43 ベアボア探し その1
商業地区を抜けると、家畜の匂いが空気に混じり始めた。
川に突き当たる手前で脇道に入り、農道を進む。
依頼主が住む地図が書かれた木札と睨めっこしている私の後ろで、エーリカがアナに対して、先ほど購入したハンカチを見せながら、ハンカチに似顔絵の刺繍をした経緯を聞かせていた。
「エーリカ、話を中断して。そろそろ依頼主の家に着くと思うけど、ちょっと木札を見てくれる?」
柵で囲まれた農園の横を通り過ぎながら、私はエーリカを呼ぶ。
右手の柵の中では、色々な野菜が植えられている。
反対の柵では、牛や豚が自由気ままに草を食べている。
一軒当たりの敷地面積が大きくて、木札に描かれた地図では、依頼主の家の場所がはっきりと分からない。
「二軒先の家が依頼主の家だと判断します」
私が持っている木札を覗き込んだエーリカが断言する。
私たちは糞尿混じりの空気を嗅ぎながら、まだ乾ききっていない轍を歩く。
泥で靴を汚しながらしばらく進むと、小さな丸太小屋の前で三人の男性が話し合っている姿を見つけた。
「この家が目的地です」
エーリカ曰く、この小さな丸太小屋が依頼主の家だそうだ。
私たちは家の前で井戸端会議をしている三人の男性の元まで進み、声を掛けた。
「どうも、冒険者です。ベンさんのお家はここでいいですか?」
ベンさんとは依頼主の名前だ。
「おう、待っとっただよ」
三人の内の一人が前へ出てくる。
泥で汚れたつぎはぎだらけの衣服を着た初老の男性が依頼主のベンなのだろう。
他の二人も似たり寄ったりの服を着ている。
「ベンさんが飼われているベアボアが行方不明との事で、その捜索依頼で間違いないですか?」
私は念の為、依頼内容を確認すると、ベンが顔を赤くさせて怒りだした。
「ベアボアなんて魔物のように呼ぶな! ベア子だ! 俺っちのベア子は大事な家族だぞ! 飼うなんて抜かすと、その舌、引きちぎって豚のエサにするぞ!」
依頼主のベンが、歯の抜けた顔で私に掴みかかってくるのを、中年の男性二人が取り押さえた。
な、なに!? 何でそんなにも怒りだすの!?
私があわあわとしていると赤毛の少し若い中年の男性が近づいて、ベンとベアボア(ベア子)について説明してくれた。
長い間、子供が授からないでいたベンさん夫婦は、高齢の少し手前でようやく一人の娘を授かった。
ベンさん夫婦は、子供が中々授からなかった所為もあり、一人娘を愛情たっぷりに育てた。
だが、人生とは残酷なもので、その娘が六歳になった時、流行り病で亡くなってしまった。
残された二人は毎日泣き続け、悲しみの日々を送っていた。
そんなある日、懇意にしていた商人が、ベンさんの姿を見かねて、まだ小さなベアボアを無料で譲ったそうだ。
それがベア子である。
ベンさん夫婦は、そのベアボアを娘の代わりとして、大事に大事に育て続けたそうだ。
「二年前に奥さんを亡くして以来、ベン爺さんのベア子に対する愛情は、深まる一方なんだ」
一人娘と奥さんの代わりになったベア子は、ベンにとって特別な存在である。
毎日、毛をブラッシングしたり、美味しい食べ物を与えたり、一緒に散歩したりする。
流石に家の中へは入れないので、暑い夜の日はベンが外へ出て、ベア子の隣で添い寝をするそうだ。
「そ、添い寝って……」
凄く臭そうとは、ベンの前では口が裂けても言えない。
「それで、おめー達の等級はどのくらいだ? 銀等級か? もしかして、銅等級なんて言うなよ」
「鉄等級の冒険者です」
「ふざけるな! 俺っちのベア子が誘拐されたんだぞ! 何で鉄等級のしみったれ冒険者を寄越すんだ!」
