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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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342/347

342 プレオープンに向けてがんばろう その2

 プレオープンまで後四日。

 まだまだ色々とやらなければいけない。


 まず手始めに貯蔵室作りである。

 場所は台所の裏手。ちょうど影になるし、壁を壊し扉を付ければ行き来しやすいので、そこに決めた。

 ティアという人海戦術で生えている草を刈り、地面を均す。そして、湿原の街ボルンで買った水レンガと普通のレンガで四方を囲っていく。

 普通の部屋を作るほどのレンガは無いが、肉や野菜、牛乳やチーズなどを保管する程度の部屋分はある。

 貯蔵室作りは主にフィーリンがやってくれた。

 石材屋で聞いた注意事項を守りながら、テキパキと手馴れた感じで床や壁を作っていく。さすがドワーフに似せて作られただけはある。

 「レンガの場合、接着はどうするの?」と疑問に思ったので尋ねたら、殆ど使わないと返ってきた。所々湿らした土を塗って重ねるが、基本は何もせず積み重ねていくだけらしい。そんなので大丈夫かな? と不安になるが、レンガの重みで十分らしい。

 そんな貯蔵室は二日で完成し、残りは扉と棚を設置するだけになる。

 扉と棚作りはディルクが担当した。

 最初はリディーにお願いしたのだが、「貯蔵室に凝った物はいらないだろ」と扉と棚作りを辞退する。その為、質実剛健のような物を作るディルクに回ったのであった。


 フィーリンが貯蔵室作りに掛かりっ切りになっている為、お酒を仕舞う地下室作りはロックンが担当している。

 ロックンで大丈夫か? と心配になるが、どう言う訳か大丈夫そうだ。

 穴掘りを終えたロックンは、どこからか調達してきた岩の塊を砕いている。なぜかロックンがガンガンと手で叩くと、楔を入れた時のように綺麗に岩が割れる。ゴーレム固有の技なのだろうか?

 そんな割れた岩をロックンは、綺麗に並べ石畳みを作っていった。

 地下に続く階段も作っているあたり、立派な土木作業員だ。

 そんなロックンは、毎回私が様子を見に行くと作業を止めて近づき、両目をチカチカさせながら一緒にやろうと誘ってくる。折角の誘いだが、素人が手伝うと失敗するので、あれやこれやと理由をつけて断りする。その為、泥だらけのロックンに全てを任せる事にした。

 地下室は、四日の内には完成せず、まだまだ先になりそうだ。

 それにしてもエール運びといい、地下室作りといい、ロックンはフィーリンに良い様に使われている気がする。頑張れ、ロックン。


 アナとティアが頑張っている外壁塗装だが、こちらはほぼ完成。

 最初、塗料屋の注意通り二回塗りをしたのだが、近くで見ると所々ムラムラになっていた。「もう一回塗っても同じになりそう」と相談していた所、模様彫りに飽きたリディーが登場。

 器用なリディーがムラのある箇所を塗ったら綺麗になった。

 外壁の色は主に白色で、窓枠などちょっとした箇所は色を変えてある。木造建築だった建物が一気にキュートな感じになり、エーリカたち女性陣にとっては、とても良く似合っていた。ただ強面のおっさんである私とディルクは、完全に場違いな状況で居心地が悪くなってしまった。


 すぐに集中力が切れてフラフラと散歩ばかりするリディーだが、家具の模様彫りは期日までに終わった。リディーが頑張ったおかげで、面白味のない家具が貴族の家に置かれていそうな家具へと変わった。あとは表面をヤスリで磨いてツルツルにすれば完成。この作業は手が空いた人が交互にやっていった。

 今の所、お金を稼いでいないリディーだが、家具職人になれば大儲け出来そうである。


 余った塗料で看板も完成。

 店名看板はディルクが作った。その為、剛健質朴な男らしい看板が出来上がった。

 キュートな外壁に力強い看板。チグハグになりそうなのに、なぜか調和が取れている。たぶん色を合わせたからだろう。

 その辺の気遣いができるディルクは、みんなから褒められる。特にフリーデがべた褒めして、ディルクが照れていたのが印象に残った。


 そんなフリーデは、人数分のエプロンを完成させた。

 それは最大十四人に分裂できるティアの分も含まれ、「人形屋にでもなった気分だ」と疲れきっていた。

 完成してからで申し訳ないのだが、毎日数人のティアは冒険者ギルドに行き依頼をこなしてくるので、食事処で働くティアは十四人全員で働く事はないのである。その事をフリーデに伝えると、恨めしい顔を向けられた。

