三国志演義・博望坡初陣戦~水魚の交わり~
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
三国志演義・博望坡初陣戦~水魚の交わり~
作者:霧夜シオン
所要時間:約30分
必要演者数:6~10人
(6:0)
(7:1)
(8:0)
(8:1)
(9:0)
(9:1)
(10:0)
※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
●登場人物
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末孫にして漢の景帝の玄孫。
諸葛亮と言う傑物を家臣に得るが、未だその勢力は弱い。
諸葛亮・♂:字は孔明。
中国史上屈指の名宰相として名を残しているが、現在は弱小と言って
いい劉備軍の軍師という位置づけ。
三顧の礼をもって劉備に仕え、本作では初めての実戦とな
る。
関羽・♂:字は雲長。
美髯公とあだ名される長い髯の持ち主で、知勇に優れた名将。
義に厚く、上に不遜で下に慈悲深い。
張飛・♂:字は翼徳。
一丈八尺の蛇矛を軽々と振り回す酒を愛する豪傑。劉備の義弟。
酒による失敗も多いが、その武勇は劉備軍の中でもトップクラス。
趙雲・♂:字は子龍。
関羽、張飛と並ぶ武勇と胆力の持ち主。袁紹、公孫瓚を経て劉備に仕え
る。現在では劉備軍の武の要の一人として活躍している。
夏侯惇・♂:字は元譲。
曹操の旗揚げ時から付き従っている隻眼の将軍。劉備が
新野で兵を養っているのを危険視し、曹操に願い出て十万の軍を率い
、侵攻する。
于禁・♂:字は文則。
非常に軍律に厳しい厳格な性格で、曹操軍初期のころから参画し、着実
に功績をあげてきた叩き上げの将軍。今回は夏侯惇の副将の一人として
参陣している。
李典・♂:字は曼成。
曹操軍古参の将軍の一人。思慮深く、主に副将の立場にいて、主将の暴
走を止める役回りが多い。今回は夏侯惇の副将の一人として参陣してい
る。
曹操・♂:字は孟徳。
漢の相国・曹参が末裔を名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の
姦雄」と評された、兵法、政治、果ては詩にまで名を残す“破格の
英雄”。人材収集癖があり、惚れこむと例え敵でも味方にせずには
おかない性質。風雲に乗じて漢の皇帝・献帝を擁し、司空の地位に就
く。自分に刃向かう者を朝敵の名のもとに次々と従わせ、あるいは
滅ぼしていく。四十代後半~五十代。
徐庶・♂:字は元直。
もと劉備の軍師だが、曹操に母親を人質に取られて偽手紙で誘き寄
せられ、失望した母の自害によってそのまま曹操に仕えることにな
る。しかし、決して劉備の為にならないような策を献策しないと自
身に誓っている。
劉備軍兵士・♂♀不問:劉備とその家臣たちの配下。
ナレ・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いしま
す。
・キャスト例
●演じ分け得意な方向け
劉備・于禁:(25+17)
諸葛亮・徐庶:(22+8)
関羽・ナレ:(26+16)
張飛・李典:(25+17)
趙雲・曹操・劉備軍兵士:(12+14+3)
夏侯惇:(38)
●人数少なめの兼ね役版
劉備:(25)
諸葛亮:(22)
関羽:(26)
張飛:(28)
趙雲・曹操:(12+14)
夏侯惇・劉備軍兵士:(38+3)
于禁・ナレ:(17+16)
李典・徐庶:(17+8)
●台詞バランス型(推奨)
劉備:(25)
諸葛亮:(22)
関羽:(26)
張飛:(28)
趙雲・徐庶:(12+8)
夏侯惇:(38)
于禁:(17)
李典:(17)
曹操・劉備軍兵士:(14+3)
ナレ:(16)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:諸葛亮、字は孔明。道号は臥龍。
三顧の礼を経て、劉備はついに天下の賢人を迎えることに成功する。
その喜びようは、食事、睡眠を共にし、旗上げ当時から従ってきた者
達よりも上座に据えて教えを乞い、そのため陣営の中に面白くない空
気が醸されてくるほどであった。
張飛:…どうも面白くねえ。
関羽:なんだ、翼徳。
機嫌が悪いようだが、何かあったのか?
張飛:兄貴が知らないはずはねえ。
諸葛亮のことだ。
関羽:ああ…彼が来てからの兄者の行動は、ちと度が過ぎるように思うな。
張飛:だろ?