素直に冒険者ランクを答えたら、真っ赤な顔をしたベンが血管が切れそうなぐらいに怒りだした。
こ、怖い……。
「ベン爺さん、落ち着け」
「ベア子が誘拐されたんだぞ! 落ち着いていられるか! 可愛いベア子が……今頃、ベア子の奴、見知らぬ糞野郎に犯されているに違いない……ああ、ベア子……ベア子……うおおぉぉ……」
怒り出したと思ったら、今度は泣き出した。
魔物とはいえ、最愛の娘さんや奥さんの代わりに育てたベアボアが居なくなったのだ。凄く心配するのは分かるが……ベンさん、凄く怖い……。
「鉄等級とはいえ彼らも冒険者だ。ベア子はちゃんと見つけてくれるはずだよ」
「ふん、鉄等級冒険者なんぞドブ掃除ぐらいしか役に立たん」
酷い言われようである。
「あ、あの……わ、私……鋼鉄等級……冒険者……です」
私の後ろに隠れていたアナが、そっと顔を出すと恐る恐る伝える。
「鋼鉄等級も鉄等級も目くそ鼻くそで変わらん! 銀等級ぐらいに成ってから威張れ、小娘!」
ベンに怒鳴られたアナは、ヒィーと悲鳴を上げて私の後ろに隠れてしまった。
「ベン爺さん、そんなに興奮すると倒れるぞ。ほれ、ここは俺に任せて、ベン爺さんは家の中で休んでくれ」
赤毛の少し若い中年の男性の案で、もう一人の中年の男性がベンさんを引き連れて家の中へと入って行った。
「すまない。普段のベン爺さんは良い人なんだが、ことベア子に関わると人が変わったかのように豹変するんだ。特に今日はベア子が居なくなってしまったから、余計に……」
一人残った男性は申し訳なさそうに言う。
ちなみに彼の名前はダミール。ベンさんと一緒に家の中へ入って行ったのはイェルクという。
「い、いえ……心中ご察しします」
感情の起伏が激しいベンが居なくなり、ようやく本題に入れそうだ。
「それで、ベアボ……んん、ベア子の誘拐という事ですが、脱走とかでなく、誘拐で間違いないのですか?」
「ああ、間違いないよ」
即答するダミールが「こっちへ」と言い、家の裏へと回る。
そこは小さな柵に囲まれた家畜スペースになっていた。
一昨日の雨で柔らかくなっている土や泥の上を鶏が数羽歩いている。奥の方には小さな畑もある。規模から察するに、ベンは自給自足の生活をしているようだ。
「ベア子はここで飼って……んん……生活しているんだ」
家に隣接している場所に屋根付きの小さな小屋がある。犬小屋ならぬベアボア小屋だろう。
「誘拐の理由は二つある。一つはこれ」
柵の方へ向かったダミールが、ある個所を指差した。
等間隔に地面に突き刺した丸太の間に、三枚ずつ板を付けた簡単な柵である。
男性が指差した場所の板が地面に落ちていた。
「ああ、なるほど……自然に剥がれて落ちた訳じゃないですね」
地面に落ちている板を持ち上げて観察をすると、原因はすぐに分かった。
丸太と丸太を繋いでいる板は釘で打ち付けられているが、私が持っている板には釘の残りや釘跡がない。
両端の断面を見れば、少しざらついていて、綺麗な年輪が見える。
つまり、丸太同士に打ち付けられていた板は、ノコギリなどの工具で切られていた。
「ベンさん曰く、昨日の夕方に柵を確認した時には異常は無かったそうだ」
昨夜未明、誰かが柵の板を工具で切断し、ベアボアを連れ出したのだろう。
「脱走とかでなく、本当に家畜泥棒……んん……誘拐事件ですね」
「ああ、間違いないよ。俺の所もやられたからな」
ダミールがしれっと大事な事を言う。
「えっ? 今何て?」
「俺やイェルクの所のベアボアも盗られた。これと同じように柵の一部を切られていたよ」
