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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第二部 かしまし妖精と料理人冒険者

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68 借金返済の相談

「結局、アケミおじ様を襲ったワイバーンや黒い騎士については、分からずじまいです。白銀等級冒険者の方が追いかけて行ったと聞きましたが、まだ戻って来ていないそうです」

「白銀? あの姉弟たち?」

「いえ、もう一つの冒険者です」

「ご主人さまに酷い事をしたワイバーンとそれに跨っていた騎士は、生きたまま串刺しにして、炎で炙り、ゴブリンの巣に放り込んでやります」


 恐ろしい事を言うエーリカは、ホーンラビットの肉にガブリと齧り付く。眠そうな目をしているのに、その瞳の奥では憎しみの炎が燃えていた。余程、腹が立っているのだろう。


「それにして、アナの話し方は良くなったね。どもったり、小声になったりしなくなった」

「そ、そうですか……わ、私……必死だったので……どうなんでしょう……はぃ」


 指摘したら、戻ってしまった。


「荒療治という奴でしょう。サシャと呼ばれる冒険者に対して怒鳴り散らしていました」

「私、怒鳴り散らしていません! エーリカ先輩だって、私の事、アナスタージアと呼んでくれていました」

「いえ、呼んでいません」

「呼んでいました。これからも呼んでください」

「後輩は後輩で十分です」


 エーリカとアナがワイワイとしているのを眺めながら、アナの手料理を堪能する。

 私にとっては、つい先程まで薬草採取をしていた気分であるが、二人は七日ぶりの落ち着いた食事である。

 のんびりまったりとこの時間を楽しもう。



 食後、カモミールに似たミーレ草でお茶を入れて、まったりとする。

 時間停止の機能のないアナの収納魔術に入れっぱなしにしていたおかげで、ちょうど良い塩梅に乾燥していたので、お茶にしてみた。

 ミーレ草の花びらを浮かべたお茶は淡い黄色に変色して、リンゴのような香りを漂わせている。

 一口飲むと、リンゴの様な風味が口の中に広がる。

 ガットギターを抱えてドレミの歌を歌いたくなってしまう。ギター弾けないけど……。

 肌荒れにも効くカモミールティーは、肌荒れの酷いアナや火傷した私に効果がありそうだ。

 それにリラックス効果が高いので、これから頭が痛くなる相談のお供として最適であろう。


「えーと……先程、エーリカから報告を聞いたお金に関して相談したいと思います」

 

 食事中にエーリカから私たちのお金を使い切り、借金返済の目途が立たなくなったと報告された。その現実に倒れそうになった私は、現実逃避として話を脇に置き、食事を楽しんでいた。

