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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第五部

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322/347

322 報告に出かけよう

 鳥の囀りを聞きながら目を覚ます。

 暖かい日差しが部屋を照らし、ぽかぽかと暖かい。

 お酒が入っていた事もあり、朝までぐっすりと眠ってしまった。

 案の定、私の胸の上にエーリカが寝ていて、ほどよい重みと体温が伝わっている。エーリカの寝顔を見ていると、このまま二度寝でもしようかと思ったが起きる事にした。

 

 ……ん?


 隣を見るとフィーリンまで寝ていた。

 お酒の入った瓶を抱えて寝ている事から寝ぼけて私の横に寝てしまったのだろう。

 以前寝ていた部屋は食事処の改築の為に壊され、今の寝室は新しく作った。その際、ベッドも新しく作り直した事で、体の大きな私でも悠々に眠れるサイズになっていた。その為、エーリカとフィーリンが夜中に忍び込んでも、狭くて眠れないって事にはならない。

 まぁ、何度も言っているが、まったく気づかないってのもどうかと思うが……。


 フィーリンの横にエーリカを移動させると、二人を起こさないようにゆっくりとベッドから降り立つ。

 「うーん……」と体を伸ばす。体調は良好。眠気もなし。二日酔いもしていない。

 トイレを済ませ、顔を洗い、台所に向かうと、すでにアナとティアがいた。


「朝食の準備を始めている?」

「いえ、まだです。ディルクさんとフリーデさんが朝食を食べに来てくれますので、少し遅めにしています」


 お手伝いのディルクとフリーデは、朝から夕方までの勤務時間の中、朝食と昼の軽食付きらしい。さらに、それなりの給金を貰っているので、なかなかの好待遇のバイト先である。

 ただ食事に関しては、これから始まる食事処の練習と意見も兼ねているとの事。

 何はともあれ、まだ朝食の用意をしていないのは好都合だ。


「つまり時間があるって事だね。ティア、急ぎの仕事をしていないティアを全員呼んでくれる」


 「あいよー」とティアが飛んでいくと、九人のティアがすぐに集まった。残りのティアはクロとシロとアカのエサをあげている。


「それで、おっちゃんはあたしたちに何をさせるつもりなのー?」

「あるプリーストを虜にしたスフレパンケーキを作ります」


 昨日、報告をした時、スフレパンケーキの話をしていない事に気が付き、どうせなら作って食べさせてあげようと思った。ドワーフに作って貰った泡立て器もあるし、労働力のティアもいるので、ちょうど良いタイミングだ。まぁ、私自身が食べたいだけなんだけどね。

 一番大変なメレンゲ作りだけど、手本として始めだけ私がシャカシャカと掻き混ぜる。その後は九人のティアに任せた。

 小さい体で器用にメレンゲ作りをするティアたちから「これ、大変なんだけどー」「つらいー」「まだなのー?」と文句を言うが、どことなく楽しそうなので最後まで任せる事にした。

 ちなみにアナもやってみたが、一回目の砂糖投入で根を上げた。

 メレンゲを完成する頃にエーリカたちが起き出してくる。

 みんなで朝食を作り始めるとディルクとフリーデが出勤し、みんなで朝食を食べた。

 やはりスフレパンケーキは女性陣に好評であり、おっさんの姿の私も大変満足である。ただディルクだけは、「甘い」と傷だらけの顔を渋くしていた。



 食事のお茶を楽しんだ後、各々動き出す。

 ディルクは、一人のティアと共に家の周りの林に入り、罠に掛かった獣がいないか見て回っている。

 私はエーリカに「魔物寄せの声を出せば、簡単に捕まえられるんじゃないかな?」と提案すると、「可能です。ご主人さまが必要とするなら実行しますが、敢えてやる必要性はないと判断します」と眠そうな顔で言った。

 私は少し考えた後、「止めておこう」と判断する。切羽詰まる状況ならいざ知らず、罠に獣が掛かっていなくても、それはそれで良いだろう。

 

 フリーデは、三人のティアと共に馬場へ向かった。これから厩舎の掃除である。

 馬糞を回収し、寝床の藁を敷き詰める。馬具の調整や馬場の柵のチェックなどもしなければいけない。やる事は沢山あり結構ハードなのだが、下っ端兵士を経験したフリーデは文句も言わずにティアと楽しそうに仕事をしていた。

