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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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332/347

332 ソーセージを作ろう

 買い物から帰った私たちは、お土産の串焼きと極太ソーセージで昼食を摂る。

 久しぶりに食べた串焼きだが、豚肉は癖があり、鶏肉はカチカチで、一番食べやすいのがカエル肉であった。

 沢山の客が集まっていたソーセージだが、やはりと言うか、こちらも癖のある臭みがして食が進まない。それも極太ソーセージなので、見ているだけでげんなりする。トマトソースで誤魔化さないと完食は無理そうだ。うーむ、現代日本ですくすくと育った弊害である。

 「このソーセージ、僕は無理だ」と肉よりも野菜のリディーはエーリカに渡す。

 私とリディー以外は、パクパクと食べているので、特に肉の臭みは気にならないようだ。


 ……ん? もしかして……。


 食事処に出すソーセージは、肉の臭みが嫌な私に合わせて、沢山の薬草を入れたソーセージにする予定である。だが、この臭みに慣れている異世界人に臭みを紛らわせたソーセージを作ったところで、気に入ってくれるのだろうか?

 その事を聞いてみると……


「ご主人様の料理はどれも素晴らしいです」

「私も薬草を入れた方が好きです」

「食えれば、何でもいいわよー」

「僕は野菜とキノコが好きだ」

「旦那さまの料理はどれもお酒に合うよぉー」

「食べてみないと分からんな」

「薬草を使った腸詰めが想像つかないね」


 と参考にならない返答がきた。

 まぁ、これまで臭み取りをした料理を提供してきて、不味いと言われた事はない。そもそも薬草料理店なので、臭み取りは抜きにしても薬草は沢山入れよう。それで口に合わなければ、次から注文されないだけだ。うん、全てのお客の口に合う料理なんて不可能だからね。だから私の口に合わせよう。

 などと自分勝手な事を考えながら、ゆっくりと極太ソーセージを口に入れるのだった。



 昼食を終えた私はエーリカを呼ぶと、フードプロセッサーの試作品を見せた。そして、クルトの話を伝え「改良できる?」と見てもらう。


「安直と言うか、場当たり的と言うか、まったく頭を使っていません。わたしが教えた魔法陣をそのまま付け加えただけの個性の欠片もない面白味のない代物です。これで魔術具職人を名乗るなど、本物の魔術具職人に失礼にあたります」


 試作品を見たエーリカの感想。

 クルト、直接エーリカに見せに行かなくてよかったね。

 

「そ、それで、改良の方が出来そうなの?」

「問題ありません。今以上に回転率を上げて、今よりも細かく切れるでしょう」


 それを聞いて安堵するが、すぐにエーリカから「ただ、問題が……」と不安な事をいう。


「な、なに!? 何が問題?」

「使われている刃が問題です。鉄の板のような刃では、どんなに回転率を上げても、上手く野菜や肉を切るのは難しいでしょう。それに耐久性も悪く、途中で折れてしまいます」


 エーリカは、棒の付いた刃に問題があると指摘した。

 貧乏性が染み込んでいるクルトは、素材をケチった訳ではなく、今までの習慣で安い物を使ってしまう傾向があるのだろう。私も貧乏性なので、その気持ちは分かる。


「それならアタシが作ってくるよぉー」


 チビチビとお酒を飲みながら私たちのやり取りを見ていたフィーリンが、棒の付いた刃とデスフラワーの蜂蜜酒を持って出て行った。

 またドワーフ師弟の炉を使わせてもらうつもりのようだ。

 刃の件が片付くとエーリカは、試作品に描かれている魔法陣を描き直したり、追加で別の魔法陣を描いていく。そして、「後はフィーリンねぇさんが戻ってからになります」とたった十数分で改良を終えたのだった。


 夕方までカーテンを付けたり、馬の小物を置いたりしながら時間を潰すと、私はティアを連れて契約した農場へと足を運ぶ。

 頭と足を落とし、内臓を取り、羽を抜いた丸鶏を十羽もらう。同じく、各部位に切られた豚肉も二頭分もらう。

 偶然、帰りの途中でフィーリンと合流し、ドワーフ師弟を潰してきたと嬉しそうに報告し、新しく作った棒付きの刃を見せてくれた。

 以前の刃に比べ、光り輝いている。刃先に指を当てようとすると「骨ごと切れるよぉー」とフィーリンから忠告が出て、すぐに指を離した。

 うーむ、安物の刃からドワーフ製の刃へとグレードアップした……一気に品質が爆上がりである。


 アナの家に戻ってきた私たちは、早速フードプロセッサーを試す。

 蓋に棒付きの刃を取り付け、キャベツの一部と一緒に蓋をする。そして、魔石に魔力を流すと中でシュィーと回転する音が聞こえた。

 上手くいったかな? と蓋を開けてみると、見事キャベツはみじん切りになっていた。ただ、大きさはバラバラで細かく切り刻まれているのもあれば、大きいままもある。


「容器に問題がありそうですね」

 