今まで生死を共にしてきた家臣達からも不満の声が上がってる。
このままじゃ皆の心が離れていってしまうぞ。
関羽:うむ、その恐れはある。
…よし、今から兄者をお諫めしに行こう。
張飛:おう、そうしよう。
ったく、奴が来てからみんなおかしくなっちまったぜ。
ナレ:二人は連れ立って劉備の居間へ赴いた。
各々、個人的な嫉妬もあったのだろうが、それよりも集団としての
劉備軍の崩壊を恐れたのである。
張飛:我が君、少しよろしいでしょうか。
劉備:おお、雲長に翼徳、いかがしたのだ?
関羽:…我が君は少し、人に惚れこみすぎるのではないかと思いまして。
劉備:孔明軍師のことを言っているのか?
張飛:そうです!
彼奴にいったい、どれほどのものがあるって言うんです?
我らはまだその才能も手柄もまだ見た事がありません!
劉備:いずれわかる。
関羽:しかし…。
劉備:国を造るには、智と勇が無ければならぬ。
勇はお前達、そして智は孔明だ。
どちらが欠けてもならんのだ。
余が孔明という軍師を得た事は、魚が水を得たようなものなのだ。
張飛:ッそ、そこまで…。
劉備:だから、孔明軍師のことを悪く言わないでやってくれ。
関羽:…致し方ございませぬ。
我が君にそうまで言われては、我らには返す言葉がありません。
翼徳、行こう。
張飛:お、おう…。
【三拍】
こりゃ駄目だ。恋の病みたいなもんだ。
今は何を言っても無駄だぞ、兄貴。
関羽:うむ…しかし、このままではいかんな…。
張飛:【唸る】
! おい、見ろ、水だ。
関羽:なに、水?
張飛:諸葛亮だよ!
ったく、おーおー水が来た、水が流れていきやがる、ってか!
関羽:なるほど、水か。
確かに、その所作は水のようだ。
得意だという知略も、そうだといいのだがな。
諸葛亮:……。
ナレ:いっぽう、許昌の都。
一度は劉備の新野に侵攻し大敗した曹操だったが、それで南征の野望がしぼ
むはずもなく、諸将と連日協議を重ねていた。
その席上、夏侯惇が発言する。
夏侯惇:現在、新野の劉備は諸葛亮とかいう者を軍師とし、しきりに兵馬を鍛えて
いるとか。
曹操:うむ、報告によればそのようだな。
夏侯惇:このまま捨て置いては、間違いなく後日の災いになりはしますまいか。
曹操:今のうちに邪魔石を取り除けと申すのか。
夏侯惇:はい。
荀イク殿は諸葛亮を一筋縄ではいかないと仰られていたが、それがしに兵
をお与えくだされば、必ずや新野を踏み潰してご覧に入れます!
徐庶:お待ちください、夏侯惇将軍。
諸葛亮は決して侮れませんぞ。
夏侯惇:むっ、徐庶か。
汝も荀イク殿と同意見だというのか。
曹操:おお、そちはつい先日まで荊州におったな。
いったい諸葛亮とは、どのような人物なのだ?
徐庶:諸葛亮、字は孔明。
道号を臥龍先生と称し、上は天文、下(しも地理に精通しております。
また、六韜をそらんじ三略を胸にたたみ、世の常の兵法家ではないと
言えましょう。
曹操:そちも我が一族の曹仁を手玉に取った軍師であった。
その才を比較してどうか?
徐庶:比べ物になりませぬ。
彼が夜空に輝く月ならば、それがしは地上を舞っている蛍にすぎないでしょ
う。
曹操:ぬうう、それほどか。
徐庶:それがしごときでは、とうてい彼には及びませぬ。
夏侯惇:何を馬鹿な! 諸葛亮も人の子であろう!
それがしの目から見れば塵芥に等しい。
しかも実戦の経験すらない、くちばしの黄色いヒヨコではないか!
司空閣下、迷われることはありませぬ!
もし諸葛亮めに敗れたなら、この首を差し出します!
曹操:よし! その意気を買うぞ、夏侯惇!
そちに十万の兵を預ける。
新野へ侵攻し、劉備らを滅ぼしてくるがよい!
夏侯惇:ははっ!
曹操:副将に李典、于禁、配下に韓浩、夏侯蘭を付ける。
ただちに出陣するのだ!
夏侯惇:はっ、吉報をお待ちくださいませ!
