第三話 「水差しと渇望」
最近、涼しくなったと喜んでいたのも束の間、舞い戻った熱気にやられ、目に入った日陰に助けを求めて踏み入れたアナタ。
ハッと気が付き、怠い足を動かしお店の前に立ちました。
大通りからそれほど離れていないのに、何とも遠く感じて息を吐き出せば喉の渇きが酷い……。一杯の水をくれやしないかと、図々しくも茹だった思考で扉を開きました。
『竜の水差し』
――と、テーブルには光輝く水差しと、以前にも見た小さな依頼書が置かれてありました。
◎依頼書◎
●商人名◉ 駆け出し商人アマネ(没落貴族の三男坊)
●アイテム名◉ 竜の水差し
●アイテムの形◉
持ち手のある水差し。高さは30センチほど。
●アイテムの見た目・細かな点◉
光の当たり方によって不思議な色彩を放つ。実は竜の鱗でできている。(貝殻の内側みたいな光沢をしている)立体的なドラゴンの装飾が水差しに巻き付いている。ドラゴンは羽のある飛竜タイプ。ドラゴンも水差し本体と同じ素材でできている。
所々に金の装飾がある。
●アイテムについての備考欄◉
この水差しに水を入れて飲むと、病は立ちどころに治り不老長寿になると言い伝えられている。しかし実物を見た人はいない。
有名な伝説に出てくる品で、そのご利益に預かろうと普通の水差しにも竜をデザインするのが人気。
●アイテムにまつわる一頁◉
勇者が瀕死になった際、どこからともなく現れた仙人がこの水差しの水を使って彼を救ったという伝説から。
その後、勇者は【竜の力】を手に入れて、人間を苦しめる魔物を倒した。
水差しに装飾されている竜は、かつて神の一柱だったが下界で悪さをし過ぎた為、他の神によって泉に封印される。
その封印した竜を見守る為、一柱の神が地上に降り立ち仙人となる。
水差しはその仙人が竜の鱗を使って作ったもの。竜の持つ力がその水差しに注がれた水にこめられる。
竜の犯した罪をあがなう為に、仙人は志が高く心の清い者にその水差しの水を分け与えると言われている。
書かれた文字を読んでいると、ペタリと頬にくっつくものがありました。
ソロモンの舌です。つつーっと額から流れた汗を舐めたのか、もう一度ソロモンがアナタの頬へ舌を伸ばし、そして首を横に振ります。
さすがに人の汗は不味いのかと、舐められた頬を拭い、ぱちくりと瞬いた目を見つめていれば、後ろから笑い声がしました。
「アナタには必要ないようですね。依頼書にもありますでしょう。以前この街に住んでいたアマネさんが依頼してくださった一品ですが……」
えっとアラクネーの言った言葉に呆けたアナタ。そんなアナタを気にもせずアラクネーはまた小蜘蛛を喚び出し、駆け出し商人のアマネの元へと送るのでした。
「アナタも飲める水をお出ししましょうね」
◎創造主情報◎
・雨音AKIRAさん
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