 折角作ってくれたので、みんなで試着する。

 エーリカたち姉妹は個性的な服の上からエプロンを着けているので、変な感じになっている。「働く時ぐらい服装を変えれば?」と提案してみたら、「ヴェクトーリア博士が作った服です。他の服など着ません」と断られた。言いたい事は分かるのだが、炭鉱の時、男の服を着ていたリディーも同じ意見なのはどういう事だろうか?

 アナとフリーデがエプロンを着けると一気に家庭的な雰囲気が出た。毎日、味噌汁を作って欲しいな。

 私とディルクに関しては何も言う事はない。マスクを被ればレザーフェイスと勘違いされるだろう。


 以前ソーセージを作った時、燻製の話が出た。

 貯蔵室作りを見ていたアナとティアがその事を思い出し、「燻製小屋も作りましょうか?」と提案してきたが、さすがに時間がないので保留になった。

 自家製の燻製食品……どんどん本格的な食事処になっていく。この先、人手は足りるだろうか?


 最大人数に分裂しているティアは、それぞれの場所に行き、手伝っている。

 その内、二人のティアは馬場の手入れに回っていた。

 店名の通り、珍しい魔物であるスレイプニルが間近で見られるのだ。もしかしたらお客の中に良からぬ事を考える者が現れるかもしれない。その為、ティアたちは対策を練った。

 まず馬場を囲む柵の周りにもう一つの柵を作り、立ち入り禁止区域を作った。さらに柵と柵の間に林の中に仕掛けた結界と同じものを張った。もし無断で馬場に入った不届き者がいたら、すぐにティア駆け付け、幻影魔術で撃退するらしい。大事な家族だ。しっかりとクロたちを守ってもらおう。


 最後に私とエーリカだが、みんなの様子を見回りつつ、ドライフラワーを加工していた。

 まず外に干していた花を回収する。まだ水分が抜けていない花が幾つかあるが、食堂に飾っておけばプレオープンの時には枯れるだろう。

 家の中に移動した私とエーリカは、数本ずつ花を束ねると外れないように紐で束ねていく。同じ花だけの束、バラバラの花で纏めた束と色々と作った。そして、食事処の壁に掛けたり、小さな瓶に差して机の上に置いたりした。

 癖のある馬の置物と相まって、一気にアンティークショップのような趣のある雰囲気になる。みんなからも好評で、ますます男臭い私とディルクの居場所が無くなった。

 細々としたドライフラワーを作ったので、最後にドライフラワーリースを作ろう。

 

「……と思ったけど、私、作り方を知らなかった」

「問題ありません。わたしが作れます」


 がっくしと肩を落とした私にエーリカは無い胸を反らしながら自信満々に告げる。


「エーリカ、作った事があるの?」

「乾燥させた花ではありませんが、生花で花冠を作った事があります。その時の要領で作ります」


 エーリカが花冠を……見た目相応な事をしていて微笑ましい。誰に送ったのかな? 何とか博士かな? ちょっと嫉妬してしまう。


「今度、花冠を作って、ご主人さまに差し上げます」

「いえ、結構です」


 ハゲのおっさんの私に花冠を送られても困ってしまう。

 何はともあれ、ドライフラワーリースはエーリカに任せる事にした。


 まずエーリカは外に出るなり、林の中から蔓を調達してきた。

 その蔓を何重にもグルグルと輪っかにしてから、ばらけないように蔦などで縛り固定する。

 ベースが完成するとエーリカは、机に置かれているドライフラワーに視線を向け動きを止めた。


「どうしたの?」

「頭の中で完成図が完成していません。どのような感じにしましょうか?」


 机には色んなドライフラワーが置かれている。余りにも選択肢が多くて、決めかねているようだ。


「出入口の扉に飾るつもりだから、見栄え良く派手にしてもいいね。いや、外壁の色に合わせて白をベースに赤と黒を散りばめてもいいかな? そうそう、確か匂いの強いのを飾ると魔除けになると聞いた事があるよ」

