293 風吹き山温泉に入ろう
現在、風吹き山の中腹にいる。
採石場入口との事で、山の斜面とは思えない広々とした平坦な場所になっている。それもその筈で、ドワーフたちが何代も渡って採取した事で山の一部が削られて段丘面になっていた。
この奥がゴーレムの骨格に使う星光石の原石が採れる採石場である。
炭鉱の坑口みたいに山の中に向かって掘り進めているので、魔物の口みたいにぽっかりと洞窟の入口が開けられていた。
ドワーフたちは各々が持参した工具を持って洞窟の中に入っていく。
私も中に入ろうとした時、入口近くに祠のような物が目に入る。
壁をくり抜いて設置してある祠の中に、炭に覆われたような黒々とした拳大の石がちょこんと乗っていた。
「これは?」
エギルに尋ねると「魔石だ」と教えてくれた。
ああ、そんな話を聞いたね。誰から聞いたかは忘れたが……。
「由来は知らんが、この石のおかげで上質の鉱石が採れる。だからという訳じゃないが、こうやって祀っているんだ」
以前、名も無き湖で見た石とそっくりだ。いや、直近では炭鉱でも見たな。
この異世界では、女神さまとは別に魔石信仰が根付いているのかもしれない。
そう言う事で、私は魔石に近づかない事にする。もし近づいて手が触れたら魔力を持っていかれる。そうなれば、魔力切れで倒れてしまうだろう。こんな山の上で倒れたら迷惑の何物でもないからね。
そう決意すると……
―――― 魔石に触ろうねー ――――
出た出た、『啓示』の有難いお言葉。
やたらと『啓示』は、魔石に魔力を流したがる。
どういうつもりですか、『啓示』さん?
―――― ………… ――――
返事はなし。
いつもの事である。
「ねぇ、これは魔石なんだよね。祀っているって事は、大事にしているんだよね。魔石に魔力を流したりはしないの? 真っ黒な魔石が元気になると思うよ」
私ではなく、エギルに魔力を注入するよう誘導してみる。
「こんな純度の高い魔石、大量の魔力が必要だ。下山の事も考えるとわざわざ魔力を流す奴はいない」
誘導失敗。
そう言う事ですので、『啓示』さん、今回は諦めようね。
―――― 魔石に魔力を流そうねー ――――
駄目ですか……そうですか……。
「私が魔力を流してもいい。少しだけ、ほんの少しだけね」
「なぜだ?」
「えーと……良い事が起きると思って。願掛けみたいなもの」
「別に構わんが……」
訝しむエギルから許可が下りたので、仕方なく魔石を触る事にする。
「フィーリン、私が苦しそうな顔をしたら引き剥がしてくれる」
今までの経験上、魔石に触れたら手が離れず、強引に魔力を吸い取られ続けるだろう。そうならない為にフィーリンにお願いすると、「そこまでするのか?」とエギルが余計に訝しんだ。
「あいよぉー」とフィーリンと一緒に祠の魔石の前に行き、恐る恐る手を伸ばし、魔石に触れた。
案の定、魔石に触れた瞬間、体中の魔力が指先に集まり、強引に吸い出されていく。
ズズズッと掃除機のように凄い勢いで魔力が吸われ続ける。
一瞬で頭の中がクラクラとしてきて、視界がチカチカと白み掛かる。
あっという間に気分が悪くなるが、私の意思で魔石から手を放す事が出来ない。
「えいっ!」
私が地面に片膝を着きそうになった時、フィーリンが私の腕を引っ張り、魔石から離してくれた。
「旦那さま、大丈夫ぅー?」
「ちょっと、魔力をあげ過ぎただけ……ありがとう、フィーリン。ちょっと休憩する」
心配そうに顔を覗いているフィーリンに感謝の言葉を告げると、私は地面に倒れ、チカチカとする視界が治るまで目を瞑った。
「そこまでしなくても……」とエギルの呆れた声を聞きながら休んでいると、奥からカンカンと岩を叩く音が響いてきた。
「さっそく掘り始めたな。フィーリンさん、僕たちも行きましょう」
「旦那さまはどうするぅー? ここで休んでいるぅー?」
「いや、私も行く」
無理矢理体を立たせると、先程、魔力を流した魔石が目に入った。
