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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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333/347

333 昇級試験を聞きに行こう

 今日は冒険者ギルドへ行く事にする。

 目的は二つあり、一つは私とエーリカの昇級試験の内容を聞く事。もう一つはワイバーンの素材の買い取り金を貰う事だ。

 朝のピークを避ける為、ゆっくりと朝食を摂り、のんびりと食後のお茶を楽しんでから冒険者ギルドへ向かった。

 北門を抜けた私とエーリカとフィーリンの横を、複数の冒険者たちが通り過ぎていく。

 借金を背負っていた時は、私たちも彼らと同じように朝一で冒険者ギルドに行き、依頼を吟味し、外へと出て行った。

 スライムを捕獲したり、ホーンラビットを退治したり、迷子のベアボアを探したり、大ミミズの卵を探したりと……あれ? よくよく考えたら、あまり冒険らしい事をしていない気がする。

 冒険者とは一体何なのだろうか?


 などと考えていると、目的地の冒険者ギルドへ到着。

 数人の冒険者が窓口で依頼の授受をしているが、私たちの担当であるレナの窓口は空いていた。


「レナさん、おはようございます。昇級の話と……」

「ワイバーンのお金を受け取りにきたよぉー」


 私の言葉を遮るようにフィーリンが窓口に手を付き、前のめりにレナを見つめる。

 そんなフィーリンを見たレナはニコリと微笑むと、「しばらく、お待ちください」と奥の部屋へと行ってしまった。


「フィーリンねえさん、お金が入ったら、まずわたしとティアねえさんの借金を返すのです」


 フィーリンは、毎日のようにエーリカとティアからお金を借りている。全て酒代。さすがのフィーリンも宿主であるアナの酒を飲み干す事はせず、「お願い、お願い、おねがぁーい」と二人に頼んでは、街へ買いに行っていた。


 「お待たせしました」と戻ってきたレナは、ズシリとお金の入った皮袋を受付の上に乗せる。

 あえて金額は聞かないが、それなりに入っていそうだ。これでフィーリンも小金持ちである。

 満面の笑顔のフィーリンは、嬉しそうに受け取りのサインをする。そして、エーリカに借金分のお金を渡すと、「ちょっと、街を探索してくるぅー。夜には帰るねぇー」と告げた。


「フィーリンねえさん、無駄使いをしないように」

「あいよぉー」


 はきはきと返事をしたフィーリンは、ジャラジャラとお金の入った袋を腰にぶら下げながら出て行ってしまった。


 うーん、大丈夫だろうか?


 私と違い、スリや強盗に遭っても返り討ちにするだろう。ただ、根が素直なフィーリンだ。詐欺師に言葉巧みに言い寄られ、お金を盗られる可能性がある。

 いや、それよりも街中の酒場を梯子し、今日中にお金を使い果たしてしまう恐れの方が高い。小金持ちも一日だけである。


「すでにわたしが貸したお金は返ってきました。全て使い果たしても問題ありません」


 まったく心配していないエーリカは、「依頼の話を聞きましょう」とレナの方を向く。

 うーん、ティアが貸したお金はまだ返していないんだけどね。


「改めて、アケミさんとエーリカさんの昇級試験の内容が決まりました」


 背筋を伸ばしたレナは、一枚の木札を机の上に置いた。

 木札は依頼票のようで、依頼内容と金額が書かれている。ただ私は文字が読めないので、何て書いてあるのかさっぱりだ。


「依頼内容は魔物退治です」

「やはり、そうなりますか……」


 等級が上がるにつれ、魔物退治の依頼が増える。その為、魔物に慣れる為、また力量を図る為に試験をするとアナから聞いた。

 予想はしていたのだが、実際に聞くと気分が落ち込む。未だに私は率先して魔物と戦いたくない。だって、怖いんだもん。


「そ、それで……どの魔物を退治すれば良いですか?」

「それに関しては、ギルドの方で指定はしません」

「えっ、つまり何でもいいから魔物を退治してこいと言う事ですか?」

「そうです」


 それなら簡単だ。

 今の私ならスライムとホーンラビットとゴブリンなら退治できるだろう。

 そう思っていると……


「ただし条件を付けさせていただきます。今まで退治した事のない魔物に限らせていただきます」


 退治した事がない魔物……何で?


