51 アナのスレイプニル
次の日。
雲一つない晴れ晴れとした遠出日和。
筋肉ダルマに殴られた顔と肩の腫れは引いており、いつも通りの状態になっている。
朝食を終えた私たちは、カルラからリーゲン村の村長夫婦に試食をしてもらうジャムとリンゴパイを受け取ってから冒険者ギルドへ向かった。
朝の空気を堪能しながら冒険者ギルドの前に着くと、ギルマスのヘルマンと鉢合わせをした。ちなみにギルマスの後ろにヴェンデル、サシャ、マリアンネの青銅等級冒険者三人組が待機している。
「嬢ちゃん、今日は暇してないか?」
ギルマスのヘルマンは、なぜか私ではなくエーリカに話し掛けてきた。
ナンパか? ナンパなのか? 幼女をナンパするなんて衛兵に突き出してやろうか!
「ないです」
エーリカが眠そうな目で即答する。
「確か嬢ちゃんは、魔物を呼べる特技があるんだったよな。少し、俺たちに力を貸してくれないか?」
「しないです」
考える素振りも見せず、エーリカはコンマ〇秒で返答する。
「それは残念だ。じゃあ、依頼頑張ってくれ。お前ら行くぞ!」
特に気にした風もなく、三人の青銅等級冒険者を引き連れて、大股で行ってしまった。
ナンパではなかったみたいだが、何だったのだろうか?
気になったので、依頼の授受をする前にレナに聞いてみた。
「最近、北門の先の森が変なのです。森の奥にいる筈の魔物を街道近くで見かけたり、平原にいる筈の魔物が森の中で発見されたりとしています」
ホーンラビットの討伐をした時もそんな話を聞いたな。
「その調査にエーリカさんを連れていきたかったみたいですね」
「ギルマス本人が調査ですか?」
「森に異変があれば一大事との事で、他の依頼をしていたヴェンデルさんたちを巻き込んで、本人が直接向かいました」
青銅等級冒険者の三人は、大ミミズの時もギルマスと一緒に来てくれた。その時に気にいられたのかもしれない。ギルマスとはあまり話した事はないのでよく知らないが、気の毒にと思っておこう。
「実際は、書類仕事が嫌になって、外に出たかっただけですけどね」
困ったものですとレナが溜め息をつく。
「依頼の説明をする前にこれを渡しておきます」
そう言うなりレナが革袋を一つ、受付の上に置いた。
「これは?」
「こちらは昨日捕まえてくれた犯人の懸賞金です」
袋の中身を見ると銀貨や銅貨が入っていた。
「以前、アケミさんたちが捕らえた恐喝犯の残党……いえ、本体だったそうです」
恐喝犯といえば、初仕事の馬糞回収を終えた後に絡んできたヤツらだ。
「取り調べによれば、彼らはこの街を中心にしていた窃盗団だそうです。結構やり手だったそうですが、間違って貴族の物を盗んでしまい、今回に繋がったそうですよ」
金額を確認すると銀貨二十枚相当であった。筋肉ダルマたちは、それなりの懸賞金が掛けられていたみたいである。おかげで借金返済に近づいた。
銀貨二十枚では三等分する事が出来ないので、アナの分に少しだけ色を付けておく。後で忘れずにアナに渡さなければと心のメモ帳に記載する。
「では、今回の依頼ですが、リーゲン村で商品の交渉をする事で間違いありませんか?」
「ええ、大丈夫です」
「リーゲン村まで行くという事で、ギルドから追加依頼をお願いしたいと思います」
「追加依頼?」
何か嫌な予感がする。
「滅多にありませんが、二つの依頼を受けて貰おうと思います」
「その内容は?」
「リーゲン村で大ミミズの卵がないか調べて欲しいのです」
うわー、以前、そんな話があったな。
大ミミズなんか私のトラウマの一つだよ。関わりたくない。
リーゲン村まで行くからついでにって事だよね。
お金にもなるし……どうしようかな?
