72 貴族からの依頼
重い重いと感じながら、深い眠りから目を覚ました。
仰向きで寝ていた体の上にエーリカが覆いかぶさるように眠っている。
口の端から涎が垂れているので、私の胸がエーリカの涎で濡れていた。
太陽の位置から察するに、もうすぐ朝の鐘が鳴る頃だろう。
怪我で七日間も眠っていたにも関わらず、朝までぐっすりだった。
アナも起きている様子がないので、エーリカもアナも私の看病で疲れが溜まっていたのだろう。
寝ているエーリカの頭を優しく撫でてやると、鬱陶しそうに私の胸に顔を埋ずめてくる。そのおかげで、エーリカの涎が広がってしまった。
「エーリカ、朝だよ。今日は人と会う約束があるから、ご飯を食べたら、すぐに出かけるよ」
私が優しく声を掛けると、「ご飯、食べます!」と言って、カバッとエーリカが起き上がった。
今度、クルトに録音機を改造して目覚まし時計を作ってもらおうかな。「ご飯の時間だよ」「起きなきゃ食べちゃうよ」と声を入れて、エーリカにプレゼントしよう。
まぁ、そんな事しなくても、時間になれば起きてくるから必要ないけど。
二人で井戸まで行き、顔を洗ってから台所へ入った。
「後輩、起きなさい。あなたのご飯はわたしが食べますよ」
今も寝ているアナにエーリカが起こしに行った。
私は朝食の準備の為、竈に火を起こす。火打ち石の扱いにも慣れたもので、ニ、三回、石同士を打ち合わせただけで種火を作る事ができる。一端の火起こし名人である。
隣の部屋からガタンゴトンと音を鳴ると、寝癖で頭が爆発しているアナが慌てて台所に現れた。
「ご、ごめんなさい。寝過ごしました」
「朝食は、私とエーリカで準備するから、アナは顔を洗ってからクロとシロの餌をあげてくれる。終わる頃には、朝食も出来ていると思う」
私がそうアナに伝えると、トテトテと外へ出て行ったが寝間着姿のままなのを思い出し、再度、戻って来て、灰色のローブ姿になって出て行った。
朝食の献立は既に決まっている。昨日の夕飯の後で三人で決めていたのだ。
塩胡椒味の簡単なスープ、卵料理、アナの家に保存してあるカチカチのパンである。
油をひいた鍋に細かく切ったニンニクを入れて、エーリカに炒めてもらう。
その間に、使い残した玉ねぎと人参を細切れにして、鍋に入れてニンニクと一緒に炒める。
ホーンラビットのお肉も少し削ぎ落とし、一緒に炒めたら、水を入れて、煮込んでいく。
本当は、鶏ガラスープや中華スープの粉末を入れたいのだが、この世界に無いので諦める。ホーンラビットの骨が残っているので、これでダシが出来ないかと思ったが、そんな時間は無いので、今回は止めておく。
ローリエっぽい葉っぱを一枚入れて、スープは放置する。
続いて、卵料理に取り掛かる。
台所の床下に牛乳や卵、肉類といった傷みやすい食材が保管される貯蔵スペースがある。
貯蔵スペースの蓋を開けて、卵と牛乳とチーズを取り出した。
卵料理は簡単に目玉焼きでもしようかと思ったが、若干涼しいだけの貯蔵スペースで保管してある、いつ産んだか分からない卵で半熟の目玉焼きは危険そうなので、オムレツを作る事にした。
ボールに卵三個を割り、牛乳と塩胡椒を少々を入れてからかき混ぜ、卵液を完成させた。ちなみに箸が無いので、スプーンで混ぜた。
仕上げは、アナが戻ってからにするので、しばらく小休憩である。
お皿の用意をしたり、机を片付けたりしていると、クロたちの世話をしていたアナが戻ってきたので、料理を完成させる事にする。
グツグツと煮込んでいた野菜スープに塩胡椒で味を調整したら、アナに木皿に移してもらうようお願いした。
エーリカは、私の隣の竈でパンを温めている。
私は、鉄のフライパンに火をかけ、バターを落とす。ジュウーとバターが溶けた所で、卵液を入れて、スプーンでかき混ぜながら焼いていくが、スプーンが短くて、凄く熱い。
スクランブルエッグの様になった所で、火から放し、卵の上にチーズをかける。そして、卵の端の方を剥がしてから、フライパンを傾けて、包むように端へ寄せていった。
