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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第一部 魔術人形と新人冒険者
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48 ベアボア探しの報告

「うおおぉぉーー、ベアトリーセ、ベアトリーセ、良く無事に戻ってきた!」


 ベア子と再会したベンは、サラサラの毛に顔を埋もれながら首に抱き着き、ワンワンと泣いている。

 ベア子もブモーブモーと鳴きながら、嬉しさのあまり、お尻からお花をボトボトと垂れ流していた。

 感動の再会には程遠い場面である。

 ちなみにベアトリーセとはベア子の本名である。間違っても、ベアボアだからベア子と安直な愛称ではないそうだ。……っていうか、何で異世界なのに『子』が付くんだ? ……不思議だ。


「今日は美味しい物をたらふく食って、お風呂に入って、一緒に寝ような。ああ、忙しい、忙しい」


 ベンが慌ただしくベア子と買い物に行くのを引き留め、依頼完了のサインを貰った。


「あんたは最高の冒険者だ。一流の冒険者だ」と言い残し、枠をはみ出しながらデカデカとサインをして、さっさと行ってしまった。


「普段は良い人なんだ。気にしないでくれ」

「それじゃあ、俺たちも行こうか」


 ベンの後ろ姿が見えなくなってからダミールとイェルクは、残りのベアボアを引き連れて歩き出した。

 ベアボアの背中には気絶している犯人たちが縛りつけられている。その為、ダミールとイェルクと一緒に冒険者ギルドに向かい、犯人たちを引き渡したら、ベアボアと共に別れる事にしている。


 冒険者ギルドに向かう道中、ダミールとイェルクの会話が聞こえた。


「なぁ、俺さ……自分のベアボアがどっちか分からないんだけど……」

「実は俺も……どっちでも良いんじゃね」


 おいおい……。



 無事に冒険者ギルドへ到着した私たちは、近くにいたギルド職員に事情を説明して、衛兵を呼んでもらった。

 犯人の引き渡しは、アナとダミールとイェルクがやってくれるとの事なので、私とエーリカの二人はギルドへ入り、依頼完了の報告する事にする。


「レナさん」


 窓口のカウンターで書き物をしていたレナに声をかける。


「あら、アケミさ――って、顔が腫れてますよ!?」


 レナが私の腫れた顔を見て、目を丸くする。


「ええ、ベアボアを誘拐した犯人たちと小競り合いをしまして……」


 順を追って報告を済ませる。


「……という事で、回復薬や軟膏を塗っていますので、怪我の方は大丈夫です」

「まぁ、それは大変でしたね。それにしても、ただの迷子の依頼だと思っていましたが、まさか誘拐だったなんて……どうして、ベアボアなんかを誘拐したのでしょう?」

「それに関しては……」


 帰り道、白銀等級冒険者のラースとナターリエに会った事を説明した。ちなみに犯人と間違われて襲われた事は話していない。本件とは別の話であるし、何より面倒臭い事に成りそうだからだ。


「貴族から逃げる為にベアボアを盗んだと……依頼が被ってしまったのですね」

「もしかして、今回の事で貴族に何か言われたりしますかね」


 私が気にかかるのは貴族の存在だ。

 貴族といえば、強欲、名声、金の亡者である。さらに我が儘で、プライドが高くて、平民をゴミとしか思っていない。マンガやアニメ、映画で知っている。間違いない。……ごめん、超偏見です。でも、関わらないに越した事はない。


「話を聞く限り、依頼自体は別件になりますので問題はないでしょう。逆に依頼を達成した功績により、感謝の品が届くかもしれません。まぁ、貴族によりますけどね」

「それは良かったです。出来れば貴族とは関わりたくないので……」

「ふふふっ、分かります。もし、問題が起きましても、ギルドが間に入りますので安心してください」


 それを聞いて胸のつかえが取れた。

 もし、盗まれた貴族の持ち物が戦闘で壊れていても、ギルドが何とかしてくれるだろう。

 ふー、これで枕を高くして眠れそうだ。


「それにしても白銀等級冒険者のラースさんとナターリエさんに会われたんですね。上級冒険者の中で、ラースさんたちは比較的常識がありますが、もし、もう一つの白銀等級冒険者の方たちに会われていたら大変な事になっていましたよ」


 大変って何!?


 確かラースとナターリエも、もう一つの白銀等級冒険者は化け物だと言っていた。もしかして、能力が化け物という事ではなく、見た目や性格が化け物って事なの?