徐庶:…。
(愚かな。慢心は破滅の元だぞ、夏侯惇殿…。)
ナレ:曹操は出征当日、庁舎の門前で馬にまたがって見送り、夏侯惇は意気揚々と
許昌を出陣した。
【二拍】
曹操軍きたる。
曹操軍南下す。
注進の早馬は、次々と新野城の門をくぐった。
劉備軍兵士:ご注進、ご注進!
我が君、一大事でございます!
曹操が再びこの新野に侵攻を開始しました!
劉備:なにッ!
して、敵軍の編成は?
劉備軍兵士:夏侯惇を総大将とし、副将に于禁、李典、その数、およそ十万!!
劉備:ご苦労、それと軍師を呼んでくれ。
…こんな小城では十万の大軍は防ぎきれん。
雲長、翼徳、いかがしたものであろうか。
張飛:いや、実に大変な野火ですな。
関羽:水を向けて消したらよろしかろうと思います。
劉備:! お前達はまだそのような些末な感情に囚われているのか。
智は孔明に、勇はお前達にくれぐれも頼むぞ、良いか!
関羽:ははっ。
…翼徳、行こう。
張飛:おう。
さて、奴がどうするか見ものだな!
【三拍】
諸葛亮:お呼びでございますか、我が君。
劉備:おお、軍師。
曹操がこの新野へ十万の軍を差し向けたそうだ。
諸葛亮:やはり来ましたか。しかし、ご心配には及びませぬ。
それよりも、問題は我が軍内部の方にあります。
おそらく関羽殿、張飛殿の二人が私の命令に従わないでしょう。
作戦にそむく者がいれば、敗北は必然です。
劉備:実に困ったものだ…どうしたものであろうか?
諸葛亮:恐れながら、我が君の剣と印を私にお貸しください。
劉備:それだけで良いのか?
諸葛亮:はい、諸将をお集め下さい。
ナレ:やがて、招集に応じて集まって来た諸将が左右に居並ぶ。
諸葛亮は劉備の隣に座っていたが、厳然と立ち上がると声を張った。
諸葛亮:すでに皆も聞いていることと思う。
曹操が夏侯惇を大将とし、十万の兵を与えてこの新野に侵攻を開始した。
戦の勝敗は諸将の働きにかかっている。
…それではこれより、策を申し渡す!
この新野より九十里の外にある、博望坡と呼ばれる地を決戦場とする。
そこは左に予山と称する山と、右に安林と言う林がある。
趙雲:その地に拠って戦うのですな?
諸葛亮:うむ。
まず関羽殿は兵千五百を率い、予山に潜んでいただく。
曹操軍が来たら最初はやり過ごし、敵の後陣を叩いてから軍需物資、兵糧
に火を放ってもらいたい。
関羽:……は。
諸葛亮:張飛殿も同じく千五百の兵を率いて安林
に伏せていただく。
火の手が上がったら敵の中軍へ突撃し、粉砕していただきたい。
張飛:ッ……。
諸葛亮:また関平殿、劉封殿はそれぞれ兵五百を率い、硫黄煙硝を携えて博望坡の
両面から敵を火に包んでもらいたい。
そして、趙雲殿!
趙雲:おうっ!
諸葛亮:趙雲殿には正面から突撃していただく。
趙雲:おお、先陣ですな!
腕が鳴ります!
諸葛亮:そうではあるが、個人の戦功は慎んでもらいたい。
敵と戦闘を開始したらわざと負けたふりをし、曹操軍を深く誘い込むのが
今回の任務であると心得ていただきたい。
趙雲:なるほど、敵の慢心を誘うのですな。
承知しました。
張飛:いやいや、お指図、いちいちよくわかった。
ところで、軍師自身はどこで戦われる?
諸葛亮:我が君にも一軍を率いてもらい、曹操軍を更に油断させるため、敵の正面
に立ちふさがっていただーー
張飛:【↑の語尾に被せて】
違うッ!!
軍師はどこで戦うのかと聞いているのだ!
諸葛亮:私はここにあって新野を守る。
関羽:なに、ここにいて…戦場には出ない、だと…?
張飛:うわっははははははははは!!!
聞いたか、諸将!
我が君をはじめ、我々には遠く城を出て戦えと言っておきながら、おのれは
戦場には出ず、城を守っているという。
これを笑わずにおれるか! 諸将、笑え!
はっはははははは!!
