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アケミおじさん奮闘記  作者: 庚サツキ
第四部 ドワーフの姫さま(仮)とクリエイター冒険者

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292 風吹き山を登ろう

 本日は晴天なり。

 絶好の登山日和である。


「フィーリンたちは、風吹き山を登るのか。楽しそうで良いな」

「景色が良いらしいから今から楽しみだよぉー。秘蔵の酒を持っていって景色を見ながら飲むんだぁー」


 リディーとマリアンネが作った朝食を食べつつ、本日の予定を話し合っている。


「キルガー山脈を越えたリディーとフィーリンなら風吹き山も楽々に登れると思うけど、体力のない私には過酷な場所だよ」


 厚切りのベーコンを齧りながら溜息を吐く。

 以前サウナに入った時、ドワーフから風吹き山の山道を聞いた。道は険しく、標高が高く、さらに魔物がいるそうだ。その為、村長の許可がなければ山に入る事は出来ない。

 逆に許可さえ取れればドワーフの子供でも登れるらしいのだが、私は子供ドワーフ以下の腕力と体力なので、間違いなく疲労困憊になるだろう。

 

「確か天然の風呂……おっさんで言うと温泉だっけ? 山の中にあるんだよな。ドワーフの話では良いお湯らしいぞ」


 リディーは温野菜をポリポリと食べながら、やたらと風吹き山登山の良さを言ってくる。もしかしたら、一緒に行きたいのだろうか? そう思い「行きたいの?」と尋ねたら、「寒そうだから嫌」と言われた。単純に私のテンションを上げたいだけなのかな?


「いいなー、山には登りたくないけど、お風呂には入りたい」

「わたしもご主人さまと一緒にお風呂に入りたいです。ここ最近入っていませんので、ご主人さまの養分が足りません」


 マリアンネとエーリカにも羨ましがられる。

 それはそうと、私の養分って何? いつも一緒のベッドで寝ているけど、足りないの? その内、栄養不足で倒れたりするの?


 なぜかロックンも一緒に行きたそうに私を見ているが、さすがに登山に連れていけないので諦めてもらった。


 何はともあれ、私の気分で予定を変える事は出来ないので、私、フィーリン、エギルの監督役は、午後から風吹き山登山である。



 朝食を終えた私は、登山に向けて準備をする。

 標高が高いので外套や帽子などの防寒は必要だろう。また天気が急変して雨が降ったり、魔物に襲われて汚れたりするから、変えの服も一式必要だ。

 登山なのでしっかりとした靴……と思ったが、革靴しか持っていないので、予備に一個持っていく。

 登るのが楽になる杖は、フィーリンの工房に杖や代用になる物がなかったので、レイピアを杖代わりにしよう。

 あとは行動食。道中のエネルギー補充にリンゴとパンを数個持っていく。それと水。

 一応、お風呂セットも用意しておこう。天然温泉に入るかもしれないからね。秘境の温泉を目的にすれば、やる気が僅かに上がる。よし、やる気が出てきた。絶対に入ろう。

 

 以上の物をエーリカの収納魔術から取り出してもらい、麻袋に突っ込んでいくとパンパンになってしまった。

 何個か減らそうかと思ったが、登山経験のない私は、何が必要で何がいらないかは分からない。

 もうエーリカに来てもらうかな? と思ったが、エーリカが来るとリディーも付いてくる。下手をすればマリアンネまで来く可能性もあり、そうなると魔石集めが遅れるので諦める事にする。

 仕方がないのでパンパンの麻袋を背負って登る事にした。


 用意が出来た私は声音機能の魔術具を解析するエーリカを工房に残し、エール作りの手伝いに向かった。

 昨日と同じ、ドワーフとロックンに囲まれながら樽を磨いたり、洗ったりしていく。そして、樽に水を張り、パンを入れて蓋をして、食堂に積み重ねていった。

 連日の作業の為、ドワーフたちも手馴れており、エール作りは早く終わった。


 少し休憩した後、私はロックンをエーリカに渡してから集合場所である村長の家に向かう。

 すでに家の前にフィーリンとエギル、さらに守備隊長のレギンとその他三人のドワーフが集まっていた。

 昨日のレギンは石切り場で指揮をしていたけど、今日はこっちの担当なんだね。迷いの森にも付いてきてくれたから、もしかして便利屋扱いされているのだろうか? 守備隊長とは一体……。


