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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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313/347

313 さらばドワーフ村

 風吹き山温泉から戻った次の日、私は朝食を終えるとウキウキ気分で、あるドワーフの鍛冶工房を訪れた。


「早速、来たか」

「早速、来ました」


 ここは私の武器であるレイピアを預けた工房である。


「まずは剣だ。抜いて確かめろ」


 そう言うなりドワーフは、レイピアを私に渡した。

 鞘から抜くと、魔力を流していないにも関わらず、刀身がキラリと光り輝く。綺麗に磨き抜かれた刀身に強面の顔が映るほどだ。

 シュンシュンとレイピアを振ると、以前に増して軽くなっている事に驚く。さらに持ち易い。


「少し刀身の比重が悪かったので直した。他にも色々と細かく調整した。前よりも大分良くなっただろ」

「ええ、見間違えました」


 素人の私でも分かるぐらいだ。さすがドワーフである。


「それだけじゃない。魔力を流してみろ」


 言われた通り、レイピアに魔力を流すとすぐにレイピアが光り、バチバチとスパークが走り出す。


「沢山魔石が手に入ったからな。増設しておいたぞ」


 刀身の根本に小さなな魔石が埋め込まれている。これのおかげで、魔力の流れが容易になり、さらに沢山魔力を溜める事が可能との事。つまり、レイピアがより強力になった。

 至れり尽くせりである。


「次は胸甲だ。着てみろ」


 机にレイピアを置くと、ドワーフから黒光りするワイバーンの皮鎧を受け取った。

 頭からすっぽりと被り、脇を紐で締める。

 見た目に反して軽い。今まで着用していた皮鎧と同じぐらい。

 ワイバーンの鱗がついた鎧だが、さわさわと触っても、大根おろしみたいにトゲトゲとしておらず、滑らかであった。もしかして、全ての鱗を磨いたのかもしれない。


「こっちを向け」


 体を向けると、ドワーフがハンマーを持ち上げ、私に振り下ろす。

 私を守ろうとエーリカたちが動くが、それよりも早くドワーフは私に向けてハンマーをぶつけた。

 ガツンと皮鎧から音が鳴り響くが、体に衝撃は伝わらない。

 

「うむ、傷一つ付いていないな。我ながら良い仕事をした」


 ハンマーをぶつけた箇所を確認したドワーフは満足そうに頷くが、心臓に悪いので一言確認してからやってほしいね。

 

「みんな、どう?」


 私がエーリカたちに感想を聞くと……


「ご主人さまの素晴らしさに磨きが掛かりました」

「おっさんが強そうに見えるな」

「旦那さま、カッコいいぃー」

「私も頼めば良かったです」


 ……とエーリカ、リディー、フィーリン、マリアンネから上々の言葉を受け取る。


「肩や胸とかきつくないか?」

「ええ、大丈夫です」

「なら脱げ。最後の仕上げだ」


 皮袋を持ったドワーフは「酒の神に感謝と祈りを……」と呟くと中身を口に入れる。そして、レイピアに向けてブゥーと中身を吹きかけた。


「げっ!?」


 同じように皮鎧にも口から吹きかける。さらに「しゃがめ」と指示すると私の顔にも掛けた。

 

「酒臭っ! 何するの!」

「酒の神の加護を受け取る為の儀式だ」


 そう言うなりドワーフは、レイピアと皮鎧に付いた酒を拭い、専用の油で手入れを始める。

 うーん、儀式なら分からないでもないが、何も口に含まなくても……エーリカたちが私から遠ざかっていく。

 その後、マリアンネ用のナイフも同じように儀式をしようとするが、「わ、私には女神さま用のやり方があるので必要ないです!」とナイフを受け取るとすぐに鞄にしまった。

 何はともあれ、予想以上の出来に満足した私は、ドワーフに感謝を伝えると工房を後にした。



「やる事もやったし、明日には帰ろうと思うけど、みんなはどうかな?」


 私の考えをみんなに伝えると「ご主人さまにお任せします」「酒臭いから早く帰ろう」「ヴェンデルとサシャが喜びます。勿論、私も」とエーリカとリディーとマリアンネから返答をもらう。