最後にトントンとフライパンを叩きながら、形を調整して出来上がり。
脂がしっかりと馴染んでいる鉄フライパンのおかげで、底にこびりつく事もなく、綺麗なオムレツが出来た。
ただ問題なのが、鉄フライパンはとても重いという事。綺麗に出来たオムレツをフライパンを傾けてお皿に乗せようとしたら、フライパンの重みで、狙いがそれて皿からはみ出てしまった。その所為で、オムレツが途中で千切れて皿の外へ落ちてしまった。
机の上に落ちた半分のオムレツを手で掴んで、皿に戻す。これは私用だな。
この反省を活かし、残りのオムレツも作ってから、以前作ったトマトソースを掛けてチーズオムレツは完成した。
スープとオムレツ、パンを食卓へ運び、三人が席に座ると、タイミング良く朝の鐘が街の方から聞こえる。
その音を合図に、私たちは食事を始めた。
まず、塩胡椒だけで味付けしたスープ。
うん、味気ない。若干、野菜とお肉の旨味がするが、全体的に薄味の為、塩味のお湯であった。
そう思っていると……。
「お肉を入れたり、事前に炒めるだけで、こんなにも味が変わるんですね。私が作るスープよりも凄く美味しいです」
と、アナが褒めてくれた。普段、どんなスープを飲んでいるのだ?
次にオムレツ。
こちらは普通にオムレツ。私のオムレツは途中で千切れているが、味は問題ない。まぁ、オムレツは形を作るのが難しいだけで、味付けなどで失敗する料理ではない。
フォークでオムレツを切ると、フワトロの卵とチーズがトロリと垂れてくる。それをトマトソースに絡めて食べると、卵とチーズの旨味にトマトの酸味が合わさり、口の中で溶ける様に広がっていく。
「うわー、卵の中にチーズが入ってる! 美味しい……」
チーズが入っているのが嬉しいのか、アナが美味しそうに食べてくれる。
オムレツ自体『カボチャの馬車亭』で出ていたので、特に珍しい料理ではないが、オムレツの中にチーズが入っているのは珍しいらしい。
そして、パン。
ガッチガチである。このまま食べたら歯が欠けてしまう。そう思うと、ビールで発酵させたパンを提供している『カボチャの馬車亭』のパンは偉大である。
折角、ジャムがあるので、ジャムを付けて食べたかったのだが、私の顎では太刀打ち出来そうにないので、スープに漬けて食べる事にした。
アナもそのままパンを食べるのでなく、スープで一旦柔らかくしてから、ジャムを乗せて食べている。
ちなみに、今まで一言も話さないエーリカは、そのままジャムをたっぷりと付けて、バリバリとパンを食べている。人形とはいえ、石でも食べている咀嚼音を出していると、どこか壊れないか心配になってくる。
若干一名、食い足りない顔をしている者がいるが、こうして今日の朝食は済んだ。
朝食を済ませた私たちは、素早く片付け、出掛ける用意をした。
依頼主がお偉いさんの予感がするのでお洒落な服を着ていきたいのだが、生憎といつもの古着しか持ち合わせていないので我慢する。
いつも着ていた皮鎧は、ブラック・クーガーに壊され、ワイバーンに焼かれてしまったので麻布のシャツとズボンのみ。
一応、冒険者なので、レイピアは腰に下げておく。
ちなみに、エーリカとアナもいつも通りの恰好である。
私たちは徒歩で街まで向かった。家を出て、獣道を抜けて、北門を通って冒険者ギルドまで行くと、白銀等級冒険者のラースとナターリエが既に冒険者ギルドの前で待っていた。
「ようやく、来たか。待っていたぞ」
「外で待っていたんですか? 建物の中なら椅子があるのに……」
「今の時間、ギルド内は混雑しているからね。外の方がまし」
艶めかしい表情でナターリエが、「私たちがいると目立つしね」と微笑む。
改めて、白銀等級冒険者の二人を見ると、美男、美女の姉弟である。
弟のラースは、細身の優男で人懐っこい笑顔が特徴だ。いかにも女性受けしそうな顔立ちである。
一方、姉のナターリエは、年齢のよく分からない妙齢の美女。全体的にほっそりとしているが、出る所は出ており、ローブの上からでも分かるスタイルの持ち主である。