「ごめん、遅れたみたいだね」

「いや、遅れていないぞ。そもそも肝心の村長が来ていない」

「えっ、村長も登る予定なの?」


 昨日、村長自ら風吹き山に登ろうと誘われたけど、一緒に登るという意味合いで捉えていなかった。

 樽を作ったり、風吹き山に登って鉱石を取りに行ったりと、思ったよりも村長の仕事は少ないのかもしれない。


「お前、村長を見ていないか?」

「えーと……確か、新しく作ったエールの樽を食堂に運んでいた時、数日前に作ったエールの状態を確認している姿を見たよ」

「うーん、これは間違いなく飲んでいるな」


 エギルが長い髭をニギニギさせながら面倒臭い顔をしていると、レギンが一人のドワーフを呼んだ。


「ドムトル、お前が呼んで来い。村長に誘われて飲んでくるなよ」


 顔を見ただけでは分からなかったが、レギンと酒飲み対決をした際、デスフラワーの蜂蜜酒を一杯しか飲めないとバカにされていたドワーフだ。

 そんなドムトルは「何で、俺が……」とブツブツと呟きながら村長を迎えに行った。


 しばしの待ち時間。

 フィーリンを中心にドワーフたちは皮袋に入れてある酒を飲んで時間を潰す。

 それにしても、みんな軽装過ぎないだろうか?

 フィーリンも含め、ドワーフたちは普段着である。一応、背中に斧を携えているし、背中には酒の入った皮袋を沢山抱えている。

 登山に向けて特別な道具を持参したり、杖やら防寒などの用意はしていない。せいぜい鉱石を掘るハンマーやスコップが腰に差してあるぐらいである。まぁ、私も長袖の服を着ているだけなので、似たり寄ったりではあるが……。

 もしかしたら、私が思っているよりも山道は楽なのかもしれないな。

 良い方に考えを走らせていると、村長とドムトルが姿を現した。


「姫さま、お待たせしました。少し仕事がありまして遅れてしまいました。すでに全員揃っていますので、早速出発いたしましょう」


 酒臭い息を吐きながら村長は、風吹き山に向けて歩き始めた。

 幾つかの鍛冶場を通り過ぎ、風吹き山登山口の手前まで来る。

 立ち番をしている二人に「風の状況は?」と村長が聞くと、「落ち着いてます」と答え、道を封鎖している柵を退かした。

 これから山道だ。

 私は腰に差してあるレイピアを抜くと杖代わりにして、ドワーフたちの後ろを付いていった。



 砂利の坂道を登っていく。

 高山植物だろうか、左右に可愛い花がチラチラと咲いている。

 観光地ではないので、大きな石や窪地などが所々あり整備されていないが、苦労する所はない。逆に登っていくにつれ、ドワーフの村や迷いの森の全貌が見えて楽しい。

 とはいえ、まだ登り始めたばかり。

 これから山頂に向けて登っていけば、難易度が上がっていくのだろう。


「……ん? ねぇ、鉱石って風吹き山のどの辺で採れるの?」


 もしかしたら、私は勘違いをしているかもと思い、前を歩くドムトルに話し掛けた。


「そうだなー、中腹を少し行った先だ。おっさん、もしかして頂上まで登る気だったか?」


 髭面のドワーフにおっさん呼ばわりされると変な気分になるが、ドムトルの言葉を聞いて、気分が楽になった。

 もしかしなくても、私は山頂まで登るつもりでいた。なぜか目的の鉱石や温泉が山頂にあると思い込んでいたのだ。

 良報を聞いた私の足は軽くなり、ドワーフたちに遅れる事なく、坂道を登っていく。

 だが、そんな気分も徐々に消えていき、呼吸が荒くなっていった。

 今も尚、砂利の登坂が続いているが、進むにつれ傾斜がどんどん上がっていき、今ではつづら折りのように斜面に沿っていくしまつ。

 その頃にはレイピアに凭れ掛かりつつ、ゼィゼィハァハァと過呼吸気味に呼吸をしながら、ドワーフたちに遅れないよう必死に足を動かしていた。

 砂利道だった地面も徐々に大きな石へと変わっていき、道から落ちないよう慎重に石を迂回したりする。さらには、落石したのだろう巨大な岩が道を塞がっている箇所が何か所もあり、その都度、みんなで崖下に落としたり、よじ登ったりもした。

 もう体力が底を尽きかけている。足が棒の様に痛い。呼吸し過ぎて、喉が痛い。冷たい風が吹いているのに汗だくで、べっとりと汗を吸った衣服が重たい。

 そんな疲れ切っている私の前に鎖場が登場した。

 九十度近い斜面をすでに打ち付けてある鎖が垂れ下がっている。

 こんなの登れるのか? と不安になる。

 ドワーフたちは順番に鎖を握って、十メートルほどの崖を登って行く。

 鎖が揺れるので、一人が登りきるまで次の人は登らない。

 最後尾にいる私は、しばしの休憩。

 息を整え、水を飲んで、固まった筋肉をほぐしていく。

 ドワーフたちは慣れたもので、あっと言う間に鎖場を登ってしまい、休憩もそこそこに私の番になった。

 両手でしっかりと鎖を握り体重を掛ける。

 

