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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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336/347

336 魔物釣り その1

 昇級試験の為、これから魔物釣りを行う。

 魔物を釣るには、魔物が寄ってくる薬草を使うか、肉をエサにして誘うそうだ。

 エサ用の肉はエーリカの収納魔術に色々な種類が入っているので問題なし。

 魔物寄せの薬草も試すつもりなので、冒険者ギルドの二つ隣にあるギルド印の道具屋に立ち寄る。


「……おっと!?」


 道具屋に入ろうとした時、入口から顔見知りが出てきた。

 いや顔見知りではなく、昨日一緒の宿に泊まっただけの間柄。

 先頭にいるコングのような女性はきつきつの皮鎧を着て、背中にはメイスのような武器を背負っている。背後にいる女性たちも各々短剣、弓矢、杖を携えているので、やはり同業者であった。

 私とエーリカは横へ移動し軽く会釈をすると、なぜか先頭のコングにキッと睨まれた。

 嫌いな飛行機に乗せられそうな雰囲気のコングだが、エーリカに視線を向けると、「ちっ!」と舌打ちしてから通り過ぎていった。

 

 えー、私、何かした?


 私自身に落ち度があったのかと思ったが、後ろにいる残りの三人の女性たちは特に何事もなく過ぎ去っていく。


「何だったの?」

「分かりませんが、非常に不愉快でした。こっそりと魔力弾でも撃っておきましょう」

「止めなさい」


 物騒な事を言うエーリカを押し留めると、気を取り直して店内に入った。


 以前、ドワーフ村に向かう途中で道具屋に入った事があるが、ここも同じような感じ。ナイフ、縄、皮袋、鍋などの旅に必要な物から魔術具のような訳の分からない物が陳列されている。

 その中に乾燥させた草のコーナーがあり、そこで魔物寄せの草を発見。

 笹のような葉っぱで、これに火を点けて、出た煙で魔物を誘うそうだ。

 一束で大銅貨一枚。

 高いのか安いのか分からない。

 効果も分からないが、手段は多い方が良いので、冒険者割引で購入した。


 買い物も済んだし、これから湿原のある北へ向かい魔物退治だ。

 そう思っているとタイミング悪く先程の四人組の女性冒険者が前方を歩いていた。

 彼女たちもこれから湿原で魔物退治だろうか?

 先程の件が無ければ、やり方などをこっそりと覗き見しようかと思ったが、余計に火に油を注ぎそうなので止めておく。

 彼女たちと付かず離れずに街を歩いていると、突然女性冒険者が立ち止まった。

 

 あっ、不味い!?


 と思ったのも束の間、コングのような女性がズカズカと私たちに近づいてきた。

 鬼のような形相で手にはメイスを握っている。


「何のつもりだ、おっさん!」

「な、何って、何が!?」

「私たちの後を付け回しやがって!」

「はぁ!?」


 何を言っているんだ、このコングは?

 心の中で変な名前を付けたのは謝るが、付け回している訳じゃない。


「女性だけと思って甘く見るなよ! これでも私たちは冒険者だ! 簡単に返り討ちにしてやるぞ!」


 うん、甘く見てません。だって、あなたは大統領だって殴りそうな姿をしています。


「幼い子まで使って……この悪党が!」

「ちょ、ちょっと、待って! 私たちは悪党じゃないです」

「気味の悪いしゃべり方しやがって!」


 話し方は勘弁して!


「私たちは、あなたたちと一緒で冒険者です。これから湿原で魔物退治をする予定です。あなたたちも魔物退治でしょ? 職業や目的が一緒なら鉢合わせするのは仕方がない事です」


 今にもメイスが飛んできそうなので、捲し立てるように説明をする。


「冒険者だって?」


 コングがチラリとエーリカを見る。

 やはり信用できないよね。

 急いで冒険者の身分証を取り出してコングに見せると、「ふんっ」と鼻で笑われた。


「そんな身なりで鉄等級とは、もっと頭を使って偽証するんだな」


 信用されてない!?


