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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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90 貴族の依頼 二日目終了

 無事にダムルブールの街まで戻ってきた私たちは、そのまま冒険者ギルドに向かった。

 他の冒険者がいない閑散としたギルド内を数人の職員が掃除をしている。その内の一人であるレナに声を掛けて、魔物の買い取りをお願いした。


「無事にベアボアを狩れたんですね。それは良かったです」


 貴族の依頼が関わっているので、より一層安心するレナであるが、ティアの余計な一言で、雰囲気を一変した。


「いやー、全然、良くないわよー。発情期のベアボアに追われるわ、あたしは死ぬわで、もうこりごりよー」


 ティア、余計な事を言うな! とティアの口を閉ざそうとしたが、時既に遅く、笑顔のまま黒いオーラを纏ったレナが「それは詳しく教えてくださいね」と私たちに近づいてくる。

 巨大ベアボアに追い駆けられた時のプレッシャーと同等のレナが私の前にきた。

 嫌な汗が全身を濡らしていく。


「い、いやー、何を言っているんですかね。この妖精は……ははは……」


 今まで余計な事をペラペラと話し続けていたティアも、ギルド内の空気が変わった事に気がつき、口が減っていく。

 他の職員はそそくさと扉を開けて、別の部屋へ行ってしまう。

 エーリカとアナは、奥の長椅子まで退避して、仲良く座っていた。

 レナは、パシッとティアの体を両手で掴み、カウンターまで連れていかれる。


「ちょっと、ちょっと、どうしてこうなるのー! 助けてー、アナちゃん、エーちゃん!」


 ティアが呼びかけても、長椅子に座っている二人は動く事はなかった。完全に置き物と化して、微動だにしない。


「何も心配する事はありません。ただ、詳しく報告を聞きたいだけです。ねぇアケミさん、ティアさんと一緒に報告をしてくださいね」


 ニッコリと微笑むレナには逆らえず、死地に飛び込む勢いで震える足を動かし、窓口カウンターへ向かう。

 そして、カラカラに乾いた口を動かし、何が起きたのかを説明した。

 カツカツと木札に書きこんでいたレナは、私の報告が終わると同時に「何をしているんですか!」と怒られた。

 「発情期のベアボアは危険だと言ったでしょ!」とか、「見かけた段階ですぐに逃げると約束したでしょ!」とか、色々と言われて怒られた。

 私は下を向いて「はい、おっしゃる通りです」を繰り返している。

 レナに捕まったティアは、すぐ目の前で怒られていて失神寸前だ。また死ぬんじゃないかと心配になってくる。

 すごく怒っているが、レナの言う事はどれも私たちの事を心配し、安全に対する事なので、しっかりと聞いておく。いや、途中で口を挟んだり、言い訳をしたら、余計に長引きそうになるので黙っている。


 そして、言いたい事を全て言ったレナは、大きく溜め息を吐いてからお説教タイムを終わらせた。

 

「まったく、危険回避も立派な仕事ですからね。立派な冒険者に成りたければ、命を優先してください。本当、無事で良かったです」


 ティアの残機が二つ減ったので無事かどうか分からないと言えば、またお説教の延長になりそうなので、無理矢理、話を変える事にした。


「そ、それで、レナさん。ベアボアの解体と買い取りをお願いしたいんですけど……」

「ああ、そうですね。話を聞く限り、魔物の数が多そうですから建物の裏へ行きましょう」

 