諸葛亮:ここに我が君から預けられた剣と印があるのが見えぬか!
命令に背く者は斬る!
軍律を乱す者も同様である!!
張飛:なにィ!?
面白い!幾度となく戦場を駆け抜けたこの張飛様を、汝のような若造に斬
れるか!!
劉備:やめよ!! いま内輪もめしている時ではない!
関羽:翼徳、我が君の剣と印の前で逆らうのは、我が君へ叛逆するのと同じことに
なる。
張飛:う、ぬうう…!
関羽:【小声で】
今回だけは諸葛亮の計略が当たるかどうか、試みに従ってみようではないか
。
張飛:ちっ、しょうがねえ…。
兄貴がそういうのなら試してみるとするか…。
【諸葛亮へ向かって】
この計が外れたら、二度とお前の命令は聞かん!
…我が隊は安林へ向けて出陣するぞ!
関羽:我が隊は予山へ向かう!
では我が君、ただちに作戦に移ります。
劉備:うむ。皆も頼んだぞ!
劉備・ナレ役以外全員:ははっ!【SE代用可】
ナレ:こうして表面上は皆、それぞれの持ち場へ向かっていったが、諸葛亮の指揮
を危ぶんでいたのは関羽、張飛だけではなかった。
時、建安十三年の秋、七月。
曹操軍の夏侯惇は、一路南下してついに博望坡の手前まで達していた。
自らわずかな供を連れて偵察し、敵の陣容を眺めてから帰陣したが、いきな
り馬上で笑い出した。
夏侯惇:うわっはははは!! なんだあの貧弱な陣容は!
徐庶めが我が君の御前で諸葛亮の才知を讃え、まるで神通力でもあるかの
ような事を言っておったが、あれでは羊をけしかけて狼と戦わせるような
ものではないか!
于禁:将軍…確かにそうかもしれませんが、油断は禁物でございますぞ。
李典:そうです。
司空閣下の戦いを常に間近でご覧なされてきた、将軍らしからぬお言葉かと
存じます。
夏侯惇:わかっておる!
だがこのぶんでは彼奴らを踏み潰すのも、さほど時間はかかるまい。
出陣だ!
【二拍】
一気に突き崩せーーーッッ!!
夏侯惇・趙雲役以外全員:【喚声・SE代用可】
劉備軍兵士:ちょ、趙雲将軍!
曹操軍が現れました!
こちらに向けて突撃してきます!
趙雲:来たか…よしっ。
我らの任は曹操軍を深く誘い込む事だ!
適当に戦い、わざと劣勢なふりをして退却するのだ!
行くぞ!
趙雲・夏侯惇役以外全員:【喚声・SE代用可】
夏侯惇:劉備軍の雑魚共に、戦というものを教えてくれるわ!!
そこにいるのは敵将と見た!
夏侯元譲これにあり、その首をおいて行けィ!!
趙雲:何をッ!
この常山の趙子龍の槍が受けられるか!
夏侯惇:ははは、汝が趙雲か!
威勢だけは一人前だが、それで討てるとでも思っているのか!
そりゃあああッ!!
趙雲:ッぬう! やるな!
ならばこれはどうだ!!
夏侯惇:はッ! なんだそのへなへな槍は!!
槍の使い方を冥土の土産に教えてくれるわ!!
おおぉぉおおぅぅッッ!!
趙雲:ぐううッ! さすがは夏侯惇、手ごわい…!
勝負はあずけた!!
はッ!
夏侯惇:おおっ、逃げるか!
口ほどもない奴め!!
その首を置いて行けィ!!
ナレ:十数合打っては逃げ、打っては逃げ。
趙雲はわざと挑発しながら夏侯惇の慢心をあおっていく。
そしていつか、博望坡の地を踏みかけていた。
夏侯惇:待てィ、腰抜けめ!!
また逃げるか!
恥を忘れたな!?
于禁:お待ちを、将軍!
夏侯惇:何だッ、于禁!
邪魔をするな!
趙雲が逃げてしまうではないか!
于禁:いえ、どうも怪しいです!
戦っては逃げ、戦っては逃げている…
これは誘き寄せようとしているのでは?
夏侯惇:伏兵があるなら蹴散らすまでだ!
今の我が軍の勢いを止められる者など誰もおらぬわ!
李典:しかし、あまりにもろすぎます!
ここらでいったん、陣を整えられては…!
李典、劉備役以外全員:【喚声・SE代用可】
劉備:敵は策に落ちたぞ!