 まぁ、その比較的常識があると言われたラースとナターリアに私たちは襲われたんだけどね。

 「そうですか、ははは……」と乾いた笑いで返していると、今まで置物の様に静かだったエーリカが私の方を見て口を開いた。


「ご主人さま、大事な事を報告していません」

「ほ、報告? ……ほ、他に何かあったかな?」


 何か嫌な予感がして、冷や汗が背中を流れる。

 私はエーリカが話し出す前に引き留めようと手を伸ばすが、エーリカは私の手をすり抜け、レナの前に進み出る。


「その白銀等級冒険者の二人に襲われました」

「ほう」


 一瞬で空気が変わった。

 暖かい日差しが差し込む冒険者ギルドが急激に気温が下がった気がする。

 低気圧が部屋全体を覆い、空気が重くなる。

 エーリカの報告を聞いて、レナの笑顔が固まっている。

 口元は笑っているが、目が笑っていない。レナの背後に怒りのオーラが見えそうだ。

 だから、報告したくなかったんだ。

 レナさん、凄く怒っている。

 私、しーらない。


「それは詳しく聞かなければいけませんね。エーリカさん、詳しく教えてくれますか?」

「勿論です。報告は義務ですから」


 エーリカの報告は、まさに微に入り細を穿つ報告であった。

 私たちが襲われた状況を立体感溢れる表現で語り、特に私がとても酷い扱いを受けたかをレナに語っていく。

 若干、大袈裟に言っているが、概ね間違っていないので私の方で口を挟む事はしない。

 レナは真剣な表情で、エーリカの報告を聞きながら、ガシガシと木札にメモをしていく。

 普段の依頼報告の時よりも真剣にメモをしている姿は非常に怖い。


「――と言う事で、筋肉ダルマとの戦闘でボロボロになっていたご主人さまを犯人扱いし、あまつさえ、攻撃をしてから脅しました。頭のテカりも消えている程ボロボロの状況のご主人さまにです。あの時、忠告をせず、一発、当ててやればよかったです」


 エーリカもご立腹のようだ。


「なるほど、分かりました。この件に関しては、ギルドの方で厳重に注意をしておきます、エーリカさん、それで良いですか?」

「注意だけですか?」

「まぁ、向こうの言い分を聞かなければ判断できませんが……双方に話がついていますので、注意勧告だけで終わるでしょう」


 うんうん、悪いのは向こうだ。十二分に怒られてくれ。


「それとアケミさん!」

「は、はい!?」

「忘れていたのか、する気がなかったのか知りませんが、こんな重大な報告をしないとはどういう事ですか! しっかりとしてください!」

「ご、ごめんなさい! 以後、気をつけます!」


 私はペコペコと頭を下げる。

 あちゃー、私まで怒られてしまった。


「ふふふ、まぁ、何事も無くて良かったです。では、依頼料を用意してきますので、しばらくお待ちください」


 怒りを収めたレナが奥の部屋へと入って行った。

 ギルド内の空気が弛緩するのが分かる。

 気まずそうにしていた他のギルド職員が、肩の力が抜けるのが分かった。


「エーリカ、君はもう少し、空気を読もうね」

「空気? 狙撃は結構自信がありますので、空気を読むのは得意です」

「そういう意味じゃないんだけど……」


 説明をするのが億劫だったので、キョトンとするエーリカを無視して、レナが戻ってくるのを待つ。

 しばらくすると、レナがお金の入った二つの袋を持ってきてくれた。

 一つは私とエーリカの取り分。もう一つはアナの取り分。

 何も言わなくても二つ用意してくれるとは、レナの気配りは最高だ。


「初めの依頼料と後で追加になった依頼料は合算してあります」


 ベンの依頼料だけでなく、ダミールとイェルクのベアボア探しの料金も追加されているようだ。借金持ちの私たちにとっては、非常にありがたい。


「今朝、アケミさんが言っていた通り、カルラおばさんとカリーナちゃんが冒険者ギルドに依頼を出しに来ました。明日はその依頼を受ける事で間違いありませんか?」


 カルラの代わりにリーゲン村で商談をする依頼である。


「ええ、明日はその依頼を受けます」

「それは良かった。私の方も用意をしておきますので、明日、お願いします」


 先程の怒りは何処へやら、色鮮やかなお花が咲き乱れるほどの素敵な笑顔でレナにお願いされた。

 その素敵な笑顔に引っ掛かるのを感じつつ、私は「分かりました」と答えて、冒険者ギルドを後にした。



 冒険者ギルドに出た時、ちょうど衛兵が馬に繋がれている荷車に犯人たちを積んでいる最中であった。

 犯人たちは未だに意識を戻していない。死んでいないか心配になる。

 私は一人の衛兵に近寄り、筋肉ダルマの怪我の状況を教えた。


「応急処置をして、回復薬を振りかけています。医者にはそう伝えておいてください」

「犯罪者だから医者に見せるかどうか分からないが、一応、担当者には伝えておく」


 私を殺そうとした相手であるが、私が負わせた傷で死んでしまうと寝覚めが悪い。


「犯人たちも渡したし、俺たちはこれで帰るわ」

「また何かあったら宜しく頼むよ、冒険者さん」


 そう言うなり、ダミールとイェルクは二匹のベアボアを引き連れて帰って行った。

 


 そうだ、アナに明日の事を伝えなければ。


 そう思い、アナの方を振り向くと、隣からクゥーと可愛いお腹の音が聞こえた。

 横を向くと、お腹を押さえながら無言で私を見つめるエーリカがいる。


「ひ、昼ごはんでも食べようか」


 私が提案するとエーリカが大きく頷いた。


「あ、あの……あの……おじ様……」

「どうしたの、アナ?」


 フードを深々と被り、赤い顔をしたアナがおずおずと私に声を掛けてきた。


「わ、私……私……」

「しっかり話しなさい!」


 エーリカがアナに小粒の魔力弾を浴びせる。


「痛い、痛い、ごめんなさい、ごめんなさい!」

「アナ、何か食べたい物でもあるの?」


 涙目になっているアナが、何を言いたかったのかを話の流れで察する。


「わ、私……ピザを食べてみたいです……はぃ……」


 ああ、ピザか……うん、私も食べたい。


「良いアイデアです、後輩」

「あい……であ?」


 意味の通じない言葉にキョトンとするアナの提案で、私たちはピザを食べに行くことにした。


依頼の報告をしただけで、終わってしまいました。

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