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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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320 幕間 エギルの追想 その2

 フィーリンを村人として迎える事が秘密裡に決まった。

 僕は僕でフィーリンを娶るよう村長である父から指示された。ただ僕自身、外から来た純粋なドワーフではないフィーリンを村に迎える事に疑問を抱いている。まして僕の婚活相手とはまったく考えていない。

 そうは言っても僕も村の一員。村人の意向を無碍にする訳にはいかず、それなりの対応はする。



 現在は食堂内で夕食中。

 食堂に現れたフィーリンは空いている席に座ると、酒を飲みながら肉を食べ、酒で流し込んでいた。

 一人で食事をしているフィーリンに僕は近づく。


「フィーリンさん、ゴーレムの方はどうですか?」

「いやぁー、全然だよぉー。どうしていいか分からなぁーい」


 「たははぁー」と笑って酒器を傾けるフィーリン。良いのか悪いのか、書庫でゴーレムの製法が書かれた石板を探すのは諦めている様子だ。

 

「おい、エギル! 姫さまを独占するな! 横へずれろ!」


 もっとフィーリンの近況を聞きたかったが、別の村人が割って入ってきてしまった。

 

「姫さま、俺の地下に十年前に作ったエールが眠っていた。一緒に飲みましょう」

「いやいや、俺の酒は、五十年前に隣国から取り寄せた酒だ。良い感じに熟しているので、飲みましょう」

「いやいや、俺の酒は……」


 村人たちが秘蔵の酒を抱えてフィーリンの周りに集まってくる。

 どいつもこいつも浮かれている。

 毎日のように食堂に集まり、朝まで宴会だ。

 まったく……と呆れている僕は、食堂の隅に行き、誰かが持ってきた酒を楽しんだ。



 そんな僕だが、数日も経てば、心境が一変した。

 村で一番暇をしているという事で、村長の父が他の村人を押し退け、僕がフィーリンに村を案内した。

 歴代村長の家兼僕の家、各代表の鍛冶場、家畜小屋と馬場、さらに石切り場などを回る。その際、石切り場の景色に興奮したフィーリンが崖から落ちそうになり、血の気が引いた。もしフィーリンが崖から落ち、怪我でもしたら村人全員から斧で叩き斬られていた事だろう。

 フィーリンが来てからすでに数日は経過しているので今さら感はあるし、小さい村なので大した案内は出来ないが、それでもフィーリンは楽しそうに色々と聞いてきた。

 「エギル、あれはなにぃー?」「エギル、ここはどんな場所ぉー?」と気さくに話し掛けてくるフィーリンに説明すると、「そうなんだぁー」と僕の顔を見ながら頷いてくれる。


 他の連中とは違うな。


 そう思い始めたのを切っ掛けに、だんだんとフィーリンといるのが楽しくなってきた。

 その日を境にフィーリンを意識し始めてしまい、常にフィーリンの姿を探してしまう。

 そして、今では結婚という言葉がチラチラと脳裏に浮かぶ。


 これでは他の村人と同じではないか!? と頭を抱えてしまい、自分の変化に戸惑う。

 たが、これも数日経てば落ち着き、僕も所詮は村人の一人、とフィーリンを追い掛ける事にした。

 ただ僕はドワーフにとって平均以下の存在。

 腹は出ているし、酒はそこそこだし、鍛冶も下手だし、腕っぷしはからっきしだ。

 だからと言って諦める訳にはいかない。

 村の為、両親の為、そして自分自身の為にもフィーリンを口説こうと決意した。


 まず始めに行ったのは、自分の事を『僕』でなく『俺』に変えた。頻繁に言い間違えるが練習中なので、その内変わるだろう。

 次に行ったのは、胸を逸らしながら歩く事。そうすると情けない腹が僅かにへっこみ、強そうに見える。これもすぐに忘れてしまい、いつもの歩き方になるが練習あるのみ。

 そんな見た目から入った僕は、フィーリンが一人っきりになった時を狙い、急いでデスフラワーの酒を持って来て、一緒に飲んだ。

 父の言葉を信じていないが、これで一緒に酔い潰れ、目が覚めた時には子供が生まれている事だろう……などと画策をしたはいいものの、僕自身二杯目を飲んだだけで意識を失ってしまった。

