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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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81 魔力抜きをしてみた

「真っ暗な箱の中にいるのは良いのよ。夜目は利くからー。でも、やる事がないのだけは、しんどいわー。何にも入っていない宝箱だったから、埃を数えるぐらいしかやる事がないのよー。魔術で幻影を作って、遊んでも良かったのだけど、魔力が無くなると困るし……」


 ティアの話はまだ続いている。それも、あまり意味のない話である。

 律儀に相手をしているアナは、若干疲れた表情をしている。

 エーリカに至っては、椅子に座り、何もない壁を見ていた。壁の染みでも数えているのかもしれない。


「ティア、君の話はその辺で、そろそろ本題を聞きたいんだけど……」


 なかなか話の本筋に戻らないティアに私が催促すると「本題?」と首を傾げられてしまった。この娘の頭は鳥頭なのかもしれない。


「魔物肉の魔力を抜く方法を教えてと言ったよね!」


 私が強めに確認すると、少し上を向いたティアは「あー、そうだった、そうだった」と再度語り出した。


「あたし、あまりに暇な時はよくお姫さんの部屋から抜け出していたのよ。あっちへ行ったり、こっちへ行ったりと探検をするのが楽しかったわー。もちろん、こんな可愛い姿のあたしがウロチョロするのは不味いから、他の人に見つからず、隠れながらしていた訳よー。それは本当に冒険みたいだったわー」

「ふんふん、それで魔力抜きはどうやるの?」


 本筋から逸れそうになったので、無理矢理話を戻す。

 何となく、彼女の会話の仕方を覚えた気がした。


「そうそう、抜け出した先で良く行っていた場所が厨房よー。お姫さまが食べる料理に毒が入っていたり、変な食材を使われていたらまずいので、こっそりと料理人を監視したり、完成した料理を毒見してあげてた訳よー。あたしの存在を知らない料理人は、ちょくちょく食材や料理が無くなっている事に首を傾げていたわー。それを見て、あたしは物陰で笑っていたのは良い思い出ねー」


 エーリカの姉であるティアだ。毒見でなく、ただのつまみ食いだと思う。


「そういう事で、厨房の事は良く知っていた訳。それで肝心の魔物肉なんだけど、教会の関係者が厨房へ卸しに来ていたわー」

「教会の関係者? 神官が魔物を解体して、厨房へ持って来ていたの?」

「解体は別。厨房の隣に解体する場所があって、料理人が解体していたわー。その解体した肉はすぐに使わず、どこかへ運んでいたのよねー。今思えば、教会関係者が再度厨房へ持って来ていた事を考えると、解体した肉を一度教会へ運んでいたんだわー」

「えーと……話の流れから考えると、教会の人たちが魔力を抜いていたと考えた方が良いのかな?」

「神のお供えに魔物肉を使ったりしないよねー。それなら神官が魔力を抜いていたと考えた方が自然よねー。実際、何をしていたのか分からないけどー」


 ティアの話を信じれば、魔物肉の魔力は教会で抜いていた事になる。

 ティアは実際に魔力抜きの方法は知らないみたいだが……さて、どうすれば魔力が抜けるのか?

 ティアが言うように、神に献上しお祈りをしたら魔力が抜ける訳ではない。そんな事を毎日していたら、神も嫌になるだろうし、神の御業を魔物肉に使うなと怒られそうだ。

 それなら、聖水みたいな物で漬けると抜けるとか? いや、それも神の御業で作られた水で魔物肉を漬けるなと怒られそうだな。

 そもそも神とかいう曖昧な存在が実際に存在するのかも怪しいので、もっと確実な方法をしている筈である。

 ティアの言う通り、神でなく、神官たちが何かをしていたのだろう。

 神官と言えば、神聖魔法である。

 回復魔術で魔力を抜く事は出来そうにないので、解毒魔法かもしれない。

 魔力の味は渋みのある苦味であり、食べ続けると気持ち悪くなる毒である。だが、毒みたいな味であるが、実際は魔力なので、解毒魔法では魔力を抜けそうにない。

 それなら……。


 ――あっ!?


