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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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300/347

300 ドワーフ軍団

〔祝☆300話〕

皆さまのおかげで、300話目に成りました。

これからも、宜しくお願いします。

 基本エーリカは、体や服が汚れても気にしない性格をしている。

 大ミミズの体中に入って血と肉と体液塗れになっても眉を寄せる事はない。名も無き湖のヌシの体内を突貫工事して魚臭くなっても嫌な顔はしない。

 今もエント巨人の木片と血と肉と体液塗れになっても、すぐに体を綺麗にしたり新品の服に着替えたりはしない。逆に私の方を見て、何やら期待に満ちた顔で待機していた。


 たぶん、褒めて欲しいんだね。


 チラリとリディーを見ると、無言で顎をクイッと上げる。

 チラリとフィーリンを見ると、コクコクと頷いている。

 エーリカにばれないよう小さく溜息を吐くと……


「エーリカ、ありがとう。おかげで助かったよ」


 ……とエーリカに近づき、感謝の言葉を伝える。そして、ベチャと汚れきっているエーリカの頭に手を乗せて、綺麗な金髪に巨人の体液を塗りたくるように頭を撫ぜた。

 まぁ、私も狼の血で汚れているし、リディーも自分の血で汚れているし、他のみんなも泥と土と魔物の血で汚れている。

 戦闘をしたんだ。汚れて当然。それだけ頑張った証拠である。

 私に褒められたエーリカは、いつもの眠そうな表情であるが、どこか誇らしく、そして嬉しそうにする。

 だが、しかし……。


「でも、あまり無茶はしないように。怪我をしても治癒付きの魔力弾を塗ってあげないよ」

「それは困ります。怪我をしないよう注意しますので、また塗ってください」


 ん? どういう事? 矛盾していない?

 まぁ、いいや、と言うべき事を言った私は、再度エーリカの頭を撫ぜると、巨人の体液で汚れた手をズボンで拭った。


「おめーら、話が済んだら村に行くぞ。魔物どもがどんどん集まっていやがる」

「あの数を相手に出来ん。村に戻って、援軍と合流しようや」

「酒も飲んだし、さっさと逃げるぞ」


 ドワーフたちが荷物を抱えると柵の方へ歩き出した。

 エント巨人と戦闘していた時に新しく魔物たちが侵入しているを目撃している。今現在、最初の侵入場所とエント巨人が作った侵入場所の二か所から続々と魔物が現れ、数えきれないほどの集団になっていた。

 殆どがゴブリンやワーウルフやコボルトだが、その後ろにピッグオーガとボアオーガもいる。さらに森の巨人の姿も見えた。

 この数を私たちだけで足止めするのは無理。

 あとは援軍のドワーフに任せよう。


「あっ、この音。ようやく到着だよぉー」


 フィーリンが村の方に視線を向けると、遠くの方からガシャンガシャンと金属が擦れる音が聞こえ始めた。それもかなりの数の音で、地響きに近いものがある。

 