そんな二人を観察してから、ふっとアナを見ると、チラチラとラースの顔を見ては頬を赤らめている。
あっ、この子、もしかして……。
「アナスタージア、俺の顔に何かついてる?」
アナの視線に気が付いたラースが、アナの方を向いて、聞いてきた。
聞かれたアナは、急いでフードを被り、私の背後に移動して「い、いえ、何でもないです。失礼しました」と謝った。
「そう……じゃあ、依頼主の所に案内するから、ついて来な」
そう言って、ラースはナターリエと一緒に歩き出した。
本当は、レナに挨拶をしたかったのだが、仕方がないので、ついていく事にする。
前方を歩いているラースが「俺、アナスタージアに惚れられちゃったかも……罪深い男だね」とナターリエと話している。
いや、違うぞ、ラース。
アナは、昨日、私が見せたBLの絵を思い出して、色々と想像を巡らしてしまっただけだ。たぶん、今もラースの背中を見ながら、ギルマスとの愛のストーリーを思い浮かべている事だろう。
私たちは北の方へと向かう。
特に話す事もなく黙ってついていくと、案の定、貴族街へ通じる坂道を登り始めた。
「えっ、こっちは貴族様の地域ですけど……ま、まさか……」
山の中腹に建てられた貴族の屋敷を眺めながら、不安そうにアナが呟く。
「そのまさかさ。依頼主はお貴族様だ」
やはりそうか。薄々、そうじゃないかなと思っていた。
以前、ベアボア探しで襲われた時、懇意にしている貴族がいると言っていた。昨日も仕事帰りで疲れているにも関わらず、指名の依頼を受け、私たちを探していた。それに今回の依頼主は金払いが良いとも言っていたので、相手はラースたちと付き合いのある貴族ではと予想していたがズバリだった。
「依頼主の名前は、パウル・クロージク男爵。食道楽男爵として有名で、色々な食材を各国から取り寄せては、専属料理人に作らせ、食べる事を生きがいにしている人だ」
食堂楽男爵って、私もそういう人生を歩みたい。決して、おっさんの姿の人生など歩みたくなかった。
「貴族でも平民とか関係なしに接してくれる方よ。気楽にしてもらって構わないわ」
そうナターリエが言うが、仮にも相手は貴族だ。貴族のマナーやルールなんて全く知らないので、どう接すれば良いか分からない。
私とアナが不安な顔をしていると、前方を歩くラースたちが坂道の途中で曲がり、屋敷同士の隙間にある小道へと入って行った。
そして、小道を抜けると、住宅街へと出た。
庭付きの一軒屋が並ぶ。
家の広さは、現在日本に建っている平均的な一軒屋の二つ分。
屋敷と言うよりも家である。それも小さくて、拍子抜けである。貴族の屋敷ならもっと自己主張が激しい、見栄の塊みたいな屋敷ばかりと思っていたが、今いる場所は、幽霊に誘拐された少女が住んでいた新興住宅地に似ていた。
家と家の間の道は、綺麗に整備されており、所々に街路樹が植えられている。ただ、綺麗に整備されてはいるが、道を歩いている者が少ない為、閑散とした雰囲気が醸し出されていた。
これが貴族地区か……と思ったが、ここはまだ平民が住んでいる裕福地区に一番近い場所である。
貴族の中にも位があり、その一番低い位の男爵の人たちが、ここに集まって住んでいるのだろう。だから、家も小さいし、住宅街みたいに密集しているのだろうと私は考えた。
家と家の間を通っている道に、数人の人が歩いている。パンを入れた籠を持っている着古されたクラシカルメイド服をきた中年の女性。リードに繋がれた犬を散歩させている薄汚れた作業服を着た二足歩行の狼男。路肩で馬車の整備をしている日に焼けた服を着た初老の男性。
使用人だと思われる彼らの服装を見て、私は安堵する。
私とアナはいかにも冒険者の出で立ちで、特別浮いている感じではない。
ラースは白を基調にしたズボンとシャツに青色の上着を羽織っている。ナターリエは以前と同じ淡い赤色のローブで身を覆っている。二人とも使われている素材が良い所為か、貴族街にいても裕福地区にいても違和感がない。