黒々としていた魔石の中央が若干緑色に光っている。
あれだけ魔力を吸われたのに、これだけしか光らないのか……。ピカピカに光らせるには、相当の魔力が必要なのだろう。
これで満足ですよね、『啓示』さん。
―――― ………… ――――
返事なし。
満足したと受け止めておこう。
祠から離れた私はフラフラとする体で洞窟の奥へ進む。
ルウェン炭鉱と違い、しっかりとした支保で壁と天井を支えていて、安心感がある。地面も整地されており、さらに等間隔に松明が灯っているので歩きやすい。
洞窟内には所々壁をくり抜いた小部屋があり、簡易な寝床が用意してあった。さらに炊事場のような竈も設置されていて、寝泊りも可能。近くに天然温泉があるので、もしかしたら湯治場として利用しているのかもしれない。
見晴らしが良く、温泉もあり、寝泊りも出来る。道さえ整備すれば、観光地として人気になりそうだ。あと魔物もいなければね。
興味深く通路を歩いていると、徐々に石を叩く音が大きくなっていく。
「ここが切羽だ。この辺一帯が星光石の原石が採れる。凄いだろ」
エギルが自慢する通り、圧巻の一言である。
山の中だというのに、広々とした空間が広がっていた。
凄いのは広さだけでなく、床と壁と天井全てにおいて、大理石のような複雑な色合いの石材が使われ、光り輝いていた。
天井を支える太い柱も等間隔に設置されていて、どの柱も模様が刻まれている。
以前、ダムルブール大聖堂の教会堂の雰囲気に似ていて、無骨でありながら威厳に満ちていた。
「本当にここが採石場なの? 山の中に宮殿でも建てようと考えていない?」
「そういう案も出ている。数人のドワーフがただ鉱石を取るだけではつまらん、と色々と意匠をこらしていったら、こうなった。その内、ここに住む連中が現れるかもしれんな」
ドワーフのイメージの一つに、地下や山の中に都市を作るものがある。ここのドワーフも例外ではなかったようだ。
切羽とは名ばかりの奥で、村長たちが壁を掘っている。
ここはまだ手入れがされておらず、岩が剥きだしである。そんな岩盤にドワーフたちは、つるはしやスコップ、ハンマーを使って岩を砕いていた。
一応、私たちは監督役なので直接手を貸す事はなく、少し離れた場所に座って、休憩がてら作業を眺める。
フィーリンとエギルは皮袋から酒を飲み、私はリンゴを齧る。
食べ物を食べた事で先程までの不調が徐々に回復していく。それに比例するかのように、ガツンガツンと岩盤を叩く音が頭に響き、再度気分が悪くなっていった。
「ちょっと外の風に当たってくる」
「これ以上、山の上には登るなよ。強い魔物に襲われるぞ」
フラフラと立ち上がった私にエギルが忠告してくれるが、ヘロヘロの状態で山登りなどするつもりはない。私の目的は……。
「ちなみに温泉……天然のお風呂ってどこにあるの?」
もちろん温泉である。
疲れた体には温泉である。日本にいた時は、数えるぐらいしか行った事がなかったが、今はとにかく入りたい。
ただ、みんなが働いている時に一人だけ入りに行くのは忍びないので、「どんな感じか見てくる」と言っておいた。
エギルから場所を聞いた私は、お風呂セットが入っている皮袋を担いで外に出る。
冷たい風が吹いていて寒いが、圧迫感のある洞窟から外に出ると気分か楽になった。
温泉の場所は、外に出て右側との事なので、入口広場の端の方へ進むとすぐに見つけた。広場と崖の境目に壁をくり抜いたような洞穴から湯気が立ち込めている。
山の中の洞窟風呂。絶対に観光客が喜びそうな秘湯だね。
大人が十人ほどが入れそうな広さ。色は赤褐色の濁り湯。匂いはなし。洞窟風呂だが、崖の方は窓のように空いており、そこから景色が眺められる。
風光明媚な温泉。日本人が嫉妬しそうな温泉が、まさか異世界に存在するとは……これを見て入らないと言う選択肢は存在しない。
ただ、本当に入っても大丈夫なのだろうか?