 私はある事を思い出した。

 どうして、今まで思い至らなかったのか、顔が赤くなってくる。


 私の使える力で、それっぽいのがあるじゃない。


 『レジスト』


 レジストは耐性という意味合いである。ただ私は便宜上、レジストと呼んでいるだけで、実際は魔力を無力化するものではなかろうか?

 筋肉ダルマの魔力で作り出した石を塵にした事もあり、魔力を抜くという行為とは少し違うが、試してみる価値はありそうだ。


「ティア、ありがとう。少し、光明が見えた。ちょっと試したい事があるから、その後の試食は任せるよ」


 ティアが「試食するのー!?」と抗議するのを無視して、私は腰に吊るしているレイピアを抜いて、残っているベアボアのブロック肉に剣先を向けた。

 レジストはレイピアに魔力を流す事で発動する。本当は手の平で発動できれば簡単なのだが、以前、暇な時に練習してみた時、何度やっても手の平で再現が出来なかったので諦めた。

 私は体中に流れる魔力を操作し、レイピアに魔力を流そうとするが、まったく集まらない。

 教会内部の隠し部屋の時のように、魔力がまったく制御できないでいた。

 息を止めて、必死に魔力を両手に集める事までは出来るのだが、両手からレイピアに流す事が出来ない。

 すぐに酸欠になり、上を向いて大きく呼吸をする。

 集中力が切れたせいで、両手に集まっていた魔力が、体中に戻ってしまった。


「おっちゃん、何をしたいのか分からないけど、魔力操作が下手くそ過ぎない? それでも冒険者?」

「以前は出来たんだけど……出来なくなった」


 私は重いレイピアを机に置いて、顔中に噴き出た汗を拭く。


「胸の怪我の後遺症で、魔力操作に影響が出ているのでしょう。わたしがご主人さまをサポートします」


 そう言うなり、エーリカは私の前に移動して、右手を私の胸に当てた。

 鳩尾の少し上にある傷跡から徐々に暖かい何かが入ってくる。

 これがエーリカの魔力なのだろう。


「ご主人さま、剣に魔力を流してみてください」


 エーリカに言われた通り、レイピアを持ち直し、目を閉じて、魔力を操作する。

 まだ違和感があるが、先程に比べて、楽に両手に魔力が集まり出した。

 エーリカの魔力を感じながら、両手に集まり出した魔力をレイピアに流し込む。

 徐々にレイピアの刀身が光り出していく。

 少しでも集中力が切れると、魔力が逆流して元の体に戻りそうになるので油断は出来ない。

 顔中に汗が拭き出し、呼吸が荒くなる。

 それでも何とか魔力をレイピアに流し続けると、(まぶた)越しにもレイピアが光り輝いているのが分かった。


「おおー、凄い、凄いー!」

「うわー、綺麗です」


 ティアとアナの感嘆(かんたん)とする声が聞こえる。

 私は魔力を維持したまま、ゆっくりと瞳を開けると、剣身にスパークが流れて光り輝いているレイピアが目に入った。

 魔力制御に余裕がない私は、そのまま机に置いてあるベアボアのブロック肉を光り輝くレイピアで刺す。

 何の抵抗もなく、レイピアの剣先がブロック肉の内部に侵入すると、剣身を覆っているスパークがブロック肉を包み始めた。


 これでベアボア肉の魔力が消えればいいのだが……。


 どのぐらい、レジストすれば魔力が消えるのか分からないので、試しに一分ほどレイピアを刺した状態にしてから引き抜く。

 魔力制御を解放すると、レイピアに流していた魔力が両手を伝い、体の中へと戻って行くのが感じられた。

 私の胸から手を退けたエーリカは、なぜか残念そうな顔をしている。


「えーと……ベアボアの肉から魔力が消えたかどうか確認してみようか?」


 レイピアの汚れを拭ってから鞘に戻し、代わりに包丁を持ってブロック肉を切る。そして、塩胡椒を軽く振り掛けたら、鉄フライパンで焼いた。

