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三国志演義

三国志演義・博望坡初陣戦~水魚の交わり~

作者: 霧夜シオン
掲載日:2023/09/23

はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。


三国志演義・博望坡初陣戦(はくぼうはういじんせん)~水魚(すいぎょ)の交わり~



作者:霧夜シオン


所要時間:約30分


必要演者数:6~10人

      (6:0)

      (7:1)

      (8:0)

      (8:1)

      (9:0)

      (9:1)

      (10:0)


※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。


はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。


●登場人物


劉備(りゅうび)・♂:字(あざな)は玄徳(げんとく)。

     中山靖王(ちゅうざんせいおう)・劉勝(りゅうしょう)の末孫(まっそん)にして漢の景帝(けいてい)の玄孫(げんそん)。

     諸葛亮(しょかつりょう)と言う傑物を家臣に得るが、未だその勢力は弱い。


諸葛亮(しょかつりょう)・♂:字(あざな)は孔明(こうめい)。

      中国史上屈指の名宰相として名を残しているが、現在は弱小と言って

      いい劉備軍の軍師という位置づけ。

      三顧(さんこ)の礼をもって劉備に仕え、本作では初めての実戦とな

      る。


関羽(かんう)・♂:字(あざな)は雲長(うんちょう)。

     美髯公(びぜんこう)とあだ名される長い髯(ひげ)の持ち主で、知勇に優れた名将。

     義に厚く、上に不遜で下に慈悲深い。


張飛(ちょうひ)・♂:字(あざな)は翼徳(よくとく)。

     一丈八尺(いちじょうはっしゃく)の蛇矛(じゃほこ)を軽々と振り回す酒を愛する豪傑。劉備(りゅうび)の義弟。

     酒による失敗も多いが、その武勇は劉備(りゅうび)軍の中でもトップクラス。


趙雲(ちょううん)・♂:字(あざな)は子龍(しりゅう)。

     関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)と並ぶ武勇と胆力の持ち主。袁紹(えんしょう)、公孫瓚(こうそんさん)を経て劉備(りゅうび)に仕え

     る。現在では劉備(りゅうび)軍の武の要(かなめ)の一人として活躍している。


夏侯惇(かこうとん)・♂:字(あざな)は元譲(げんじょう)。

      曹操(そうそう)の旗揚げ時から付き従っている隻眼の将軍。劉備(りゅうび)が

      新野(しんや)で兵を養っているのを危険視し、曹操(そうそう)に願い出て十万の軍を率い

      、侵攻する。


于禁(うきん)・♂:字(あざな)は文則(ぶんそく)。

     非常に軍律に厳しい厳格な性格で、曹操(そうそう)軍初期のころから参画し、着実

     に功績をあげてきた叩き上げの将軍。今回は夏侯惇(かこうとん)の副将の一人として

     参陣している。


李典(りてん)・♂:字(あざな)は曼成(まんせい)。

     曹操(そうそう)軍古参の将軍の一人。思慮深く、主に副将の立場にいて、主将の暴

     走を止める役回りが多い。今回は夏侯惇(かこうとん)の副将の一人として参陣してい

     る。     


曹操(そうそう)・♂:字(あざな)は孟徳(もうとく)。

     漢の相国(しょうこく)・曹参(そうしん)が末裔を名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の

     姦雄(かんゆう)」と評された、兵法、政治、果ては詩にまで名を残す“破格の

     英雄”。人材収集癖があり、惚れこむと例え敵でも味方にせずには

     おかない性質。風雲に乗じて漢の皇帝・献帝(けんてい)を擁し、司空(しくう)の地位に就

     く。自分に刃向かう者を朝敵の名のもとに次々と従わせ、あるいは

     滅ぼしていく。四十代後半~五十代。


徐庶(じょしょ)・♂:字(あざな)は元直(げんちょく)。

     もと劉備(りゅうび)の軍師だが、曹操(そうそう)に母親を人質に取られて偽手紙で誘き寄

     せられ、失望した母の自害によってそのまま曹操(そうそう)に仕えることにな

     る。しかし、決して劉備(りゅうび)の為にならないような策を献策しないと自

     身に誓っている。


劉備(りゅうび)軍兵士・♂♀不問:劉備とその家臣たちの配下。


ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま

 す。


・キャスト例

●演じ分け得意な方向け

劉備・于禁:(25+17)

諸葛亮・徐庶:(22+8)

関羽・ナレ:(26+16)

張飛・李典:(25+17)

趙雲・曹操・劉備軍兵士:(12+14+3)

夏侯惇:(38)


●人数少なめの兼ね役版

劉備:(25)

諸葛亮:(22)

関羽:(26)

張飛:(28)

趙雲・曹操:(12+14)

夏侯惇・劉備軍兵士:(38+3)

于禁・ナレ:(17+16)

李典・徐庶:(17+8)


●台詞バランス型(推奨)