 この中で一番滞在期間の長いフィーリンに視線を向けると「アタシも良いよぉー」と軽い感じで答えた。

 そういう事で食堂前の広場に向かう。今行けば、エール作りの場所で村長を見つける事が出来るだろう。

 広場に行くと、エギルの指示でエール作りを手伝っていたロックンが近づいてくる。両目をチカチカさせて両腕を上げ下げするので、「ご苦労さん」と頭を撫でてあげると余計に両目をチカチカとさせた。

 二回りほど小さくなったロールンは、肩や手の平に子供ドワーフたちを乗せて、ガガガッと広場をキャタピラー走行して遊んでいた。……ちょっと楽しそう。

 肝心の村長はというと、酒樽の上に座って「酒ばかり飲むな! しっかり働け!」と酒を飲みながら怒鳴っていた。


「そんちょー、そんちょー!」


 フィーリンが村長を呼ぶと、嬉しそうに「姫さまもどうです? 俺と一緒に酒ばかり飲んでいるこいつらの尻を蹴っ飛ばしませんか?」と誘うと、「良いねぇー」と同意した。

 「ふざけんな、クソ村長!」「お前も働け、髭なし村長!」「さっさとエギルと交代して、俺らと一緒にこき使われろ!」とドワーフたちが怒鳴り返す。フィーリンはフィーリンで「違うだろ!」とリディーに(たしな)められる。


「そうだった、そうだったぁー。えーと、ゴーレムも完成したし、アタシたちは旦那さまが住んでいる街へ行こうと思うんだぁー」

「そうですか……帰られますか……」


 フィーリンの言葉を聞いた村長は、残念そうに瞳を瞑る。

 周りにいるドワーフたちもエール作りを止めて、村長とフィーリンを見つめる。

 エギルはあえてフィーリンに顔を向けず、走り回っているロールンを見ていた。


「姫さまが決めた事。無理強いは出来ませんな」


 ゆっくりと瞳を開けた村長は、髭が無くなった顎をさすりながら大きく頷いた。そして、他のドワーフたちに顔を向けると、「てめーら、姫さまと客人を送り出す宴会を始めるぞ! ありったけの酒樽を持って来い!」と指示を飛ばした。

 村長の指示を受けたドワーフたちが「よっしゃー、宴会だ!」と作り掛けのエールを脇に退かすと、食堂へと駆け出す。

 「やはり、そうなったか……」とげんなりするリディーの言葉に私とマリアンネは頷く。

 宴会で始まり、宴会で終わる。

 ドワーフと一緒に生活すると絶対に肝臓を壊すね。

 

 村人全員が集まり、広場の中央に巨大な火が焚かれる。それを中心に酒樽が積まれ、迷いの森で狩ってきた獣が内臓と毛皮を剥がれた状態で豪快に焼かれた。

 昼間だというのに、すでにドワーフとフィーリンは浴びるように酒を飲んでは騒いでいる。

 私たちはと言うと、集団から少し離れた場所に座って、焼け過ぎた肉を食べていた。

 途中でアーロンとアーベル、そして疲れ切っているヴェンデルとサシャが加わった。

 酒を飲んでは喧嘩が始まり、酒を飲んでは歌い、酒を飲んでは馬鹿笑いをする。

 終わりのない宴会。夜が更けても続く。

 私たちは、こっそりと宴会場を脱出し、サウナで疲れを取り、フィーリンの工房のベッドに入った。

 こうしてドワーフ村の最後の夜を終えたのである。



 翌朝、朝食を終えた私たちは、広場の様子を見に行くと、死屍累々の惨状だった。

 消えかけている焚火の周りに空の樽と一緒に半分近いドワーフたちが地面に倒れ、大きな鼾を奏でている。その中にフィーリン、ヴェンデル、サシャ、アーロン、アーベルの姿も確認できた。それもその筈、彼らの近くにはデスフラワーの酒瓶が転がっていた。私も遅くまで居たら、再度、酒飲み対決をさせられていた事だろう。