 臭いを嗅ぐ限り、今の所は問題なさそうだ。

 こんがりと焼かれたベアボアステーキを皿に移し、きっちり四等分してから、皆の前に持っていった。

 綺麗に焼かれたステーキを前にしても、誰も手を出そうとはしない。

 それだけではなく、エーリカ、アナ、ティアの三人は、私の顔をずっと見ている。

 つまり、調理した私が率先して、確かめろと無言で訴えていた。

 「はぁー……」と深い溜息を吐いた私は、皆の期待に応えるよう、一番最初にベアボアステーキを食べる事にする。

 勿論、洗浄用の赤ワインは用意してある。

 フォークで刺したステーキを口の前に持っていくが、つい躊躇(ちゅうちょ)してしまい手が止まってしまった。

 勇気が出ず、しばらく葛藤していたら……。


「さっさと食べなさいよー! 男らしくない!」


 と、ティアが私が持っていたステーキ肉を奪い、口の中へ押し込んだ。

 「こいつめー、私は女だから男らしくしなくて良いのに……」と恨めしい目でティアを見ながら、恐る恐るステーキ肉を咀嚼する。


「…………」

「お、おじ様……どうですか?」

「ご主人さま、無理せず吐いてください。健康第一です」

「いやいや、吐いたら駄目よ。汚いじゃない」

 

 私を心配する二人と自分の事を棚上げする一匹の言葉を無視して、私は口の中の咀嚼物に集中する。


 モグモグモグ……


 ……あっ!?

 何度か噛みしめてから気が付いた。

 苦味がない。

 渋みに似た苦味がベアボアステーキから感じられない。

 どうやら、上手くいったみたいだ。

 私は赤ワインを一口飲んでから、自信たっぷりに口を開く。


「魔力抜きは成功した。苦味が無くなったよ」


 ゴミ箱を抱えて飛んでいる妖精を無視して、私はエーリカとアナに向けて、成功を伝えた。

 私の言葉を聞いた三人もようやくベアボアステーキに手を出す。

 三人はゆっくりとした動作で、ステーキを口に入れてから大きく頷いた。


「さすが、ご主人さまです。これなら食べられます」

「はい、苦味がまったくありません」

「そうそう、これこれ。これが魔物肉よー」


 あれ?

 三人とも普通の表情で感想を言っている。

 吐きそうな顔をするのを期待していたのに残念だ。

 確かにベアボア肉から苦味は消えた。

 ただ、苦味が消えた反面、ベアボア肉本来の獣臭が目立つようになったのだ。

 つまり、魔力を無くしても、ベアボア肉は臭くて不味い。

 不味くて体が拒否反応を起こし、咀嚼したステーキを喉まで飲み込む事すら出来ない程に不味いのだ。ワインで無理矢理流し込まなければ、今もステーキは口の中に残っているだろう。

 その事を皆に伝えたら……


「確かに獣臭くて不味いですが、一応、食べられます」

「な、何日も経って解体した肉がこんな味がします。確かに美味しくないですね」

「魔物肉なんて、どれもこんなものよー」


 三者三様、不味いけど食べられるとの返答を貰いました。

 この世界の主な肉は豚である。

 何度もこの世界の豚肉を食べたけど、どれも臭みが残っており、正直、美味しくない。だが、その臭い肉に慣れているアナたちは、ベアボア肉の獣臭さはギリ許容範囲のようだ。

 日本の牛、豚、鶏の肉に慣れた私の舌では、獣臭い肉を食べるのは無理である。

 私からしたら、まだまだ食べられる状態ではないという事だ。


 まぁ、苦味の元である魔力を消す方法が見つかったので、一歩前進と考えておこう。

 まだまだ、先は長そうだ。


苦み成分が取れました。

ようやく、一歩前進です。


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