皆、突撃せよ!
夏侯惇:ふん、この伏兵が敵の策と言うものであろう!
小賢しき虫ケラどもめ!
それッ、一息に押し潰してやれィ!!
夏侯惇・劉備役以外全員:【喚声・SE代用可】
夏侯惇:劉備ッ!!
天下を乱し、曹司空閣下を阻まんとする賊将め!
大人しく夏侯元譲が槍を受けよ!!
劉備:この圧…さすがは曹操軍第一の将軍!
だが、討たれてやるわけにはいかぬ!
趙雲:我が君には指一本触れさせん!
はああッ!
夏侯惇:どけィ! 汝ごときは相手にならぬわ!
者ども、包囲しろッ!
劉備:くっ…曹操軍の精鋭め、なんという精強さだ…!
趙雲:我が君! これ以上は支えきれませぬ!
いったん兵を退くべきかと!
劉備:うむ。
全軍、撤退せよ!!
夏侯惇:おおっ、ネズミの主従が逃げおるわ! 追えッ! 追えぇッ!!
劉備の首をあげた者は、司空閣下に申し上げて莫大な恩賞を取らすぞ!
励めや、者ども!!
ナレ:劉備は一軍を率いて力闘に努めたが、そこは諸葛亮の策もあること、防ぎか
ねた態をなして、趙雲と共に退却を始める。
夏侯惇はその勢いのまま進軍し、博望坡の奥深くへと誘き寄せられていった
。
一方、後方で軍を率いている于禁と李典達は。
李典:おぅーーいッ、于禁! おおぅーーーいッ!!
待ってくれ!
于禁:!? 李典か、何事だ?
李典:夏侯惇将軍はいかがされた?
于禁:気の早い御方だ。馬の駆けるに任せて真っ先に進まれた。
もう我らは二里あまりも後ろに置き捨てられている。
李典:危ういぞ、図に乗っては。
于禁:なぜだ?
李典:あまりに猪突猛進すぎる。
于禁:ははは、戦にならぬほど敵兵力が少なすぎるのだ。
それに、こう進軍がはかどるのは味方が強いだけでなく、敵がもろすぎるか
らであろう。なぜそう、びくびくするのだ?
李典:いや、びくびくはせぬが…ふと、兵法の初歩を思い出してな。
于禁:…どういう事か?
李典:難路を行くにしたがって狭く、山や川があい迫って草木の茂れるは敵に火計
ありとして備えるべし。
…それを今、思い出したのだ。
于禁:むうう…そう言われてみれば、この辺りの地形はまさにそれに当たって
いる…。
! いかん! もし、敵に火計の策あらば将軍の御身が危うい!
李典、お主はここで陣を固め、しばらく四方に備えていてくれ。
それがしは、将軍に追いついて自重するよう申し上げてくる!
李典:うむ! 取り越し苦労であればよいのだが…。
ナレ:于禁はひたすら馬に鞭打って夏侯惇の元へと急いだ。
一方、夏侯惇はというと、逃げた劉備達を探していた。
夏侯惇:ちィ! まったく逃げ足の速い奴らよ!
もうどこにも人影が見えんではないか!
まぁよい、明日こそ息の根を止めてくれるわ!
于禁:【遠くから】
将軍ーーーッ!
【二拍】
【普通に】
夏侯惇将軍ーーーッ!!
夏侯惇:む? あれは…後方を束ねている于禁ではないか。
なぜここに…?
どうした、于禁!
于禁:はあっ、はあっ、す、少し、進むのを自重していただきたく飛んで参りまし
た。
夏侯惇:なぜだ。
于禁:はっ、李典が申すには、このような狭い地形で草木が茂っている場合は火計
に注意するべきと…。
夏侯惇:なに…。
!ッ! 言われてみればここはその条件に合致しているではないか…!
徐庶:【回想】
諸葛亮、字は孔明。道号を臥龍先生と称し、上は天文、下は地理に精通して
おります。また、六韜をそらんじ三略を胸にたたみ、世の常の兵法家ではな
いと言えましょう…。
夏侯惇:しまった!
少し深入りした形がある。なぜもっと早く言わなかったのだ!
ナレ:その時、夏侯惇の総身の毛穴がぞく、とよだつ。
長い間戦場を往来していただけに、一陣の殺気のようなものを感じ取ったの
だ。
馬を立て直している暇もなく、四方の草木にチラチラと火の粉が見え始める
。
夏侯惇:こ、これは!!