 まったく、遅いよ。

 どうせ戦闘前に酒の一杯を飲んでから動き出したのだろう。


 私たちは急いで馬場の柵を越えると集まっていた魔物たちが一斉に動き出した。

 どうやら私たちが尻尾を巻いて逃げ出したと思ったようである。まぁ、間違ってないけどね。

 身軽なゴブリンとワーウルフが先頭を走る。その後ろからドスドスとピッグオーガとボアオーガがくる。そして、ドスンドスンと遅れて森の巨人も迫ってきた。


「急げ急げ、スモールウルフも来たぞ!」


 ゴブリンとワーウルフを追い越した数匹のスモールウルフが軽快に柵を越えて駆けてくる。

 立ち止まって相手にしていたら魔物の集団に飲み込まれてしまう。追いつかれる前にドワーフたちと合流しなければいけない。

 ゴブリンたちが馬場の柵を壊している音を聞きながら村の入口手前の角を曲がる。そして、私たちは足を止めて息を飲んだ。


「待たせたな。少し準備に手間取った」


 酒臭い息を吐くドワーフが斧の石突を地面にドカッとぶつける。

 兜を付けているので一瞬誰か分からなかったが、声色からして守備隊長のレギンだと分かった。

 レギンは迷いの森に入った時のように全身鎧で身を固めている。

 そのレギンの後ろには、広場を埋め尽くすほどの大量のドワーフが整列していた。

 全員が金貨数枚は軽く飛ぶドワーフ製の鎧と武器を身に着けている。屈強なドワーフによる完全武装。非常に頼もしい。背中に大量の皮袋を背負っているけど……。


「お前たちは後ろへ下がれ。後は俺たちに任せな」


 私たちは急いでドワーフたちの隙間を縫って避難すると、村の入口の角からスモールウルフが現れた。

 先頭にいたレギンは一歩後ろへ下がり横一列に並ぶと、最前列のドワーフたちは斧を前方に向けた。

 ドワーフの斧は両刃に成っており、刺先が槍のように少しだけ尖っている。

 その刺先をスモールウルフが飛び掛かるタイミングで突き刺す。そして、顔や腹に刺さったスモールウルフをそのまま持ち上げると、後ろへ捨てた。

 放り投げられたスモールウルフは、ドスドスと後方のドワーフにぶつかりながら地面に落ち、近くいるドワーフに止めを刺された。


 頭上からガンガンと鉄板を叩く音がする。

 一番高い建物の屋根に鎧を纏った村長のガンドールと皮鎧の隙間からぽっこりとお腹が出ているエギルが座っていた。

 先頭にいるレギンが屋根に視線を向けると村長が何やら身振り手振りで状況を知らせている。


「ゴブリンどもが来るぞ。数は無数。……(やじり)の型だ!」


 レギンを中心に数人のドワーフが前に進む。そして、『△』の形に整列すると斧を前方に付き出した。さらにレギン隊の左右後方にも同じ形をした二つの隊を形成する。

 村の入口の角から「ギャアギャア」とゴブリンやワーウルフやドモヴォーイなどが姿を現す。

 数の多いゴブリンたちは何も考えずにドワーフたちに突っ込んでいく。


「行くぞ、てめーら! 蹴散らせー!」


 レギンが叫ぶと鏃の型をした三組のドワーフが魔物の集団に向けて駆け出す。

 魔物の集団の中央に突っ込んだレギンたちは、刀で豆腐を斬るように易々と魔物の集団を二つに分断させる。左右に分かれた集団は、後方から来たドワーフたちにさらに分断される。無論、ドワーフたちが通った後は大量の死骸が横たわっていた。

 一直線に突き進んだレギンたちは反転するなり、混乱している魔物の集団に再度突っ込んでいく。まるでイワシの集団にサメが突っ込んでいくようで、レギンたちはなるべく魔物が集まっている場所に右へ左へと鏃の型を崩す事なく切り崩していった。

 レギンたちが魔物の数を減らしている間、後方で待機していたドワーフたちは左右へ広がり、散り散りになっていく魔物を覆っていく。そして、徐々に幅を狭めて完全に魔物の集団を包み込んでしまう。まるで大きな生き物が大口を開けてパクリとエサを食べてしまったようで、後に残ったのは食べかすのようになった魔物の死骸であった。