劉備:(25)

諸葛亮:(22)

関羽:(26)

張飛:(28)

趙雲・徐庶:(12+8)

夏侯惇:(38)

于禁:(17)

李典:(17)

曹操・劉備軍兵士:(14+3)

ナレ:(16)



――――――――――――――――――――――――――――――――――


ナレ:諸葛亮(しょかつりょう)、字(あざな)は孔明(こうめい)。道号(どうごう)は臥龍(がりゅう)。

   三顧(さんこ)の礼を経て、劉備(りゅうび)はついに天下の賢人を迎えることに成功する。

   その喜びようは、食事、睡眠を共にし、旗上げ当時から従ってきた者

   達よりも上座(かみざ)に据(す)えて教えを乞い、そのため陣営の中に面白くない空

   気が醸(かも)されてくるほどであった。


張飛:…どうも面白くねえ。


関羽:なんだ、翼徳(よくとく)。

   機嫌が悪いようだが、何かあったのか?


張飛:兄貴が知らないはずはねえ。

   諸葛亮(しょかつりょう)のことだ。


関羽:ああ…彼が来てからの兄者の行動は、ちと度が過ぎるように思うな。


張飛:だろ?

   今まで生死を共にしてきた家臣達からも不満の声が上がってる。

   このままじゃ皆の心が離れていってしまうぞ。


関羽:うむ、その恐れはある。

   …よし、今から兄者をお諫(いさ)めしに行こう。


張飛:おう、そうしよう。

   ったく、奴が来てからみんなおかしくなっちまったぜ。


ナレ:二人は連れ立って劉備(りゅうび)の居間へ赴(おもむ)いた。

   各々、個人的な嫉妬(しっと)もあったのだろうが、それよりも集団としての

   劉備(りゅうび)軍の崩壊を恐れたのである。


張飛:我が君、少しよろしいでしょうか。


劉備:おお、雲長(うんちょう)に翼徳(よくとく)、いかがしたのだ?


関羽:…我が君は少し、人に惚(ほ)れこみすぎるのではないかと思いまして。


劉備:孔明(こうめい)軍師のことを言っているのか?


張飛:そうです!

   彼奴(きゃつ)にいったい、どれほどのものがあるって言うんです?

   我らはまだその才能も手柄もまだ見た事がありません!


劉備:いずれわかる。


関羽:しかし…。


劉備:国を造るには、智と勇が無ければならぬ。

   勇はお前達、そして智は孔明(こうめい)だ。

   どちらが欠けてもならんのだ。

   余(よ)が孔明(こうめい)という軍師を得た事は、魚が水を得たようなものなのだ。


張飛:ッそ、そこまで…。


劉備:だから、孔明(こうめい)軍師のことを悪く言わないでやってくれ。


関羽:…致し方ございませぬ。

   我が君にそうまで言われては、我らには返す言葉がありません。

   翼徳(よくとく)、行こう。


張飛:お、おう…。


   【三拍】


   こりゃ駄目だ。恋の病(やまい)みたいなもんだ。

   今は何を言っても無駄だぞ、兄貴。


関羽:うむ…しかし、このままではいかんな…。


張飛:【唸る】

   ! おい、見ろ、水だ。


関羽:なに、水?


張飛:諸葛亮(しょかつりょう)だよ!

   ったく、おーおー水が来た、水が流れていきやがる、ってか!


関羽:なるほど、水か。

   確かに、その所作(しょさ)は水のようだ。

   得意だという知略も、そうだといいのだがな。


諸葛亮:……。


ナレ:いっぽう、許昌(きょしょう)の都。

   一度は劉備(りゅうび)の新野(しんや)に侵攻し大敗した曹操(そうそう)だったが、それで南征(なんせい)の野望がしぼ

   むはずもなく、諸将と連日協議を重ねていた。

   その席上(せきじょう)、夏侯惇(かこうとん)が発言する。


夏侯惇:現在、新野(しんや)の劉備(りゅうび)は諸葛亮(しょかつりょう)とかいう者を軍師とし、しきりに兵馬を鍛(きた)えて

    いるとか。


曹操:うむ、報告によればそのようだな。


夏侯惇:このまま捨て置いては、間違いなく後日の災いになりはしますまいか。


曹操:今のうちに邪魔石(じゃまいし)を取り除けと申すのか。


夏侯惇:はい。

    荀(じゅん)イク殿は諸葛亮(しょかつりょう)を一筋縄(ひとすじなわ)ではいかないと仰(おっしゃ)られていたが、それがしに兵

    をお与えくだされば、必ずや新野(しんや)を踏み潰してご覧に入れます!