一番、目立っているのがエーリカである。
きめの細かい黒色のゴシックドレスに光り輝く金髪。裕福地区でも目立つが、ここでも目立つ。位の低い貴族が集まる場所に、大貴族のご令嬢が歩いているようなものだ。
すれ違う人がエーリカをチラっと見て、距離を開けている。
傍から見れば、お金持ちのお嬢様を護衛する冒険者に見えるかもしれない。
「ここがクロージク男爵の屋敷だ」
同じような建物が並んでいる内の一軒にラースとナターリエが立ち止まった。
白を基調とした二階建ての建物。二階には可愛くバルコニーまである。
この貴族街に建っている家は、どれも似たり寄ったりで、地図を渡され一人で行けと言われたら、辿り着けない自信がある。
ラースを先頭に玄関まで向かう。
玄関まではレンガで舗装された通路があり、その左右は綺麗に刈られた芝生が生えていた。芝生の上にブランコがあれば、完全に外国の庭付き一軒家の雰囲気である。
隣の家と隔てている塀の近くに、小さく柵で囲った場所がある。その柵の中で、緑色と灰色のスライムがプルプルと震えていた。
貴族は愛玩動物用にスライムを飼っていると聞いたが、本当に飼っているんだな。
私はスライムの様子を見に行きたかったが、ラースがドアノックを鳴らした所為で諦める事にした。
コンコンコンと三回ノックをしたらすぐに扉が開いた。
扉の前に、着古された燕尾服を着た、背を丸めた男性が立っている。髪の毛は薄く、頬がこけた老人のような男性だ。
「お待ちしておりました、ラース様、ナターリエ様」
猫背の男性が、弱々しくもはっきりとした言葉で、恭しく挨拶をした。
「トーマスさん、クロージク男爵が探していた人物を連れてきた。彼は家に……あいたッ!?」
ラースの隣にいたナターリエが、杖の先端でラースの頭を叩く。
「失礼な言い方をしてはいけませんといつも言っているでしょう! ……トーマス様、愚弟の失礼な態度を謝罪します」
「いえ、わたくしのような使用人に敬称はいりません。それに若い方はこのぐらい元気な方がいいですよ」
猫背の使用人は、服装通り、ここの主の世話をする執事なのだろう。
猫背で薄毛で頬がこけている執事、もしかしたら、ここの主は女装癖のある宇宙人かもしれない。そして、筋肉ムキムキの私はイケメン人造人間に改造されてしまうかも……。
少しワクワクしながら、執事のトーマスの案内で家の中へ入る。
玄関を抜けると吹き抜けになっており、左の壁に沿って二階に上がる階段があった。階段の壁には大小の絵画が飾られている。この異世界の絵画は、どんな感じか見に行きたかったが、先頭を歩くトーマスは、階段の方には行かず、右側の通路に入っていったので仕方なくついていく。
廊下の一番突き当たりまで進んだトーマスは、ドアをノックすると「入りたまえ」と扉越しから低い男性の声がした。
トーマスが先に入り、その後で私とエーリカとアナの三人が部屋へ入る。
ラースとナターリエは、私たちの依頼とは関係ないので、廊下で待機するとの事。
部屋は、奥行きのある十畳ほどのシンプルな作り。
右側には使い古された書棚が立っており、羊皮紙や木札が整理されて保管されている。左側は対面になるように三人用のソファーが置かれ、これも使い古された長机が間に設置されている。
部屋の奥には、簡素な机があり、その机の奥に男性が座っている。
どうやら、この部屋は執務室のようだ。
男性は、全体に丸々と太っており、鼻の下にちょび髭が生えている。
彼が、パウル・クロージク男爵なのだろう。
私を先頭に部屋の奥まで進み、クロージク男爵がいる机の前で止まった。
エーリカとアナは、一歩後ろの左右に控えている。
無言のまま眉間に皺を寄せているクロージク男爵は、私たちを観察するように順に眺める。そして、エーリカの姿に視線を向けた男爵は目を細めた。
私たちと違い過ぎるエーリカに違和感を覚えたのだろうか? それとも、気にいられたか?