「ちなみにどうやって調べるのです?」
「大ミミズの通った地中を隈なく調べてください」
「穴の中を這いずるって事?」
捕虜収容所から大量の捕虜が脱走する場面が浮かぶ。
「はい、モグラのようにです。もし、卵が見つかったら……」
「燃やすのですね」
気持ち悪いのは消毒だ。
「いえ、持ち帰ってください」
「えっ? もしかして、食べるの?」
「食べません。貴重な素材になります。高く買い取りますよ」
うう、気が進まないが、やるしかないか。これもお金の為、借金返済の為。
私、がんばるぞい!
レナに二つの依頼を処理してもらった私たちは、北門へ向かった。
アナの家は北門を出た近くとの事で、門を出た先で待ち合わせをしている。
商人や冒険者が出入りしている北門を抜けると、木陰で待合馬車を眺めているアナを発見した。
「アナ、お待たせ」
アナに声を掛けると、にこやかな顔で近づいてきた。
「アケミおじ様、エーリカ先輩、お、おはようございます」
あれ、不健康そうだったアナの顔色が良くなっている。特に目の下に出来ていたクマが薄くなっているのは気の所為でないはず。
「顔色が良いね。昨日はよく眠れた?」
「は、はい……冒険者の依頼をしている所為か、最近はよく眠れてます。食事も以前に比べ、よく食べられるようになりましたので、これもひとえにおじ様やエーリカ先輩のおかげです」
一ヶ月前に最愛の父を亡くしたアナは、悲しみの所為で一ヶ月間、運動も食事も睡眠もまともにしていなかった。
私たちの仲間になって三日目。依頼をこなす為に歩いたり、魔法を使ったりすれば、お腹も空く。食事をして、運動もすれば、睡眠の質も深まるだろう。
これからも、亡き父の悲しみを乗り越え、前へ進んで欲しいところである。
「後輩、健康に必要なのは、美味しい食事、快適なベッド、そして適度な運動です」
人形のエーリカが後輩のアナに健康について諭す。
「私はいつも健康です。なぜなら、ご主人さまと一緒に食事をする事で不味いオートミールのミルク粥でも楽しく食べられますし、ご主人さまと一緒のベッドで寝ると安心して朝までぐっすりです。次の日は、元気にご主人さまと冒険者のお仕事です。わたしはいつもで元気溌剌です」
いつも眠そうな顔をしているのに、元気だったのか?
「い、一緒のベッド!?」
アナは顔を赤らめながら、どきまぎしている。
「アナ、変な想像をしないようにね。エーリカが夜中に私のベッドに忍び込んでくるだけだから」
夜、寝る時は別々のベッドに入るのに、朝起きると隣にエーリカがいる。それも毎日である。
私の睡眠が深い所為なのか、エーリカがベッドに忍び込むのが上手いのか分からないが、気付くと隣にエーリカが眠っているのだ。今まで忍び込む瞬間に一度も気づいた事がない。
「ご主人さまの体温と体臭のおかげで朝までぐっすりです」
体温はまだしも体臭は止めて! 恥ずかしい!
「ま、まぁ、この話は置いといて……はい、アナの取り分」
話を変える為に、今朝貰ったお金の一部をアナに渡すと「ありがとうございます」と素直に受け取ってくれた。
「で、では、私の家に案内します」
今日はリーゲン村まで行く。その足にする馬をアナの家まで取りに行くのだ。人生初めての乗馬である。
私は、楽しみと不安が混ざった複雑な気分でアナの家まで向かった。
アナの後についていく。
北門を出た街道を進むこと数分、木々が生い茂る林の前でアナが立ち止まる。もう少し歩けば、ホーンラビットを討伐した森へ到着する場所である。
「こ、ここから入ります」
「林の中? 草や木が生い茂っているけど大丈夫?」
「す、少し前までは草刈りや伐採をしたちゃんとした道でしたが……少し、ほかっていたらこんな有様になってしまいました」
確かによく見ると、地面を踏み固めた獣道が存在する。
アナは慣れた様子で草木をかき分け、獣道を進んで行った。
毛虫とか、蜘蛛とかいないよね。
私の服装は半袖シャツに皮鎧である。太い腕が露わになっている為、なるべく草木に触れないように道の中央を歩いて行く。
「ギルドで聞いたけど、少し先の森が変らしいよ。この辺りの林は大丈夫?」
アナにギルドで聞いた森の異変について話してみた。
「ホ、ホーンラビットを討伐した森ですね。あそこの森とここの林は離れていますし、繋がっている訳ではないので大丈夫です。そもそも、この辺は魔力が少ないらしく、魔物自体見かける事はありません。代わりに普通の動物は沢山います」
土地にも魔力があるそうだ。魔力がこもっている土地には魔物が住み着く。いや、魔物が住み着くから土地に魔力がこもるのか。その辺、聞いてみたいものだ。
……あれ!?