徐庶:お待ちください、夏侯惇(かこうとん)将軍。

   諸葛亮(しょかつりょう)は決して侮(あなど)れませんぞ。


夏侯惇:むっ、徐庶(じょしょ)か。

    汝(なんじ)も荀(じゅん)イク殿と同意見だというのか。


曹操:おお、そちはつい先日まで荊州(けいしゅう)におったな。

   いったい諸葛亮(しょかつりょう)とは、どのような人物なのだ?


徐庶:諸葛亮(しょかつりょう)、字(あざな)は孔明(こうめい)。

   道号(どうごう)を臥龍(がりゅう)先生と称し、上(かみ)は天文(てんもん)、下(しも地理に精通しております。

   また、六韜(りくとう)をそらんじ三略(さんりゃく)を胸にたたみ、世の常の兵法家ではないと

   言えましょう。


曹操:そちも我が一族の曹仁(そうじん)を手玉に取った軍師であった。

   その才を比較してどうか?


徐庶:比べ物になりませぬ。

   彼が夜空に輝く月ならば、それがしは地上を舞っている蛍(ほたる)にすぎないでしょ

   う。


曹操:ぬうう、それほどか。


徐庶:それがしごときでは、とうてい彼には及びませぬ。


夏侯惇:何を馬鹿な! 諸葛亮(しょかつりょう)も人の子であろう!

    それがしの目から見れば塵芥(ちりあくた)に等しい。

    しかも実戦の経験すらない、くちばしの黄色いヒヨコではないか!

    司空(しくう)閣下、迷われることはありませぬ!

    もし諸葛亮(しょかつりょう)めに敗れたなら、この首を差し出します!


曹操:よし! その意気を買うぞ、夏侯惇(かこうとん)!

   そちに十万の兵を預ける。

   新野(しんや)へ侵攻し、劉備(りゅうび)らを滅ぼしてくるがよい!


夏侯惇:ははっ!


曹操:副将(ふくしょう)に李典(りてん)、于禁(うきん)、配下に韓浩(かんこう)、夏侯蘭(かこうらん)を付ける。

   ただちに出陣するのだ!


夏侯惇:はっ、吉報(きっぽう)をお待ちくださいませ!


徐庶:…。

   (愚かな。慢心は破滅の元だぞ、夏侯惇(かこうとん)殿…。)


ナレ:曹操(そうそう)は出征(しゅっせい)当日、庁舎の門前で馬にまたがって見送り、夏侯惇(かこうとん)は意気揚々と

   許昌(きょしょう)を出陣した。


   【二拍】


   曹操(そうそう)軍きたる。

   曹操(そうそう)軍南下す。

   注進の早馬は、次々と新野(しんや)城の門をくぐった。


劉備軍兵士:ご注進、ご注進!

      我が君、一大事でございます!

      曹操(そうそう)が再びこの新野(しんや)に侵攻を開始しました!


劉備:なにッ!

   して、敵軍の編成は?


劉備軍兵士:夏侯惇(かこうとん)を総大将とし、副将に于禁(うきん)、李典(りてん)、その数、およそ十万!!


劉備:ご苦労、それと軍師を呼んでくれ。


   …こんな小城では十万の大軍は防ぎきれん。

   雲長(うんちょう)、翼徳(よくとく)、いかがしたものであろうか。


張飛:いや、実に大変な野火(のび)ですな。


関羽:水を向けて消したらよろしかろうと思います。


劉備:! お前達はまだそのような些末(さまつ)な感情に囚(とら)われているのか。

   智は孔明(こうめい)に、勇はお前達にくれぐれも頼むぞ、良いか!


関羽:ははっ。

   …翼徳(よくとく)、行こう。


張飛:おう。

   さて、奴がどうするか見ものだな!


    【三拍】


諸葛亮:お呼びでございますか、我が君。


劉備:おお、軍師。

   曹操(そうそう)がこの新野(しんや)へ十万の軍を差し向けたそうだ。


諸葛亮:やはり来ましたか。しかし、ご心配には及びませぬ。

    それよりも、問題は我が軍内部の方にあります。

    おそらく関羽(かんう)殿、張飛(ちょうひ)殿の二人が私の命令に従わないでしょう。

    作戦にそむく者がいれば、敗北は必然です。


劉備:実に困ったものだ…どうしたものであろうか?


諸葛亮:恐れながら、我が君の剣と印(いん)を私にお貸しください。


劉備:それだけで良いのか?


諸葛亮:はい、諸将をお集め下さい。


ナレ:やがて、招集に応じて集まって来た諸将が左右に居並(いなら)ぶ。

   諸葛亮(しょかつりょう)は劉備(りゅうび)の隣に座っていたが、厳然(げんぜん)と立ち上がると声を張った。


諸葛亮:すでに皆も聞いていることと思う。

    曹操(そうそう)が夏侯惇(かこうとん)を大将とし、十万の兵を与えてこの新野(しんや)に侵攻を開始した。

    戦の勝敗は諸将の働きにかかっている。

    …それではこれより、策を申し渡す!