「見事な連携だな」

「戦争が無いから武器を作っていないと言っていたけど、訓練はしているんだね」

「強靭で武具も身に着けて、さらに連携まで出来るなんて……戦争が起きたら絶対にドワーフとは戦いたくないな」


 観客と化した私たちは、邪魔に成らないよう遠くからドワーフたちの雄姿を見ている。

 屋根にいるエギルがハンマーで鉄板を叩くと、またもや村長が訳の分からない動作をして、レギンに知らせた。


「樽の型だ! 盾を持ってこい!」


 レギンを中心に数人のドワーフが左右に並ぶ。その後ろを他のドワーフが胸板をくっ付くほどの間隔で列を作った。

 後ろからドワーフ用の盾が頭上を通って前方にいるレギンたちに渡される。

 レギンたちは盾を受け取ると地面に突きつけ、片膝を立てる。後ろにいるドワーフたちも目の前のドワーフの背中に手を当てて踏ん張る。

 村の入口の角から一匹のボアオーガが四つん這いになりながら、密集隊形のドワーフたちに猛進する。

 まさか猪の突進を真正面から受け止める気か!? と思っているとその通りになった。

 正面からボアオーガの突進を受けたドワーフたちは、足の裏を擦るように一メートルほど後ろに下がると完全に受け止める。


「お前ら、行け!」


 後方にいたドワーフたちは最前列のレギンたちの背中を踏みながら、ボアオーガの背中に飛び乗る。そして、後頭部、首筋、背中へ斧を叩き付けていった。

 痛がるボアオーガは前足を持ち上げて暴れるが、最前列にいるレギンたちからも攻撃を受ける。

 頭部を斬られ、両脚を斬られ、腹部を斬られていく。

 魔力の籠ったドワーフ製の斧の前では、ボアオーガも逃げ出す前に力尽きて倒れる。

 その後、追加で二匹のボアオーガが現れるが、同じ要領で退治する事が出来た。


 邪魔な死骸を広場の端に運んでいると鉄板を叩く音が響く。

 村長はエギルの腹を指差すと、のしのしと歩く動作をした。


 うん、これは分かった。豚が来るんだね。


 私の予想通り、村の入口の角から二匹のピッグオーガが現れた。

 のっしのっしと遅鈍のピッグオーガを見たレギンは、「てめーら、小休憩だ! 酒を一口だけ飲め!」と背負っている皮袋を掴むと空を見上げるように傾ける。そして、グビグビと皮袋に入っている酒を一気に喉へ流し込んだ。


 うーん、一口とは一体……今更、驚かないけどね。


「酒器の型!」


 空になった皮袋を地面に捨てたドワーフたちは、左右に広がり『U』の形になる。そして、のっしのっしとゆっくり近づいて来る二匹のピッグオーガに向けて駆け出した。

 二匹のピッグオーガは包丁のような剣を振るが、盾持ちのドワーフが難なく受け止める。その隙に左右に広がったドワーフたちはピッグオーガを取り囲む。

 ピッグオーガはドワーフの攻撃を盾のように剣で防ぐが、四方八方からドワーフが攻撃をしてくるので、全てを防ぐ事が出来ず、どんどん切り刻まれていく。

 二匹のピッグオーガは背中合わせにして、お互いを守ったり隙を見て攻撃をするが、ドワーフの盾で弾かれたり、死角から攻撃されたりで何も出来ずに地面に倒れる。

 こうしてピッグオーガも見事に退治した。


 その後、背中にゴブリンを乗せたボアオーガや左右にワーウルフを従えたピッグオーガが現れるが、ドワーフ軍団の前では危なげなく屍と化していった。


 敵無しのドワーフ軍団。

 大量の魔物が襲ってきても、危なげなく退治していく。

 この騒動もようやく終わるな、と安堵していると、エギルの合図と村長の謎ジェスチャーの後、二匹の森巨人が現れた。


「一体ずつ仕留めるぞ! 酒器の型!」


 ドワーフたちもさすがに五メートルを越える二匹の森巨人を同時に相手にする事は難しいらしく、一番手前にいる森巨人を取り囲む。

 ピッグオーガの時と同じく四方八方から森巨人の脚を斧で攻撃をするが、擦り傷が出来るだけで終わる。

 森巨人は足元に群がるドワーフたちに大木を振ると面白いようにドワーフたちが吹き飛んでいく。さらに手の平を広げ、蠅を叩くようにドワーフたちを地面に叩き潰した。

 私なら完全にアウトだが、そこは強靭で完全武装のドワーフ。

 吹き飛ばされ地面をゴロゴロと転がってもすくっと立ち上がり、再度、森巨人に駆け出していく。

 

「体は固い。てめーら、目玉を狙え!」


 魔力量の高い森巨人の体はドワーフ製の斧でもダメージを与えるのは至難の業。それならとドワーフたちは斧を投げたり、槍を投げたり、土魔術や土魔法で森巨人の一つ目を狙う。