于禁:や、やはり敵に備えが…!
将軍、急いで退却を!
夏侯惇:う、うむ!
退け、退けェッ!!
趙雲:夏侯惇はどこにいる!!
昼の大言壮語は置き忘れてきたか!
今こそ趙子龍の本気の槍を馳走してやろう!!
夏侯惇:くっ、くそっ、かまうな!
急いで後方の李典と一体になるのだ!
趙雲:逃がすな!
追い詰めて敵将の首をあげよ!
ナレ:夏侯惇と于禁は命からがらその場を逃れると李典の陣へむけて必死に駆けだ
した。
一方、天を赤く焦がす炎は後方で陣を固めていた李典の目にも映っていた。
李典:っ! あ、あれは…やはり恐れていた事が…。
我らは味方の救援に向かう!
うッッ!!?
李典・関羽役以外:【喚声・SE代用可】
関羽:敵将李典、よくぞこの場で待っていた!
いざ、この関雲長の偃月刀にその首を献ぜられよ!
李典:ば、ばかな、ここもすでに包囲されていたのか!?
いかん、炎が!
関羽:さあ行くぞ!
一兵たりとも逃がすな!
李典:くっ、ここはいったん退いて兵糧輸送隊を守らねば…!
退け、退くのだ!!
関羽:おおっ、逃げるか李典!
往生際が悪いぞ!!
ナレ:李典は急いで自軍のさらに後方の兵糧輸送隊の方へ向かった。
兵糧が焼かれれば十万という大軍の死活問題になるからだ。
だが、辿り着いた先で彼が見たのは赤々と燃える炎と、それに飲み込まれ焼
かれていく、兵糧の山であった。
李典:な、何と言う事だ…ここにも敵の手が…!
徐庶が言っていた事は決して誇張ではなかったのか…!
于禁:李典、李典ーーーーッ!
李典:!? おお、于禁!
それに夏侯惇将軍も!
ご無事でしたか!
夏侯惇:うむ、無事には無事だが…くっ…してやられたわ…!
兵糧まで焼かれたからには、もうこれ以上戦い続けるのは困難だ。
許昌の都まで撤退するほかあるまい。
于禁:そうですな…うッ!? あ、あれは!
張飛:おうおう、やっと逆賊曹操の手下どもがここまで逃げのびてきたか!
待ちかねたぜ!
さあ、この燕人張飛様が相手してやるぞ!
夏侯惇:い、いかん、これではまともな戦闘にならん。
退けっ、退けええッ!!
張飛:待て! 一戦も交えずに逃げる気か! 曹操軍第一の将の名が聞いて呆れる
ぞ!
夏侯惇:ぐ、ぐぐぐぬぬ……!
李典:その手には乗らん! さ、将軍!
于禁:くそっ、張飛! この借りはいずれ必ず返す!!
張飛:はっははは! 笑え笑え! 野ネズミがそろって逃げて行くわ!
はっははははは!!
ナレ:博望坡は一瞬にして阿鼻叫喚の渦と化した。
夏侯惇ら諸将は兵糧まで焼き払われたのを見て戦意を完全に喪失。
峰ごしに逃げのびていったが、夏侯蘭は張飛に出会って討ち取られ、
韓浩は炎の林に追い込まれて全身大火傷を負ってしまった。
一夜明けて、火計の後もまだ生々しい博望坡。
関羽:…これほど見事に行くとはな。
張飛:死者だけで三万は越えてるぞ。
関羽:このぶんでは、負傷者も数万にのぼるだろうな。
張飛:まず全滅に近い。
戦利品も莫大な数だ。
これだけでかい勝利を収めたのも、俺達の調練あればこそだな!
関羽:それもあるが…この作戦は諸葛亮の指揮によるものだから、彼の功績は
疑うべくもない。
張飛:む、むむむ…計略は図に当たった。
彼奴もちょっぴり、味をやりおる。
関羽:む、あれは…。
張飛:諸葛亮…いや、軍師か。
関羽:軍師、ご報告いたします。
曹操軍死者三万、負傷者数万にのぼるものと見られます。
まず、壊滅と申しても言い過ぎではありますまいかと。
諸葛亮:御苦労でした。
これも我が君の御徳と、皆の忠誠なる武勇によるところです。
劉備:みな、よくやってくれた。
軍師の策と皆の武勇が合わさり、大勝利を収める事が出来た。
さあ、城へ戻ろう!
