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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者
76/324

76 打倒!ベアボア肉 その2

今回、ちょい短め。


 私はアルコールとベアボア肉で、机に突っ伏している。

 アナは未成年(日本では)なのに、早いペースでワインを飲んでいる。若干、顔が赤くなって、健康的な顔色になっていた。見た目に反して、お酒が強いようだ。

 エーリカもチビチビとワインを飲んでいる。こんな幼い娘にお酒を飲ませて良いのかと罪悪感が湧くが、エーリカは人形なので、見なかった事にしよう。

 

「正直、お手上げ……どうにもならん」


 少し、回復した私は、椅子に座り直して、先程の激戦について感想を述べた。


「ワインや牛乳に漬けた肉も大して変わらないと思います」


 アナは、ワインと牛乳とリンゴの果実で漬けこんでいるベアボア肉を見つめる。

 冷しゃぶで分かったが、獣臭を取り除くと渋みに似た苦味が前面に押し出てきてしまい、これも食べられた物ではなくなった。

 これが渋柿のような渋みなら、干し柿の要領で、ベアボア肉も軽く茹でてお酒を塗って天日干しすれば、美味しくならないだろうか?

 いや、魔物肉の苦味は確か……。


「苦味って、魔力が原因だっけ?」


 以前、アナから聞いた事を思い出す。


「はい、ある一定以上の魔力を含んでいる生き物を魔物と言います。全ての魔物は、この痺れる様な苦味がある事から、この苦味が魔力の味と言われています。ただ、魔物の中にも魔力が極端に少ない魔物がおり、それらは比較的美味しく食べれます。例えば、ホーンラビットは魔力が少ないので、食べやすいです」

「じゃあ、その魔力を肉から取り除けば、普通のお肉と変わらなくなる訳だね」

「そうなります」

「ちなみにアナは、肉から魔力を取り除く方法は知っている?」

「すみません、分かりません」

「エーリカはどう?」

「知りません」

 

 アナもエーリカも魔力を取り除く方法は知らないみたいだ。勿論、私も知らない。灰汁抜きみたいに、米ぬかや重曹で茹でれば取れないだろうか? 試してみたいが、米ぬかや重曹が無いので出来ないけど……。

 誰か知っている人はいないかな?



 ―――― きょ……ぅ……か……ぃ ――――



「…………」


 うーん、魔力に関係する事だから、上位の魔法使いや魔術師に聞けば、知っているかもしれない。

 知り合いにいないかと考えたら、該当する人が一人思い浮かんだ。

 白銀等級冒険者のナターリエだ。彼女が魔法使いなのか魔術師なのかは知らないが、上位の冒険者である事は間違いない。魔力に関しても、私たち以上に知っている筈だ。

 彼女を探して、聞いてみようか?



 ―――― きょ……う……かぃ ――――



「…………」

「おじ様?」

「ご主人さま、どうかしましたか?」

「ん? いや、何でもないよ……それよりも、エーリカとアナは、貴族の料理は食べた事はある?」

「いえ、ありません」

「わたしもです」


 アナとエーリカが首を横に振る。勿論、私もない。

 もし上手くベアボア肉の魔力や獣臭を無くしたとして、その先の事も考えていかなければいけない。

 食べれるようになったベアボア肉でどんな料理をすれば良いのだろうか? 普通にステーキのように焼くべきか? ハンバーグのように加工した料理にするべきか?

 ベアボア肉が普通のお肉になったからって、私が作った料理を貴族が満足してくれるだろうか?

 それも今回依頼を受けた貴族は、食道楽男爵で名を知らしめている相手だ。お金に物を言わせて、色々と美味しい物を食べているに違いない。そんな彼を満足させる料理を提供しなければいけない。

 ただの女子高生である私に提供できるのか自信がない。

 やはり、ナターリエに会うべきだろう。彼女は貴族の繋がりがあり、一度くらい食事をした事はある筈だ。魔力について、貴族の食事について、話を聞いてみるべきだな。



 ―――― きょぅ……か……い ――――



「…………」




 ―――― き……ぅか……い ――――



「…………」



 ―――― きょ……ぅかい ――――


 ―――― きょ……う……か……ぃ ――――


 ―――― ょ……う……かぃ ――――


 ―――― きょぅ……か……い ――――


 ―――― きょぅ……かぃ ――――



「だー、うるさいッ!」


 つい目に見えない相手に、大声を出してしまった。

 何も知らないエーリカとアナは、目を見開いて驚いている。


「ご、ご主人さま……どうしました?」


 いつも眠そうな目をしているエーリアが目を見開いて聞いてきた。

 アナに至っては、私から離れて、エーリカのそばに寄っている。


「ごめんごめん。頭の中に毒電波がしつこく流れてきたから、つい怒鳴っちゃった。だからアナ、そんな怖い人を見る目で見ないでほしい」

「毒……電波ですか、ご主人さま?」

「毒電波は、言葉の綾。いつもの『啓示』の事」

「『啓示』? おじ様、それは何ですか?」


 そう言えば、アナには『啓示』について教えていなかった。

 私がピンチの時にアドバイスをしてくれる声について教えた。

 本当、この『啓示』が無かったら、今頃、死んでいるだろう。それだけ私を何度も何度も助けてくれた恩人である。……人じゃないけど。

 それにエーリカと出会わせてくれたのも『啓示』のおかげだ。

 内容が内容なだけに、無視した上につい怒鳴りつけてしまった。本当に申し訳ない。

 

「へー、そんな便利な能力があるんですね。初めて知りました」

「本当に危ない時や悩んでいる時にしか聞こえないけどね」

「それで、『啓示』は何て言っているのですか、ご主人さま」

「雑音が酷くて、上手く聞き取れないけど……どうも、『教会』って言っているみたい」

「教会ですか? 教会に行けって事ですかね、おじ様?」

「そうだろうね。行った所で、何があるか分からないけど……」

「ご主人さま、教会へ行きましょう」

「それなんだが……」


 教会には良い印象がない。

 私を『ケモ耳ファンタジアⅡ』から無理矢理引き離し、この異世界へ強制転移をさせられた。

 そして、私がハゲのおっさんだと分かると、お金を握らせて、外へとポイっと捨てられた。

 秘密の儀式で呼び出され、捨てられた私が、教会に行って、あの時の関係者と顔を合わせたら、どう思われるだろうか。

 嫌な顔をされるだけならいいが、もしかすると口封じで消されるかもしれない(物理的に)。

 心配し過ぎと思うかもしれないが、この街の教会は、貴族よりも立場は上なのだ。何をされるか分かったものじゃない。

 そんな経緯もあり無神論者の私は、宗教というデリケートな場所には、なるべく近づきたくないのである。

 

「教会には、顔を合わせたくない人がいるから、行きたくないんだよ」


 異世界転移について教えていないアナがいるので話を濁して伝えたら、「それなら、顔を隠して行きましょう」と提案してきた。

 エーリカに至っては、「私との出会いは『啓示』によるものです。絶対に良い事があるに決まってます。すぐに行きましょう」と行く気満々である。


 まったく行きたくないが、二人の要望で教会に行く事になってしまった。


『啓示』のお導きにより、行きたくもない教会へ向かう事になりました。

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