第一話 「いらっしゃいませ」
ある日アナタは、路地裏にひっそりと佇む小さなお店を見つけました。
薄暗く、人気ない場所に「なぜこんなところに来てしまったんだろう」と思いながら、アナタはつい辺りを見回します。
色とりどりの絵の具が入った沢山のバケツ、それが飛び散って複雑な模様を描いた窓ガラス。中を覗こうにも模様が邪魔し、隙間からは闇しか見えません。
気にせず立ち去ればいいものを、気になり取っ手に手を伸ばしました。しかし、古びた扉から取っ手まで好き放題に蔓延る蔦に尻込みしてしまいます。
どうしたものかと後退るアナタ……すると、ふと扉の上にあった看板が目に入りました。
看板に書いてあった文字を呟くと、軋んだ音を立てながら扉がゆっくりと開いたのでありました。
「いらっしゃいませ、私の店にようこそ」
真っ白い肌、ピンクの髪、少女の見た目だけれど落ち着いた低い声。白い肩には緑色の一匹のトカゲが乗っています。
開ききった扉の向こう、優しげに笑う素肌をあられもなく見せる彼女の姿にドキリとしましたがしかし――アナタは驚きました。
「店主のアラクネーと申します。こちらは助手のソロモン。二人でお客さまの大切な一品を形にさせていただいております。さあ、中へどうぞお入りください」
一歩、また一歩と進むアナタ。絵の具の隙間から明かりのない闇だけだと思っていた店内には、大きなテーブルと空っぽの棚がありました。
すっきりしたというには寂しすぎる店内にぽかんと口を開けて立ち止まってしまいます。そんなアナタに扉を閉めたアラクネーが少し恥ずかしそうに言いました。
「開店したばかりで何もないのです、すみません」
肩から手のひらへと移動したトカゲも目をぱちくりさせてから、頭を下げました。
「店主ではあるのですが修行中の身でもあるのです。二人で一人、私が魔法具で織った布とソロモンがそこへ描いたものがアイテムへと変わる――ほらこんな風に」
アラクネーが徐ろに出して来た白い布をテーブルヘ広げると、トカゲは手のひらから飛び降り、鋭い爪の生えた小さな指をくるんと回して筆を召喚しました。
驚くアナタを尻目に、右へ左へ尾っぽをふりふりさせて布の上を忙しなく動くトカゲ。爪を引っ掛けることもなく瞬く間に描き終えると、これまた召喚した小さな花を持ってポンっと絵を叩きました。
「出来ましたよ、いかかです?」
アナタに問いかけるアラクネーと満足気に頷くトカゲの見る先には、先程まで布だった物が置かれてあります。
「魚眼石です。人魚の落とした鱗が年月をかけて変化したもの――見た目の割には魚の位置がわかるくらいしか能力はありませんけど、私の思い出の一品なんですよ」
アラクネーは魚眼石と呼んだ石を手に、アナタに渡しました。そして、じっと見つめて言うのです。
「アナタにも素敵なアイテムはありませんか? アナタのその想像、世界にたった一つだけの代物をぜひ私たちに描かせてくださいませんでしょうか?」
さあ、アナタならどうする――…
※アイテム屋 蜘蛛の脚について※
お店のオーナー・ひとつまみの活動報告のコメ欄のみで、
「アナタの作品に登場するアイテム、ご自身で想像したアイテムを描かせてください」を募集しております。
詳しくは、"ひとつまみ"ユーザーページか、タイトル上にあるシリーズ名、またスクロールした先にある看板バナーからおいでください。
ぜひ、アナタのご自慢の世界にただ一つだけのアイテムを描かせていただけたらと思います。