 そして、食事を終えた今、この悩める問題に正面から挑まなければいけないのである。


「まず、手持ちのお金はいくらあるの?」

「銀貨で五枚ほどです」

「五枚……」


 頭がクラクラしてきた。


「中級の回復薬や薬草、回復魔術師の派遣依頼で使わせてもらいました。あと教会の神父に渡した献金代が高くつきました」

「高い金額を払って、何の役にも立たない神父でした。今度見かけたら、馬糞でも投げてやりましょう」

「エーリカ先輩……確かに高い金額でしたが、馬糞はちょっと……。おじ様、お金を使ったのは私です。私がしっかり考えて使えば良かったのですが……すみません」

「いや、アナが謝る事じゃないよ。むしろ、アナたちが使ってくれたから、私はこうして元気になれたんだ。私こそごめん」


 私を助ける為に使ったお金だ。感謝するが恨む事はない。

 ただ、現実問題、借金を抱えている身で、お金が無い状況はどうすればいいのか……。


「それで、借金返済まであと何日になる?」

「今日を含め残り十一日です」


 二週間切ってしまった。


「つまり、残り十一日で銀貨九十五枚を稼がなければいけないと……」

「そういう事です」

「私もお金があれば借金返済に協力するのですが、さすがに銀貨九十五枚はありません」

「いやいや、アナのお金を貰うつもりはないよ。これは私とエーリカの問題だから。ただ、協力はしてほしいし、知恵も貸してほしい。お願い出来るかな?」

「ええ、喜んでお手伝いさせてもらいます」


 「仲間ですから」とアナが嬉しそうに答えてくれた。嬉しい限りである。


「順番に考えるとしようか。まず、私たちがお金を稼げる方法は何があるかな?」

「冒険者の依頼です。ただ、これに関しては、大した金額になりません」


 エーリカの言う通り、鉄等級冒険者である私たちが依頼をこなしても借金返済の金額には到底間に合わない。

 

「大ミミズの様な買取が高い魔物を依頼抜きで狙ってみるのはどうかな?」


 大ミミズは良い値段で買い取ってくれた。大ミミズとまではいかないが、それらと同等の魔物を数匹倒せば、金貨一枚に届かないだろうか? と二人に言ってみたら、アナが首を振った。


「このダムルブールの街周辺に現れる魔物は基本弱いです。大ミミズやブラック・クーガーが特殊な例で、もし大物を探すとなると、何日も遠出をして、辺境な場所で探さなければいけません。それでも見つかるかどうか……」


 大物狙いで何日も遠出し、それで日付を奪われてしまい借金返済の期限が過ぎたら、そのまま遠くの方へ逃げてしまいそうになる。


「それに、もしレベル以上の魔物をお金目的で討伐すれば、冒険者ギルドが黙っていません。怒られるだけなら良いですが、最悪、冒険者証を取り上げられるかもしれません」


 以前、冒険者ギルドは冒険者を守る義務があると聞いた。無茶をする冒険者を自由にはさせないのだろう。それに、大物狙いをしたらレナに怒られるので、この案は止めておく。


「あっ、ブラック・クーガーの死骸はどうなったの? 危険な魔物だったんだよね。高く買ってくれるんじゃない?」


 ワイバーンの印象が強すぎて、ブラック・クーガーの事を忘れていた。何でも銅等級冒険者以上でないと対処出来ない魔物だ。魔石は勿論、あの黒い毛皮は高く売れそうだ。


「ブ、ブラック・クーガーは……燃えてしまいました」

「はい?」

「ご主人さまの足元で死んでいたので、ワイバーンの炎に巻き込まれ、売り物に成らなくなりました。魔石も駄目です」


 おおう……。


「ちなみに、薬草採取の依頼は、おじ様の治療を優先してしまい報告を忘れ、期限切れになっています。薬草自体は買い取ってくれますが、依頼達成は不完全になっています。ごめんなさい」


 大した金額ではなかったが、依頼達成にバツが付いてしまった事にガッガリしてしまう。まぁ、それでアナを責めるつもりは微塵も無い。


「ご主人さまは病み上がりで、完全ではありません。当分、討伐依頼は止めた方が良いでしょう」

「そ、それもそうですね」


 病み上がりとはいえ、特別不調でもない。少し胸の傷が痛むぐらいであるが、何日も看病してくれた二人の手前、素直に聞いておこう。


「冒険者の依頼に関しては、期待は出来ないと……なら、他にお金を稼げる方法はないかな?」

「料理はどうですか?」

「料理? ピザやリンゴパイみたいに売るって事? カルラさんたちは、たぶん、もう無理だと思うよ。今も厳しいのに、リンゴパイを売り出したら、新しい料理まで手が回らないはず」

「おじ様の料理はどれも斬新で誰でも欲しがると思います。ほ、他の料理屋の方に買ってもらうのはどうです?」

「いきなり行って、金貨一枚で料理の方法を買ってくれるかな? アナは、見も知らないハゲのおっさんが、金貨一枚で美味しい料理の方法を教えると言って、お金は出す?」

「い、いえ……買いません。銀貨五枚でも買いません。すみません」

 