 目を覚ますと僕の周りに数人のドワーフが倒れていた。

 肝心のフィーリンは、数人のドワーフと一緒に楽しそうに酒を飲んでいる。その横には空になったデスフラワーの酒瓶が転がっていた。

 僕の酒力では、フィーリンを酔い潰す事は無理そうだ。


 それならとフィーリンの工房を訪れ、壊れている箇所を指摘し、近くの鍛冶場で道具を作ろうとしたが、僕はおろか村人の誰よりも速くフィーリンが道具を作ってしまった。

 村人が気に入るのも頷ける手際の良さである。

 ただ、フィーリン曰く「武器や防具を作るのは苦手なんだよねぇー」との事。

 僕も苦手なので、鍛冶で評価を上げる事は出来なかった。


 最後に腕っぷし。

 すでに自信はないが、機会を見てフィーリンと一緒に迷いの森へ入り、食料調達に出かけた。その際、アーロンとアーベルも付いてきてしまい、アーロンとアーベルが魔物を無双して終わってしまった。


 フィーリンに僕の事を知って欲しかったのが、どれも失敗で終わってしまう。

 それでも諦めず、石切り場で石材を砕いたり、一緒に坑道に入って宝石を掘ったり、風吹き山に登って景色を眺めたりと誘うが、どれも機会が合わず、なかなか二人っきりになる事が出来ないでいた。

 それもその筈で、夜から朝方まで飲み明かすフィーリンは昼過ぎまで寝ているのだ。その後に誘っても時間が足りなかったり、調子が悪かったりして、断られてしまう。

 まぁ、それに関しては村人全員にも当てはまってしまい、規則正しい生活を送っているのは、アーロンとアーベルぐらいになってしまった。



 フィーリンが来て、十数日が経過する。

 やはりと言うべきか、予想よりも早く酒の在庫が少なくってきた。

 何か対策を打たなければと思っていたのだが、村長の父と各代表の村人は今知ったかのような深刻そうに顔を見合わせている。


「もって数日。これでは姫さまを満足させられないぞ」

「村を気に入ってくれるには酒が必要だ。どうすれば良いんだ……」


 悲壮感が漂う中、僕は「無ければ買いに行けばいいだろ」と提案する。

 

「近隣の村では、俺たちを満足させるだけの量は作っていないぞ」

「もっと遠くまで行くんだ。若い連中なら走って向かっても、数日で戻って来れる筈だ」


 さらに提案すると、父は「そうだな。さすがエギルだ」とすぐに若い連中を集め、ありったけの荷車と共に村から追い出した。

 ちなみに僕も若い連中に入るのだが、こんな体形なので数に入っていない。


 村の外へ出て行った若い連中が続々と帰って来て、無事に宴会は継続中。

 ただそれもすぐに行き詰ってしまう。

 遠くの町や村を行ったり来たりしていた村人が手ぶらで帰ってくるようになった。

 どこも在庫がなく、ドワーフには売れないとの事。

 それを聞いた父と各代表の村人が髭まみれの顔を青く染める。

 さらについかでフィーリンの親族と名乗る怪しい人物が現れたと報告が入り、父と村人が憤っていた。



 フィーリンと出会った事で一変した僕だが、この後さらに一変する事になった。

 酒の在庫が心許なく、さらに酒の調達が不可能になり始めた時、冒険者と名乗る連中が村を訪れ、滞在する事が決まった。

 その連中の中にフィーリンの姉妹も居て、この日を境にフィーリンはゴーレム作りに専念する事になった。

 それぞれ事情があるのを理解している僕は、まったく似ていないフィーリンの姉妹について聞く事はしない。その代わり、ゴーレム作りを手伝うという建前でフィーリンとの時間を共有させてもらう。