時たまドワーフが入りにくるだけの、誰も管理されていない温泉だ。
たまに聞くレジオネラ菌などが繁殖していたら、下山後、体調不良で倒れてしまう。
また、ガスも怖い。暖かいお湯が出るという事は、もしかして風吹き山は活火山なのだろうか? 一応、硫黄の匂いはしないが、もしかしたら洞窟内にガスが充満していて、素っ裸で入った瞬間、倒れる恐れもある。
うーん、どうしよう……。
ドワーフたちが入っているから大丈夫とは言えない。人間とドワーフは種族が違うのだ。姿形が似ているからといって、根本的に違う。だって人間は四六時中、酒を飲まないのだ。感覚がおかしくなっているに違いない。
「旦那さま、お風呂に入らないのぉー?」
私が温泉の前で悩んでいると、後ろからフィーリンが声を掛けてきた。
「あれ、フィーリン、どうしたの?」
「まだまだ時間が掛かりそうだから、アタシもお風呂に入ろうと思ってねぇー。監督はエギルに任せてきたぁー」
そう言うなりフィーリンは、スポポンと服を脱いでいく。
私以外誰も居ないとはいえ、恥じらいは無いのだろうか? いや、そもそも今の私はハゲで筋肉で無精ヒゲを生やしたおっさんだ。見た目年頃の女の子がおっさんの前で裸になって良いのだろうか?
そんなフィーリンは、三つ編みにしてあるボリュームのある髪を無造作にアップさせると、湯舟の近くに置いてある石の桶を掴み、バシャバシャと豪快に掛け湯をしてから入っていった。
「少し温いけど、良い湯だよぉー。旦那さまも早くおいでぇー」
「その……大丈夫? ガスとかで息苦しくなったりしない? いや、そもそも私が入ると逮捕案件なんだけど……」
「何の事?」
良く分かっていないフィーリンは、景色の良い崖側の方へ行ってしまった。
お巡りさんも居ないし、悩んでいても仕方がないので、私も服を脱いで温泉に浸かった。
「はぁー、生き返る……」
タオル代わりの布を頭に乗せた私は、壁にもたれ掛かるように温泉を満喫する。
「旦那さまぁー、こっち来てぇー。良い景色だよぉー」
私もフィーリンの横に並ぶように崖側に移動して、外を眺める。
ドワーフの村も迷いの森もさらに遠くの景色も一望できた。空も晴れているし、山風がちょうど良い塩梅で冷たいしで、気持ちがいい。ただ、すぐ下が断崖絶壁の崖になっているので、凄く怖い。
フィーリンが「飲む?」と皮袋に入っている酒を勧めてくるが、もちろん断る。
特に気分を害する事なくフィーリンは、酒をチビチビと飲みながら景色と温泉を堪能していた。
崖から離れた私は、景色を見つつ、チラチラとフィーリンを見た。
酒と温泉を楽しむフィーリンは、若干、体つきはがっしりとしているが、見た目通りの体つきである。
エーリカよりも若干膨らみのある胸。くびれが出来つつある腰。小さめのお尻。これから女性として成長していくだろう発展途上の体つきであり、中学生だった当時の私と大差ない。高校生になっても胸は成長していないけど……。
改めてエーリカたちを作った何とか博士の拘り……年齢と見た目の拘りをヒシヒシと感じた。
特に胸。
巨乳少女、巨乳中学生、巨乳エルフ、巨乳妖精でない点は私的に高評価である。うん、博士は分かっているね。
フィーリンの体を存分に観察した私は、視線を上に向けて、鎖骨の間に挟まっている魔石に注目した。
若干、黒みかかった黄色。
エーリカは透明、ティアは灰色に近い白、リディーは緑色だった。フィーリンも魔力をあげれば綺麗な黄色になるのだろう。まぁ、主従契約をする予定がないので、今の所、フィーリンに魔力をあげる事はない。
「旦那さまぁー、あまりジロジロと見られると、さすがに恥ずかしいぃー」
少し顔を赤らめたフィーリンは、魔石を隠すように湯舟に身を沈める。
うん、エーリカと違って、恥じらいはあるみたいでほっとする。ただ、裸よりも魔石を見られるのが恥ずかしがっている感じがする。