アナの後ろ姿を見ながら獣道を進んでいたら、妙な違和感を覚えた。
「結界です」
私の後ろを歩くエーリカが呟く。
「さすが、先輩です。結界を超えました……はぃ……」
後ろを振り返ったアナが説明してくれた。
アナの家の敷地には、家庭菜園をしていたり、馬を飼っているので、害獣や林に紛れ込んだ人間が入らないように防犯用の結界を敷地の周りに掛けているそうだ。
「許可の無い人間が入ると見えない壁にぶつかったりするの?」
「い、いえ、そんな大層な代物ではありません。ただの認識阻害の結界です」
進入許可の無い人間や動物が結界の近くに来ると、自然と中には入らず、道に反れる代物で、精神作用に影響を及ぼす結界だそうだ。
「へぇー」と思いつつ結界の先を進むと、開けた場所に出た。
草木に囲まれた広々とした場所。
敷地に入ってすぐに、ログハウスのような木材を組み立てた家が建っている。
これがアナの家だろう。屋根に煙突があるのがカッコいいが、どこか寂れている雰囲気を漂わせている。
「素敵な家だね。老後はこういった家に住みたいよ」
「あ、ありがとうございます。ただ……あまり、手入れをしていないので……所々壊れています」
恥ずかしそうにアナが答える。
家の横には柵で囲まれた菜園があるが、今は何も実ってはおらず、雑草が生えていた。その中で、鶏が四羽ほど自由に歩いている。
「今は何も育てていないの?」
「はい、父が亡くなってから余裕が無くて……」
しまった、余計な事を言ってしまった。
「以前は、薬草などを育てていたんです」
ホーンラビットを食べた時に、そんな話をしていた事を思い出す。
その時、ローズマリーやバジルなどを少し貰った。私も料理などで使うハーブが欲しいので、今度、一緒に家庭菜園でもしてみようかな。
それにしても……。
私は、広々とした敷地の半分を占める柵の中に目を向ける。
贅沢に使われた敷地の中に、黒色と白色の鬣をなびかせながら走る二頭の馬が目に入る。
「ね、ねぇ、アナ……もしかして、今日、乗る馬ってあの二頭かな?」
私はゴクリと唾を飲み込み、恐る恐るアナに尋ねた。
「はい、そうです。黒い馬が『クロ』で、白い馬が『シロ』です」
「安直な名前」
馬の名前にエーリカがツッコミを入れる。
「わ、私が考えたんじゃありませんからね! ズボラだった父が命名したそうです」
「名前は別にいいとして……あの馬、足が八本あるんだけど、見間違いかな?」
柵に囲まれた広々とした敷地をゆっくりと走っている二頭の馬は、足が八本も生えている。足同士がぶつかって転ばないか心配になる。
「はい、馬は馬ですけど、魔物のスレイプニルです」
「神馬や軍馬と言われるスレイプニルにしては小さいです」
エーリカの感想を聞いて私もうなずく。
この世界に来てすぐに教会から追い出された後、スレイプニルに牽かれた馬車とすれ違った事がある。その時の馬は、壁が迫ってくる感じで、恐ろしかった。
だが、アナの馬は、通常の馬とそう変わりのないサイズである。
「まだ、子供のスレイプニルなんです。私よりも少し上の年齢です」
アナの両親が冒険者だった頃、ある依頼で譲り受けた二頭だそうだ。そのすぐ後に母親が妊娠し、アナが生まれる。アナと二頭のスレイプニルは、兄弟のような存在だそうだ。
ちなみに黒毛のクロが雄で、白毛のシロは雌である。
私たちがゆっくりと馬場に近づくと、二頭のスレイプニルはアナに気が付き、柵の方に近づいてきた。
「今日は久しぶりに遠出するからね。楽しみにしていてね」
柵の上から顔を出した二頭のスレイプニルの頭をアナが優しく撫でる。
うーん、でかい。
近くで見ると、その大きさが際立つ。
たぶんだけど、通常の馬と同じ大きさだろう。だが、足が八本もあるので、通常の馬よりも大きく見える。
私は一定の距離を置いて見ているが、エーリカはアナと同じように近づいて、シロの頭や首すじを触ったりしている。
「そ、そうだ。出かける前にお茶でも飲みますか? 家でゆっくりと休憩しますか?」
今日のアナは滑舌が良い。
初めて出来た友達を家に呼んだ子供みたいである。
もしかして、楽しいのだろうか? それとも、テンパっているだけだろうか?