「今までの報告を聞く限り、アケミさんたちは色々な魔物に遭遇し、戦闘しました。その中で等級に合っていない魔物も多数含まれています」


 成り行きとはいえ、非常に危険な魔物と出会ったり、直接戦ったりした。

 大ミミズしかり、ブラッククーガーしかり、オークしかり、オーガーしかり。中にはワイバーンまで含まれ、仲間がいなければ、すでに死んでいた事だろう。

 

「アケミさんとエーリカさんは、改めて自分の力量と等級を見つめ直す為、自ら魔物を選別し、退治してきて欲しいと思います。一人、最低三匹の退治です。二人一組でなく、個人としての評価で昇級を判断します」


 毎回、事細かく依頼の報告をしているので、エーリカの力量は知られている。その為、私が楽をしないように条件を付けられてしまった。


「えーと……今まで退治した事のない魔物を一人最低三匹ずつ退治するんですね。三匹とは別々の三匹ですか? 同種類を三匹でも良いんですか?」

「初めての魔物なら同種類で構いません」

「どこで、いつ行います?」

「場所は決まっていません。アケミさんたちが決めてください。日付も同じです」

「えっ、日付も? 立ち会う人の都合があるでしょう?」


 私たちがズルをしないよう見届ける人が必要だ。来るとしたらギルドの職員になると思うが、私たちの都合で日常業務を後回しにしても良いのだろうか?

 私が疑問に思っていると……


「そのとおぉーりっ!」


 突然、奥の部屋からギルマスが現れ、「俺が立会人になってやろう!」と叫んだ。

 

 えー、ギルマスが立会人……ティアの昇級試験の話を聞いているので、正直、嫌である。


 そう思っていると、笑顔のレナがクルリと振り返り、「……必要ありません」と低い声で告げた。

 私からは見えないが、余程怖い顔をしていたのだろう、「うっ!?」と冷や汗を垂らしながらギルマスの足が止まる。

 そして、背後から凱旋門のような女性が現れると、ギルマスの首根っ子を掴み「仕事をしてください」と引っ張って行った。

 一体、何だったんだ?


「こほんっ、我々の方では立会人は用意しません。アケミさんたちの報告で判断します」

「それで良いんですか?」

「正直言いますと、鉄等級から鋼鉄等級の昇級試験ですので、厳しく審査する事はありません。ティアさんの場合が特別で、普段は立会とかはしていません」


 それを聞いて、少し安堵する。試験官がいたら、緊張で魔物に負けてしまう。


「アケミさんたちが不正をしないと信じています」


 信用が足りない冒険者の場合、立会人を付ける場合があるが、今までの私たちの素行を見ての判断と説明してくれた。

 信用してくれる事は嬉しい反面、裏切れないというプレッシャーがのしかかる。

 

「今回は昇級試験ですので、二人だけで依頼をこなしてください。他の方が手伝った場合、不合格になります。また魔物に関してですが、等級以上の魔物を討伐した場合も減点になり、不合格になる場合があります。くれぐれも等級相応の魔物でお願いします」


 「無茶をしてはいけません」と口を酸っぱくして言われた。

 うん、分かっています。私もそうしたいです。


「私の方からは以上になります。質問はありますか?」

「どこで魔物を探したら良いですか?」

「魔物は色んな場所に生息しています」

「私が倒していない魔物はどんなのがいますか?」

「沢山の魔物がいますので、お好きな魔物を選んでください」

「どの魔物がおすすめですか?」

「魔物ですので全て危険です。おすすめはありません」


 質問をしてみたが、どれもはっきりとした回答を得られなかった。……と言うか、わざとはぐらかしている節がある。

 どうしてだろう? と疑問に思うが、これ以上しつこく尋ねると、試験の結果に支障が出そうなので止めておく。

 その代り、別の話を持っていった。


「話は変わりますが、氷の魔石が欲しいのですが、手に入る方法はありませんか?」

「氷の魔石ですか?」


 首を傾けるレナに食事処で使う貯蔵室について話す。

 レナは少し思考すると、残念そうに首を横に振った。


「この街で手に入るのは困難です」


 以前ディルクが言っていた理由が、そのまま返ってくる。

 やはりか……予想していた事なので、あまり落ち込まない。

 そんな私を見たレナは「もしかしたら……」と別の案を提示してくれた。


「氷の魔石は無理ですが、水の魔石はどうですか?」

「水の魔石ですか? 水が湧き出るんですよね。貯蔵室が濡れて、さらにカビが生えそうです」

「普通に使えばそうなりますが……少しお待ちください」


 そう言うとレナは奥の事務室へ行き、しばらくすると地図の描かれた木札を持ってきた。


「隣の街では、水の魔石を使った石材が売っており、それを使うと涼しいと聞いた事があります」

「隣の街ですか?」

「ええ、隣の街……ボルンの街の近くに湿地帯がありまして、そこの魔物から水の魔石が取れます。それを使って石材を作っていると聞いています」

「隣街ですか……この街では売ってないんですか?」

「売っているかもしれませんが、隣の街に比べ、大分高いと思います」


 隣の街は比較的近い。

 名も無き池の街道を進んだ先にあり、待合馬車も一日に何本も走っている。クロたちに乗れば、半日もかからずに辿り着ける距離だ。

 とはいえ、やはり距離が離れているので、運搬代が上乗せされるので値段が高くなる。それも凄く重い石材なので、余計に値段アップである。


 高いよりも安い方がいい。

 良い機会だから、直接行ってみようかな?