もしかしたらゴーレムの核みたいに、自動人形の魔石は大事な部分なのだろうか? それとも黒くなっているのが恥ずかしいだけなのか? どちらにしろデリケートな話になりそうなので、聞かない事にする。
「赤いお風呂って珍しいねぇー。味も苦いし、体に良いのかなぁー?」
顔を赤らめているフィーリンは、話題を逸らすように湯を手で掬って、観察する。
「鉱石などが採れる山だからね。赤いのは鉄分が多いからだと思うよ。確か、本来は透明で空気に触れる事で赤くなるとか……酸化現象だったかな?」
「さんか?」とフィーリンが首を傾げるが、私も良く分かっていないので、詳しくは言えない。
「こういう色の着いたお風呂は入った事ないなぁー。お花は浮いていたけどね」
「お花? いつの話?」
「アタシたち姉妹が揃っていた時の話。ここよりももう少し広くてねぇー、白色のツルツルとした綺麗なお風呂。お湯に色々な花を浮かべていて、良い匂いがしていたよぉー」
懐かしそうに語り出すフィーリン。私と出会う前のエーリカたちの話なので興味深いが、私の方から詳しく聞くと「権限がない」と中断されるので、深く聞かない事にする。
「エーリカたちと一緒に入っていたの?」
「うん、毎日みんなで入っていた。ティアねぇーは落ち着きなくて、よくルルねぇーに叱られていたよぉー。アタシも入浴中に酒を飲むなって怒られていたなぁー。セシルはよく溺れていたし、リディアとエーリカは二人で洗いっこしていたよぉー」
仲の良い姉妹だったみたいだ。
それなのに何でバラバラになってしまったのか? 聞いてみたいが、訳アリぽいので聞くのが憚られる。まぁ、聞いた所で教えてくれないだろうが……。
「旦那さまには感謝だよぉー。ありがとう」
「えっ、何、急に?」
いきなり感謝の言葉を言われ、首を傾げる。
「話を聞く限り、旦那さまが生き別れた姉妹を再度会わせてくれたんだよねぇー」
確かに私の行く先々でエーリカたち姉妹と出会う。ただ、私の行動と言うよりも『啓示』の指示に従った結果である。これからも残りの姉妹も時期と場所によっては、『啓示』の指示で再会できるかもしれない。
ただ、私が率先して姉妹を集めた訳ではないので、純粋に感謝の言葉を受け止めて良いのか分からないでいた。
「もうすぐでティアねぇーにも会えるし、旦那さまと一緒にいればルルねぇーもセシルにも会えそうだねぇー。楽しみだなぁー」
そう言うなりフィーリンは、どこかにいるだろう残りの姉妹を見るように景色を眺めた。
鉱石を掘っているドワーフの事など完全に忘れている私とフィーリンは、ゆっくりと湯に浸かり、体に溜まった疲れを溶かすと温泉から出た。
準備してきた布で体を拭き、新しい衣服に着替えると、近くの石に腰を落とし、水と酒で水分を補給しながら休憩をする。
「フィーリンさん、天然の風呂はどうでした? 景色も良いし、最高でしょう」
冷たい山風で体温を冷やしていると、坑道からぞろぞろとドワーフたちが現れた。
どうやら星光石の原石である鉱石を掘り終えたみたいだ。
「凄く良かったよぉー」とフィーリンの感想を聞いたドワーフたちは、スパパッと土塗れの服を脱ぐとドバドバと温泉に入っていく。
姫さまと呼んでいる女性のフィーリンがいるにも関わらず、まったく羞恥心がないのはドワーフの特性なのか? それよりも掛け湯すらせずに湯舟に入っていったぞ! ドワーフたちよりも先に入っていて良かった。
村長とエギルも含めた六人のドワーフたちが風呂に入りながら酒を飲んでいる。
長い髭が湯舟に広がっていて、バケツに突っ込んだモップのようで、ちょっと気持ち悪い。
「旦那さま、こっち! みんな、身を隠してぇー!」
突如、フィーリンが私の腕を掴むと、岩陰に押し込んだ。
何事? と思い、声を出そうとしたらフィーリンの手で口を防がれる。
異変に気が付いたドワーフたちも潜るように湯舟に身を沈める。
何が起きているのか分からない状況がしばらく続くと、そいつは突然現れた。
……ッ!?