「もう面倒くせー! 足の一本でも折っとくか!」


 コングがメイスの柄を握ると空気が一変した。

 反射的にレイピアを握る。

 エーリカも腰を落とし、腕を伸ばした。


「何やっているの、デボラ!」

「馬鹿な事をするなと言っただろ!」


 突如、二人の女性がコングに抱き付き、動きを止める。


「リタ、エルマ、離せ! ここで憂いを無くせば、マリーも心置きなく依頼に集中できる」

「あなたの思い込み! 無関係な人に怪我をさせたら、あなた自身、犯罪者になるわよ!」

「マリーを守りたいのは分かるけど、暴走はするな!」


 「頭を冷やせ!」と暴れるコングを短剣を携えている女性が、少し離れた女性の元まで引き摺っていく。


「仲間が迷惑を掛けてすみません」


 弓矢を携えている女性は、この場に残ると頬をかきながら謝罪する。


「えーと、私があの人に何かしました?」

「いえ、何も……ただ少し前、仲間の一人がある男に嫌な事をされまして……神経質になっているのです」

「その嫌な事をした男に私が似ているのですか?」

「特徴的には少し……デボラは少し短絡的な部分があり、少しでも似ていると警戒してしまうのです」


 特徴が似ている私が何度もすれ違った事で、いちゃもんをつけられたというオチ。

 被害を受けた女性には同情するが、私も被害者になり掛けたのだ。酷い八つ当たりである。


 弓矢を携えている女性が再度謝ると、仲間の元へ戻り、コング……デボラを引っ張るように去っていった。


「また絡まれると嫌だから、彼女たちの姿を見たら、離れようか」

「その前に一発撃っておきましょう」

「何で!?」


 今も尚、エーリカの右腕はデボラの背中に向けている。


「ご主人さまに危害を加えようとしました。ありったけの魔力弾を撃ってやらなければ、腹の虫が治まりません」


 ここにも危ない人物がいたよ。



 気を取り直して湿原へ向かう。

 城壁に囲まれた北門を通ると、目の前に広大な湿地帯が広がっていた。

 葦やイグサのような植物が生え広がり、その間に沼が点在している。所々アヤメや水芭蕉のような花も咲いており、魔物がいなければ素敵な観光地となった事だろう。

 まぁ、小さな羽虫が大量に飛び回っているので、人が来るかは怪しいが……。


 湿原の手前には小さな柵でぐるりと囲っている。いわゆる境界線である。


「看板が立てかけてあるね。何て書いてあるの?」

「危険な生物がいます。近寄ったり、立ち入るなら自己責任です。……と言うような事が書かれています」


 エーリカに読んでもらった通り、文字の隙間にワニやヘビの絵が描かれていた。

 危険ならもう少し立派な柵で囲ってよ。

 そう思いながら柵を跨ぎ、ゆっくりと湿原に近づく。


「ご主人さま、気をつけてください。泥濘に嵌ると靴を脱ぎ捨てる事になります」

「ああ、分かっている。木の棒を突きながら進むよ」

「それだけでなく、突然沼からワニが飛び出してくる事もあります」


 私はすぐさま棒を捨てて、湿原から遠ざかる。

 ワニに噛まれたら引き離すのは無理。噛まれたままグルグルとデスロールされ、沼の中でエサにされてしまう。

 