「つまり、昨夜の内に三頭のベアボアが盗まれたという事ですか?」
「そういう事だ。それが二つ目の理由」
そんな大事な事、先に言ってよ。
「その事は冒険者ギルドに報告したのですか?」
「いや、まだしていない。どうするか、話し合っていた所で、あんたらが来たんだ」
朝、気持ち良く眠っていたダミールは、イェルクの訪問で起こされた。話を聞くに柵が壊され、ベアボアが盗まれたらしい。それを聞いたダミールは、念の為、自分が飼っているベアボアの様子を見に行ったら姿がない。イェルクが言ように、自分の家の柵も壊されていた。
二人は別に被害者がいないか、周りの家を見て回っていたら、ベンの家の柵が壊されているのに気がついた。二人はベンの家へ回り、ドアを叩こうとした時、冒険者ギルドから帰ってきたベンと合流。そして、私たちが来るまで、三人で状況やらを話していたそうだ。
「やはり、俺たちも冒険者ギルドに報告をした方が良いか?」
「私たちはこれから盗まれた三頭のベアボアを探しに行きます。もし、三頭が無事に見つけたら、依頼料がどうなるのか、私たちでは分かりません」
私たちが受けたのは、ベンの依頼だけだ。もし三頭を見つけても、ベンの依頼料だけしか貰えないのか、それとも追加報酬があるのか。私たちが戻って報告してもよかったのだが、お金に関わる事なので、当事者が冒険者ギルドで話し合ってもらわなければいけない。
「ちなみに、ベアボアの値段って高いんですか?」
「いや、牛や馬に比べれば安いぞ。動きは遅いが力はあるので荷車を牽かせる為に飼われている」
「じゃあ、どうしてベアボアだけが盗まれたんですかね?」
「さぁ、どうしてだろうな? ベン爺さんのベア子は別にして、それほど希少って訳でも無いしな。俺の家は鶏卵農家だが、鶏には被害はなかった。イェルクの家は野菜を作っているが、それも無事だった。ベアボアだけが盗まれている。意味が分からんよ」
ダミールの話では、ベアボアの価値は高くない。食用にするにしても、ベアボアより美味しい食べ物は星の数ほどある。それは私が断言しよう。
なら、どうして犯人はベアボアだけを盗んだのだ?
私は灰色の脳細胞をフル回転させるが……さっぱり、分からん。
分からないなら分からないで、別にどうでもいいか。
別に私たちは名探偵ではない。依頼を受けた冒険者だ。
依頼内容は、居なくなったベアボアを見つけ出す事。
犯人を捜し、捕らえる事ではない。
エーリカには探し出す案があるそうなので、さっさと誘拐されたベアボアを見つけだそう。
「それでは、私たちはベアボア探しを始めます」
「分かった。俺は冒険者ギルドへ行って、説明してくる」
そう言ってダミールは、ベン達に一言言う為に家の中へと入っていった。
案があると言う当のエーリカは這いつくばるように地面を観察している。
「エーリカ、地面に食べ物は落ちていないよ」
不審な姿のエーリカに言うと、「存じてます」と真顔で返ってきた。
「足跡を見ていました」
足跡?
こんな泥濘んだ地面だ。犯人がこの辺を歩けば、靴跡ぐらいは残るだろう。だが、ベンたちや私たちがすでに踏み荒らしている所為で、地面は無数の足跡が出来ている。
その事をエーリカに言うと……。
「わたしたち以外の足跡を除いて見ています。観察した結果、わたしたち以外の足跡が一人分。ベアボアの足跡と一緒に農道を通って、南の方へ進んでいます」
おお、エーリカ、凄い。
名探偵エーリカ。
でも、それがエーリカの案?
この依頼、アナがいれば出来ると言っていたけど……アナ、いらない子?