「魔除けですか……」


 エーリカは机に置かれているドライフラワーを掴むと、クンクンと匂いを嗅いでいく。そして、薄紫色をしたラベンダーのような花を選んだ。

 先程と同じく数本ずつ花を束ねた物を作っていく。私も見ているだけでなく手伝う。そして、ある程度数が揃うと、蔓で作ったベースに束ねた花を差して、外れないように紐で固定していく。

 どんどん花の束を差し、隙間を埋める。所々ベースが見えてしまう場所には、別の花も差したりして色を付けていった。

 

「うん、良い出来だ。さすがエーリカ」


 完成した薄紫色のフラワーリースを見て、私はエーリカを褒める。

 

「ご主人さまを思って作りました。ぜひ受け取ってください」

「いや、扉に付けようね」


 やたらと私にプレゼントをしたがるエーリカを説得させると、完成させたドライフラワーリースを扉に付けた。

 模様が彫られている扉と薄紫色のリースがとても似合い、「僕とエーリカの合作だな」とリディーがとても喜んでいた。

 こうしてドライフラワー作りも完成したのである。



 プレオープン前日。

 みんなの頑張りにより、『薬草料理店 スレイプニル』は開店できる状況になった。

 外壁塗装、看板、貯蔵室、内装、馬場は完成。

 食材、香辛料、調理器具、食器はある。食パンとロールパンも『カボチャの馬車亭』から焼きたてを貰っている。クルトから改良したフードプロセッサーも届いている。フィーリンが新しくお酒を調達してきたので、お酒も出す事が出来る。

 あとは料理の下準備だけ。

 アナを中心に私とリディーの三人で、手作りソーセージとスープを仕込んでいく。

 どのくらいのお客が来るか分からないので、材料がある限り作り置きをする。

 それなりの量を作ったので、昼過ぎから始めたのに夜まで掛かってしまった。

 私たちが疲れ切ってしまったので、その日の夕食は準備したソーセージとスープで済ます。


「はぁー、ようやく明日だね」


 食事を摂り終えた私は、ふぅーと溜め息を吐く。

 鋼鉄等級冒険者になったばかりだというのに、本業そっちのけで食事処の準備をしていた。

 こんな事をしていて良いのだろうか? と思う反面、別に冒険者稼業だけで生計を立てなければいけない訳ではないと思う。

 異世界に来たのだ。やりたいようにやろう。

 まぁ実際は先の事などまったく考えておらず、思い付きやその場の流れに身を任せているだけなんだよね。


 今回の食事処もアナの夢を聞いたエーリカとティアが大金が入った事で、暴走したのが始まり。

 最初は困惑していたアナだが、今では立派な責任者である。

 そんなアナだが……。


「うぅ……みなさん、ありがとう……ございます……うぅ……」


 泣いていた。


「私……お母さんについてはほどんど……知らなくて……でも、お父さんから沢山聞いていて……お母さんが望んでいた料理屋が出来る事がずっと……ずっと……夢で……うぅ……」

「後輩、明日が本番です。まだ夢は叶っていません」

「準備しただけで、まだ始まってもいないけどな」

「エーちゃん、リーちゃん、余計な事を言わなくていいのー」

「そうそう、二人は冷たいんだからぁー。お酒でも飲んで、明日に備えようねぇー」


 フィーリンからエールを受け取ったアナは、グビリグビリと飲むと、さらに大粒の涙を流す。


「みなさんのおかげで……ここまで来ました。明日も力を貸してください……お願いします」

「さぁさぁ、アナちゃん。明日は早いんだから、お風呂に入って眠ろうねー」


 ティアに支えられながらアナは、ヨロヨロと浴室へと向かう。

 そんなアナたちを見て、私たちはニコリと微笑んだ。


 明日は『女神の日』。

 特別の日だ。

 明日は成功する。

 女神さまが見守ってくれるし、それに沢山の家族がいるのだ。


 絶対に成功する、そう思いながら明日に備え早めに休むのであった。


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