 私とエーリカは、少し離れた陸地から湿原の様子を伺う。

 草が生い茂って良く見通せない。沼の上にはウキクサが浮かんでいて、水中の様子も分からない。

 つまり視野だけでは魔物の姿は確認できないでいた。


「やはり薬草やエサで誘い出すしかなさそうだね」

「はい、そうなります。まず何をしますか?」


 折角道具屋で買ったのだ。まずは魔物寄せの薬草を使ってみよう。

 エーリカの魔術で薬草に火を付ける。

 良く乾燥しているので、一気に火が燃え広がり、モクモクと煙が上がっていく。

 薬草の束をポンポンと等間隔に置くが、向かい風になっているので、煙が湿原でなく私たちに流れてしまう。


「エーリカ、風の魔術で何とかならない?」

「得意ではありませんが、やってみます」


 燃える薬草にエーリカが風を出すと、何とか煙は湿原の方へと流れてくれた。まぁ、すぐにUターンして戻ってくるのだが……。


「魔物を誘う薬草なのに、あまり臭くないね。効果あるのかな?」

「薬草を漬けた水を巻いた方が効果あるかもしれません。試してみますか?」

「うーん、面倒臭いし、止めておこう。まだ魔物を誘う手段はあるしね」


 エーリカと会話をしつつ、魔物が来るのを待つ。

 だが、一向に待ってもうんともすんとも起こらない。


「やはり風向きの所為かな?」

「効果がない可能性もあります」


 まだ薬草の束はある。

 残りが無くなるまで燃やし続け、無くなり次第、次の方法に移行しよう。

 ただこのまま時間を持て余すのは勿体ないので、カエル狙いで地面を擦ってみる。

 棒切れを拾うと地面に絵を描くようにゴリゴリと擦っていく。

 エーリカは風魔術を、私は地面をゴリゴリと……傍から見たら変な人物である。

 ただその甲斐もあり、ようやく魔物が姿を現した。

 

「な、何これ?」


 草を掻き分けて現れたのは、泥の塊だった。


「泥のスライムです」

「これが? ただの泥なんだけど……」

「泥のスライムですから」


 泥の塊がズリズリと近づいてくる。

 綺麗な水で洗い流したら普通のスライムが現れそうだが、いちいち確認するつもりはない。

 私は鞘からレイピアを抜く。

 ドワーフに鍛えてもらった最初の試し切りが泥スライムとは……とはいえ、汚れるのが嫌なので、光の刃で攻撃。

 軽快に放たれた光の刃は泥の塊を分断する。

 だが、二つに別れた塊はすぐにグチュグチュとくっ付き、元に戻ってしまった。


「ご主人さま、スライムは核を破壊しない限り、倒せません」

「ああ、そうだったね。でも、どうしよう。泥だらけで核の位置がまったく見えないよ」

「その場合はこうです」


 エーリカは右手を泥の塊に向けるとバチバチとスパークする魔力弾を放つ。

 バチッと雷属性の魔力弾が当たると、泥スライムは本当の泥になったようにドロドロに溶けていった。

 

「まだ来ます。このままわたしが退治しますか?」

「ああ、エーリカに任せるよ」


 新たに二匹の泥スライムが陸地に上がり、ズルズルと私たちに近づいてくる。

 何も考えていないのだろう、警戒すらしない泥スライムにエーリカは、バスバスッと魔力弾を放つ。そして、電撃で核を壊し、ドロドロに溶かした。


「泥スライムの魔石を回収しました」


 ドロドロになった泥を水魔術で洗い流すと、エーリカは小石サイズの黄色の魔石を私に見せた。

 エーリカは、どことなく誇らしそうな顔をしているので、褒めて欲しいのだろうか?

 でも、それで良いの?

 泥スライムという初めて出会った魔物を三匹退治した。

 そのおかげでエーリカは、昇級試験の条件をクリアした。

 だけど、スライムだよ。小石サイズの魔石だよ。まったく苦労していないよ。

 エーリカは、これまで等級以上の魔物を難なく退治してきた。

 それなのに、泥スライムで褒めて欲しいの?


 ……まぁ、良いか。


 レナの言う通り、等級相応の魔物なのは間違いない。

 私は「良くやった」とエーリカの頭を撫でると、エーリカは「次はご主人さまの番です」と期待に満ちた顔をする。


 うーん、正直危険な魔物を相手にしたくない。

 初心忘るべからずと言うし、私も泥スライムで終わらせようかな。


 などと楽な方向へ考えるのであった。


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