 炭鉱経験をしたけど、私では体力的に無理だね。


 フィーリンは、ロックンと一緒に馬場のすぐ近くで穴を掘っている。

 「何をしているの?」と聞くと、「酒樽を保管するんだぁー」と楽しそうに答えた。

 自家製エールを量産したいが、保管する場所がないので一から作るつもりらしい。

 一応、エールは温い方が美味しいらしいのだが、長期間保管するなら涼しい場所が良いので、穴を掘り、木材で囲って簡易地下室を作るらしい。

 気の遠くなる作業に眩暈が起きるが、力持ちのフィーリンとロックンなら簡単に作ってしまいそうだ。

 まったく手伝う気のない私は二人に「頑張ってね」と言うと、フィーリンは「美味しいのを作るからねぇー」と笑顔で答え、ロックンは両目をチカチカさせながら両腕を上げ下げしていた。


 なめし皮の様子を見終えたリディーは、食事処の扉と睨めっこしている。

 「どうしたの?」と声を掛けると、「扉の模様を思い出している」と眉間に皺を寄せながら言った。一月以上ほったらかしにしていたので、完全に忘れてしまったようだ。

 「何でも良いんじゃない?」と思うのだが、正直に言うと長い耳を真っ赤にして怒りそうだ。飽き性のあるリディーであるが、変な所で拘りを持っている。

 まだリディーには机と椅子を見た目良くしてもらわなければいけないので、黙って離れる事にした。


 リディーのすぐ近くにアナとティアが居て、こちらは壁を見ていた。

 「どうしたの?」と尋ねると、「壁の色を考えていたんです」とアナが言った。

 今現在の壁は何も塗っていない、磨いただけの木製の壁だ。

 「このままで良いでしょう」と外装担当だったエーリカがそっけなく答えると、「駄目に決まっているでしょー」とティアが否定する。

 うん、私もそう思う。

 塗装には見た目だけではなく、カビや腐食などを防ぐ効果がある。雨風に晒される外壁は時に必要な処置だ。

 ただここは異世界。塗料は存在するが、色は基本色のみ。さらに顔料が植物と鉱石から作るので生産量が少ない。その為、値段が高い。おまけに色も安定していないときた。

 とはいえ、そこは金持ちのティアの事、「色々と買って、試してみよー」と話がまとまった。

 この妖精、金に物を言わす事を覚えてしまったようだ。


 肝心の私だが、みんなと違い特にやる事がない。当分、エーリカと一緒に空に浮かぶ雲を眺めていよう。そう予定を組んでいたら、アナから「他にも報告しなければいけない人がいますよ」と注意された。

 他の人と言うのは、クロージク男爵の館でお留守番をしている執事のトーマスを指している。

 別段、クロージク男爵からトーマスに帰還報告をするように指示はされていない。ただトーマスから始まった依頼なので、一応報告は必要だろうとの判断だ。

 そう言う事で、アナは以前私が貴族の対応を後回しにしていたのを遠回しに注意しているのだ。

 正直、面倒臭くて行きたくないのだが、アナに怒られたくないので行く事にする。

 ついでなので冒険者ギルドに寄って依頼の換金をしたり、『カボチャの馬車亭』でふわふわパンのお願いもしよう。あとは買い出しもしようかな。


 行く場所を頭に浮かべた私は、フィーリンとロックンに同行するようにお願いする。ロックンには必要ないかもしれないが、一応冒険者ギルドと『カボチャの馬車亭』の場所を知ってもらったり、顔合わせぐらいはしておいた方が良いだろうとの判断だ。

 ちなみに私が行けばエーリカも付いてくる。エーリカが付いてくればリディーも付いて来るのだが、色々と回るよと伝えると渋々扉作りの作業へ戻っていった。人見知りも大変だ。


 出発準備として、念の為、レイピアとワイバーン製の皮鎧を装着。それだけで強くなった気がする。

 ドワーフに鍛え直してもらったレイピアは、ワイバーンの肉をブスブスと刺して魔力抜きをしただけで、一度も試し切りをした事はない。ワイバーンの皮鎧も同じで傷一つないピカピカ状態。戦闘はしたくないが、性能は試してみたい、そんな心情だ。

