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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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305 ワイバーンを狩れ その3

 四匹のワイバーンの内、一匹はロールンとロックンが、一匹は村長率いるドワーフたちが仕留めた。残りは二匹。何とかドワーフたちだけで片づけて欲しい所だ。


「くそー、いい加減、地面に落ちやがれ!」


 守備隊長のレギンが身を呈して追い払ったワイバーンが現れる。

 レギンは未だにワイバーンの頭の上でしがみ付き、振り落とされないようにしていた。


「もう一匹、串刺しにしてやるぞ! てめーら、準備しろ!」


 チリチリ髭になった村長たちがバリスタを動かして、ワイバーンに狙いを定める。


「おい、レギン! ワイバーンの動きを止めろ! これでは当たらねー!」

「無茶を言うな……うわっ!?」


 地面すれすれで飛行していたワイバーンが、長い首を捻って側面に建つ建物に頭を当てる。ガリガリと頭と壁が擦れると、破片と共にレギンが落ちた。

 レギンを剥がしたワイバーンはそのまま村長たちへ突っ込む。

 村長は「当たれ!」と正面からくるワイバーンにバリスタを放つが、ワイバーンが目の前で急上昇した事で外してしまった。

 尚、バリスタから放たれた鉄の矢が、遠くの建物を貫き、粉々にする。それを見た一人のドワーフが頭を抱えると、村長に飛び掛かっていた。


 上昇したワイバーンはクルリと転回すると、再度真下へ突っ込んでいく。


「散れ、散れ、散れ!」


 村長たちが逃げた所にワイバーンはバリスタを破壊しながら地面に降り立つ。そして、喉を膨らませると炎のブレスを吐き出した。

 辺り一面、炎に包まれる。

 地面に落ちている岩や木片、投石器までもが燃える。

 村長たちも体に火が燃え移り、転げるように武器庫の中へ避難していった。

 そんな村長たちを焼くようにワイバーンは武器庫を中心に炎を当てる。武器庫の入口だけでなく村長の家の玄関周りまで炎が広がり、まるで山火事になっていった。

 

「その程度の炎で俺様の家は燃やせないぞ! 羽トカゲェー!」


 炎のブレスが止んだ瞬間、村長たちが武器庫から飛び出した。

 村長の腰には、小さくしたバリスタのような物が固定されている。ただバリスタと違い、枠板の上に箱のような物が設置してあり、手元にはレバーのような物が付けられていた。

 

