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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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78 教会へ行こう その2

 素早く扉の奥へ入ると、そこは通路だった。

 石造りの簡素な通路が伸びている。所々、部屋に通じている扉が並んでいるが、教会関係者らしき者は見当たらない。

 助けを呼ぶ声と教会関係者の足音に聞き耳を立てているエーリカを先頭に、寒寒しい通路を進む。私は、誰かに見られないかとビクビクしながらエーリカの後を追う。

 私はパツパツのローブを着て、目深にフードを掛けている。エーリカは真っ白な合羽を着て、顔を隠すようにフードを掛けている。明らかに怪しい二人組が、関係者以外立ち入り禁止の教会内を歩いているのだ。見つかれば、すぐに追いかけられるだろう。もし見つかったら、すぐに逃げよう。顔を隠しているので、ばれないはずだ。

 そんな事を考えながらエーリカの案内に従い、通路を左に曲がったり、右へ曲がったりと奥へと進んだ。

 たまに曲がり角で足を止めて、教会関係者をやり過ごしたり、急いで別の部屋に入り、教会関係者が通り過ぎるまで息をひそめたりする。その都度、私の心臓は破裂しそうになる。

 そして、エーリカの地獄耳のおかげで、特に問題らしい問題も起こらず、教会の奥にある通路の行き止まりまで到着した。


「あれ、行き止まりだけど? ここであっている?」

「はい、この先から声が聞こえます。はっきりとは聞こえませんが、間違いありません」


 目の前にあるのは、白い石造りの壁。窓も扉もない。薄暗い通路の突き当たりである。

 エーリカは石造りの壁を這うように観察していると、何かに気が付いたみたいだ。


「ご主人さま、ここに手を当ててください。魔法陣があります」


 エーリカはそう言うと、何もない壁を指差した。

 私は、言われるままに壁に手を当てた。


「ここで良いの? 何も見えないけど?」

「隠しているつもりですが、雑な作りなので、すぐに分かりました。わたしでは起動できませんでしたので、試しにご主人さまの魔力を流してみてください」


 私は体中に流れる魔力に意識を移す。血液のように体中を駆け回っている魔力を壁を付いている右手に集まるように集中する。

 だが、普段ならすぐに集まる魔力が、なぜか全く集まらない。体中に魔力を感じているのだが、全く言う事を聞いてくれない状況である。

 私はお腹に力を込め、腕の付け根部分をせき止めるイメージで、体中を動き回っている魔力を右手の先へ誘導させる。

 徐々に右手へと魔力が集まってくるのを感じるが、凄く集中力が必要で、少しでも他の事を考えたら、集まっていた魔力がまた体中へと戻ってしまいそうになる。

 額に汗を浮かべながら右手に魔力を流し続けると、それに合わせて手を触れている部分を中心に金色の線が走り出し、大人一人分が通れそうな長方形の形へと変わっていく。

 ズズズッと音がすると金色の線が消え、代わりに真っ白の壁の一部がズレて、扉が開き出した。

 私は魔力操作を止める。

 大きく息を吸い込み、盛大に吐いた。集中しすぎて、呼吸をするのを忘れていたみたいだ。顔中に浮かんだ汗をローブの袖で拭う。

 

「流石、ご主人さま。見事に隠し扉が開きました」


 エーリカは、私が上手く魔力操作が出来なかった事に気づいていないみたいだ。

 魔力操作の不調について相談したかったが、今は不法侵入真っ只中なので後回しにしよう。


「……助……けて……」

「あっ!?」


 隠し扉を開けた瞬間、私の耳にも声が聞こえた。

 エーリカの言うとおり、幼い女性の声である。


「ご主人さま、すみません。わたしの勘違いだったみたいです。今すぐに帰りましょう」

 

 エーリカは私の腕を掴んで元来た道へ引き返そうとする。

 

「いやいや、私も聞こえたよ。勘違いじゃない」

「それは空耳です。いつ教会の人に見つかるか分かりません。すぐに帰った方が良いでしょう」


 折角、声の主がいる隠し扉を見つけたというのに、エーリカは帰りたくてたまらないみたいだ。

 もしかして、隠し扉の奥には酷い扱いを受けた少女が監禁されているのでなく、亡霊の類なのではなかろうか? ここは教会だ。隠し扉の奥はカタコンベ……地下墓地になっており、恨み辛みを残して死んでいった亡霊が助けを求めているのかもしれない。いや、エーリカなら亡霊ぐらい怖がる事はないだろう。彼女も生き人形みたいなものだしね。

 それなら、どうして、そこまで行きたがらないのか?