    この新野(しんや)より九十里の外にある、博望坡(はくぼうは)と呼ばれる地を決戦場とする。

    そこは左に予山(よざん)と称する山と、右に安林(あんりん)と言う林がある。


趙雲:その地に拠(よ)って戦うのですな?


諸葛亮:うむ。

    まず関羽(かんう)殿は兵千五百を率い、予山(よざん)に潜んでいただく。

    曹操(そうそう)軍が来たら最初はやり過ごし、敵の後陣を叩いてから軍需物資(ぐんじゅぶっし)、兵糧(ひょうろう)

    に火を放ってもらいたい。


関羽:……は。


諸葛亮:張飛(ちょうひ)殿も同じく千五百の兵を率いて安林(あんりん)

に伏せていただく。

    火の手が上がったら敵の中軍へ突撃し、粉砕していただきたい。


張飛:ッ……。


諸葛亮:また関平(かんぺい)殿、劉封(りゅうほう)殿はそれぞれ兵五百を率い、硫黄煙硝(いおうえんしょう)を携えて博望坡(はくぼうは)の

    両面から敵を火に包んでもらいたい。

    そして、趙雲(ちょううん)殿!


趙雲:おうっ!


諸葛亮:趙雲(ちょううん)殿には正面から突撃していただく。


趙雲:おお、先陣ですな!

   腕が鳴ります!


諸葛亮:そうではあるが、個人の戦功は慎(つつし)んでもらいたい。

    敵と戦闘を開始したらわざと負けたふりをし、曹操(そうそう)軍を深く誘い込むのが

    今回の任務であると心得ていただきたい。


趙雲:なるほど、敵の慢心を誘うのですな。

   承知しました。


張飛:いやいや、お指図、いちいちよくわかった。

   ところで、軍師自身はどこで戦われる?


諸葛亮:我が君にも一軍を率いてもらい、曹操(そうそう)軍を更に油断させるため、敵の正面

    に立ちふさがっていただーー


張飛:【↑の語尾に被せて】

   違うッ!!

   軍師はどこで戦うのかと聞いているのだ!


諸葛亮:私はここにあって新野(しんや)を守る。


関羽:なに、ここにいて…戦場には出ない、だと…?


張飛:うわっははははははははは!!!


   聞いたか、諸将!

   我が君をはじめ、我々には遠く城を出て戦えと言っておきながら、おのれは

   戦場には出ず、城を守っているという。

   これを笑わずにおれるか! 諸将、笑え!

   はっはははははは!!


諸葛亮:ここに我が君から預けられた剣と印(いん)があるのが見えぬか!

    命令に背(そむ)く者は斬る! 

    軍律(ぐんりつ)を乱す者も同様である!!


張飛:なにィ!?

   面白い!幾度となく戦場を駆け抜けたこの張飛(ちょうひ)様を、汝(なんじ)のような若造に斬

   れるか!!


劉備:やめよ!! いま内輪(うちわ)もめしている時ではない!


関羽:翼徳(よくとく)、我が君の剣と印(いん)の前で逆らうのは、我が君へ叛逆(はんぎゃく)するのと同じことに

   なる。


張飛:う、ぬうう…!


関羽:【小声で】

   今回だけは諸葛亮(しょかつりょう)の計略が当たるかどうか、試みに従ってみようではないか

   。


張飛:ちっ、しょうがねえ…。

   兄貴がそういうのなら試してみるとするか…。


   【諸葛亮へ向かって】

   この計が外(はず)れたら、二度とお前の命令は聞かん!

   …我が隊は安林(あんりん)へ向けて出陣するぞ!


関羽:我が隊は予山(よざん)へ向かう!

   では我が君、ただちに作戦に移ります。


劉備:うむ。皆も頼んだぞ!


劉備・ナレ役以外全員:ははっ!【SE代用可】


ナレ:こうして表面上は皆、それぞれの持ち場へ向かっていったが、諸葛亮(しょかつりょう)の指揮

   を危ぶんでいたのは関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)だけではなかった。

   時、建安(けんあん)十三年の秋、七月。

   曹操(そうそう)軍の夏侯惇(かこうとん)は、一路南下(いちろなんか)してついに博望坡(はくぼうは)の手前まで達していた。

   自(みずか)らわずかな供を連れて偵察し、敵の陣容を眺めてから帰陣(きじん)したが、いきな

   り馬上で笑い出した。


夏侯惇:うわっはははは!! なんだあの貧弱な陣容は!

    徐庶(じょしょ)めが我が君の御前(ごぜん)で諸葛亮(しょかつりょう)の才知を讃(たた)え、まるで神通力(じんつうりき)でもあるかの

    ような事を言っておったが、あれでは羊をけしかけて狼と戦わせるような

    ものではないか!


