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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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301/347

301 ゴーレム対森巨人

 森巨人を倒したドワーフたちは、一仕事終えたとばかりに巨人の死骸を囲って酒を飲み始めている。森巨人はまだ一匹いるにも関わらず……。


 現在、残りの森巨人は若輩ドワーフのドムトルを追いかけている。

 付かず離れずの距離を保っているドムトルは、森巨人の攻撃を躱しながら食堂前の広場まで来た。


「エギル! デカ物を連れて来たぞ! さっさと仕留めろ!」


 余裕のないドムトルは屋根にいるエギルに向けて叫ぶ。

 ドムトルは誘導役で森巨人と戦うのはエギルの役である。

 

 それにしても、なぜエギルが?

 彼は研究や開発といった頭を使うタイプで戦闘は得意でない。それなのに守備隊長のレギンは、エギルを指名したのだ。


 大丈夫かな? と不安に思っていると屋根伝いから地面に降りたエギルを発見。エギルは森巨人に見つからないように広場に行き、地面に倒れている石の塊に辿り着いた。


「あっ、もしかして!?」

「ああ、僕たちが魔物と戦っている時、すでに契約を済ませてあるみたいだな」

「動きだすよ、動きだすよぉー」


 石の塊というのは、勿論ゴーレムだ。

 動き出したゴーレムに私たちは息を飲んで見守る。

 隣にいるロックンが嬉しそうに両目をチカチカさせて、両手を上げ下げしている。

 エギルが「立ち上がれ、ゴーレム! 巨人を倒せ!」とズズズッと上体を持ち上げたゴーレムに命令を下す。

 だが、そんなゴーレムは顔をレギンに向けると、「違います」と声を発した。ちなみに声はエギルである。音声機能の魔術具は、契約者の声色で話すらしい。


「違うって何が?」


 予想していた反応と違った事でエギルは目をギョッとして驚く。


「我が主、ゴーレムは種族名であり、我が名前ではありません」

「そ、そうか……今はそんな些細な事、どうでもいい。早く巨人を……」

「いえ、駄目です。名前は重要です。名前を下さい、我が主」

「それ、今必要か!?」

「はい」


 名前を欲しがるゴーレムに「うーん、名前か……」と長い髭をもみもみして試案するエギル。正直、そんな事をしている時間はないのだが、名前を与えなければ命令を聞きそうにないので、仕方なくエギルも考えるしかないようだ。

 

「ゴーレムだろ……ゴーレム……岩男は駄目だな」


 エギルは名前を決めるのが苦手のようだ。

 「うぎゃっ!?」と森巨人と追い掛けっこをしていたドムトルが大木の攻撃を受けて、近くの鍛冶場の壁にぶつかった。

 ギロリと森巨人が私たちの方を向く。


「早く考えて、エギル! 巨人が向かってきた!」

「名前なんか簡単に決められるか! 代わりにお前が考えろ!」

「ええー、私!?」


 八つ当たり気味にエギルから名前決めを丸投げされた。

 みんなから期待に満ちた顔を向けられる。ロックンも穴の開いただけの目を向けている。

 エギルとゴーレムの背後からドスンドスンと森巨人が近づいているので、のんびりと考えている暇はない。

 チラリとロックンを見る。

 背丈は違うが一応ロックンの弟……みたいなゴーレム。

 ロックンか……。


「じゃあ、ロールで……いや、ロックンの弟だからロールンで」

「良し、お前はロールンだ! 行け、ロールン」

「了解した、我が主」


 安直に考えた名前を理由も聞かずに採用するエギルとゴーレム。それで良いのか? と思う反面、説明を求められても理解出来ないので安堵もする。

 

 ズズズッとロールンが立ち上がる。

 全長は五メートルほど。森巨人と変わらない。

 だが体付きはまったく別物。森巨人は緑色の肌で筋骨隆々。ただ殆どが素っ裸なので防御力は皆無。一方ロールンの体は石で出来ている。四角形の石材を組み立てたロールンは、一つの柱のようであった。

 見た目だけで勝利を確信した私たちであるが、ロールンの足取りは覚束ない。足腰の調整が上手くいっていなかったようだ。


 目の前に現れた同じ身長のロールンに森巨人の動きが止まる。

 五メートル近いロールンと森巨人がお互いに睨み合っている。巨人同士の戦い。いきなり場違いな所に飛ばされた気分である。

 しばらく沈黙が流れると、森巨人の腕が持ち上がり、大木をロールンの太い腕にぶつけた。

 足腰のバランスが取れないロールンは、大木の衝撃でグラリと傾き、近くにある鍛冶場へ倒れる。

 この鍛冶場はドムトルがぶつかった場所で、ロールンが倒れる直前、目を覚ましたドムトルが急いで飛び退いた。

 ガラガラと土煙を上げながら建物が崩れる。

 その光景を見た一人のドワーフが「うわー、俺の工房が!?」と叫ぶと、他のドワーフたちから馬鹿笑いが飛んだ。

 瓦礫に埋もれたロールンに森巨人は執拗に大木を叩き付ける。

 鍛冶場の炉には火が点けっ放しだったようで、土煙に混じりながら真っ赤な火の粉が飛び散り、地面が赤く燃え始めた。


「あーぁ……」


 期待していたゴーレムがやられて、みんなから落胆の声が漏れる。

 両腕を上げていたロックンも肩を落とすように下がっていく。っていうか、見えているの?