 うーむ、私の体力と腕力で登り切れる自信がない。


 そう思っていると、「鎖に頼り切るな」「手足を使え。鎖は補助だ」「足場をしっかりと踏め」と上からアドバイスが降りてくる。

 ドワーフたちが登っている姿をしっかりと見ておけばよかったと後悔する。

 私は言われるまま右手で鎖を掴み、出っ張りに左手と両足を乗せて、ゆっくりと登り始める。

 「旦那さまぁー、右足をそこぉー、左足をあそこぉー」とフィーリンの助言通りに体を動かしていくと、すんなりと登りきれた。

 疲れていても登れるものだ。フィーリンのおかげもあるが、これも炭鉱労働中に縦抗を上り下りした経験のおかげだろう。そんな経験、したくなかったけど……。

 その後、難所がいくつも現れる。

 オーバーハングした場所を縄梯子で登ったり、断崖絶壁の細い道をカニ歩きで渡ったり、道が崩れてしまった所をジャンプして渡ったりもした。

 命懸けの山登りである。

 本当に子供でも登れるの?

 ああ、子供でもドワーフの子供か……私と違って、基礎体力が違うのだろう。


 大変な山登りであるが、有難い事に魔物には遭遇していない。こんな険しい山を登っている途中に魔物に襲われたら一溜りもない。

 そう思っていると、「魔物がいるぞ!」と先頭にいる村長から声が掛かった。

 つづら折りになっている上り坂の中腹にアルマジロのような魔物が数匹いる。そのアルマジロの背中は石で出来ており、とても堅そうで重そうだ。


「鉄鋼ネズミだ。蹴っとばせ」


 村長を先頭にドワーフたちが走り出す。

 そんなドワーフたちに気が付いた鉄鋼ネズミは、体を丸めるとゴロゴロと転がってきた。

 サッカーボールのように転がってくる鉄鋼ネズミをドワーフたちは、「えいっ!」「やぁ!」と蹴っ飛ばし、崖から落としていく。

 そんな感じで、魔物の鉄鋼ネズミは難なく退治する事が出来た。


 鉄鋼ネズミを切っ掛けに次々と魔物と遭遇する。

 次に現れたのはヤギの魔物。

 立派な角の生えたガッチリとしたヤギの魔物は、断崖絶壁の僅かな出っ張りを使って急降下してきた。

 フィーリンはヤギの着地点を狙って土斧を投げると爆発させて、ヤギを転倒させる。

 倒れたヤギに一人のドワーフが角を掴み地面に抑え込むと、村長が斧でヤギの首を一刀のもとに叩き切った。

 そして、魔石を抜くと、ヤギの死骸は崖から落として処分した。……処分なのか?


 風吹き山登山に慣れたドワーフたちがいれば、魔物も怖くない。

 見た目可愛いイタチの魔物、日向ぼっこをしているトカゲの魔物、囚人の時に沢山食べた山賊ウサギと遭遇するが、フィーリンとドワーフたちで片づけてくれた。

 ただ、空を飛ぶ鷲の魔物だけは難儀する。

 人間サイズの大鷲は、空から急降下しては嘴と爪で攻撃しては、すぐに空へと離れていく。

 一人のドワーフが、大鷲に捕まってしまい、空の上から落とされた。幸い落ちた高さが低かったので怪我はなかった。十メートルぐらいあったけど……。

 ドワーフたちは急降下したタイミングで斧を振るがまったく当たらない。

 フィーリンも空を飛んでいる大鷲に土斧を投げたり、空中で爆発させるが、まったく当たらない。


 ここは私の出番だ!

 

 私は意気揚々と前に出て、レイピアから光の刃を飛ばすが、やはり当たらなかった。

 仕方がないので、疲れた大鷲が休憩するのを待つ。

 しばらくすると、大鷲は崖の出っ張りに降り立った。

 私はゆっくりと近づき、光の魔力弾を放つ。

 直接大鷲を狙うと逃げるので、手前の崖にぶつけて視力を潰す。そして、地面に落ちた大鷲に向けて光の刃を放って、止めを刺した。

 うん、必勝パターンは健在である。


 ヘロヘロで疲れ切っている私にも活躍の場が出来て、少しだけ元気が出てきた。

 その後も魔物や難所を乗り越えていき、ようやく目的地へ辿り着いたのであった。


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