于禁:将軍…確かにそうかもしれませんが、油断は禁物でございますぞ。


李典:そうです。

   司空(しくう)閣下の戦いを常に間近(まぢか)でご覧なされてきた、将軍らしからぬお言葉かと

   存じます。


夏侯惇:わかっておる!

    だがこのぶんでは彼奴(きゃつ)らを踏み潰(つぶ)すのも、さほど時間はかかるまい。

    出陣だ!


    【二拍】

    

    一気に突き崩(くず)せーーーッッ!!


夏侯惇・趙雲役以外全員:【喚声・SE代用可】


劉備軍兵士:ちょ、趙雲(ちょううん)将軍!

      曹操(そうそう)軍が現れました!

      こちらに向けて突撃してきます!


趙雲:来たか…よしっ。

   我らの任は曹操(そうそう)軍を深く誘い込む事だ!

   適当に戦い、わざと劣勢なふりをして退却するのだ!

   行くぞ!


趙雲・夏侯惇役以外全員:【喚声・SE代用可】


夏侯惇:劉備(りゅうび)軍の雑魚(ざこ)共に、戦(いくさ)というものを教えてくれるわ!!

    そこにいるのは敵将と見た!

    夏侯元譲(かこうげんじょう)これにあり、その首をおいて行けィ!!


趙雲:何をッ!

   この常山(じょうざん)の趙子龍(ちょうしりゅう)の槍が受けられるか!


夏侯惇:ははは、汝(なんじ)が趙雲(ちょううん)か!

    威勢だけは一人前だが、それで討てるとでも思っているのか!

    そりゃあああッ!!


趙雲:ッぬう! やるな!

   ならばこれはどうだ!!


夏侯惇:はッ! なんだそのへなへな槍は!!

    槍の使い方を冥土の土産(みやげ)に教えてくれるわ!!

    おおぉぉおおぅぅッッ!!


趙雲:ぐううッ! さすがは夏侯惇(かこうとん)、手ごわい…!

   勝負はあずけた!!

   はッ!


夏侯惇:おおっ、逃げるか!

    口ほどもない奴め!!

    その首を置いて行けィ!!


ナレ:十数合(じゅうすうごう)打っては逃げ、打っては逃げ。

   趙雲(ちょううん)はわざと挑発しながら夏侯惇(かこうとん)の慢心をあおっていく。

   そしていつか、博望坡(はくぼうは)の地を踏みかけていた。


夏侯惇:待てィ、腰抜けめ!!

    また逃げるか!

    恥を忘れたな!?


于禁:お待ちを、将軍!


夏侯惇:何だッ、于禁(うきん)!

    邪魔をするな!

    趙雲(ちょううん)が逃げてしまうではないか!


于禁:いえ、どうも怪しいです!

   戦っては逃げ、戦っては逃げている…

   これは誘(おび)き寄せようとしているのでは?


夏侯惇:伏兵があるなら蹴散らすまでだ!

    今の我が軍の勢いを止められる者など誰もおらぬわ!


李典:しかし、あまりにもろすぎます!

   ここらでいったん、陣を整えられては…!


李典、劉備役以外全員:【喚声・SE代用可】


劉備:敵は策に落ちたぞ!

   皆、突撃せよ!


夏侯惇:ふん、この伏兵が敵の策と言うものであろう!

    小賢(こざか)しき虫ケラどもめ!

    それッ、一息に押し潰してやれィ!!


夏侯惇・劉備役以外全員:【喚声・SE代用可】


夏侯惇:劉備(りゅうび)ッ!!

    天下を乱し、曹司空(そうしくう)閣下を阻まんとする賊将(ぞくしょう)め!

    大人しく夏侯元譲(かこうげんじょう)が槍を受けよ!!


劉備:この圧…さすがは曹操(そうそう)軍第一の将軍!

   だが、討たれてやるわけにはいかぬ!


趙雲:我が君には指一本触れさせん!

   はああッ!


夏侯惇:どけィ! 汝(なんじ)ごときは相手にならぬわ!

    者ども、包囲しろッ!


劉備:くっ…曹操(そうそう)軍の精鋭め、なんという精強(せいきょう)さだ…!


趙雲:我が君! これ以上は支えきれませぬ!

   いったん兵を退(ひ)くべきかと!


劉備:うむ。

   全軍、撤退せよ!!


夏侯惇:おおっ、ネズミの主従が逃げおるわ! 追えッ! 追えぇッ!!

    劉備(りゅうび)の首をあげた者は、司空(しくう)閣下に申し上げて莫大(ばくだい)な恩賞を取らすぞ!

    励(はげ)めや、者ども!!


ナレ:劉備(りゅうび)は一軍を率いて力闘(りきとう)に努めたが、そこは諸葛亮(しょかつりょう)の策もあること、防ぎか

   ねた態(てい)をなして、趙雲(ちょううん)と共に退却を始める。

   夏侯惇(かこうとん)はその勢いのまま進軍し、博望坡(はくぼうは)の奥深くへと誘(おび)き寄せられていった

   。

   一方、後方で軍を率いている于禁(うきん)と李典(りてん)達は。


李典:おぅーーいッ、于禁(うきん)! おおぅーーーいッ!!