 動きを止めた森巨人は一呼吸すると、両手で大木を握り締めて上空へ持ち上げる。そして、力の限りロールンに振り下ろした。


「ロールン、腕を上げて防げ!」


 バンッと振り下ろされた大木が途中で止まった。

 左手で大木を受け止めたロールンは、グイッと大木を引くと同時に森巨人の足を蹴る。

 バランスを崩した森巨人が前方へ倒れると、ロールンは体勢を変え、森巨人の後頭部を掴み、燃え広がっている地面に顔を押し付けた。

 森巨人は「グアアァァーー!」と叫ぶと、ロールンの手を振り払い、急いで立ち上がり距離を空ける。

 ロールンも不安定ながらも、ゆっくりと立ち上がった。


「まだまだ、やれるじゃねーか。おもしれー」

「酒が進むぜ。旨い、旨い」


 私たちと同じ観客と化したドワーフたちから歓声が上がる。ロックンも下げていた腕が上がり、目をチカチカさせている。

 

「ロールン、両脚を広げて、腰を落とせ。そうすれば、姿勢が安定する」


 エギルが指示を出すと、ロールンは「了解」と短く返事して言われた通りの体勢になる。ふらふらとしていたロールンの姿勢が安定すると、ギャリギャリとキャタピラーを動かして森巨人へ向かった。

 土煙を上げながら突進してくるロールンに森巨人は二歩三歩と後退る。

 「逃げろ、逃げろ!」と森巨人の死骸近くで酒を飲んでいたドワーフたちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 ドゴンッとロールンにタックルされた森巨人は後方へ吹き飛ばされ、森巨人の死骸の上へ倒れる。その際、逃げ遅れたレギンと数人のドワーフが潰された。

 バランスを崩したロールンは、そのまま森巨人に馬乗りになるように倒れる。

 ロールンはすぐに上体を起こし、左手で森巨人の体を押さえながら、右手でガツンガツンと胸や顔を殴りつけた。

 森巨人も負けずと下からロールンを殴る。


 素人同士の喧嘩。

 技も技術もない、ただの殴り合いである。


 森巨人は地面に落とした大木を掴むと、ブンッと振ってロールンの側頭部にぶつける。

 ロールンがグラリと横へ倒れると、その隙に森巨人が抜け出した。潰れていたレギンたちも抜け出した。

 立ち上がった森巨人から大木の攻撃が始まる。

 関節を曲げて体操座りの柱形態になったロールンに、森巨人は執拗に大木をぶつける。何度も何度も叩く事で、木片が飛び散り、枝や幹が壊れ、丸太のように成っていく。


「ロールン、これを使え!」


 エギルと数人のドワーフが巨大シャベルを持ち上げ、木片が舞うロールンの近くに運ぶ。

 

「巨人がこっちを見ているぞ! 散れ、散れ!」


 森巨人の視線に気が付いたドワーフたちは、巨大シャベルを放り投げて散り散りに逃げていく。だが、エギルだけはドテッと途中で倒れてしまった。

 森巨人は「グェグェ」と笑うと倒れたエギルに向けて、丸太を振り下ろす。

 エギルはお腹が出ている所為で、金属製の鎧を付けていない。そんなエギルが森巨人の丸太をまともに受ければ、頑丈なドワーフといえ死ぬ可能性がある。

 「エギル!」と私たちが叫ぶと、森巨人が振り下ろした丸太が根本で折れて、明後日の方へ飛んでいった。

 いや、違う。

 丸太の根本には森巨人の手が付いたままだった。


「我が主を守るのは我の勤め」


 巨大シャベルで森巨人の手首を斬り落としたロールンはエギルを守るように立ち塞がる。

 ギリギリでエギルを守ったロールン、カッコ良い。逆に腰を抜かして数人のドワーフに引き摺られるエギルは間抜けだった。


 右手首を失った森巨人。一方、巨大シャベルを手に入れたロールン。形勢は逆転した。

 森巨人は痛みに堪えながら左手でロールンを殴る。だが、石の塊であるロールンに傷一つ付かない。逆に森巨人の左拳から血が流れ、殴る事も出来なくなった。

 戦意喪失しだした森巨人にロールンは、巨大シャベルを地面に向けて突き刺す。

 刃先が森巨人の足の甲に刺さり、バラバラと五本の指が散らばった。

 森巨人が痛みで体を丸めると、ロールンはシャベルの面をぶつけて、横へと倒す。そして、すぐさま地面に倒れた森巨人の一つ目に刃先を振り下ろした。

 森巨人は両腕を持ち上げて防ぐ。

 ズブリッと森巨人の腕に刺さった巨大シャベルをロールンは、そのまま自らの体重を乗せて押し込んでいく。グイグイとシャベルを押すと、面白いようにズブズブと刃先が減り込んでいき、骨ごと森巨人の腕を切断した。