「いや、先に依頼を済ませておこう。帰りに寄らせてもらうよ」
「はい、では、準備しますので、待っていてください」
そう言うなりアナは、馬場と隣接している小屋へと向かった。あそこがクロとシロが寝起きする厩舎なのだろう。
シロを触っていたエーリカはクロへと移り、サワサワと毛並みを触っている。
「エーリカは馬が好きなの? 怖くない?」
「特に好きという訳ではありません。これから乗馬するので、状態を見ているだけです。ご主人さまも触ってあげてください。馬は信頼関係が大事です」
私はそろそろと柵へ近づき、白毛のスレイプニルであるシロの顔に手を伸ばす。
ゆっくりと手を伸ばすとシロが鼻を伸ばして、フンフンと私の手を嗅いだ。
「ブヒヒィーン!」
手を嗅いでいたシロが突然、歯茎を出して頭を上へと突き出す。
「うわっ!?」と私は驚いて後ろへと下がる。変な顔で怖い。
「怒ってる!? いや、笑っているの!? もしかして、臭かった!?」
「いえ、気にいられたみたいです。ご主人さまの体臭と魔力は、良い匂いですから」
体臭はともかく、魔力も匂いがするの?
鼻に皺を出して歯茎を見せていたシロは柵から頭を出して、前足で地面を掻いている。
そんなシロに釣られてクロもシロの横へと移動し、鼻をフンフンと鳴らしている。
恐る恐るシロへと手を伸ばして、首すじを撫ぜた。
バサバサとした硬い毛並みである。筋肉も凄い。手の平からシロの体温が伝わってくる。
私に触られて嬉しいのか、もっと触れとシロの頭が私に向けて伸びてくる。
それに合わせて、クロの頭も伸ばしてくるので、空いている手でクロも触る。
エーリカの言う通り、私は彼らに嫌われていないようでほっとする。
「お、お待たせしました」
アナは茶色の鞍を抱えながら戻ってきた。
シロとクロの毛並みを堪能していた私は手を離しアナに向き直ると、私の禿げた頭に異変が起きた。
「えっ、なにっ!?」
振り向こうとしても振り向けない。
「ご主人さまがクロに噛まれています。果物と勘違いをしているかもしれません」
どうやら、クロに噛まれているようだ。そして、ガシガシと甘噛みをしてくる。
「あら、おじ様の事が好きになったみたいですね」
馬に噛まれている私をアナが微笑ましそうに見ている。
「見ていないで助けて!」
離れようとするが、凄い力で脱出できない。甘噛みなので痛くはないが、非常に怖い。そして、臭い。
「お腹が空いているのかもしれません。後輩、リンゴを上げても良いですか?」
「はい、喜ぶと思います」
エーリカは裾に手を入れてリーゲン村産のリンゴを取り出した。
それを見たクロは私の頭から口を放し、シロと共にエーリカの元へ向かう。
手の平に乗せたリンゴをパクリと歯で挟み、バギバギと丸齧りする。
リンゴを食べているシロとクロを見ながら、エーリカはもう一つ裾からリンゴを取り出して、シャクシャクと自分も食べ始めた。
「おじ様、家の横に井戸がありますので使ってください」
そう言って、アナは鞍を持ちながら馬場の中へと入って行った。そして、もう一つエーリカからリンゴを貰ったシロとクロに馬装を取り付けていく。