 だよねー。

 カルラたちも成り行きで教えて、宿泊代三日ぐらいで買ってくれたから、金貨は抜きにしても、銀貨数枚も難しそうだ。


「そうだ! 私たちでおじ様の料理を出すのはどうですか?」

「三人でお店を出すって事?」

「そうです。ピザの状況を見れば分かります。おじ様の料理を幾つか出せば、十一日もあれば金貨一枚に届きますよ」


 アナが楽しそうに語っている。

 そういえば、アナの母親は、将来お店を開きたいと言っていたな。冒険者をしているアナも将来は食事を出すお店を出して、母の意志を継ぎたいのかもしれない。

 ただ……。


「アナ、楽しそうで申し訳ないのだが、お店を出すにしてもお金は必要だよ。お店を出す場所代、材料費、人件費、宣伝費、その他諸々と商売を始めるにもお金がかかる。そのお金すら私たちにはないよ」

「そ、そうですか……」


 アナが肩を落とし俯いてしまった。

 折角、アナが楽しそうにアイデアを出してくれたのだ。私はデメリットしか言えなかったが、もしかしたら、大食らいのエーリカなら、アナの案に打開策があるかもしれない。


「え、えーと……エーリカは、アナの案を上手く出来るようにするアイデアはある?」

「ありません。ご主人さまの言う事は至極尤もです。後輩の考えは浅はかで恥ずかしいです」


 エーリカが止めを刺した所為で、アナは涙目になってしまった。

 酷い娘だ。人の事言えないけど……。


「アナ、良い案だったよ。今回はちょっと予算が無くて駄目だっただけ。今度、余裕があったら考えてみようね。では、気持ちを切り替えて、他に案はあるかな?」

「か、髪を乾かす魔術具を頼んでましたよね。あれは売れませんか?」


 すぐに元気になったアナ。頼もしい限りである。

 クルトにドライヤーの相談を受けてから一週間が経過している。そろそろ形に成っているかもしれない。

 私はクルトにドライヤー一個を銀貨一枚で頼んだ。これから銀貨一枚で百個を売れれば金貨一枚に達するだろう。

 ただ、ドライヤーを作るにしても、材料費、人件費等が掛かってしまう。さらに私たちは売り上げの二割を貰う約束だったので、単純に五百個以上を売らなければいけない。

 そもそもどこに売れば良いのかも分からない。

 以前、便利ではあるがわざわざ平民が買う程でもないとアナに言われた。買ってくれるとしたら、富豪や貴族だろう。ただ私やクルトにそんな大それた知り合いはいない。こういった場合、商業ギルドに行って、相談するべきなのだろうか?

 まぁ、あと十一日で五百個以上を生産する事自体無理な話であるし、そもそも完成しているのかも分からない状況だ。

 今度、クルトの様子でも見に行ってみよう。

 その事をアナに話すと「そうですね」とまた肩を落としてしまった。

 私、駄目だしばかりしていて、嫌な奴になっているな。


「そうだ、エーリカ。スライムを捕獲した時に作った録音機の魔術具は売れないかな?」

「ろくおんき……ですか?」


 アナが聞きなれない言葉を聞いてキョトンとしている。

 空気が出るだけの大砲型玩具を改造した録音機は、全部で三個作った。その内の一個は冒険者ギルドに貸している。残り二個の内の一個をエーリカがアナへ渡した。


「面白い玩具ですね。子供たちが喜びそうです」


 アナが録音機の魔術具を何度か使って、感想をもらった。

 ボイス・レコーダーとして使えれば、それなりに需要がありそうだが、この魔術具はそこまでの性能はない。口元まで持っていき、声を入れなければ録音はされないし、その録音をした音も雑音交じりで聞くに堪えない代物だ。

 アナの言う通り、この魔術具は子供たちの玩具ぐらいにしかならないだろう。

 そして、子供たちがわざわざ買うかと言われると、それも難しい話だ。

 下町は間違いなく無理として、裕福地区の人たちは別に裕福でもなく、年頃の子供も仕事してようやく生活できる環境だ。決して、音を録音して流すだけの玩具を買ってあげる程の余裕ある家庭は少ないだろう。

