第113話 上手く行かなかったボス戦
ゲームでも仲間にしたマドリーンとアリーサとクラリッサを異世界の現実でも仲間にしました。
その3人の強化を王都近くの隠されたダンジョンで行い、一段落したようです。
なので、ボス戦に向かう様ですが。
皆の転職とレベルアップとスキル取得は一段落しただろうか。
この王都近くの隠されたダンジョンにあった宝箱は一通り回収した。
地下3階のボス戦の前に地下3階で手に入ったのは、土魔法、聖魔法、状態異常耐性、弓技、剣技スキルの宝玉、552324GAZU、MP回復薬Ⅲ5個、アダマンタイトの槍Ⅲ、アダマンタイトの斧Ⅲ、魔晶石B5個だ。
今すぐ使わなければならないスキル追加の宝玉を考え、状態異常耐性スキルを取得させてもらう。
「治療メインのアリーサに取ってもらいたいし、接近戦をするクラリッサにも取ってもらいたいスキルだったんだけどね」と俺が呟くと。
「毒に対してあんな戦い方するんだから、ヨシマサちゃんでしょ」とマドリーンにまた怒れてしまった。
う~ん。
まあ、俺も3人が傷つくのを見るのは、多分かなりのストレスだろう。
と言うか、許せない。
その逆だと思ったら、怒られるのは当然なのかもな。
そう思いつつ、ボス部屋へと急いだ。
ボス部屋に居たのは、ワーウルフ。
別名『人狼』か。
狼は匂いとか音とかに敏感そうで、感知能力が高いと推測できる。
と言うか、ゲームでもそうだった筈。
感知する気配は、ボスと言う事なのか、やはり強そうだ。
そう言えば、動きの素早い敵だったし、HPも高かった上に軽い再生能力まで持っていたか。
まあ、ゲームだと十分強くなってから戦っていたから、味方に被害を出さずに確殺だったけど……。
異世界の現実は、オフラインのゲームと違って『イベントは、時が来れば起こってしまうだろう』と急ぎ過ぎていないだろうか。
今更、そんな不安が襲って来るが、戦うしかない。
いや。
俺一人で戦う事にして、彼女達には退避して貰おうか。
3人を安全な場所に送り届けた後にボス部屋の近くに戻ってくるための『場所指定』をし「ねえ。三人は、ダンジョンの外で待っていてもらえる」と素直にお願いしたのだけど。
「な。なんでよ」と、納得できないと言う感じのマドリーン。
アリーサもクラリッサも何故って感じか。
なので「あいつには、隠れて奇襲と言う事が通用しないかもしれない」と、理由を言ったのだけど。
「そ、それってヨシマサちゃんも危ないって事でしょ」と、マドリーンは険しい表情で言って来る。
「そうだけど、3人を危険にさらすくらいなら、1人で戦う方が良い」
そう言っても「何言っているの」と眉をひそめたマドリーンは納得してくれない。
「俺は、3人が傷つくのなんて見たくないんだよ」
そう言っても「……、何言っているの。自分はあんな戦いをしたくせに」とマドリーンは少し泣きそうな険しい表情になって行って来る。
なので「マドリーン、アリーサ、クラリッサが傷つくのは見たくないって言っているの」と、再度説明したのだけど。
「そ、そんな危ないのと一人で戦うの。なら、後日来たって」とマドリーンはまだ納得してくれない。
アリーサも怒っているし、クラリッサは心配そうにしているか。
「この程度の敵で足踏みする訳にも行かないからね。勝てると思っているから戦うんだけど、皆と一緒に行くのはリスクが高い」
そう言うと「私達だって覚悟しているんだよ」と、マドリーンはまだ引いてくれない。
「俺は、皆が死にそうになるのとか覚悟していないし」と言うと「私達は足手まとい、って事なの!」と、マドリーンは険しい表情と強い口調で言ってくるが。
俺は、不安な気持ちから感情に任せて「ああ。一人で戦う方がましだ」とハッキリ言ってしまう。
すると「そんなの絶対に許さない」と俺に断言してくるマドリーン。
強い感情で叫んだマドリーンの声が原因なのだろう。