 残りのドワーフたちはといえば、これまた残り僅かの酒をチビチビとやりながら、馬鹿笑いをしていた。


「くそっ、姫さまの為に三日三晩、宴会をするつもりなのに肝心の酒が足りん。誰か、近くの村や町から酒を買って来い! おい、だれかぁー!」


 これ幸いと私たちは村長の元へ向かう。


「村長、地図に載っていない村ならまだしも、主要な町や村での酒の販売禁止令は解除されていませんよ」

「くそー、そうだった。もう在庫も無いし、迷いの森の近くの村では俺たちを満たせるほどの酒を作っていない。これでは俺たちの村は壊滅する。どうすればいいんだー」


 青い顔をする村長に、後先考えずに飲みまくるからだとは言わない。


「村の人たちがフィーリンと私たちを送り出す為に宴を開いてくれるのは有難いのですが、大事なお酒が無くなっては、この村の存亡に関わります。そう言う訳で、私たちはこれから村を出て、急いでクロージク男爵の元へ向かい、依頼達成の旨、販売禁止令を解除してもらうよう願いでましょう」


 私はそれっぽい事を理由に宴会を終わらせ、さっさと出発しようと試みる。禁断症状を発症したドワーフが近くの村や町を襲わないようにしなければね。

 

「うーむ……まだまだ飲み足りないし、一日しか経っていないし、これではドワーフの面目が立たない。村中の家を漁れば、酒樽の十や二十ぐらい出てくるだろう」

「親父、あまり長々と引き留めるものじゃない。客人らにも予定がある。行くと言うなら、素直に行かせるべきだ」


 本当に三日三晩宴会を続けようとする村長にエギルが口を挟んでくれた。そのおかげで、村長は宴会を終わらせた。



 寝ているフィーリンとヴェンデルとサシャを叩き起こし、出発準備を始める。とは言っても、特に何も無いのだが……。

 私たちの荷物は殆どエーリカの収納魔術に入れているし、旅慣れているヴェンデルたちは、必要最低限の荷物しか持って来ていない。

 長く住んでいたフィーリンも自分の荷物は少なく、精々沢山の皮袋にお酒を入れるぐらいだ。

 

「アーロンとアーベルは、まだ村に残るんだよね」

「昨日、壊れた俺の武器を見つけて、これから直してもらうつもりだ。それが完成次第、ダムルブールの街に帰る」

「馬とかに乗ってきた訳じゃないよね。もしかして、歩いて帰るの?」

「ふん、まさか」


 さすがの脳筋兄弟でも馬で数日掛かる距離を歩いて帰る訳ではなかった。ドワーフや近くの村で馬でも買うのかな? そう思っていると、「走って帰るに決まっている」と行った。……うーん、元気で良いね。

 

「冒険者で困ったら、いつでも頼りに来い」

「俺たちは先輩だからな。後輩の面倒はしっかりと見てやる」


 「わっはっはっ」と豪快に笑うとヴェンデルとサシャの背中をバシバシと叩く。叩かれたヴェンデルとサシャは、「はははっ」と乾いた笑いが漏れていた。


 広場に視線を向けるとロックンとロールンが顔を合わせていた。

 ロックンが目をチカチカさせると、ロールンがエギルの声で「うむ、うむ」と言っている。どういう原理か分からないが、意思疎通が出来ているみたいだ。

 そんなロックンが私の元へ来る。


「ねぇ、ロックン。弟のロールンと離れ離れになるけど良い? 良かったら村に残っても良いんだよ」


 ゴーレムに兄弟の絆があるのか分からないが、ロックンが残りたいと望むなら残しても私としては問題ない。「今後はエギルが主人だ」と命令すれば素直に聞くだろうし、もしかしたら今の魔力を別のドワーフに入れ直せば、契約者が変わるかもしれない。