「ハリネズミにしてやるぜ!」


 そう言うなり村長は、レバーを手前に倒すと先端から三本の鉄の矢が発射された。

 飛び出した矢はワイバーンの鱗に当たり、パラパラと地面に落ちる。

 「まだまだ」と村長はレバーを奥へ押してから再度手前に倒して矢を放つ。


「今度は連弩か……」

「彼らは面白い物ばかり作るねぇー」

「無茶無茶だな」

「ワイバーンには効きそうにないです」


 ガスガスと大量の矢を放つ村長を見て、フィーリンは関心し、弓が得意なリディーは呆れていて、エーリカは駄目だしする。


 「矢が無くなった!」と村長が叫ぶと枠板の上に付いている箱をパカッと外す。そして後ろから来たドワーフに新しい箱を受け取り、再度装着し、発射し続ける。

 別の二人のドワーフも連弩を腰に釣るし、村長に並んで鉄の矢を放つ。

 大量に打ち出す矢だが、極太の鉄の矢を放ったバリスタに比べてインパクトがない。

 エーリカの言う通り、豆鉄砲のような鉄の矢は硬い鱗に守られているワイバーンに一切ダメージが通っていなかった。

 それでも尚、村長たちは連弩を放ちながらワイバーンに近づいていく。

 そんな村長たちにワイバーンは喉が膨らませ口を開けた。


「それを待っていたぜ! 臭い口に矢を撃ち込め!」


 新しい矢箱に変えた村長たちは、今にも炎を吐きそうな口に向けて、矢を放つ。

 ドスドスドスと口内に大量の矢が刺さるとワイバーンは羽を広げて空へと飛び立った。

 連弩を上に持ち上げ、ワイバーンに追撃をする。

 ワイバーンは細長い体を覆うように羽を畳む。そして、ガバッと力強く羽を広げると風の塊を作りだし、無数の矢を弾き返した。

 鉄の矢が雨のように降り注ぐと村長たちの鎧をガンガンと当たる。私の近くにも矢が飛んできて血の気が引いた。

 ワイバーンの喉が膨れ上がる。

 「炎が来るぞ!」と村長たちが逃げようとするが、ワイバーンの口から飛び出したのは炎ではなかった。


「グアアァァーー!」


 大音量の咆哮。

 音の塊と化した雄たけびが村中に響く。

 私は耳を塞いで眉を寄せる。聴覚の鋭いリディーに至っては、体を縮こませて「……ッ」と声無き悲鳴を上げていた。

 少し離れた場所にいた私たちでこれである。ワイバーンの近くで咆哮をまともに受けたドワーフたちは状態異常を起きていた。

 虚ろな目で虚空を見る者、気絶して地面に倒れる者、四つん這いになって飲んだエールを吐き出す者とまともに立っている者はいなかった。

 そんなドワーフたちの前にワイバーンがドスンと地面に降り立つ。そして、回れ右をするようにグルンと体を回転すると、鞭のように振った尻尾が棒立ちのドワーフたちを打ち付けた。

 壁や地面に叩きつけられたドワーフたちが動かなくなる。

 ドワーフたちの姿を見たワイバーンは、ゆっくりと喉を膨らませた。


「村長たちが危ない! 助けに行かなきゃー」

「親父、今行くぞ!」


 私の近くにいたフィーリンとエギルが立ち上がり、駆け出そうとする。だが、そんな二人をエーリカは腕を掴んで引き留めた。


「エーリカ、何を!?」

「おい、手を放せ! 見殺しにするつもりか!」


 二人から抗議が飛ぶが、エーリカはいつもの表情で「問題ありません。援軍が来ました」と私の背後をチラリと見た。


 援軍?


 疑問に思った私はエーリカの視線に顔を向けると、黒い影がドドドッと駆け抜けていった。

 

「おらっ!」


 身動きのできないドワーフたちに炎のブレスが吹き荒れる瞬間、黒い影が滑り込み、身の丈もある大剣でワイバーンの顎をかち上げた。

 強制的に口を閉ざされた事でワイバーンの牙の間や鼻の穴から炎が漏れ出す。


「俺もいるぜ!」


 別の影が建物の屋根から飛び降りると、抱えるように持っていた丸太をワイバーンの頭部に叩き付けた。

 言わずもがな、影の正体は白銀等級冒険者のアーロンとアーベル兄弟だ。上半身裸の脳筋兄弟は、血で汚れ切っていて一瞬誰か分からなかった。


 大剣で顎を叩かれ、顔が持ち上がった所を丸太で叩き付けられたワイバーンは、体をフラフラとさせるとズシンと地面に倒れた。

 

「こんな面白い相手をしているとは思わなかったぜ。一つ目の巨人も倒れていたし、さっさとドワーフどもを置いて、こっちに来ればよかったな」

「まったくだ。そして、ようやく会えたぜ。これで心置きなく街に帰れるってもんだ」


 アーロンとアーベルは大剣と丸太を構えながらゆっくりとワイバーンに近づく。

 彼らは私を丸焼けにしたワイバーンを追った結果、このドワーフの村に辿り着いた。目の前のワイバーンと私を丸焼けにしたワイバーンは別であるが、彼らからしたら一種の落しどころなのだろう。


