている、お告げって感じでね」
「お告げですか」
「そう。簡単に言うと、俺は勇者候補で殺し合うなんて、知らなかった。
だけど、ラファエラが良い人だと言う事やどうすれば仲間に出来るかについては、知っていた。
こんな感じで、頼りに出来そうだけど、必要で重要な情報が無い事もある、微妙な感じなんだよね」
「はい」
「その前提があった上での話なんだけど、俺は勇者候補同士の殺し合いが嫌で隠れているつもりだったんだ。
例えば、俺とその仲間について明らかになっていた為にラファエラのおばあちゃんを人質にされて、俺に殺されろなんて言われると困るからね」
そう言うとラファエラの表情が曇るが、話を続ける。
「そう言うのは嫌だから可能な限り魔王の狂乱を隠れてやり過ごそうと思っていたんだけど。
でも、お告げの中には俺が死んだ場合に『人類の希望は死んだ。遠からず人族は滅ぼされる事になる』と言うメッセージがあってね。
勇者候補や勇者が全滅すると、人族が滅びるかもしれないって思う様になってね」
ラファエラの表情を見ると困惑しているけど、一気に話してしまおうと話を続ける。
「勇者候補は、別の勇者候補を倒すと、その力の一部を手に入れて強くなるみたいなんだ。
だから、俺が別の勇者候補を倒し強くなるか、別の勇者候補に倒され、その勇者候補の強化に貢献するかをしないと、勇者候補や勇者の強さが中途半端になり、魔族に負けるかも、と言うのも気になり始めてね。
となると、隠れていて良いのか、となるでしょ」
「……、はい」
「それで、今の処は隠れながら、積極的に勇者候補を倒しに行くかどうかは先送りにし、俺を殺しに来る勇者候補を返り討ちにすべく、俺が強くなる事と皆を強くする事に注力している感じなんだ」
そう言うと俯き「勇者候補って大変なんですね」と、ラファエラは悲しそうな表情で言って来る。
「さあ。正直、俺にも良く分からなくて、困っていると言う状況なんだよね。
と言う事で、まずこれを」
そう言ってラファエラの前に、今日の早朝に預けていたバックから出したものを置いていく。
「まずは、スキル追加の宝玉を使って」
「何の宝玉なんですか」
「格納箱だよ。皆ランク1で持っているから、先ずはこれだね。
それで、個人的な物は、持っていてもらえるし」
ラファエラは戸惑った表情で皆を見ていたけど、マドリーンやクラリッサが自分の前に黒い箱を発生させた事から安心した様で「はい」と言って、ラファエラは格納箱スキルの宝玉を握りしめ、使用したのか薄っすらと白い光に包まれる。
「次は、これが昇華の神酒。ラファエラにはトリプルになってもらうから、何の素質が欲しいか考えて欲しい。
こっちは、エリクサーⅡとエリクサーⅢだね。急ぎ回復する必要がある時に使って」
「昇華の神酒って、あの10億GAZUでも買えないって話の」
「でも、勇者候補は、勇者候補とその仲間だけが入れるダンジョンで、それなりに手に入るんだ。
だから、それで君を強くする」
そう言うと、ラファエラは黙り込んで動かない。
「命はお金では買えないからね」とまで言うと「はい」と、了承してくれた。
「後は、武器か。得意な武器とかある?」
「私は、剣と盾に才能が有りそうだって言われた事があって、それを鍛えていましたけど」
「そっか。ならこれだね」
そう言って、亜空間収納から鋼鉄の剣Ⅱ、鋼鉄の盾Ⅱ、ミスリルの剣Ⅲ、ミスリルの盾Ⅲを取り出して、ラファエラの前に置く。
「普段は、鋼鉄製を。
魔物の強いダンジョンの深くに行った時は、ミスリル製を使って。
使い分けられる様に、格納箱スキルを取得してもらったしね」
「はい」
「後は、こいつの紹介だね」と、影からメルを呼び出す。
「この子は、勇者候補が連れている特別な従魔ってやつ。
名前はメル。
今は弱いし変に目立つ可能性もあるから、多くの場合で影の中に居てもらっている」
「メェ~」
『新しい仲間ですか?』って言っている気がするな。
「そう。彼女はラファエラ。新しい仲間だから仲良くしてね」
「メェ~」
了解しました、かな。
メルの前に食事を出してあげると、真っ先にアリーサが駆け寄り、今は4人に揉みくちゃにされている。
メル。
頑張れ。
愛情表現だから。
そう思いつつ、少し涙目に見えるメルを横目に見ながら俺は出立の準備を始める事にした。
ラファエラへ自分が勇者候補だと言う説明を無事終えられたようです。