 だが、森巨人も自分の欠点を知っているようで、目に飛んでくる攻撃は太い腕を持ち上げて防いでいた。

 そこにもう一匹が合流してしまい手に負えない状況になってしまう。


「どうしよう。私たちも手を貸した方がいい?」


 観客と化した私は、みんなを見ながら尋ねる。


「平和ボケしているとはいえ、数百年の間、何回か戦争を経験した事のあるドワーフどもだ。この程度でやられないだろ」


 ドワーフとは食事に関して理解し合えないリディーであるが、戦闘に関しては認めているようだ。


「まだ死人は出ていません。怪我も微々たるもの。まだまだやれると判断します。下手に介入すると自尊心を傷つける恐れがありますので、見守っているのが良いでしょう」


 リンゴをポリポリと齧りながらエーリカは、ドワーフたちの奮闘を眠そうな顔をしながら見ている。


「俺たちはもう十分に戦った」

「本当にドワーフたちが危なくなったら動こう。それまで休憩だ」

「怪我をしても、彼らはお酒を飲めば治るらしいから私の出番はないわ」


 サシャ、ヴェンデル、マリアンネも動き気はない。


「そこそこぉー、やれぇー。ああ、また吹き飛ばされたぁー」


 酒を飲みながら応援をしているフィーリンは、完全にスポーツ観戦である。

 まぁ、私もあんな危ない場所に行きたくないので、自分たちが危険になるまで動かないでおこう。


「エギル、貴様に一匹をくれてやる! ドムトル、一匹を食堂前まで誘導しろ!」


 レギンが屋根に向けて叫ぶと、エギルは重たい体を立たせて動き出した。

 若輩ドワーフであるドムトルは、「何で俺が!?」と愚痴ると一匹の森巨人の前に進む。そして、酒を辺りに巻き散らし何やら呪文を唱えると森巨人はドスンドスンとドムトルを追いかけ始めた。

 一体になった森巨人の背中に一人のドワーフが飛び乗ると他のドワーフが縄を付けた槍を投げる。槍を受け取ったドワーフは、森巨人の首元に縄を掛けると、数人のドワーフが縄の端を掴み、左右に引っ張った。

 首が食い込むと森巨人が両手で縄を掴み、引き千切ろうとする。だが、そこはドワーフ製の縄。中にワイヤーでも入っているのか、森巨人の腕力でも千切る事は出来ないでいた。

 苦しさのあまり森巨人が頭を振ると、縄が持ち上がり数人のドワーフが飛んで行ってしまう。


「大人しく窒息しろ、デカいだけの鈍間め!」


 足元に移動したレギンが森巨人のアキレツ腱に斧をぶつける。他のドワーフもレギンに倣い、ガツンガツンと何度も何度もアキレツ腱に斧を当てていく。

 再度、数人のドワーフが縄を掴み前方へ引っ張ると、ズズンと森巨人が四つん這いに倒れた。

 別のドワーフたちが地面に手を付いて呪文を唱えると、森巨人の目の前の地面がもこもこと膨れ上がり、二メートルほどの槍のような突起を作り出した。

 

「力を込めろー! えっさ、ほいさ! えっさ、ほいさ!」


 縄を引っ張っているドワーフたちから掛け声が上がると、徐々に地面に生えた突起に向けて森巨人の顔が近づいていく。

 嫌がる森巨人は両手に力を込めて引き戻そうとするが、すぐさまドワーフたちが集まり、森巨人の手に斧を当てていく。

 

「あっと少し! あっと少し! えっさ、ほいさ! えっさ、ほいさ!」


 変な掛け声をするドワーフたちであるが、やっている事がえげつない。

 ズンズンと徐々に突起の先端に森巨人の一つ目が近づいていく。

 だが、最後の最後でお互いの力が均衡して止まった。

 目玉を串刺しにしたいドワーフたち。それを阻止する森巨人。

 そんな中、身の丈もある大きなハンマーを持ったレギンは、森巨人の背中によじ登ると後頭部目掛けてハンマーを持ち上げた。


「いい加減諦めて、目ん玉を潰させろ! おらぁー!」


 私は急いで目を逸らす。

 「グアァァーー!」と森巨人の苦痛の叫びが村中に響き渡った。

 

 ひぃー、フルチ映画でこんな場面があった。

 リアルで眼球破壊は見たくない。

 

 森巨人の叫びが聞こえなくなってから恐る恐る目を開けると、地面に生えた突起に頭を貫かれた森巨人の姿が目に入った。

 そして、満足そうに酒を飲んでいるレギンとその他ドワーフの姿も目に入った。


祝☆300話という目出度い話なので、髭面のおっさんが主役で活躍させました。

……ただの偶然です。

また、300話という事で、映画「300(スリーハンドレッド)」ぽい場面もあります。

……これも偶然です。


執筆した後で気が付きました。

たぶん、何かしらのお導きなのでしょう。


まだまだ終わりは見えませんが、末永く付き合い下さい。


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