 私はエーリカに直接聞こうとしたら……。


「エーちゃん……い……しょ……すぐに……」


 また、隠し扉の奥から聞こえた。

 それも……。


「エーちゃんって聞こえなかった?」

「気のせいです」

「エーちゃんって、エーリカのエーちゃん?」

「わたしは、ただのエーリカです」


 いつも私の目を見て話すエーリカが、目を逸らしている。

 もしかして、エーリカの知り合いなのでは? それも会いたくない相手……。


「エーリカ、君は会いたくないかもしれないが……やはり、助けるべきだよ」


 しばらく逡巡した後、私は膝を折り、エーリカの瞳を見つめながら告げた。

 『啓示』の言葉もあるが、やはりエーリカの知り合いが困っているのだ。助けるべきである。例えエーリカが会いたくない相手であってもだ。


「来てくれるね」


 色々な気持ちを込めてエーリカに言うと、エーリカは「はい」とコクリと頷いた。

 エーリカの返事を聞いた私は立ち上がり、隠し扉の中へ入る。

 真っ暗な通路を入った瞬間、ポッポッポッと等間隔で明かりが点き始めた。

 壁を照らす明かりは、うっすらと小さな魔法陣があり、その中心の魔石が光っている。

 人が入ると自動で点く電灯みたいな魔法陣なのだろう。

 薄暗い通路を少し進むと、左に曲がり、そこから地下へと降りる階段になっていた。

 本当に地下墓地に繋がっているのでは、と不安に駆られつつ、ついエーリカの手を握りながら、ゆっくりと慎重に階段を降りる。

 カツカツカツと不気味に足音を響かせながら階段を降りきると、そこは墓地……ではなく、ただの倉庫であった。

 左右に棚が置かれ、色々な骨董品が置かれている。

 金や銀を使った皿や燭台。大きな壺。大小のキャンバスに描かれた絵画。使い道の分からない器具。素人の私が見ても、どれも高価な代物である。

 ここは宝物庫なのだろう。

 そんなお宝が眠る場所に、一際目立つ物があった。部屋の奥の地面に淡く光っている箱が置かれている。

 光を放っているのは箱本体ではなく、地面に描かれている魔法陣が淡く光っている。その上に箱が置かれているのだ。

 箱は、上へパカッと開く宝箱みたいな物。全体に赤い塗料を塗ってあったのだが、長い年月を経て、塗料が剥がれて、朽ちかけていた。


 問題の声は、その箱の中から聞こえている。

「エーちゃん、開けて……」とか、「助けてー……」とか、「早くー……」と、結構煩い。


「エーリカ、箱を開けるけど……良いかな?」


 一応、エーリカに確認をしたら「お待ちください」とストップがかかった。


「魔法陣を解除しないと、警報が鳴るかもしれません。わたしが見ます」


 そう言うなり、エーリカは箱のそばに寄って、淡く輝く魔法陣を観察しだした。

 しばらく右へ左へと移動しながら魔法陣を見ていたエーリカは、魔法陣の一か所を足のつま先でグリグリと擦ると、スッと魔法陣の光が消えた。


「えっ、そんなんで解除できるの!?」

「雑な作りの魔法陣でしたので……何が起こるか分かりませんから、私が蓋を開けます」


 エーリカは、腰を落として宝箱のような蓋をゆっくりと開けた。


「ちょっと、遅いんですけどー! いつまで待たせ……」


 ガチンッ!


「ご主人さま、羽虫が入っていただけです。帰りましょう」


 凄い速さで宝箱の蓋を閉めたエーリカは、すくっと立ち上がり、階段へと向かう。


「ちょっと、どうして、閉めるのよー! ムカムカなんですけどー!」


 宝箱の内側からポカポカと叩く音に交じって抗議の声が聞こえる。


「思いっきり、中でしゃべっているんだけど……」

「言葉を話す羽虫です。気にしたら負けです」

「さすがにそういう訳には……」


 「早く解放してよー、頼むからー、泣くよー、泣いちゃうよー」と、わーわーと宝箱の中で(わめ)いている。

 エーリカが再度蓋を開ける素振りを見せないので、私が代わりに宝箱に近づき、慎重に蓋を開ける。

 蓋のロックを外し、ゆっくり蓋を開けていくと、隙間からスーッと黒い影が飛び出した。

 

「いつまで待たせるのよー! ほんと、すっとろいんだからー!」


 私の周りをウロウロと飛び回る物体……妖精が飛んでいた。

 

 身長二十センチほど。

 長い髪はオレンジに近い赤毛で、白色のアマリリスに似た花を挿している。

 水色に近いヒラヒラとしたワンピースドレスで所々花の刺繍がしてある。ちなみに、スカートは超ミニで、色々と見えそうだ。

 トンボの翅のよう物が、背中に四枚付いており、目に見えない速度で動かしている。羽の色は服装と同じ水色であるが、光の加減で玉虫色へと変わる。

 絵に描いたような立派な妖精が、私の周りを飛び回っていた。


「ちょっと、久しぶりに再会したんだから、何か――って、げーッ!? 怪しい奴!? エーちゃんだと思ったら、別人じゃない!? 顔を隠しているし、絶対に盗賊だわ! 食われる、殺される!」


 妖精は、私の姿を見て、あわあわしだした。


「ちょっと、落ち着いて! 別に怪しくないし、盗賊でもない!」


 私は、目深に被っていたフードを取り外し、素顔を見せた。


「ぎゃー、悪人だー! 百人は人を殺している極悪人だ! 犯される、殺される!」


 素顔を見せても、これである。


「いい加減、静かにしてください、ティアねえさん。これ以上、ご主人さまを侮辱すれば、ティアねえさんの羽を(むし)りますよ」


 大騒ぎしている妖精を両手で掴んで捕獲したエーリカが、妖精に向けて凄んでいる。


「……って、ちょっと待って!? エーリカ、今、何て言ったの!?」


 何か重大な事を聞いた気がして、エーリカに聞き返した。


「羽を毟ります」

「いや、そこじゃない。さっき、ねえさんと言わなかった?」

「はい、こんな煩い羽虫ですが、上から二番目の私の姉です」


 エーリカの捕縛からすり抜けた妖精は、私の目の前で止まる。そして、空中で仁王立ちになりながら、私の方へ指を突き付けて、言い放った。


「良く聞きなさい、悪人面のおっちゃん。あたしは、ヴェクトーリア製魔術人形二型二番機ティタニア。極限まで妖精に近づけた最高傑作の一体なのよ!」


エーリカの姉であるティアが登場した所で、今年の投稿は最後になります。

来年、また宜しくお願いします。

少し早いですが、皆さま、良いお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今年最後の投稿でしょうか。 お忙しそうですが良いお年をお迎えください。
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