 そう言ってレナはようやく手に握っていたティアを解放すると、ティアはそのままコテリとカウンターの上へ倒れてしまった。

 本当に死んだと思ったが、すぐに起き上がり、凄い速さでアナの元まで飛んでいき、胸元の定位置に隠れてしまう。

 レナは奥の部屋に退避した職員を呼んで、外へ出る。置き物と化していたエーリカとアナを引き連れて、私たちも冒険者ギルドの裏へと向かった。

 未だにガクガクブルブルと震えているティアが、アナの胸元からちょこっと手を伸ばして、収納魔術を発動させて、井戸の近い場所に狩ってきた魔物を取り出していく。


「立派なベアボアだな。スモールウルフも何体かいる。これは忙しくなるぞ」


 頭のない巨大ベアボアを眺めているギルマスが呟いた。

 今日はお目付け役の秘書が休みという事で、嬉しそうにしていた。解体作業をギルマス自らするそうだ。余程、暇なのだろう。


「ギルマス、先に子供のベアボアを解体してください。解体した肉の半分は、私たちが持ち帰ります。ちなみに頭はいりません」


 牛サイズもある仔ベアボアの肉だ。流石に全部はいらないので、半分だけ持って帰る事にする。

 私たちが貴族の依頼でベアボア肉が必要なのを報告で知っているギルマスは、二つ返事で作業に取り掛かった。

 他の職員も各々魔物の解体を始める。

 解体には少し時間が掛かる為、時間潰しがてら買い物をする事にした。

 アナがゴブリンの魔石をレナに渡してから、私たちは買い物をする為に西地区へ向かった。


 ベアボア肉料理で足りない材料を頭に浮かべ、露店エリアで購入する。

 アナも自分の家の食材を買い足していく。私、エーリカ、ティアと急に居候が増えて、食材が足りないのだ。申し訳ないので軍資金から支払う。

 その後、一旦冒険者ギルドに戻ってから南へと足を運び、『カボチャの馬車亭』へ行く。

 『カボチャの馬車亭』のパン屋の前に、以前私が描いた絵が描かれた看板が立っていた。

 上の部分にピザとリンゴパイとパンのイラストが描かれている。真ん中には、デカデカと文字が書かれているが、私は異世界の文字が読めないので、たぶん、ピザ発祥のお店などと書かれているのだろう。一番下には、ブルーノ、カルラ、カリーナの似顔絵も描いてあった。

 私が勢いで描いた絵が、お店の前に堂々と置かれていると、恥ずかしくて悶えそうになる。

 パン屋の前で悶々としていると、パン屋の窓口からカルラが顔を出して声を掛けてくれた。


「おや、クズノハさん。宿に入らず、何をしているんだい? もしかして、パンを購入しに来たのかい?」

「ええ、残り物のパンがあれば、譲って下さい」


 『カボチャの馬車亭』のパンを普段食にしたいので、残り物のパンを格安で欲しいとお願いしたら、喜んで売ってくれた。それも二束三文で……。今もピザが大量に売れる代わりに、普通のパンが売れ残って困っているそうだ。


「カルラさん、看板できたんですね。リンゴパイも売り出し始めたんですか?」

「いや、リンゴパイやジャムはまだ売ってないよ。未だにピザの購入者が多くて、まったく余裕がない。宿泊した人の食事に出して様子を見ている所さ」

「ご主人さま、今日は後輩の家でなく『カボチャの馬車亭』に泊まりましょう」


 クーとお腹を鳴らしたエーリカが提案すると、アナが「そんなー……」と悲しそうな声が漏れる。


「おや、泊まっていくかい? まだ部屋は空いているから問題ないよ」

「ぜひ泊まりたいのですが、まだ依頼中でして、また今度戻ってきます」


 「そうかい、頑張んな」とカルラに見送られて、私たちは冒険者ギルドへ戻ってきた。


 冒険者ギルドの裏手に戻ってくると仔ベアボアの解体は終わっており、ギルマスは巨大ベアボアを数人の職員と一緒に解体していた。


「おう、戻って来たか。今、手が離せないから勝手に持って行ってくれ。レナ嬢が窓口にいるから、帰る前に魔物の買取金を受け取るのを忘れるなよ」


 巨大ベアボアの内臓を取り出しているギルマスが、私たちに視線を向けずに伝えてくれた。

 私たちは、部位ごとに切り分けられた仔ベアボアの肉を半分だけ受け取ってから、ギルド内に戻り、レナから買取金を受け取る。

 苦労して倒したベアボアだ。もしかして凄い金額になっているかもと期待していたが、予想以上に少なくガッカリした。

 雄ベアボア二匹、仔ベアボア半分、スモールウルフ数匹、ゴブリンの魔石数個。合わせて銀貨一枚と大銅貨五枚。割に合わない……。

 「どんなに苦労しても、所詮ベアボアです」とレナが申し訳なさそうにしている。

 まぁ、今後はベアボアと関わらないつもりだし、魔物の買い取りが目的でなく、食材探しが目的なので、お小遣いだと思っておこう。



 時刻は昼時。私たちにとって昼食時間だ。

 臨時のお小遣いが手に入ったので、久しぶりに串焼き屋の屋台で何本を購入した。本当は、借金を背負っているので買うつもりはなかったのだが、あまりにもエーリカとティアのお腹の虫が煩く、視線が屋台に向いていたので、購入する事になった。