エーリカは、地面の足跡を観察しながら道なりへと進む。
私たちは、そんなエーリカの後を黙ってついていく。
途中で二軒の家に寄り道をする。そこが、ダミールとイェルクの家なのだろう。案の定、二軒ともベンの塀と同じように板が切断されているのを確認した。
一軒ごとに人間とベアボアの足跡が増え、最終的に人間三人、ベアボア三頭の足跡が南へと進んでいる。そして、南門が見え始めた頃、辺りをウロウロと見回していたエーリカが「見失いました」と申し訳なさそうに言った。
無理もない、ここから先は道が乾いている。さらに人や荷車の通りも増えているからだ。
「こ、この足跡の方向からだと……門を抜けて……そ、外へ出たんですかね?」
アナが自信なさげに言うが、私もその考えに賛同する。
魔物のベアボアとはいえ、人様から盗んだ家畜だ。
盗まれたことが発覚する前に、なるべく遠くの方へ逃げた方が賢明だろう。
何といっても、ベアボアは図体が大きい。三頭のベアボアを引き連れて街中に留まっていては目立って仕方がない。
盗んだベアボアをどうするかは知らないが、街の中よりも外の方へ向かった方が、ばれないに決まっている。
「門の兵士に聞いてみよう」
北門に比べ、南門の出入りは少ない。貧民地区に近い所為か、見窄らしい商人の馬車が一台入って来ただけで、門の周りに人はいない。
門兵は二人。どちらもやる気のない顔で椅子に座って煙草を吹かしている。
私たちは冒険者証を手に持って、一人の門兵へ近づいた。
門兵は私の冒険者証を一目見てから、無言で顎を門の外へ向けた。
行って良しの合図みたいだ。
おいおい、もっと仕事をしろよと思いつつ、私はその門兵に尋ねた。
「すみません。冒険者の依頼で尋ねたいのですが……」
私は人間三人とベアボア三頭を連れた連中が門を通ったかを尋ねた。
「朝一で通って行ったぞ」
おお、当たりだ!
「その連中の特徴とか教えて下さい」
そうだなぁーと、眠そうな門兵は上を向いて考えだす。
「……若い男が三人。服装からして貧民地区の奴だろう。あとは……商人の身分証を持っていた」
「商人? ベアボアに荷物を運ばせていたんですか?」
「うーん……商人だと思っていたが、荷物らしきものは無かった気がするな」
はっきりとしない答えが返ってきた。
その後、連中やベアボアについて細かく質問したが、分からない、覚えていないの一点張りで役に立つ情報は聞き出せなかった。
人の出入りが少ないんだから覚えてろよと思うが、喧嘩を売りに来た訳ではないので、私たちは礼を言って門の外へと出た。
南門の外は、岩と赤土の荒野であった。所々、まばらに草木が生えている。荒野の先には、高い山脈が列をなしていた。人が住むには厳しそうな場所である。
北門と南門でこれほど違いがあるとは……道理で南門の人の出入りが少ないはずだ。
「犯人が門を抜けたのは確定したとして、この先、どうやって犯人を見つけるの?」
地面は完全に乾いていて、名探偵エーリカの靴跡追跡は不可能だ。
「問題ありません。後輩、出番です」
突然、エーリカに名指しされたアナは、「うへぇっ?」と変な声を出す。
「わ、私ですか? な、何をすれば? そもそも、私に出来るんですか?」
どうすれば良いのか分からず、アナは頭のフードを深く被り直し、あわあわしている。
「何をそんなに慌てているんですか? ただ、精霊に居場所を教えてもらうだけですよ」
当たり前のように言ったエーリカに、「精霊にどうやって聞くんですか? わ、私、出来ません」と、アナは情けない声で返答した。
「精霊魔法を使っているのですから、精霊に話しかけるのはお手の物でしょう。もしかして、無自覚だったとは言わないですよね」
エーリカが眠そうな目でジロリと睨むが、当のアナは首を傾けて「?」マークを浮かべている。
「えーと、つまり、その精霊に話しかければ、犯人を見つけ出せるの?」
私は見かねてエーリカに尋ねてみた。
「はい、ご主人さま。私の一つ上の姉。つまり、五番目の姉は後輩と同じ、風の精霊魔法が得意でした」
エーリカの話は以下の通りだ。
火の精霊は火のある所に、水の精霊は水のある所に、そして、風の精霊は風のある所にいる。