隠形が見抜かれ、ワーウルフに俺達が感知されたと、感知スキルが教えて来る。
間髪入れずマドリーンに襲い掛かったワーウルフに槍で攻撃を仕掛け、マドリーンを守りながら奴の注意を俺に向ける。
距離を取ったワーウルフに高速火槍を6発撃ち込むが、全て避けられる。
その間に、槍をミスリルの剣と盾に切り替え、皆を守る為の盾を装備して高速戦闘に備える。
奴は、3人を庇う様に立つ俺をあざ笑うかのように、高速移動している。
それも、壁や天井を利用した立体機動だ。
でも、迂闊に近づけば、俺の攻撃範囲だと気が付いている様で、俺達への攻撃はして来ないが。
そう思っていると、アリーサに狙いを決めて、爪を伸ばして切り裂こうとしている。
俺は、対処できず茫然としている3人を聖魔障壁で保護すると、奴はその聖魔障壁に着地し、それを足場に俺に飛び掛かってくる。
その予想外の動きとスピードに対処しきれず、剣を持っている方の肩を切り裂かれるが、回避スキルが仕事をしてくれたようで、致命傷は避けられた。
高速で回避した為に舞っている血しぶきを無視しながら、高速火槍を6個打ち込むが、またも避けられる。
ああ。
命中率向上にもっとMPを割く必要があるんだ、と思いつつ仲間を聖魔障壁で保護したまま、高温火嵐を使用。
「ボォォォォ」との音をさせている火嵐。
俺は火魔法スキルが自動で展開してくれた魔法障壁で守られながら、状況を把握に努める。
使用した火嵐は、『広く広く』とイメージにより広範囲化した強化タイプで奴でも回避しきれていない。
感知スキルによると、ワーウルフはこの程度では致命傷では無く、目と言った急所を庇いながら強化火嵐の圏外に出たようだが、ダメージで動きが鈍っている筈。
それに『当たれ』とイメージによる命中率向上を付加した、高速火槍6発を打ち込むと、ワーウルフはそれも避けやがる。
傷治療魔法により傷治療をして応急処置をして血止め。
そのまま奴に剣と盾を掲げてダッシュだ。
奴が、また壁や天井すら利用した高速軌道を開始した処で、広範囲化させた高温火嵐をもう一度使用する。
床から飛び上がるタイミングを狙って火嵐を起動したのが良かったのだろう。
また、無様な感じで慌てて火嵐の効果範囲から逃げようとする奴に、ロックオンし高速火槍を6発撃ち込む。
火嵐から飛び出した奴を追尾する高速火槍。
奴は、それにも気が付いて避けようとしたが、それに失敗。
「ボボッボッォ」と全弾命中し戦利品へと変わって行った。
「はあ」とまたもため息をつくと、傷治療の魔法を使いながらマドリーンが殴りかかってくる。
いや。
まあ。
全力で殴ってくるのではなく、甘えている感じの殴りだけど。
『マドリーンの声で、隠形が解かれたみたいなのに』
なんて言ってみたいが、止めておこう。
そう思いながらマドリーンの様子を見ていると「なんで、自分じゃなく私達を聖魔障壁で守るのよ」と言われても、一番強い筈の俺が、あの状況で皆を守らないって選択は出来ないでしょ。
そう思いつつ「いや。自分より大切なモノだってある事もあるし」と言うと、アリーサまで涙目で叩きに来るし。
クラリッサも、涙目で俺を見つめているし。
ああ。
感情論では無く『物理耐性スキルを持っていないマドリーンやアリーサが攻撃を受けるより、俺よりステータスの低いクラリッサが攻撃を受けるより、俺が攻撃を受ける方が問題は起きないんだよ』とか『職業補正で一番素早いのは俺なんだから、素早さが厄介な奴と戦うのは俺の仕事』といった風に合理的な判断だったと言った方が良かったのだろうか。
……。
今から、合理的な理由を言おうと思ったが、止めておいた。
なんか、また怒らせる気がしたから。
う~ん。
身の置き所が無い。
強敵に勝ったのに、何でこんな目にあうのだろう。
愛する者が目の前で傷つく事が当たり前の世界。
マドリーン、アリーサ、クラリッサ、主人公は、未だそれに慣れていない様です。