 実際に食べるのは、アナの家に着いてからという事で、エーリカとティアにせっつかされつつ、クロたちに乗って、急いでアナの家に辿り着いた。


 昼食のお茶用にお湯を沸かしている間、エーリカのサポートを借りてレイピアに魔力を注ぎ、レジストでベアボア肉の魔力を抜いていく。

 その後、大きな鍋に入れて、牛乳に漬けておいた。

 明日の依頼の為、昼食後はベアボア肉料理の試作を作り、夕飯に食べる予定である。色々と作業があるので、無駄なくやりたい。


 まだ、お湯が沸きそうにないので、気になっていた事を行う事にする。

 私は、アナの家を歩き回り、引き出しや戸棚を開け閉めしていく。


「えーと、おじ様? 何をしているんですか?」


 不審に思ったアナが、自分の家を探索されて恥ずかしそうな表情で聞いてきた。


「ごめん、ちょっと探し物。少し家の中を見させて」


 先に断っておけば良かったと後悔するが、始めたからには最後までしたい。


「も、もしかして……おっちゃん……探し物って……」


 ティアが、あわあわしだす。


「ご主人さまは、ゴキブリがいないか探しているんです」


 エーリカが言うと、「ひっ、ゴキブリ!?」と青い顔をするアナと、「ゴキブリなんかいないわよー!」と叫ぶティア。

 食卓のあるダイニングの戸棚を一通り調べた私は台所へ向かう。


「ちょ、ちょっと、おっちゃん! そこは何もないわー! 早く、ご飯にしよー!」


 ティアが一際あわあわしだしたので、私は確信をもって徹底的に調べる事にした。

 すでにお茶用のお湯が沸いているが気にせず、戸棚や引き出しを調べると、すぐに目的のものを発見した。


「見つけた。本当にいたんだ」


 私がぼそりと呟くと、皆が集まってきた。ティアだけが「あちゃー」と手で顔を当てている。

 何も入っていない戸棚の中で、食いかけのチーズを抱かえて眠っているティアがそこにいた。


「えっ、ティアさん? あれ、あれ?」


 アナが戸棚のティアとすぐ横を飛んでいるティアを交互に見ている。


「やはり、ゴキブリでした。変な所に住み着いているんですよ」


 エーリカが毒付くと、「ゴキブリじゃないわよー」と飛んでいるティアが、エーリカをポコポコと叩き始める。

 荒野の時、エーリカがティアの分身体の何体かがアナの家に留守番していると言っていたので、気になって調べたら、本当にいた。

 その後、アナが寝ているベッドの中で一人、アナの部屋の梁の上で一人見つけた。どれも昼寝中であった。

 もしかして、絵本のように今の内に眠って、皆が寝静まった夜にこっそり家のお手伝いでもするつもりなのだろうか? いや、ティアの事である。食料をつまみ食いをするだけで終わりそうだ。


 そして、今は温めたパンと串焼きの近くに四人のティアが机の上に立っている。

 四人のティアは、どれも同じティアなので、今更挨拶をする事もないし、色々と聞く事も無いので、さっさと昼食にする。

 昼食と言っても、『カボチャの馬車亭』のパンと串焼きとブドウだけなので、特に感想はない。

 串焼きは、豚肉、鶏肉、カエル肉、野菜を何本か購入してあり、一番美味しいのがカエル肉であった。

 西地区で買ったブドウは、薄く赤い色をしたデラウェアみたいな小粒で、種があり、非常に酸っぱかった。

 四人のティアが、一本のカエル肉に集まってガツガツと食べている様は、光に弱く、水を掛けると増える生き物を連想した。ティアが真夜中に食べ物を食べないように注意しておこう。

 

 エーリカと四人のティアがいるので、料理はすぐに無くなり、あっという間に昼食は終わる。

 少し休憩した後、私たちは明日の依頼の為、試作料理の準備をする。

 私は、牛乳に漬けていたベアボア肉の一部を取り出し、適当に作ったソミュール液に漬けておく。

 ソミュール液とは、数パーセントの食塩をお湯で溶かした塩水の事であり、そこに適当にハーブを入れてある。簡単に言えば、塩水漬けだ。

 エーリカは、外に出て、リーゲン村から貰ったリンゴの幹や枝で、木工作業をしてもらっている。

 アナは、クロたちの世話をしている。

 四人のティアは、私、エーリカ、アナに一人づつ付けて、サポートをしてもらっている。残った一人は、家の掃除だ。

 こうして、各々作業をして、四苦八苦しながら試作料理を完成させた時には、夕方の鐘が鳴り終えていた。


 本日の夕食は、試作したベアボア料理である。

 私以外は、美味しいとお代わりをしていたので、成功と言っても良さそうだ。

 ただ、私の場合、ベアボア肉が不味いと刷り込まれ過ぎていて、どうしてもベアボア肉として食べると、食が進まず、いまいちな感じになってしまう。

 どんなに美味しくても、苦手な物はいつまで経っても苦手なのだ。

 つまり、私の舌はお子様舌なのである。

 

 皆は既に依頼達成の気分であるが、私は不安で仕方がない。

 

 明日は、どうなるだろうか……。


主人公補正でトラブル続き。

その為、レナさんには注意されてばかりです。

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