つまり、風の精霊はそこら中にいるそうだ。
エーリカの一つ上の姉は、精霊魔法が得意で、特に風の精霊と仲が良かったそうだ。その為、探し物や探し人が必要な時には、良く借り出されていた。
「五番目の姉とかくれんぼをしようものなら、速攻で発見されてしまいます」
エーリカが遠くを見る目をしている。百五十年近く眠っていたのだ。色々と思う所があるのだろう。
「せ、先輩……わ、私も精霊に話し掛ける事が出来るのですか?」
「風の魔法を放つ時に話し掛けているでしょう。すでに会話は成立しています」
ホーンラビット討伐の際、アナは何度も風魔法を使っていた。
その魔法を発動させる言葉が、精霊との会話である。
「精霊魔法は言葉の通り、精霊の力を借りて行う魔法です。精霊との意思疎通が出来なければ行えません」
ちなみに精霊魔法と他の魔法や魔術は別物らしい。
精霊の力を使う精霊魔法とは違い、他の魔法や魔術は、個人の力量で行うもの。
魔法や魔術を発動させる言葉、つまり、呪文は己のイメージを高める行為である。
魔法や魔術の強さは、魔力量とイメージの強さである、
魔法や魔術について語り出したエーリカであるが、魔法を使えない私にとっては、エーリカの話は、半分も理解出来ないでいる。
一方、精霊魔法を使うアナは、真剣にエーリカ先生の話を聞いていた。
理解は出来無いにしろ、ゲーム好きの私にとって魔法や魔術の話は興味はあるのだが、ここで魔法や魔術の授業をしていては、ベアボアの捜索が進まないので、私はエーリカ先生の授業を終了させた。
「エーリカ、面白い話だから聞いていたいけど、そろそろ本題に戻ろう。それで、その精霊にはどうやって会話をすればいいの?」
「分かりません」
「「はい?」」
私とアナの声がハモる。
「わたしは精霊魔法は使いません。精霊との会話などした事がありません」
今まで魔法や魔術について高説していたのに、肝心の所で分からないときた。
「確証はありませんが、普通に声に出して、話し掛ければ良いと思います。姉はよく、何も無い空間に話し掛けては笑っていました」
それ、理由を知らない人が見たら、ヤバイ人と勘違いされそう。
「さぁ、後輩。風の精霊に話し掛けるのです。熱心にお願いすれば、答えてくれるでしょう」
「や、やるのですか?」
「当たり前です。働かざる者食うべからずです」
嫌そうな顔をするアナは、渋々、荒野の方に体を向けて、弱々しく声を放つ。
「せ、精霊……さん……そ、その……あの……痛い、痛い!?」
「精霊相手に人見知りしてどうするのです! そこらにいる精霊に意識なんかありません。塵や花粉と思って、話せばいいのです!」
エーリカの魔力弾をぶつけられて、アナはあうあうと涙目になる。
分かるよ、アナ。別に人見知りでどもった訳じゃないよね。何も無い空間に話し掛けるのが恥ずかしいだけだよね。私ならやらないよ。頑張れ、アナ。応援だけはするからね。
「さぁ、気を取り直してもう一度」
エーリカのスパルタが続く。
「せ、精霊さん……教えて下さい。その……」
「声が小さい」
「せ、精霊さん! お、教えて下さい!」
「もっと、歯切れ良く」
「精霊さん! 教えて下さい! 誘拐されたベアボアの居場所を教えて下さい!」
「その調子です。何度も、何度も呼びかけるのです」
エーリカの叱声に合わせ、アナは声を張り上げて、風の精霊にお願いをする。
荒野の方に体を向け、手を広げて、何度も何度も声を上げる。
暇にしている南門の門兵が、私たちの方を見ていた。
私は身を隠すように木陰へ移動して、石の上へと座る。
「すぐに返事が来るとは限りません。そのまま続けていなさい」
エーリカも私の横まで移動して、石の上へと座った。
「精霊さん、精霊さん、教えて下さい……」
アナはエーリカの言葉を律儀に守り、何度も何度も風の精霊に話し掛けている。
そんなアナの様子を見ながら、私たちは小さな竈を作り、お茶の用意をした。
どのくらい時間が掛かるか分からないから、少し休憩でもしよう。
ということで、小休憩である。
ベアボアが盗まれたので、その捜索に向かいました。
恥を忍んで頑張るアナ。
ベアボア捜索は、アナ次第です。