 さすがドワーフ製のシャベル。土を掘る道具なのに、剣のような鋭さがある。……と関心するが、残虐な光景ですぐに視線を逸らす。

 マリアンネも青い顔をしながらリディーにしがみ付いている。

 他のみんなは、ロールンの雄姿を黙って見守っていた。


 両腕を切断した巨大シャベルはそのまま首元へ突き刺さる。

 森巨人はシャベルを掴もうと腕を伸ばすも肝心の腕が無く、血を巻き散らすだけで終わる。

 ロールンは体重を乗せて、シャベルの刃先を押し込んでいく。

 森巨人の足がロールンの体を蹴るが、両脚を広げて踏ん張っているのでバランスを崩して倒れる事はない。

 刃先が首元にある程度入ると、動きが止まる。腕と違い首の骨は硬いらしく、シャベルを右へ左へとグリグリと動かすがこれ以上入っていかなかった。

 とはいえ、森巨人はすでに虫の息。シャベルの刃先から大量の血が流れ、地面を濡らしている。食道も潰れ、呼吸する事も出来ない。

 そんな森巨人に追い打ちをかけるようにロールンは、両手でシャベルを握るとキャタピラーを動かして、さらに押し込んでいく。そして、ガガガッと土煙を上げながらキャタピラー走行の力が加わると、ガツンとシャベルの刃先が地面に突き刺さった。

 ロールンはバランスを崩して地面に倒れる。その横を森巨人の頭がコロコロと転がる。

 「うおおーー!」とドワーフたちから歓声が上げる。

 「石の塊とは思えない戦いだったな」「大したものです」「凄い、凄ぉーい」とリディー、エーリカ、フィーリンも関心している。

 「すげーもん見たな」「魔物として現れたら、どうすればいいんだ?」「逃げるしかないわよ」とサシャ、ヴェンデル、マリアンネも冒険者視線で感想を述べている。

 ロックンも目をチカチカさせて、両手を上げ下げして喜んでいた。

 私はというと、青い顔をしながら口元を抑えている。

 私自身、沢山のゴブリンを切り刻んできたが、さすがに五メートルを超える人型の魔物の首チョンパを目の当たりにすれば気分が悪くなる。



「ロールン、良くやった」


 契約者であるエギルがロールンの横へ行くと、誇らしげに見上げた。


「我が主、命令通り、倒しました」

「うむ、それで調子はどうだ? どこか壊れたとかあるか?」

「破損個所はなし。欠けた外装も地面から吸収して補給します」

「そうか。まだまだ細かい調整が必要だが、それは落ち着いてからだ。後片付けが大変だからな」


 惨憺(さんたん)たる広場に視線を向けたエギルは深い溜め息を吐く。

 戦場と化した広場は魔物の死骸で埋め尽くされている。馬場も然り。


 視線を戻したエギルは「お前にも手伝ってもらうぞ」とコツンとロールンの足を叩くと、「無理です」と返ってきた。


「えっ、無理? なんで?」

「魔力量が足りません」

「魔力量って……」

「今の戦いで八割以上の魔力を消費しました。これ以上、稼働すればすぐに機能停止するでしょう」


 燃費、悪!

 森巨人との戦いは、殴ったり殴られたりの体力勝負だった。だが、時間にして数分である。それなのに魔力の八割を消費するとは、サイズが大きい事へのデメリットだろうか?

 これでは常に柱形態で待機し、必要な時だけ動くだけの岩の塊になりそうだ。

 

「そ、そうか……それも後で調整するとして、今は片づけだ。いや、その前に宴会だ。お前も付き合え」


 問題を先送りにしたエギルはロールンと共に血と肉片と贓物で汚れている広場まで移動する。

 上手く主従関係が出来ていて、微笑ましい光景であった。



 まぁ、何はともあれ、これで落ち着いた。

 村に侵入する魔物が全滅したのか、アーロンとアーベル兄弟率いるドワーフが結界を直したのかは分からないが、新たに魔物が押し寄せてくる事はない。

 無事にゴーレムも完成したし、これで心置きなくクロージク男爵の館へ帰る事が出来る。


 ドワーフたちが食堂から酒樽を運んで、戦闘後の宴会を始めている。そんな彼らに苦笑していると、遠くから金属を叩く音が村中に響いた。

 方向は風吹き山。

 心を搔き乱す音だった。


早いもので、今年最後の投稿です。

来年、また宜しくお願いします。

少し早いですが、皆さま、良いお年をお迎えください。

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― 新着の感想 ―
301話おめでとうございます(遅すぎる祝賀) ロールンくんちゃんも仲良くやっていけそうで安心ですね!
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