慣れたもので、流れる様にシロとクロの背中に馬装を繋いでいくのをしばらく見てから、私は井戸の方へ向かった。
唾液塗れの頭を井戸水で洗い流し、馬場の方へ戻ると、鞍だけでなく、足をかける鐙や頭に付ける頭絡も完了していた。
完全装備。いつでも乗れる状況だ。
エーリカにタオルを貰い頭を拭いてから、私も柵の切れ目から馬場の中へ入った。
「おじ様、クロやシロの近くにいる時は、前足付近の横にいてください。頭やお尻の方に居ると齧られたり、蹴られたりしますので気を付けてください」
もう既に、齧られたけどね。
アナは既にクロの横にいたので、私はシロの横へと恐る恐る近づく。
私が近づくとシロは頭を私の方へ向けて、フンフンと匂いを嗅ごうとする。
そんなにも私の匂いが気になるのかな?
「乗り方ですが、鐙に足を掛けて、鞍に手を乗せて、地面をけって乗ります。こんな感じです」
そう言うなり、アナはクロの背中にピョンと乗る。ローブ姿なのに慣れた様子である。
「ご主人さま、はい」
私の横にいたエーリカが後ろを向いて両手を広げている。
馬に乗せろって合図かな?
エーリカの運動神経なら背が低くても自分で乗れそうな気がするのだが……。
まぁ、ゴスロリドレスを着ているから、乗りにくいのだろう。
私はエーリカの脇に手を入れて持ち上げ、シロの背中に乗せてあげる。
なぜか、エーリカはウンウンと頷き、満足そうな顔をしていた。
その後、私はシロの背中に乗ろうとして何度か失敗する。
運動神経が無いのか、足が短いのか知らないが、鐙に片足を掛けた状態で、もう片方の足の跳躍で大きな馬の背中まで飛べないのである。つまり、不健康そうな顔の魔法使いであるアナよりも、私の方が運動神経が無いのである。
最終的には柵の一部を台にして乗る事に成功した。
「た、高い!」
百七十センチほどもあるシロの背中に乗ると景色が変わった。
感動するよりも恐怖が勝る。
ついつい前に座っているエーリカを抱かえるように腕を回し、猫背になってしまう。
「おじ様、落馬しないように、背筋を伸ばして、力を抜いてください」
「わたしは今の状況でも問題ありません。いえ、今の状況が良いです。ご主人さまに抱かれると安心します」
エーリカが変な事を言っているのを無視して、アナの言うように猫背を伸ばしていく。
ゆっくりと背を伸ばし、胸を反らしていくと、どんどんと安定感が増していった。
これならシロが動いても落ちそうにない。
私が背筋を伸ばすと、エーリカは私の胸にもたれ掛かるように体重を預ける。
私はエーリカの細い腰に腕を回し、両手で固定する。
手綱はエーリカが握っている。
「大丈夫そうですね。では、リーゲン村まで行きましょう。私が先導します」
「ゆっくり。アナ、ゆっくりでお願い。私、初心者だからね」
「はい!」
嬉しそうにアナが答えると、両足でクロのお腹を蹴って、歩き出した。
「エーリカ、安全運転で頼むよ」
「もちろんです。ご主人さまと一緒に乗馬です。一秒でも長く乗れるよう、ゆっくり行きます」
エーリカもシロのお腹を蹴って、歩き出す。
こうして、私の初めての乗馬が始まるのであった。
……あれ、何か目的が変わってない?
乗馬初体験。
村まで行くだけなのに、色々と苦労しています。