ドクンと心臓が大きく跳ねる。
中型バスサイズのトカゲに大きな羽の生えた魔物。以前、私を丸焼きにしたワイバーンだ。
ワイバーンは私たちがいる広場の目の前をバサバサと羽を靡かせて通り過ぎていった。
上空にも別のワイバーンが飛行している。
呼吸が荒くなり、視界が歪む。緊張で体が強張る。
殺され掛けた時の事は殆ど覚えていないが、それでも私のトラウマになっているようだ。いや、トラウマ以前にあんな大きな魔物が飛来しているのだ。怖すぎて震えが起きる。
今の所、ワイバーンは私たちに気が付いておらず、ただ風吹き山の中腹を飛んでいるだけのようだ。
私もフィーリンもドワーフたちも息を殺して、身を隠し続ける。
永遠とも思える時間が過ぎると、「ふぅー」とフィーリンから溜息が零れ、私の口を塞いでいた手を退かした。
それを合図にドワーフたちは温泉から出てくる。
「危うく、のぼせる所だったぜ」
ドワーフたちは体を拭いて、元着ていた服に着替え始めた。
「ちょ、ちょっと、この山ってワイバーンが住んでいるの!?」
服を着たドワーフたちが何事もなかったかのように酒を飲み始めたので、声を潜めながら問いただした。
「ああ、住んでいるぞ。ただ、山頂付近だ」
「風が収まったから下りてきたのか? それにしても珍しいな」
ドワーフたちの話では、普段は山の中腹まで下りてこず、山頂と背後の山間を飛んでいるとの事である。
「また来るかもしれないから、すぐに下りよう。もう石は掘り起こしてあるんだよね」
「ああ、必要な分は掘ってある」
「それなら早く行こう!」
早く帰りたくなった私は急かすようにドワーフたちを動かした。
坑口まで戻ってきた私は、呆気に取られている。
私の身の丈ほどもある巨石が目の前に鎮座していた。それも八個もあった。
あんな短時間で良くこんな巨石を坑道から採ってこれたな、と関心を通り越して呆れてしまう。
私は近くいたドムトルに「この人数でこれを掘ってきたの? どうやって?」と尋ねた。
「魔術を使えば簡単だ。人間でも出来る」
「それで、これをどうやって村まで運ぶの?」
岩の塊だ。これ一個で何トンあるのだろうか? 力自慢のドワーフでも、目の前の岩の塊を持ち上げて山を下るのは無理がある。
「この岩は、とても強度がある。ちょっとやそっとじゃ壊れない」
「それに見ろ」とドムトルは崖から腕を伸ばして、遠くに見えるドワーフの村を指差した。
「村まで崖と坂道だ。やる事は決まっている」
「まさか……」
私の想像した通り、ドワーフたちは巨石を後ろから押して、崖下へと突き落とした。ドゴンッと地面に落ちた巨石は、坂道をゴロゴロと転がっていき、途中で止まる。
やる事が豪快!
下に生き物が居たらどうするの!?
残りの巨石も崖から落とすと、私たちも来た道を辿るように下りていく。
そして、落とした巨石の元まで行き、坂道を転がしたり、崖から落としたりしながら下山していった。
こうして、ワイバーンという怖い魔物に遭遇したぐらいで、特に問題なく風吹き山登山は終わった。
疲れたけど、温泉にも入れたし、登って良かった……かな?




