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1−1 召喚勇者たち

 全く見覚えのない大理石の部屋、光の出所だった1年A組の生徒たち、地面に描かれたいかにもな魔法陣、周囲を固める西洋鎧の兵士たち…そして、眼前にはいかにも西洋貴族ですと言った風情の豪奢なローブを身に纏った男達が数名。


 「このような形でお呼びだてしてしまい申し訳ない」


 そんな形式だけの謝罪から切り出された話は、これまたファンタジー創作物ではありきたりのものだった。


 ・曰く、ここはゴルドナイトと呼ばれる異世界国家で、魔王による侵略攻撃を受けている。

 ・生徒たちは召喚された勇者で、特別な力を持っている。魔王討伐に力を貸して欲しい。


 「特別な力?」


 クラス担任の石狩冬香いしかりとうかが代表して話を進行する。黒髪ショートに眼鏡が似合う彼女はまだ20代半ばの若い教師だが、親しみ易い態度と頼れる性格で生徒やその親からも評判が良い。

 今回の召喚でも顔は青ざめているが、まずはしっかりと話を聞こうというスタンスは崩さず、生徒達も今のところは必要以上にパニックにならず落ち着いている。


 「召喚された勇者達には二つの力が備わっていると言い伝えられております。一つは強靭な肉体。元の世界にいた時よりも腕力や瞬発力が強くなっており、訓練次第で人間離れした動きが可能になるとか。

 そしてもう一つが、勇者契約による魔法の使用です」


 「勇者契約とは何ですか?」


 「あなた方召喚勇者とこちら側の人間が行う血の契約です。一度契約すると相手が死ぬまで解除することができませんが、あなた方は魔法と呼ばれる不可思議な力を、我々は勇者と同様の強靭な肉体を得ることができます」


 「なるほど…面白いお話ですが、彼らはまだ勉強中の身です。申し訳ないのですがお断りさせて頂きたく、元の世界へと戻していただけないでしょうか?」


 「それは…不可能ですね」


 「………!?」


 「我らに伝わるこの魔法陣ではあなた方を召喚することはできても、元の世界に帰すことはできません…噂では、魔王の居城最深部にこれと対になる帰還の魔法陣があるとか…

  つまり、魔王を倒さねば戻ることもできないといった次第です」


 「…ずいぶんあなた方に都合の良い設定なのですね」


 「誠に申し訳ない。しかし我々も必死なのです、ご理解いただきたい」


 でっぷりとした中年男が全く悪びれないにやけ顔でそう言い放ったところで、しばし沈黙が生まれた。


 「あの〜、それで一体僕らは何をするんです?」


 「山下くん!?」


 声を上げた人物は生徒に全く興味がない俺でも名前を知っている。スポーツ万能、成績優秀でクラスの中心的存在でもある山下勇気やましたゆうきだ。

 彼らの年頃ではこの手の創作物はメジャーなのだろう、生徒達は皆9割の不安の中に1割の期待を滲ませている。誰だってなれるものならヒーローになりたいということか。


 「まずはあなた方の勇者としての素質を測ります。それからこちらで付けた教官の元で訓練をしていただく。ある程度実力がついたら相性の良いものと勇者契約をして頂き、魔法の訓練。

  2年程で魔王討伐の力がある程度ついたら旅立っていただく予定です。その間、衣食住の面倒は全てこちらで見させて頂きますし、金銭的な援助も十分に行います」


 勇者というのはそれほど強いのだろうか?俺自身は今の所そんな変化は感じないが…ただの高校生に何を期待しているのだろう。


 ただ、場の雰囲気は少しずつ変化してきている。


 「勇者として戦うかどうかというのは選べるんすか?俺はやってもいいけど、やる気のないやつに無理に戦わせるのは嫌だなぁ」


 「魔法ってそんなに強いの?女子でもやれる?」


 「石田くん!明石さん!!」


 「訓練と勇者契約は全員に行ってもらいますが、2年後に独り立ちする際に援助が不要というのであれば、その後は好きにしていただいて構いません。また勇者は女性や子供でも充分に戦えるくらい強くなります。世界を救った女性勇者の話は枚挙にいとまがありませんよ」


 そこまで説明されると、後は流されるしかなかった。


 その後も石狩先生がなけなしの抗議をするが、元より選択肢があるわけでなし、生徒達も先生を宥める側にまわってしまってはどうしようもない。


 「まずは皆さんの勇者適正を見させていただきます、試しの獣をこちらへ」


 連れてこられたのは、メガネザルのような小柄な生き物だった。薄暗い部屋の中でギョロリとした大きな瞳がギラギラと輝いている。


 「…キモ」


 隣にいた愛歩がぼそりと呟くのが聞こえた。全く同意見だ。


 「どなたか、この獣の前に立っていただけますか?」


 「…では、まずは私が」


 石狩先生が青い顔のまま進み出る。大した責任感だ。

 先生が猿の前に立つと、突如サルが喋り始める!


 「イシカリトウカ。ミズゾクセイ。Dランク」


 「ヒッ…!!」


 「水属性は治癒やサポートに特化した属性ですな。Dランクですと最大10種の魔法を覚えられると言われております」


 どうやらランクというのは覚える魔法の数に関係しているようだ。

 Dランク、という言葉を聞いた時に周囲の空気があからさまにしらけるのを感じた。


 ともあれ、先生が終わったのを皮切りに生徒達が続々とランクの確認を進めていく。


 「ヤマシタユウキ。ヒカリゾクセイ。Sランク」

 「クチキケンヤ。ヒゾクセイ。Aランク」

 「イシダシュウジ。カゼゾクセイ。Aランク」

 「アカシメグミ。ヤミゾクセイ。Sランク」


 次々と高ランクの名前が読み上げられ、その度に周囲から小さな歓声が上がる。

 大体がB〜Cランク。たまにA。Sランクは2人だけか……


 「キハツアユミ。カゼゾクセイ。Bランク」


 「ホイっと」


 愛歩はBランクか。


 「では最後は…アナタですか…」


 「あれ…モグラじゃない?なんでいるの?」

 「あれだろ、電気の修理がどうこう言ってたから…」

 「ゲェ〜、アイツキモいから関わりたくないんだよね」


 俺が最後か、てか改めて見ると相当場違いだな、俺。

 周囲も今更ながら俺がいることに気づいたようで、ヒソヒソと陰口を叩いている。

 別に来たくてきた訳じゃねーよ。


 「オグラサブロウ。ツチゾクセイ。Eランク」


 「Eランク?初めて聞いたぞ」

 「ヨワそ〜」

 「ちょっと可哀想になってきた…」


 「えっと…これは…」


 「Eランクは使える魔法が最大3種で得意属性のみという話です。まあ勇者様は年若い方が伸び代があるとも言われておりますので…」


 高ランクは自身の得意属性以外の魔法も使えるということだ。

 オッサンはお呼びじゃないってことかよ…ちょっと期待してたのに…

 石狩先生もDランクだったし、年齢的なタイミングは結構シビアなのかもしれないな…


 ともあれ、方針は決まったな。


 極力目立たず安全に生きて、誰かが帰還の方法を見つけてくれるのを待とう。


 この世界でできるバイトとかあるのかな…?

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