ナレ:意気揚々と劉備軍は新野城へ引き揚げ、盛大な祝勝の宴が催される。
その賑やかさは、笑い声が天地にこだまし、月も震えるかと思われた。
関羽:おう翼徳、飲んでるか?
張飛:おおよ!
いやあ、こんな愉快な夜はいつ以来かな。
関羽:今夜は遠慮はいらんぞ、どんどんやれ!
張飛:曹操め、いつでも相手になってやるぜ!
わっははははは!!
劉備:軍師、こんな大勝利は久しぶりだ。
礼を言うぞ。
諸葛亮:いえ、ご安心なさるのはまだ早いです。
先に曹仁が、そして今また夏侯惇が敗れた以上、
次は必ず曹操みずから乗り出してくるでしょう。
劉備:曹操が…!
諸葛亮:はい、間違いなく攻めて来るでしょう。
問題はその時です。
劉備:曹操みずから攻めてくるようでは容易ならん事になる。
河北の雄、袁紹でさえ彼に敗れた。
北方の地を制圧した時の勢いでこの南方に来られたら…。
諸葛亮:この新野城では、ひとたまりもありますまい。
劉備:では、どうすればよいであろうか?
諸葛亮:この荊州しかありませぬ。
太守・劉表は重病、最近は危篤が続いています。
ここで我が君が荊州の豊富な軍需物資を借りて策を立てれば曹操と互角に
戦えましょう。
劉備:そ、それは確かに良い計だが、余が家臣共々こんにちあるのは、劉表のおか
げだ。
その恩人が危うい時に付け込んで、国を奪うような事は出来ぬ。
諸葛亮:小さき感情は捨てて、大義に生きねばなりませぬ。
今、荊州を取っておかねば、後日かならず後悔します。
劉備:だが、義に欠けるような事は出来ぬ。
諸葛亮:では、曹操の大軍が攻めてきたら何となされます。
劉備:…いかなる災いにあおうとも、恩知らずと罵られるよりはましである。
諸葛亮:…致し方ありませぬな。
ナレ:劉備が酔えぬ勝利の美酒を傾けていた頃、許昌の都には敗残の夏侯惇らが
帰りついていた。
夏侯惇:…わしを縛れ。
于禁:えっ?
夏侯惇:曹司空閣下の兵を預かりながらこんな惨敗を喫したのだ。
堂々と拝謁などできんわ。
李典:わ、わかりました…。
【二拍】
これで良いでしょうか?
夏侯惇:うむ。
夏侯元譲、司空閣下に恥を忍んでお目通り致します!
曹操:夏侯惇か、その姿はどうした。
夏侯惇:はっ…、大口を叩いての大惨敗、司空閣下に会わせる顔もありませぬ。
どうか、ご存分に成敗下さいませ。
曹操:負け戦の詳細は聞いた。
幼き頃より兵法を習い、数多くの戦場を駆け抜けた百戦錬磨の汝が、
狭き道に火攻めが必ずある事を気付けなかったとはな。
夏侯惇:何を申し上げても、弁解になります。
曹操:【苦笑】
縄を解いてやれ。
夏侯惇:えっ…?
曹操:汝も優れた将だ。
後日の機会に、今日の恥をそそげ。
夏侯惇:はっ、ははーーーーーッ!!
曹操:よい、下がって疲れを癒せ。
…徐庶。
徐庶:はっ。
曹操:出陣前のそちの話、正直言って余もいくぶん身内のひいき目があるのでは
ないかと疑っておったが…、これほど鮮やかにやられると、認めざるを
えぬな。
徐庶:はっ。
決して侮ってよい相手ではございませぬ。
曹操:しかし、諸葛亮とやら…許せぬ。
よし、次は余みずからが出馬する!
この機に南方をも手に入れてしまうのだ!
ナレ:その後、諸葛亮の予見通り曹操は本格的に南方攻略の軍を興す。
実数八十万を百万と号し、かつてない規模の軍を編成したことからも、彼の
本気がうかがえる。
対する劉備は義理人情に悶えて未だ荊州を取ることをためらう。
そうしている間にも刻一刻、曹操の大軍は野を浸し山を覆って迫りくるので
あった。
END
しょかちゃん…じゃない、三国志演義における諸葛亮の初陣である博望坡の戦いを声劇台本化してみました。
楽しんでいただけたなら幸いです。