 ググッと体を持ち上げたワイバーンがアーロンたちを見ると、すぐに喉を膨らませた。


「炎を吐かせるかよ!」


 ワイバーンに駆け出した二人だが、すぐに足を止めて、大剣と丸太を盾のように持ち上げる。


 「グアアァァーーッ!」


 ワイバーンの咆哮。

 炎の代わりに音の塊がワイバーンの口から飛び出す。

 アーロンたちの体がビリビリと震え、倒れそうになるが……。


「だぁぁーー、うるせーっ!」

「うおぉぉーー、耳がキンキンするじゃねーか、馬鹿野郎ぉぉーー!」


 状態異常を起こす事なく、二人は逆にワイバーンに向けて吠えた。

 そんな二人を見たワイバーンは羽を広げると上空へと飛んで行く。


「あっ、くそ。逃げて行きやがった! これだから魔物は……」

「おい、ドワーフども。いつまで寝ているんだ。さっさと起きろ!」


 アーベルが地面に倒れているドワーフに兜ごとガツンと殴ると、状態異常を起こしていたドワーフがむくりと起き出した。……なぜ!?


「お前たち、来るのが遅いぞ」


 無理矢理叩き起こされた村長は、恨めしそうにアーロンたちを見る。


「結界を直す為、森の中に入ったら怪しい人間がいてよ。そいつを追い掛けていたんだ」

「怪しい人間? 魔物じゃなくて?」

「まぁ、顔を隠していたから人間かどうかは分からん。結局、そいつに大量の魔物をぶつけられて、手間取っていた」

「うーむ……それで結界は直ったのか?」

「一時しのぎではあるが、直ったらしいぞ。詳しくはドワーフに聞け。今も森と村の境で作業をしている」


 気になる話をアーロンと村長がしているが、すぐに岩の塊を掴んだワイバーンが姿を現した。


「ドワーフども、何とかあいつを地面に降ろせ!」


 ドワーフに指示を出したアーロンは、大剣を構えると空から落ちてくる岩に向けて振り払う。


「うらぁー!」


 アーロンにより大きい岩は一刀の元、粉砕された。

 

「落ちろ、この野郎!」


 アーベルは丸太を持ち上げるとワイバーンに向けて投げる。

 一直線に飛んで行った丸太はワイバーンの羽の間にある皮膜に当たるが、破る事は出来なかった。だが、村長と数人のドワーフが連弩を羽に向けて放つと、バスバスと薄い皮膜を突き破る事が出来た。


「グェッ!?」


 傷を負ったワイバーンは大きく羽を動かし、もっと上空へ移動しようとする。だが、一人のドワーフが鉤の付いた縄をワイバーンに投げると細長い足首に絡み、動きを止めた。


「お前たち、引っ張れ! 空に逃がすんじゃねーぞ!」


 ドワーフたちが縄に集まり、ワイバーンを地面に降ろす為、「わっせ、わっせ!」と掛け声を上げながら縄を引っ張る。

 徐々に地面に近づくワイバーンは、一瞬羽を止めると力を込めて大きく羽ばたいた。

 「うわー!?」とドワーフたちが縄ごと地面から離れる。

 すぐさま別のドワーフたちが地面に手を付き呪文を唱えると、地面からニョキニョキと伸びていく石を作り出す。そして、筍のように伸びていく石は、ワイバーンと共に空へと向かう縄を捕まえた。

 ガツンとワイバーンの上昇が止まり、縄にしがみ付いていたドワーフたちがドスドスと地面に落ちる。

 ピンと張りつめた縄に再度ドワーフが集まり、「わっせ、わっせ!」と引っ張り始める。魔力で石を作りだしたドワーフたちも、さらに石を作り続け、縄をガチガチに固めた。


「グァァーー!」


 上空へ逃げる事が出来なくなったワイバーンから咆哮が飛ぶが、村長の連弩が口内に当たり、途中で阻止される。数人のドワーフが状態異常で動けなくなるが、その隙間にアーロンとアーベルが入った。