   待ってくれ!


于禁:!? 李典(りてん)か、何事だ?


李典:夏侯惇(かこうとん)将軍はいかがされた?


于禁:気の早い御方(おかた)だ。馬の駆けるに任せて真っ先に進まれた。

   もう我らは二里(にり)あまりも後ろに置き捨てられている。


李典:危ういぞ、図に乗っては。


于禁:なぜだ?


李典:あまりに猪突猛進すぎる。


于禁:ははは、戦(いくさ)にならぬほど敵兵力が少なすぎるのだ。

   それに、こう進軍がはかどるのは味方が強いだけでなく、敵がもろすぎるか

   らであろう。なぜそう、びくびくするのだ?


李典:いや、びくびくはせぬが…ふと、兵法(へいほう)の初歩を思い出してな。


于禁:…どういう事か?


李典:難路(なんろ)を行くにしたがって狭く、山や川があい迫(せま)って草木の茂(しげ)れるは敵に火計

   ありとして備えるべし。

   …それを今、思い出したのだ。


于禁:むうう…そう言われてみれば、この辺りの地形はまさにそれに当たって

   いる…。

   ! いかん! もし、敵に火計の策あらば将軍の御身(おんみ)が危うい!

   李典(りてん)、お主はここで陣を固め、しばらく四方に備えていてくれ。

   それがしは、将軍に追いついて自重するよう申し上げてくる!


李典:うむ! 取り越し苦労であればよいのだが…。


ナレ:于禁(うきん)はひたすら馬に鞭打って夏侯惇(かこうとん)の元へと急いだ。

   一方、夏侯惇(かこうとん)はというと、逃げた劉備(りゅうび)達を探していた。


夏侯惇:ちィ! まったく逃げ足の速い奴らよ!

    もうどこにも人影が見えんではないか!

    まぁよい、明日こそ息の根を止めてくれるわ!


于禁:【遠くから】

   将軍ーーーッ!


   【二拍】


   【普通に】

   夏侯惇(かこうとん)将軍ーーーッ!!


夏侯惇:む? あれは…後方を束(たば)ねている于禁(うきん)ではないか。

    なぜここに…?

    どうした、于禁(うきん)!


于禁:はあっ、はあっ、す、少し、進むのを自重していただきたく飛んで参りまし

   た。


夏侯惇:なぜだ。


于禁:はっ、李典(りてん)が申すには、このような狭い地形で草木が茂(しげ)っている場合は火計

   に注意するべきと…。


夏侯惇:なに…。

    !ッ! 言われてみればここはその条件に合致(がっち)しているではないか…!


徐庶:【回想】

   諸葛亮(しょかつりょう)、字(あざな)は孔明(こうめい)。道号(どうごう)を臥龍(がりゅう)先生と称し、上(かみ)は天文(てんもん)、下(しも)は地理に精通して

   おります。また、六韜(りくとう)をそらんじ三略(さんりゃく)を胸にたたみ、世の常の兵法家ではな

   いと言えましょう…。


夏侯惇:しまった!

    少し深入りした形がある。なぜもっと早く言わなかったのだ!


ナレ:その時、夏侯惇(かこうとん)の総身(そうみ)の毛穴がぞく、とよだつ。

   長い間戦場を往来していただけに、一陣の殺気のようなものを感じ取ったの

   だ。

   馬を立て直している暇もなく、四方の草木にチラチラと火の粉が見え始める

   。


夏侯惇:こ、これは!!


于禁:や、やはり敵に備えが…!

   将軍、急いで退却を!


夏侯惇:う、うむ! 

    退(ひ)け、退(ひ)けェッ!!


趙雲:夏侯惇(かこうとん)はどこにいる!!

   昼の大言壮語(たいげんそうご)は置き忘れてきたか!

   今こそ趙子龍(ちょうしりゅう)の本気の槍を馳走(ちそう)してやろう!!


夏侯惇:くっ、くそっ、かまうな!

    急いで後方の李典(りてん)と一体になるのだ!


趙雲:逃がすな!

   追い詰めて敵将の首をあげよ!


ナレ:夏侯惇(かこうとん)と于禁(うきん)は命からがらその場を逃(のが)れると李典(りてん)の陣へむけて必死に駆けだ

   した。

   一方、天を赤く焦がす炎は後方で陣を固めていた李典(りてん)の目にも映っていた。


李典:っ! あ、あれは…やはり恐れていた事が…。

   我らは味方の救援に向かう!


   うッッ!!?


李典・関羽役以外:【喚声・SE代用可】


関羽:敵将李典(てきしょうりて)、よくぞこの場で待っていた!