 さすがに大きなロールンを連れて帰る事は無理なので、ロックンに「残る?」と聞いたら、一回だけ目を光らせた。拒否の合図だ。

 「じゃあ、一緒に来る?」と言うと、チカチカと目を光らせ、両腕を上げ下げした。

 ロックンの意思を確認した私は、ドワーフの手を借りて、赤毛の仔馬のアカの背中にうつ伏せの状態で乗せる。そして、落ちないよう縄がグルグル巻きにした。


「ほれ、客人」


 村の守備隊長であるレギンが近づくと、歪な形をした瓶を二本寄越した。


「これって、もしかして……」

「デスフラワーの酒だ。土産だ。持って帰れ」


 い、いらねー。


「今度来た時は、負けないからな」


 未だ私と酒飲み対決で負けた事を根にもっているみたいだ。

 そんなレギンだが、「また来い」と呟いて去って行った。


 その後もドワーフたちが来ては、「道中で食べな」と焼いた謎の肉を寄越したり、「俺が作ったフライパンだ」、「鍋だ」、「包丁だ」、「蝶番だ」と色々と渡してきた。中には「僕たちが見つけた宝石。あげるー」と子供ドワーフから加工されていない宝石の原石まで貰った。

 小さい物はエーリカの収納魔術に入れる。それ以外はクロとシロに縛りつけたので、旅商人みたいになってしまった。荷車を貰って荷馬車にでもすれば良かったかもしれない。


 私たちが準備をしている間、少し離れた場所でフィーリンとエギルが二人っきりで話し込んでいた。そんなフィーリンにリディーが「行くぞ」と声を掛けると、トコトコと三つ編みを揺らしながらフィーリンが戻ってくる。


「告白でもされていたか?」


 からかうようにリディーが言うと、「まさかぁー」とフィーリンが笑う。


「これからエギルは沢山のゴーレムを作るって言っていたよ。ドワーフとゴーレムの村にするからまた来てくれだって。楽しそうだねぇー」


 暑苦しいドワーフと埴輪顔のゴーレム。ますます人を寄せ付けない村になりそうだ。

 

「おい、客人……アケミ・クズノハとか言ったな」


 でっぷりと腹を出しているエギルが私の前に来ると、何とも形容し難い表情をした。それもその筈で、彼からしたら私は恋心を抱いているフィーリンを魔術契約して、連れ去る存在である。


「お前には色々と言いたい事があるが……まともに髭も生えていない人間だが、中々見どころがある。僕も今回の件で色々と考えさせられた。……また来い。歓迎する」


 そう言うとエギルは、アカの背中に縛られているロックンの頭を撫ぜると村長の元へ行ってしまった。


 

 準備の出来た私たちは、クロたちに乗る。

 私とエーリカはクロに、リディーとフィーリンはシロに、ヴェンデルたちはレンタル馬に乗って、村の入口へ歩く。

 ドワーフの村には二週間ほどいた。

 酒飲み対決から始まり、歓迎の宴会をして、フィーリンが借りていた工房で寝泊りをした。その後、ゴーレムの作製方法を探したり、素材を調べる為に迷いの森に入った。無事にゴーレムの作り方を知った私たちは、ロックンとロールンの二体のゴーレムを作った。最後は魔物に襲われ怪我もしたが、それも完治したので問題なし。登山をして温泉にも入ったので、短い期間であったが、中身の濃い内容であった。

 ドワーフたちは粗野で乱暴でむさ苦しい酒ばかり飲んでいる連中だが、別れの際に沢山のお土産をくれた気さくな連中であった。


「みんな、ありがとうぉー! また来るからねぇー!」


 フィーリンがドワーフたちに向けて手を振ると、ドワーフたちは「姫さまー」「姫さまー」と野太い声で手を振り返す。髭もじゃの厳ついドワーフたちが、見た目中学生のフィーリンに……。

 改めて見ると、危ない村である。

 だが、いざ村から出るとなると、私自身、少し寂しく思う。

 機会があったら、もう一度来よう。

 

 そう思いつつ、私たちはドワーフの村を後にしたのであった。


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