「ドワーフども、一気に片を付けるぞ! 魔力を循環させろ! いくぞ、おらぁー!」


 アーロンの叫びと同時にグンッと縄が引っ張られると、ワイバーンは羽が変な方向へ曲がりながら地面に倒れた。

 ドスンと土煙を上げるワイバーンにすぐさま大剣を持ったアーロンが駆け出す。そして、上段から大剣を振り下ろし、ワイバーンの羽を斬り落とした。

 片方の羽を無くしたワイバーンから咆哮のような鳴き声が漏れる。

 活気に沸いたドワーフたちは斧を持ってワイバーンに駆け出す。

 ワイバーンは痛みで体をくねらせると、そのままクルリと回転し、長い尻尾でドワーフたちを薙ぎ払った。

 

「今が勝機だ! ドワーフども、さっさと立ち上がれ!」


 ワイバーンの尻尾をギリギリで躱したアーロンとアーベルが叱咤すると、壁や地面に叩きつけられたドワーフたちがムクムクと立ち上がり、再度ワイバーンに駆け出す。だが、ワイバーンが喉を膨らませるとクルリと背を向けて逃げていった。

 ワイバーンの口から炎のブレスが吐き出される。

 さすがのアーロンとアーベルもまともに炎を食らう事は出来ず、ドワーフたちと一緒に武器庫へ避難していった。

 逃げ遅れたドワーフたちが体に火を纏いながら地面を転がる。

 私の近くにいるフィーリンとエギルが助けに行きたいが、ワイバーンの炎が酷く、行くに行けずにいた。

 そんな中、アーロンたちが鉄板のようなものを持って武器庫から出てきた。

 縦三メートル、横六メートルの分厚い鉄板。頭を覆うように屋根のようなものが付いている。前面に模様が刻まれているので、見ようによっては盾のように見えた。ただ、なぜか中央に丸い穴が空いているので、村長の家にあった装飾品を引き剥がしたのかもしれない。

 そんな盾のような鉄板をアーベル兄弟、村長、数人のドワーフが抱えながら炎のブレスを掻き分けると、ドスンとワイバーンにぶつかった。

 

「ドワーフども、壁に押し付けてワイバーンの動きを止めろ!」


 アーベルの声に答えるように他のドワーフたちも集まり、ズリズリと盾ごとワイバーンを押していく。

 ワイバーンから炎が吹かれるが、屋根が付いているのでアーロンたちは燃えない。ただ、後から来たドワーフたちが燃えていき、次々と離脱していく。

 だが、それでも力の限り押し続けた事で、建物と盾の間にワイバーンを挟む事に成功した。


「ナーリ、フラーリ、ドリー! 槌を持ってこい!」


 村長が叫ぶと、武器庫から三人の女性ドワーフが丸太のような槌を抱えて走ってきた。

 槌は先端が尖っていて、鉄で補強してある。そんな槌を盾の中央に空いている穴に突き刺すと、屋根に下がるよう縄で固定した。

 やる事をやった女性ドワーフたちは、すぐに武器庫へ避難する。

 

「串刺しだ!」


 村長とドワーフが槌から垂れ下がった縄を掴むと、後ろへと引っ張る。そして、戻ろうとする力と共に前方へ槌を押した。

 ガツンとワイバーンの脇腹に槌がぶつかる。


 盾だと思っていたのは破城槌……城門などを壊す道具であった。


 鐘を打つように槌を引き戻すと、再度ワイバーンに打つ付ける。

 ガツンガツンと槌を打つたびにワイバーンから悲痛の叫びが漏れる。

 盾と壁の間から逃げる事が出来ないワイバーンに何度も何度も打った事で、槌の先端が赤く染まり出した。


 グワッとワイバーンの喉が膨れる。炎のブレスか咆哮か、どちらかがくる。

 だが、その前に……。


「次で決めるぞ!」


 アーベルも加わり、最大限に槌を後ろへ引っ張ると「うおおぉぉーー!」と叫びながらワイバーンに槌を叩き付けた。

 「……ッ!?」とワイバーンから声無き嗚咽が漏れる。

 

「よくやった! 止めは任せろ!」


 アーロンは大剣を持つと、ワイバーンの垂れ下がった首に叩き付けた。

 そして、ドスンと頭が落ちた。


 アーロン、アーベル兄弟が加わった事で三匹目のワイバーンを仕留める事に成功したのである。


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