 エーリカはいつも通りのゴシックドレス。フィーリンもいつも通りだが、背中にお酒の入った皮袋を背負っている。ロックンは言わずもがな。

 そんな私たちは、アナに怒られる前にのんびりと歩いて北門へと向かった。



 北門に到着した私とエーリカは、身分証である冒険者ギルドを提示して問題なく入る。

 フィーリンは身分証が無いので、お金を払って入る。

 ただロックンに関して問題が起きた。無機質の岩の塊なので荷物扱いにするか、自立して動いているので人間と同じ扱いにするか、と北門の衛兵が悩み、同僚を呼んで相談してしまった。

 人間ぽい形にした弊害がここで起きてしまう。さらに声を掛けるたびに、ロックンが両目をチカチカとさせ両腕を上げ下げする反応を見せるので、さらに悩ませていた。

 そんな衛兵にエーリカが「馬やロバも入門税を取っているのですか?」と言った事で、お金を払わなくて済んだ。ロックンには悪いが、馬やロバ扱いである。



「ねぇ、フィーリンって、お金は持っているの?」


 グビリグビリと酒を飲みながら街の景色を楽しんでいるフィーリンに尋ねた。


「いやぁー、まったく。ちょろちょろと日用品を作って売っていたけど、すぐにお酒を買って無くなっちゃうんだよねぇー」


 あればあるだけ飲んでしまうので、お金が無いのは予想通りだ。


「じゃあ、これからフィーリンは、どうやってお金を稼ぐの? 私たちと同じ冒険者にでもなる? それとも鍛冶仕事でもする? そうなると鍛冶ギルドに登録しなくちゃけないね」

「うーん……どれもぱっとしないねぇー。お酒を飲むだけでお金が貰える場所……酒場なら雇って貰えるかなぁー」

「フィーリンねえさんが酒場で働くと、すぐに酒の在庫が無くなり、その日で解雇です」


 食事処で働いたら味見ばかりしていそうなエーリカが速攻で駄目出しをする。


「はははぁー、そうなりそうだねぇー。当分は旦那さまやアナちゃんのお手伝いをして過ごすよぉー。その間、お酒代は貸してねぇー」


 フィーリンはディルクとフリーデみたいに食事処の手伝いをするようだ。

 そんなフィーリンにエーリカが希望の言葉を伝える。


「フィーリンねえさんには、ワイバーンの素材があります。売れば良い値段になるでしょう」

「ああ、そうだった、そうだった」


 ドワーフ村に現れた一際大きいワイバーンは、フィーリンが倒した事でフィーリンの物であり、今はエーリカの収納魔術にぶつ切りで保管されている。

 そんな羽の生えたトカゲのようなワイバーンだが、一応竜種なので牙も爪も鱗も高値で買い取ってくれるだろう。

 お金の心配が無くなったフィーリンは、「当分、お酒に困らないねぇー」と嬉しそうに三つ編みを振らしていた。

 ちなみにロックンが倒したワイバーンは貰っていない。そんなにあっても困るしね。


 そんな話をしていると貴族地区に入った。

 同じような館が並ぶ中、スライムを飼っている館に到着。何度も通った場所なので、すぐにドアノブを叩いて、来訪を知らせる。

 しばらくすると、執事のトーマスが現れた。

 突然の来訪に嫌な顔を一切見せないトーマスに帰還の報告を済ませる。ついでにフィーリンとロックンの紹介もしておいた。流石、貴族の執事と言うべきか、ロックンを見ても眉一つ動かす事なく、極々普通に挨拶を交わしている。

 冒険者の依頼達成の木札と冒険者ギルド宛の手紙はクロージク男爵から直接頂いているので、トーマスから頂く物はない。失礼な対応になるのかもしれないのだが玄関口で全てを済ませた。それなのにトーマスはやたらと館の中に招き入れたそうだった。たぶん館の主であるクロージク男爵が居ないので暇しているのだろう。

 そんなトーマスに悪いのだが、「これから冒険者ギルドに行かなければいけないので」と断り、さっさとお暇させてもらう。


 これでアナに怒られる事はなくなり、心置きなく元来た道を戻っていった。


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