第二話 「銀細工と好奇心」
「あの、すみません」
先日の不思議な出会いが忘れられず、『アイテム屋 蜘蛛の脚』を訪れたアナタ。どきどきと、はち切れそうな胸を押えてそっと店内に入ります。
しかし、中は空っぽ。いえ、あの"魚眼石"だけが棚に置かれてありました。
アナタは怪しげに光る石に惹かれ、もう少しで触れようとしたとき、「いらっしゃいませ」と声をかけられます。
「また来てくださったのですね、ありがとうございます。けれど無闇に触ってはいけませんよ」
笑みを携え、店の奥の間からスススと蜘蛛の脚を音も立てずに現れたアラクネーは言いました。
「たとえ小さな力しか持っていなくても怪我をしてしまいます。お気をつけて」
アラクネーとトカゲのソロモンが作り出したアイテムは魔法が宿るのです。アナタが偉大な魔法使いであっても、二人の作った魔法具と化したアイテムが許すかどうかわかりません。
優しくではありますがアラクネーに注意されてしまったアナタは「すみません」と肩を落とすのでした。
そんなアナタを見かねたアラクネーは、ぱんっと一つ手を叩きます。何事だろうと見やるとアラクネーの手には、いつか見た真っ白な布がありました。
「もしよろしければご覧になられますか? 私の師匠と交流のある行商人から、開店祝いの依頼があるのです」
テーブルに広げられた布。どこから現れたのか中央にはソロモンがおり、"依頼書"と書かれた二枚ある内の一枚の紙を熱心に見ていました。
◎依頼書◎
●商人名◉ 行商人・こたかん
●アイテム名◉ 銀細工のしおり
●アイテムの形◉
現代日本で言うと、観光地の土産によくある金属の薄っぺらいしおり。
しかしプレス機などがない時代には、薄く平らな金属を形成するのは難しく、その繊細な模様は匠の技である。
●アイテムの見た目・細かな点◉
渦巻くような雲と、星を六つ散らした家紋が彫金されている。
●アイテムについての備考欄◉
純銀製の一点もの。
●アイテムにまつわる一頁◉
裕福な宝飾商がお抱え技師に作らせて、星見の首座に贈った逸品
「描く前からわくわくしちゃうわね」
アラクネーの言葉が合図になり、ソロモンは筆を喚び出し描き始めます。長い尾っぽを時折ぶんぶん振り、そうして出来上がった――
『銀細工のしおり』
テーブルに齧り付いて見つめるアナタの横で、アラクネーが自分の手のひらを見ながら呪文を唱えました。
すると、一匹の真っ黒な小さな蜘蛛が手のひらで湧き出て、「早速、こたかんさんにお知らせしないと」と呟いたアラクネーに突っつかれました。
小さな蜘蛛は、少しよろけたあと、泡のように消えたのでした。
◎創造主情報◎
・こたかんさん
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