   いざ、この関雲長(かんうんちょう)の偃月刀(えんげつとう)にその首を献ぜられよ!


李典:ば、ばかな、ここもすでに包囲されていたのか!?

   いかん、炎が!


関羽:さあ行くぞ!

   一兵(いっぺい)たりとも逃がすな!


李典:くっ、ここはいったん退いて兵糧(ひょうろう)輸送隊を守らねば…!

   退(ひ)け、退(ひ)くのだ!!


関羽:おおっ、逃げるか李典(りてん)!

   往生際が悪いぞ!!


ナレ:李典(りてん)は急いで自軍のさらに後方の兵糧(ひょうろう)輸送隊の方へ向かった。

   兵糧(ひょうろう)が焼かれれば十万という大軍の死活問題になるからだ。

   だが、辿(たど)り着いた先で彼が見たのは赤々と燃える炎と、それに飲み込まれ焼

   かれていく、兵糧(ひょうろう)の山であった。


李典:な、何と言う事だ…ここにも敵の手が…!

   徐庶(じょしょ)が言っていた事は決して誇張(こちょう)ではなかったのか…!


于禁:李典(りてん)、李典(りてん)ーーーーッ!


李典:!? おお、于禁(うきん)!

   それに夏侯惇(かこうとん)将軍も!

   ご無事でしたか!


夏侯惇:うむ、無事には無事だが…くっ…してやられたわ…!

    兵糧(ひょうろう)まで焼かれたからには、もうこれ以上戦い続けるのは困難だ。

    許昌(きょしょう)の都まで撤退するほかあるまい。


于禁:そうですな…うッ!? あ、あれは!


張飛:おうおう、やっと逆賊曹操(ぎゃくぞくそうそう)の手下どもがここまで逃げのびてきたか!

   待ちかねたぜ!

   さあ、この燕人張飛(えんひとちょうひ)様が相手してやるぞ!


夏侯惇:い、いかん、これではまともな戦闘にならん。

    退(ひ)けっ、退(ひ)けええッ!!


張飛:待て! 一戦(いっせん)も交(まじ)えずに逃げる気か! 曹操(そうそう)軍第一の将の名が聞いて呆(あき)れる

   ぞ!


夏侯惇:ぐ、ぐぐぐぬぬ……!


李典:その手には乗らん! さ、将軍!


于禁:くそっ、張飛(ちょうひ)! この借りはいずれ必ず返す!!


張飛:はっははは! 笑え笑え! 野ネズミがそろって逃げて行くわ!

   はっははははは!!


ナレ:博望坡(はくぼうは)は一瞬にして阿鼻叫喚(あびきょうかん)の渦(うず)と化した。

   夏侯惇(かこうとん)ら諸将は兵糧(ひょうろう)まで焼き払われたのを見て戦意を完全に喪失。

   峰(みね)ごしに逃げのびていったが、夏侯蘭(かこうらん)は張飛(ちょうひ)に出会って討ち取られ、

   韓浩(かんこう)は炎の林に追い込まれて全身大火傷を負ってしまった。

   一夜明けて、火計の後もまだ生々しい博望坡(はくぼうは)。


関羽:…これほど見事に行くとはな。


張飛:死者だけで三万は越えてるぞ。


関羽:このぶんでは、負傷者も数万にのぼるだろうな。


張飛:まず全滅に近い。

   戦利品も莫大(ばくだい)な数だ。

   これだけでかい勝利を収めたのも、俺達の調練(ちょうれん)あればこそだな!


関羽:それもあるが…この作戦は諸葛亮(しょかつりょう)の指揮によるものだから、彼の功績は

   疑うべくもない。


張飛:む、むむむ…計略は図に当たった。

   彼奴(きゃつ)もちょっぴり、味をやりおる。


関羽:む、あれは…。


張飛:諸葛亮(しょかつりょう)…いや、軍師か。


関羽:軍師、ご報告いたします。

   曹操(そうそう)軍死者三万、負傷者数万にのぼるものと見られます。

   まず、壊滅と申しても言い過ぎではありますまいかと。


諸葛亮:御苦労でした。

    これも我が君の御徳(おんとく)と、皆の忠誠なる武勇によるところです。


劉備:みな、よくやってくれた。

   軍師の策と皆の武勇が合わさり、大勝利を収める事が出来た。

   さあ、城へ戻ろう!


ナレ:意気揚々と劉備(りゅうび)軍は新野(しんや)城へ引き揚げ、盛大な祝勝の宴が催される。

   その賑やかさは、笑い声が天地にこだまし、月も震えるかと思われた。


関羽:おう翼徳(よくとく)、飲んでるか?


張飛:おおよ!

   いやあ、こんな愉快な夜はいつ以来かな。


関羽:今夜は遠慮はいらんぞ、どんどんやれ!


張飛:曹操(そうそう)め、いつでも相手になってやるぜ!

   わっははははは!!