 

 そう……始めはフィーリンに会うだけの建前だったのだ。


 誰よりも率先して作らなければいけない筈のフィーリンなのだが、なぜか僕の方がゴーレム作りに熱中してしまった。

 乱雑で整理されていない書庫から先々代の村長が書き残したゴーレムの製法を発見。それを機に魔女が住んでいた廃村でゴーレム作りに必要な道具を揃えた。そして、試作品のゴーレムを作り、完成させたのだ。

 他の連中には気づかれていないと思うが、その時の僕は小躍りしたくなるほどの満足感と達成感に包まれていた。自然とニヤついていたので、髭が長くて良かった。


 作り出したゴーレム……ロックンを見て、ゴーレムの可能性を見出す。

 生まれた時から村に存在していた以前のゴーレムを悪く言いたくはないのだが、前のゴーレムとロックンの性能は雲泥の差があった。

 

 ゴーレムは動く岩の塊ではない。

 自立して行動を起こす、生物ではない別の生物。

 僕は、この手で新しい生命を誕生させたのだ。

 

 その後、僕とフィーリンの合同のゴーレムを作り出し、村に押し寄せてきた魔物を討伐。村人にゴーレムの優位性を証明する。

 村中にゴーレムの必要性を知らしめた。

 

 風吹き山には貴重な鉱石と上質な石材が手に入る。迷いの森には大量の魔物がいて、そこから魔石を調達する事ができる。さらにゴーレムに必要な『原初の火』も魔女の廃村にいるゴーレムから貰える。

 僕が住んでいる村は鍛冶だけでなく、ゴーレム作りに適した場所と言えるだろう。だからこそ、魔女もこの村を狙ったと考える。


 僕とフィーリンについてだが、保留にした。

 何度も逢瀬に誘ったり、それとなく告白めいた事も言ったが、反応は芳しくない。

 さらにアケミ・クズノハとかいう冒険者と訳の分からない契約をしてしまった事で、僕の結婚相手だけでなく、村人にする事も駄目になった。

 だがアケミ・クズノハは人間。僕とフィーリンはドワーフ。生きる時間は違う。アケミ・クズノハが寿命を迎える数十年ぐらいフィーリンを預けるぐらいの度量はある。

 その間、僕はゴーレム作りに専念し、村の為、自分の為、そしてフィーリンの為に努力し、結果を残す事を決意した。


「フィーリンさん、僕はこれからゴーレムを作っていく事にします」

「へぇー、そうなんだぁー」

「ロックンやロールンも凄いゴーレムですが、それ以上のゴーレムを作り、村を発展させていきたいと思います」

「うん、エギルならできるよぉー」

「その時には、もう一度、この村に来てください。盛大に歓迎します。数日間、休みなく飲み明かしましょう」

「それは良いねぇー。今から楽しみだぁー」


 決意と約束を取り付けた僕は、色々な感情を胸に押し込みながらフィーリンを見送る。

 今回の件で色々と気づかされた。

 次期村長として認められた僕だが、現役の村長である父もまだ村長の座から降りる事はない。その間、作ったゴーレムを護衛に世界を見て回り、知見を広げても良いだろう。そして、僕の方からフィーリンに会いに行ってもいい。


 チラリと広場にいるロールンを見る。

 ロールンは、僕とフィーリンの間に生まれたゴーレム。つまり僕とフィーリンの子供と言っていいだろう。

 思っていたのと違うだろうが、これで両親に孫の顔を見せる事が出来た。

 これで憂いなしに外の世界を見て回る事が出来る。


 悩みの一つを解決した僕は、グビリと酒を飲むと胸を張って、前へ進むのだった。


二百歳越えのおっさんが少し成長したところで、幕間は終わります。

次回から第五部へ入ります。

宜しく、お願いします。

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