 録音機もドライヤーと同じ、ターゲット層が富豪や貴族になってしまう。


「玩具と見ているから、駄目なんじゃない? 形状を変えて、もっと良い魔石を使えば、ちゃんとした録音機になるかもよ。出来そう、エーリカ?」

「はい、今の状態が底辺ですから、今以上になる事は間違いありません」

「そ、それで、その後はどうやって使うのですか?」

「えーと……どうやって使おうかね? 手紙の代わりに声付の魔術具を贈るとか? または歌や音楽を録音して売り出すとか? 吟遊詩人の人に売れそうだね。あとはハンカチの代わりに、戦場へ行く人に愛の言葉を渡す道具にしたりできないかな?」


 私は幾つか案を出す。

 手紙の代替品は、手紙自体は存在しているが、郵便制度が確立していないので需要がないと言われた。

 歌や音楽は貴族ぐらいしか聞かないので、これも難しい。なお、吟遊詩人は『女神の日』のお祭りの時にしか、この街には現れないとの事。

 ハンカチの代替品は、戦争が無いので無理そうだ。


「ハンカチ繋がりで、ご主人さまがハンカチ屋で専属の絵描きになってはどうですか?」

「勘弁してよ」


 前回、何枚か絵を描いて、その報酬で銀貨四枚を手に入れた。これが金貨一枚を稼ぐには、どれだけの絵を提供しなければいけないのか、考えただけでゾッとする。それに似顔絵師で雇ってもらうとしても、落書きのような絵をお金をもらって描くほど図太くない。私は冒険者だ。

 その事を伝えると「ご主人さまの描かれたハンカチは、わたしが買い占めるつもりだったのですが……」とエーリカが残念そうに呟いた。

 お金が無いのに買い占めてどうする!? 本末転倒だよ!

 「あっ、私が注文したハンカチをもらって来なければ!」とアナはアナでハンカチの話をしていたら、別の事を思い出して楽しそうにしている。



 色々と話し合っているが、結局、何も解決策は思い浮かばなかった。

 最悪、借金返済の為に借金をするか? と危険な自転車操業が頭に過ってしまう。

 やるやらないにしても、試しに聞いてみよう。


「アナ、冒険者ギルドでは、生活に困った冒険者を保護する為、お金の貸し付けとかしてないかな?」

「冒険者ギルドではそのような事はしていませんが、商業ギルドでは事業の融資としてお金を借りる事は出来るそうです」

「おお、流石、商業ギルド。行った事ないけど、頼りになる」

「ただ、厳しい審査があります。借金返済の目途がない人には貸しませんし、利息もそれなりにかかります。私たち冒険者がお金を借りるには、難しいかもしれません」

 

 ですよねー。

 冒険者なんていつ怪我をして引退するか分からない職業についている相手に、お金なんか貸さないよね。私なら貸さない。話も聞かない。相手にもしない。

 ちゃんとした場所で、お金を借りるのは無理そうだ。


 なら、最終手段として、奴隷商のおっさんに借金返済の延期を申し込んでみるか。

 あのおっさん(名前は忘れた)は、冷やかしにきた私でも、今後、お客になる可能性があるからと丁寧に案内をしてくれた。つまり、その場限りの儲けでなく、未来を見据えた商売をしている。

 そんな彼なら事情を説明し拝み倒せば、延期ぐらいしてくれないだろうか?

 一銭も入らず奴隷堕ちさせるよりも、借金返済の可能性があり、今後もお客として来てくれる方を選ぶだろう。たぶん……。

 

 少し希望を持てた私はカモミールティーを飲んでいると、エーリカから一つの案が出た。


「ご主人さま、わたしに一つ案があります」

「案? へー、なになに?」

「BLです」

「…………」


 ……まじ!?


相談したところで、解決策はありませんでした。

ただ、エーリカが……。

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