劉備:軍師、こんな大勝利は久しぶりだ。

   礼を言うぞ。


諸葛亮:いえ、ご安心なさるのはまだ早いです。

    先に曹仁(そうじん)が、そして今また夏侯惇(かこうとん)が敗れた以上、

    次は必ず曹操(そうそう)みずから乗り出してくるでしょう。


劉備:曹操(そうそう)が…!


諸葛亮:はい、間違いなく攻めて来るでしょう。

    問題はその時です。


劉備:曹操(そうそう)みずから攻めてくるようでは容易ならん事になる。

   河北(かほく)の雄(ゆう)、袁紹(えんしょう)でさえ彼に敗れた。

   北方の地を制圧した時の勢いでこの南方に来られたら…。


諸葛亮:この新野(しんや)城では、ひとたまりもありますまい。


劉備:では、どうすればよいであろうか?


諸葛亮:この荊州(けいしゅう)しかありませぬ。

    太守(たいしゅ)・劉表(りゅうひょう)は重病、最近は危篤(きとく)が続いています。

    ここで我が君が荊州(けいしゅう)の豊富な軍需物資(ぐんじゅぶっし)を借りて策を立てれば曹操(そうそう)と互角に

    戦えましょう。


劉備:そ、それは確かに良い計だが、余(よ)が家臣共々こんにちあるのは、劉表(りゅうひょう)のおか

   げだ。

   その恩人が危うい時に付け込んで、国を奪うような事は出来ぬ。


諸葛亮:小さき感情は捨てて、大義に生きねばなりませぬ。

    今、荊州(けいしゅう)を取っておかねば、後日かならず後悔します。


劉備:だが、義に欠けるような事は出来ぬ。


諸葛亮:では、曹操(そうそう)の大軍が攻めてきたら何となされます。


劉備:…いかなる災いにあおうとも、恩知らずと罵(ののし)られるよりはましである。


諸葛亮:…致し方ありませぬな。


ナレ:劉備(りゅうび)が酔えぬ勝利の美酒を傾けていた頃、許昌(きょしょう)の都には敗残の夏侯惇(かこうとん)らが

   帰りついていた。


夏侯惇:…わしを縛れ。


于禁:えっ?


夏侯惇:曹司空(そうしくう)閣下の兵を預かりながらこんな惨敗(ざんぱい)を喫したのだ。

    堂々と拝謁(はいえつ)などできんわ。


李典:わ、わかりました…。


   【二拍】


   これで良いでしょうか?


夏侯惇:うむ。

    夏侯元譲(かこうげんじょう)、司空(しくう)閣下に恥を忍んでお目通り致します!


曹操:夏侯惇(かこうとん)か、その姿はどうした。


夏侯惇:はっ…、大口を叩いての大惨敗、司空(しくう)閣下に会わせる顔もありませぬ。

    どうか、ご存分に成敗(せいばい)下さいませ。


曹操:負け戦(いくさ)の詳細は聞いた。

   幼き頃より兵法(へいほう)を習い、数多くの戦場を駆け抜けた百戦錬磨の汝(なんじ)が、

   狭き道に火攻めが必ずある事を気付けなかったとはな。


夏侯惇:何を申し上げても、弁解になります。


曹操:【苦笑】

   縄を解(ほど)いてやれ。


夏侯惇:えっ…?


曹操:汝(なんじ)も優れた将だ。

   後日の機会に、今日の恥をそそげ。


夏侯惇:はっ、ははーーーーーッ!!


曹操:よい、下がって疲れを癒せ。

   …徐庶(じょしょ)。


徐庶:はっ。


曹操:出陣前のそちの話、正直言って余(よ)もいくぶん身内のひいき目があるのでは

   ないかと疑っておったが…、これほど鮮やかにやられると、認めざるを

   えぬな。


徐庶:はっ。

   決して侮(あなど)ってよい相手ではございませぬ。


曹操:しかし、諸葛亮(しょかつりょう)とやら…許せぬ。

   よし、次は余(よ)みずからが出馬する!

   この機に南方をも手に入れてしまうのだ!


ナレ:その後、諸葛亮(しょかつりょう)の予見(よけん)通り曹操(そうそう)は本格的に南方攻略(なんぽうこうりゃく)の軍を興(おこ)す。

   実数(じっすう)八十万を百万と号(ごう)し、かつてない規模の軍を編成したことからも、彼の

   本気がうかがえる。

   対する劉備(りゅうび)は義理人情に悶(もだ)えて未(いま)だ荊州(けいしゅう)を取ることをためらう。

   そうしている間にも刻一刻(こくいっこく)、曹操(そうそう)の大軍は野を浸し山を覆って迫りくるので

   あった。



END





しょかちゃん…じゃない、三国志演義における諸葛亮の初陣である博望坡の戦いを声劇台本化してみました。

楽しんでいただけたなら幸いです。

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