「レナさん、情報ありがとうございます。昇級試験、頑張ってきます」


 別れの挨拶を交わすと、私とエーリカは冒険者ギルドを後にした。



「エーリカは昇級試験について、どう思う?」

「久しぶりにご主人さまと二人っきりでの依頼です。誰にも邪魔されず、ゆっくり時間を掛けて依頼をこなしたいと思います」

「いや、そういう事を聞きたい訳じゃないんだけど……」


 アナの家に帰っている道中、相棒のエーリカの意見を聞きてまとめたかったのだが、どうもエーリカは明後日の方向へと思考が飛んでしまっているみたいである。


「今まで倒した事のない魔物を一人三匹倒すのが試験内容だったね。期日や場所、魔物の種類は決められていないから自分たちの好きにしていい」

「はい、間違いありません」

「それでエーリカはいつ、どこで、魔物退治をした方が良いと思う?」

「ご主人さまの好きな時が一番良い時だと思います」


 そういうのは思考を停止している時の返答だよ。

 顔に出ていたのだろう、私の顔色を伺ったエーリカは、「わたしの稚拙な意見で宜しければ言います」と言い直した。


「まず水魔石を使った石材について隣の街へ行くべきでしょう」

「ついでに隣街で魔物退治をするの?」

「はい、石材は高価と言っていました。魔物で得た水魔石と引き換えに石材を購入すれば、割り引いてくれるかもしれません」


 今まで食事処の準備で大金を使った。水魔石の石材がどの程度の金額か分からないが、節約出来る所は節約したい。


「でも、魔石ってギルドに提出するじゃないの? 魔物討伐の証拠として?」

「そのような事は言っていませんでした。魔石でなくても体の一部でも良いのではありませんか?」


 どうなんだろ? と疑問に思った私たちは、回れ右をして、再度冒険者ギルドへ行き、レナに確認する。

 結果、エーリカの言う通り、魔物一部でも良いと言われた。

 再度、帰宅中に依頼内容の確認を始める。


「じゃあ、隣街の石材屋で話を聞いてから魔物退治だね。湿地帯に現れる魔物が水魔石を持っているらしいから、そこで魔物退治をすれば良い訳だ」

「そうなりますが、一つ問題があります」

「問題?」

「湿地帯です。非常に足場が悪く、まともに動けるとは思えません」

「ああ、確かに……隣街の冒険者は、どうやって魔物退治しているのだろう?」

「それも含めて調べる必要があります」

「調べるって……隣街のギルドなら教えてくれるかな?」

 

 先程のレナの対応を思い出す。凄く塩対応でちょっと傷付いた。


「あれはわざとでしょう」

「わざと?」

「今回は鋼鉄等級冒険者に成る為の試験です。ただ退治するのでなく、魔物の種類、魔物の選別、魔物の生態など冒険者自ら事前に調べて退治しろと目が語っていました。ギルド内には魔物の生息地図や生態が書かれた木札があります。それを参考に調べましょう」


 今まで下調べもせず、行き当たりばったりで依頼をしていた。

 等級が上がれば、それだけ危険が付きまとう。その危険を出来るだけ減らす為には下調べは必須だ。

 つまりいつも通り、行き当たりばったりで魔物退治をしていたら、減点されていたかもしれない。

 良し、今回は下調べをした事もしっかりと報告しておこう。


「それで隣街にはいつ行こうか?」

「街まで馬で半日は掛かると言っていました。往復で一日。そこに準備、魔物退治、石材の交渉を考えると二日は見た方が良いでしょう」

「つまり、泊まりになる訳だ」

「はい、ご主人さまと二人きりのお泊りです。今から楽しみです」


 別に二人きりになったからって、何も起きないよ。


「依頼については二人で行うけど、石材を購入するとしたらティアを連れて行った方がよくない?」


 エーリカの収納魔術は時間経過が無い分、袖口に入るものに限定されてしまう。

 だが、ティアの収納魔術は魔術で靄を出して収納するので、ある程度の大きさをまとめて仕舞う事が可能だ。

 その為、大きな買い物をする時はティアがいてくれると助かる。

 そう伝えると、「駄目です。減点されます。試験は失格です。万年、鉄等級です」と矢継ぎ早にエーリカがそれっぽい理由を付けて、ティアの同行を阻止してきた。


 エーリカ、色々と言っているけど、単純に私と二人だけで旅をしたいだけだよね。

 ……まぁ、良いか。


 空気を読める私はエーリカの頭に手を置くと「じゃあ、二人で行こう」と告げた。

 私の言葉を聞いたエーリカは、眠そうな顔のまま「はいっ!」と元気良く頷いた。

 

「では、今すぐに行きましょう」

「今から?」

「石材を確保しなければ、食事処の開店が長引きます。だから、すぐに出かけ、時間を掛けて依頼をこなしましょう」


 遊びに行く子供のようにエーリカは私の手を引っ張りながら、アナの家へと帰るのだった。


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