貴族はお金がある所為で、色々な性癖を持っている。映画で良く描写されているから知っている。
もし、幼女のエーリカを妾にすると言ったら、エーリカを抱えて逃げだそう。もしくは、大貴族の令嬢や王国の姫がお忍びで冒険者体験をしているとほらを吹いてみよう。相手も男爵だしね。
そんな事を考えていると、クロージク男爵の隣に立っている執事のトーマスが声を出した。
「この度は、良くパウロ・クロージク男爵の屋敷に来て下さり、有難う存じます。早速ですが、幾つかご確認をさせて下さい」
平民の私たちに慇懃丁重に話し出すトーマスを見ると、ナターリエが言っていた通り、クロージク男爵は平民とか関係なく話が分かる人というのは間違いないのかもしれない。ただ、当のクロージク男爵は、眉間に皺を寄せて難しい顔をしているだけで、一言も口を開かないのだが……。
「まず……最近、平民の間で話題になっているピザなる食べ物を作られたのは、そちらのアケミ・クズノハ様で間違いございませんか?」
「え、ええ……私が『カボチャの馬車亭』の方に作り方を教えました」
「ピザは、アケミ・クズノハ様が一から作られたのでしょうか? それとも、元から知っていたのでしょうか?」
「元から知っていました。私の世界……んん、国では普通に食べられている料理です」
「ほう……ちなみにどちらの国から来られたのです?」
私は少しだけ口をつぐむが、まぁ、正直に答えても問題ないだろう。どうせ、この異世界の文明力では、世界の隅々まで調べているとは思えない。
「日本という国です」
「にほん……聞きなれない国ですね」
「東の最果てにある島国ですので、無理はありません」
「東ですか……ちなみに、ピザ以外にも変わった料理はありますか?」
「ええ、あります」
「再現は出来ますか?」
「難しいです。材料が足りませんし、私の知識も足りません。数えるぐらいしか、再現出来ないでしょう」
「そうですか……」
そこで、質問をしていたトーマスは、隣に座っているクロージク男爵の方へ顔を向けた。
クロージク男爵もトーマスの方を見て、コクリと頷いた。
「大変、結構です。アケミ・クズノハ様に依頼を申し込みたいと思います」
あれ、何か合格されたっぽい。正直に答えず、適当に「秘密です」とか言って不合格になった方が良かったかもしれない。
それにしても、どんな依頼がくるのか? 普通に美味しい料理が食べたいとか、変わった料理が食べたいとかなら、何とか成りそうなのだが……。
私は背筋を伸ばして、トーマスの言葉を待つ。
「アケミ・クズノハ様の知識で、ベアボアのお肉を使って、美味しい料理を提供して下さい」
「…………」
……まじ!?
ついにご貴族様登場です。
面倒臭い依頼が舞い込みました。