 興味深そうに見ていたエーリカから助言が出るが、さすがに容器まで改良する気は起きない。まぁ、大きさはバラバラでもみじん切りになっているのは間違いないので、良しとしておこう。

 


 フードプロセッサーが上手くいったので、これからソーセージを作る。

 時間が時間なので、「エールを飲みながら試作の腸詰めを食べたかった」とディルクとフリーデは残念そうに帰っていった。

 ここにいるのは、私、アナ、エーリカ、ティア、リディー、フィーリン、ロックンである。つまり全員。みんなには色々と手伝ってもらうが、ロックンだけは出番はないだろう。

 早速、アナに材料を出してもらう。ただメインとなる豚肉だが、夕方に貰ってきた豚肉はやめておく。解体したばかりの肉は成熟期間があり、鶏肉は一日、豚肉は四日ほど保存すれば、旨味が増すそうだ。だから、貰ってきた肉は時間経過が起きるティアの収納魔術に入れたままにして、数日前に買った豚肉を使用した。


 私は勿論、アナもソーセージ作りは初めて。ただカルラやソーセージ屋で作り方を教えてもらったので、それっぽいのは出来るだろう。

 作る事自体は簡単。肉たねを作り、腸に詰て、茹でる。それだけだ。

 ただ注意しなければいけない事が幾つかある。一番重要なのは温度で、肉の脂が溶けないよう低温で調理をしなければいけない。

 現代日本なら低温調理は簡単だが、生憎とここは異世界。冷蔵庫や氷の魔石がないので、簡単に冷やす事も氷を作る事もできない。

 だが私たちにはエーリカがいる。エーリカの魔術で氷が作れるので、問題は解決。

 それにしても、ソーセージ屋はどうやって冷やしながら作っているのだろうか? その辺、聞いておくべきだった。


 まず長期保存の為、塩漬けにされている羊腸を水に浸けて塩抜きをする。

 その間に肉たね作り。

 豚肉の塊をぶつ切りにして、フードプロセッサーでミンチに。キュィーンキュィーンと回して蓋を開けると見事グズグズのミンチ肉へ変貌。脂や筋で上手く切れないかもと不安に思ったが、さすがフィーリン特製の刃で何でも切れる。

 ただ野菜の時と同じで、若干ミンチを免れた塊が残っている。まぁ、粗びきソーセージとして作るのでしつこくフードプロセッサーを使うのは止めておこう。

 エーリカに作ってもらった氷をボウルに入れて、その上に別のボウルを乗せて、粗びきの挽き肉を入れる。

 さらにフードプロセッサーで玉ねぎとニンニクを入れて、みじん切りにしたのも入れる。うん、フードプロセッサー、便利だ。

 

「味付けはどうしようか?」

「初めてですので、まずは普通のソーセージを作りませんか?」


 アナの提案通り、オーソドックスのソーセージを作る事にした。

 調味料は塩、胡椒、ワインだ。若干、胡椒を多く入れて肉臭さを紛らわしたのは私の為。

 全ての材料を入れると手早く捏ねる。

 なるべく温めない為にエーリカが上から冷風の魔術を掛けてくれる。その為、手が冷たすぎて辛かった。

 さらに肉たねを柔らかくする為に氷水も入れたので、終わる頃には「もういいよね、もういいよね!?」と悲鳴を上げていた。


 肉たねが出来たので、メインイベントの腸詰め作業。

 塩抜きした羊腸に肉たねを詰め込むのだが、私のイメージではホイップクリームなどの絞り出す袋で詰めるイメージ。だが、ここでは違う。竹製水鉄砲のような筒状の中に肉たねを詰めて、押し棒で押し出すスタイル。

 腸が乾くと破れる事があるのでビチャビチャのまま筒の先端にたくし込み、先端を縛っておく。

 

 さて、押し込むか……と力を込めて押し棒を押すがなかなか進まない。


 肉たねが硬すぎたのか、「ふぎぃー!」と力任せに押すとほんの少しだけ腸に肉たねが入っていった。


「これ、凄く力がいる。私では無理。フィーリン、お願い出来る?」

「あいよぉー」


 力持ちのフィーリンにお願いすると、スルスルと腸の中に肉たねが入っていく。やはり私の力不足だったようだ。

 ヘビ花火のようにニュルニュルと肉たねが入っていき、見慣れたソーセージの形へと変わっていく。


「フィーリン、ストップ! 止まって! 空気が入ちゃった」


 ソーセージの間にプクリと羊腸が膨らんでいる。


「どうしようか? このまま続ける? それともこのソーセージはこれで終わる?」

「いえ、穴を空ければ大丈夫ですよ」


 そう言うなりアナは、針を持ってきてプクリと膨らんだ場所に穴を空けて、潰した。


「茹でた時に破れたりするので、あらかじめ穴を空けて空気を抜いた方が良いと聞いた事があります」


 実際に作った事がなくても、事前に色々と知っているアナがいて助かった。


 その後、順調に肉たねを押し込む。

 パンパンに入れると破裂するので、余裕を持って肉たね入れを終え、先端を縛って完成。

 そして、細く長いソーセージを等間隔にクルクルと回し、食べやすいサイズにしていった。

 

 後は茹でて終わりなのだが、一度、乾燥させる事でパリッとした食感がでるそうだ。

 そういう事で、今まで観客でいたリディーを呼び、エーリカとアナも加えて三人で風を出してもらう。

 魔術や魔法は便利だね。


 乾燥で時間が空いたので、口直しの付き合わせでも考えよう。

 ソーセージといえばザワークラウト。

 千切りキャベツに塩を塗り込むだけで作れるキャベツの漬物。……といきたいが、数日ほど保存して発酵させなければいけないので、時間的に無理。

 それなら酢漬けのキャベツはどうか? ……と考えたが酢がないので断念。

 仕方ないのでパンにする。

 カルラたちの研究成果をみんなに味わってもらおう。


 お湯を沸かしたり、パンを温めたり、皿を並べたり、トマトソースを温めたりしながら時間を潰していると、「もう飽きたー」とリディーがギブアップした。

 どのくらい乾燥させればいいのか分からないので、適当に切り上げ、さっそくお湯にいれて茹でる。

 高温で茹でると破裂するらしいので、少し温度を下げて、しっかりと熱を通す。

 

 みんなは席に着き、今か今かと期待に満ちた顔で待機している。

 エーリカとティアは両手にナイフとフォークが握られている。アナとフィーリンの前にはワインとエールが注がれている。リディーはあまり期待していないようで、ふわふわパンを千切っては口に入れている。皿の前にロックンも待機しているが……君、食べられないよね。

 そんなみんなの前に茹で上がったソーセージを並べる。

 

 うん、見た目は美味しそうだ。


「初めてにしては、上手くいきましたね」

「うんうん、美味いよ、これー」

「ご主人さまが作ったソーセージです。美味くて当たり前です」

「エールに合うねぇー」

「おっ、なかなか美味いじゃないか。胡椒が効いていて食べやすい」


 好評の声が聞こえる。

 どうやら上手くいったみたいだ。

 ほっと胸を撫で下した私も食べ始める。


 パリッとまではいかないが、弾力のあるソーセージを切って、口に入れた。

 

 うん、リディーの言う通り、胡椒が効いていて極太ソーセージよりも食べやすい。

 ただ、若干ボソボソとしているし、胡椒の裏から肉臭さが見え隠れしているので、やはりトマトソースは欠かせない。


「作り方は間違いないですし、注意する箇所は押さえていました。肉の品質ですかね? 今度は部位を変えて試してみますね」


 私の感想を聞いたアナが色々と試作してくれるようだ。

 とはいえ、みんなバクバクと食べているので、私が気にし過ぎているだけかもしれない。

 

「おじ様、色々な種類のソーセージを作ると言っていましたけど、どんなソーセージにしますか?」


 ああ、そうだった。

 ボソボソなのはどうすればいいか分からないけど、次からは香草を入れたのを作るので、臭みは何とかなりそうだ。


「えーと、パセリなどの爽やかな香りのものが合うと思うよ。またハンバーグで作った時に入れたのもワイルドになって良いかもしれないね」


 「ぱせり? わいるど?」とアナが首を傾けるが、後で説明するので今はスルーする。


「スモーク……燻製も合うよ」

「ええ、燻製にしたソーセージは美味しいですね」


 そう言うとアナは虚空を見つめながら思考する。もしかして、燻製用の部屋でも作るつもりなのだろうか。どんどん、やる事を増やしている気がする。


「チーズは欠かせないね」

「それは美味しそうです」

「普通は豚肉で作るけど、牛肉で作っても良いし、魚肉でもいいよ。あと色々な野菜を入れたのもあったね。胡椒以外の辛いのを沢山入れたソーセージも人気あるね。そうそうレバーを加えたのや血を入れたソーセージもあるね。私は食べたくないけど」


 私は思いつくまま口を開く。

 そんな私の言葉をアナは木札にメモしていく。

 真面目なアナがいれば問題ないだろう。

 

 そういう事で、試作のソーセージ作りは無事に終えた。

 その後、私とアナは材料が許す限りソーセージを作り続け、本日の夕飯はソーセージで終わった。


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